ゴジラvsメガロ




 ガルーダら3機が滑走路から空に舞い上がり、空中でメカゴジラに変形合体をしていたその時、滑走路から離れた羽田空港のターミナル前では機兵隊の管制、制御を行うコンテナがあり、内部で隊員達は必死にシートピアに奪われたコントロールを取り戻そうと悪戦苦闘をしていた。
 ガタンッ! と乱暴に扉を開く音が混沌としていたコンテナ内に一時の静寂を与え、一同の視線を入口に集めた。

「コントロールを奪い返すわよ!」

 そこにいたのは、イブキとレイコさんであった。
 イブキは隊員達をかき分けて、正面の椅子に座り、モニターを睨み付けて手元のキーボードを叩き始めた。すぐにウィンドウにコマンドが表示されるが、一瞬の内にエラー警告が表示される。

「ちっ!」
「有川博士……」
「……ふぅ。…………いいわ。冷静になる。何を試した?」
「自律制御の遮断と再起動、遠隔操作の復旧……あとこちらからの強制終了。……全て拒否されましたが」

 苛立ちを抑え込んだイブキに隊員が伝える。
 イブキは静かに思考しながら説明を聞く。つまり、マニュアル化されている手段は試行済み。機体を物理的に行動不能とするか、遠隔制御が不能な状態にして制御を奪い返すか、技術的に困難性が高いシートピアからの奪取。これらが選択肢となる。一つ目は既にメカゴジラを投入して実行段階に入った。しかし、自軍戦力同士を消耗し合う方法である。他二つの方法を並行して試さないと、こちらの戦力は消耗する一方で補充ができない。

「ようは遠隔操作や外部の管制制御を受けない状態にしてメカゴジラと同様に有人操縦かレイコさんの様に完全自律のスタンドアローンであればシートピアにコントロールを奪われない。……レイコさん?」
「はい。……通信は外部端末を用います」
「それじゃ干渉を受けるリスクがあるわ。陣川達みたいに光を使った信号を使いましょう。……バイナリデータを信号にして送るわ。それならレイコさんとの直接制御でもプログラムを構築できる」
「確かに。通信を暗号化させる処理をするのですか?」
「それじゃあ、また奪われる。簡単にいえばレイコさんの分身を作ってスタンドアローンでも動くようにするのよ。ターゲットは初期モデル。元々遠隔操縦と自律制御の試験運用をしていた機体だから有人機同様の人が入れるスペースがある。それに制御系のほとんどが後付けや交換したものだから介入の余地があるわ」
「……なるほど。承知致しました。……隊員の方、バイクと整備セットをお借りします」

 レイコさんが目を青く光らせて、呆気に取られる隊員に告げた。
 まもなく滑走路をメイド服姿のジェットジャガーがオフロードバイクで疾走していた。

 
 

 羽田空港滑走路に着地した3機が合体した機龍こと、メカゴジラは周囲を取り囲む機兵隊を見回す。親子程にサイズ差があるが、一対多数かつ各機には武装を身につけている。
 メカゴジラの準備を待つことなく、各機が次々に砲撃を開始する。メカゴジラは全ての砲門を展開し、迎撃する。

『初手から飽和攻撃とは……』
『面白れぇ! 佐々木、防御は任せた! 新人、補助を頼む! 操作は俺がする!』
『『応っ!』』

 メカゴジラの目が発光し、右足で大地を踏み締めて砲門を開いて機兵隊が武器から放つ砲弾を迎撃しながら咆哮を上げ、巨体を翻す。

キシャァァァァアアアアオォォォンッ!
 
 衝撃波を伴って周囲の機兵を牽制する尾に続き、左足を踏み出し、頭部を前に突き出して機兵の一機に噛みつく。
 獲物を振り回す肉食獣の如く、機械の力でメカゴジラは頭部を振るい、噛みついた機兵を振り上げると同時に口腔内にある砲門から七色に光り輝く光線を放つ。

『メガァァァバスタァァァァァァァーッ!』

 胴体を光線によって吹き飛ばされ、周囲に頭部や四肢のパーツが黒煙と共に飛び散る。その煙幕を吹き飛ばす様に、地面を陥没させる勢いで飛び上がるメカゴジラは、背中と下肢からジェット噴射を出して飛翔する。

『掴まえぇぇぇたぁぁぁっ!』

 陣川の叫び声と同時に飛翔したメカゴジラは腕を地上の機兵に伸ばし、頭部を掴むとそのまま隣に立つ機兵に向かって押し付ける。手を離すと同時に、バランスを崩してその場で後ろに倒れる2機へ、メカゴジラの両目が発光してそのまま黄色い閃光を帯びた光線が放射される。光線に貫かれた2機は誘爆する。
 それを見届けることなく、更に背後を取ろうと迫った機兵に向かって尾を叩きつける。地面に叩きつけられ、火花を散らすが、まだ機兵は動く。
 しかし、メカゴジラはその隙を逃さず、右手を伸ばして機兵の頸椎部に突きつける。メカゴジラの手は即ちガンダルヴァのツインメーサー砲の一つである。指先が青白く発光。刹那、メーサー光線が放たれ、ゼロ距離射撃を受けた機兵の首は瞬時に消滅して頭部と胴体が爆発する。

『このまま押し切る!』

キシャァァァァアアアアオォォォンッ!
 
