ゴジラvsメガロ




 爆発音と地響きがイブキの元にも伝わっていた。一際大きな爆発が起こり、その衝撃は滑走路から離れたターミナルのイブキがいるコンテナと大きく揺らした。機兵の一機がレイコさんの攻撃によって破壊され、動力が爆発した為だ。固定された機器が殆どであるコンテナの制御室であるが、机上や棚に置いた備品は崩れる。
 その備品を慌てて拾う隊員を視界の隅に置いて、イブキはメインモニターを注視する。
 拡大された望遠の映像だが、滑走路のメカゴジラとレイコさんの操る機兵の姿が確認できる。レイコさんの加勢は確かに保有戦力が増えた事実を作ったものの、その景色は現在の戦況がその程度で変えられないものであることをイブキに見せつけていた。
 一対多数の状況において、この差を埋めていたのは巨大かつ重武装のメカゴジラと高い汎用性が故に単体の武装も大きさもメカゴジラの足下程度である機兵という単純なスペック差だ。そこをメガロとシートピアの加勢によって危うくさせられていた。時間は稼いでいるが、メガロとシートピアの円盤も加われば最早勝ち目はない。ここにレイコさんがコントロールを奪った機兵一機の援軍では付け焼き刃程度の戦力だ。
 シートピアは東京湾上空で回転を始め、次々と側面から光線を放ち始める。攻撃はシートピアへの攻撃をする防衛隊へと向いていた。迎撃を受けた各地の基地が爆発炎上する。

『フハハハハ! 日本人よ、これが今後隷属することになる我々支配者の力だ。抵抗する牙を折り、爪を剥がし、喉を潰す! ……そろそろ仕上げだ。陣川、悪いな。貴様の、メカゴジラの死がその後ろの万の無駄な抵抗による死を防ぐことになる。地球人は多過ぎるが、間引き過ぎるのも不都合。そして、群れて無駄な抵抗をされるのも、数をコントロールできなくなるから不都合なんだ。わかってくれ』

 アントニオの声がシートピアから聞こえる。
 そして、メカゴジラに照準が向けられたシートピア円盤下部からゴジラを倒した光線がチャージされる。
 イブキはその様子に視線が釘付けになるが、ハッとして自身のできることを考える。レイコさんによって機兵のコントールはレイコさんによるスタンドアローンでの工作で奪取可能と確認された。問題は機兵単体で戦力不足となり、手段故に複数を制御することはできない。仮にできてもそれは膨大なレイコさんの情報をインストールさせる時間が必要だ。容量と時間の都合、今のような直接制御を行う方法となる。
 即ち、レイコさんの単体戦力を更に向上させるしかない。

「今すぐに基地へ行きたい。……飛ばせますか?」
「えっ! ……でも、なぜ?」

 イブキに声をかけられた隊員は動揺する。相手の反応を見る前にイブキは告げた。

「ジェットジャガーを、J2aを出します。運搬は前に試験したバックパック装備。あれなら短時間でここまで機体を運べます」

 イブキの提案に物言いたげな表情を隊員はするが、別の隊員が彼の肩を叩いた。このコンテナの中で一番位の高い制御班の長にあたる隊員だ。

「実行の有無は我々だけで下す内容ではない。そして、ここでもう我々にできることはない。下手にコンテナを庇って隊長達を危険にさせるわけにも行かない。自ずと手段は限られる。……行こう!」




 メカゴジラとレイコさんの連携により、確実に機兵の数は減らしていた。

『自軍の兵器を破壊していくってのは、良い気分じゃねぇなぁっ! メガァァ・バスタァァァァァァァァーッ!』

 メカゴジラの口から光線を放ち、眼前の機兵の胸部を撃ち抜く。機兵は爆発しながら四肢を周囲に撒き散らす。
 その背後からメカゴジラに襲いかかる機兵を横から跳び膝蹴りで吹き飛ばし、着地と同時に踵落としで地面に叩きつける機兵がレイコさんだった。

『お可愛いことを仰いますね、陣川様。それなら私は同族殺しですよ』
『そいつは悪い事を言った。……っとぉ!』
『二人とも、私語を慎め! メガロと円盤が来るぞ!』

 佐々木が口を挟む。それと同時に海面が盛り上がり、海中からメガロが現れた。背中の翅を羽ばたかせて空中をホバリングしている。その背後にはシートピアの円盤が回転していた。
 2機の意識が機兵から離れた瞬間、機兵の一機がターミナルから滑走路に入らずそのまま離陸を試みる小型飛行機に向かって走り出した。

『有川さん!』

 その瞬間は直感だった。銘斗は直感でその機体にイブキが乗っているとわかった。
 そして、メカゴジラを強制的に飛ばし、そのまま空中で分離。ガンダルヴァが地面を滑るように走り、機兵が離陸間際の小型機を襲う直前に機兵の足をメーサー光線が撃ち抜き、そのまま機兵へと体当たりをする。
 ガンダルヴァの操縦席では計器が火花を散らし、大きく揺れる。
 一方で、イブキの乗る小型機は離陸し、そのまま基地を目指す。

『急いでフォーメーションを整える! くっ!』

 空中に投げ出されたガルーダは陣川が素早く操縦し、大きく旋回する。
 しかし、メガロがガルーダに迫り、ナパーム弾を放とうと口を開く。紅く煮えたぎるナパームの弾が口腔内に見えた。直撃を受ければガルーダもただでは済まない。
 陣川が顔を歪めた瞬間、眼前に迫るメガロの姿が消えた。

『!』

 機体を旋回させ、陣川は状況を把握した。
 海中から青白く渦を巻く太い熱線が放たれ、空中のメガロを撃ち落としていた。そして、まさにメガロは海面に着水する瞬間であった。

ゴガァァァァァァァァァオォォンッ!

ギュェェェェェェェェグェェェェェンッ!
 
 海中から姿を現して死の淵からの復活を高らかに宣言する怪獣王ゴジラの、そして海中へと堕とされたメガロの咆哮がその瞬間、交錯した。
 先の消滅にも等しいダメージを一切感じさせない雄々しい姿を現したゴジラは、すぐさま背鰭を発光させ、息継ぎをするかの如く一瞬の吸気を挟み、間髪入れず第二射を放った。
 対象はメガロでも円盤でもない。何もない空へ放つ。朝が近づき、薄ら明るくなってきた青紫色の空を、暁色に染まる雲を貫き、渦を巻く青白い放射熱線は遥か天高く放たれた。
 対象はそこにいた。天高く遥か上空。空一面に閃光が迸る。東京湾直上で大気圏内へと突入し、炎上を始めた飛来物。それをゴジラの熱線は射抜いていた。
 一際大きな閃光と爆発が上空を包む。




 口を閉じたゴジラの口角にはまだ湯気が立ち、空には熱線の痕を空気に刻んで景色が歪んでいる。
 しかし、ゴジラは勝負を決していないことを知っていた。

ゴガァァァァァァァァァオォォンッ!

 ゴジラは咆哮を上げる。
 そして、ガルーダの陣川も機内から上空を見上げた。

「あいつは…………!」

 朝日が地上よりも先に空に注ぐ。そして、その陽は金色の鱗に反射し、その身を輝かせた。赤く発光するバイザー状の複眼。それは陣川が見た月面の怪獣と同じであった。
 確認する必要もない。月面にいた怪獣が地球に飛来した。
 金色の鱗と青い甲殻。銀色の鎌。そのすべてが朝日に輝く。神々しく宙に浮くその姿は、降臨という表現が最も適切であった。
 それの名は既にアントニオが呼んでいた。故に、陣川もその名を呟いていた。

「ガイガン」と。
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