『『『!』』』

 メカゴジラが咆哮を上げ、陣川が次の機兵に視線を向けた瞬間、メカゴジラに炎を帯びた球体が投擲される。メカゴジラは瞬時にジェット噴射による緊急回避行動を取り、命中を防ぐが、地面に着弾した火の球は周囲を爆発的な炎で燃やす。

『焼夷弾……いや、ナパームか』

 激しく燃え続ける着弾地点を見て佐々木が呟く。
 一方、陣川はナパーム弾の投擲方向を見る。
 そこには海水を滴らせながら、海面から上空へと浮上を始めたシートピアの岸壁に立つメガロの姿があった。
 銘斗が告げる。

『ナパーム弾はあの怪獣から放たれたものです』
『面白ぇ。ナパームを出すカブトムシ怪獣か!』

ギュェェェェェェェェグェェェェェンッ!

 メガロが咆哮を上げて翅を広げると、メカゴジラに向かって飛翔する。




 同時期、ヒビ割れた滑走路をオフロードバイクに乗るレイコさんが駆ける。

「ターゲット、ロックオン」

 レイコさんは腕を後ろに回して、背中に置いていたワイヤー銃を抜き取る。白黒のスカートをはためかせてレイコさんは機兵の背中へワイヤーを放った。
 ガシャンッ! と先端の針がかかる音がし、ワイヤーが張る。そして、フルスロットルにアクセルを吹かせたバイクに跳んで、ハンドルに着地。同時にワイヤー銃を巻き上げ、跳び上がるレイコさん。
 バイクはバランスを失って横転。一方でレイコさんは地面に踵を当て、火花を散らしながら滑走。そのまま、巻き上げられたワイヤー銃と共にその身を機兵の背部に向かって飛びかかる。
 金属の衝突する鈍い音を響かせ、レイコさんは機兵の背部へと到達する。目を青く光らせて拳を振り上げると、その拳を機兵の装甲に叩きつける。
 レイコさんの拳が衝撃で潰れて変形するが、それを気にせずレイコさんは変形した装甲にその指をかけ、引き剥がす。剥がされた装甲は宙を舞い、地面を弾んで転がる。
 一方、レイコさんは剥がした装甲の下から開いた穴に身を投じる。転がる様に内部に侵入したレイコさんは指先を揃えた手刀を眼前のコンピュータとその配線に向かって突き刺した。
 同時に頭部を180度回転させて、機体の外へと視線を向ける。彼女の視線の先には、イブキのいるコンテナがある。そして、コンテナからは光が点滅していたのが確認できた。イブキの発信する信号だ。

「作業、開始致します……」

 レイコさんの目が青からオレンジ色に変わり、機兵のコントロールを奪い始めた。




 メカゴジラへと襲いかかるメガロは、口からナパーム弾を放つだけでなく、角からレーザー光線を放って攻撃をしていた。
 メカゴジラはナパーム弾を回避すると同時に口からメガバスターを放ってレーザー光線を相殺する。そこで生じた隙を突こうと機兵が砲弾を放つ。メカゴジラは佐々木の操作する弾幕で防ぐが、機兵の飽和攻撃に加えてのメガロとの戦闘は確実にメカゴジラの防御能力の限界を近づけていた。

『マズい。残弾が少なくなってきた』
『大丈夫です。隊長、本機だけでなく機兵も支援はない消耗戦です。このまま機兵の数を削れば、彼我の元の積載弾数の差が開きます』

 銘斗が佐々木に告げる。

『要は機兵をぶっ潰しながらあのメガロを倒せばいいんだろ? やってやるぜぇ! メガァァァバスタァァァァァァーッ!』

 陣川の声と同時に身を翻して振るわれた尾で機兵を炎上し続けるナパーム弾の着弾地点に叩きつけ、そのまま勢いを残してメカゴジラは口を開き、メガバスターをメガロに向けて放つ。更に、背後のウィングから生える2本の突角の内側が発光する。放電された稲光がその間を行き交う。
 メカゴジラは前傾姿勢を維持している。即ち、その突角はメガロを捉えていた。電撃を帯びたその中心にはスパークを帯びたプラズマの球が発生し、周囲の空気すら歪める。

『くらぇぇぇぇぇぇぇぇっ! プラズマァァァァァァァ・グレェッネェィドゥォォォォオオオオッ!』

 刹那、メカゴジラの背中から一筋の光線がメガロに向かって放たれた。中心が青紫色を帯びた一筋の線に周囲を漆黒の光が帯び、稲妻がその間を走る。その光線はメガロを吹き飛ばし、海へと落とした。
 光線が消えた後も周囲の空気がプラズマ化し、景色が歪む。
 圧倒的な火力によってメガロを迎撃したメカゴジラだが、メカゴジラ自身もオーバーヒートを起こしていた。
 蒸気を機体から排出し、白い煙幕を全体に帯びる。

『メインシステム再起動中! 排熱完了まで残り30秒です!』
『くっ…………』

 動きを止めたメカゴジラを残った機兵が取り囲む。銘斗の報告に陣川は顔を渋くさせる。佐々木も同様だ。今のメカゴジラは無防備だ。
 そして、次の瞬間、機兵が飛びかかろうとする。

『させませんっ!』

 しかし、その機兵はメカゴジラでなく、地面に頭部から激突した。なぜなら、その機体は別の機兵によって足払いをされていたからだ。
 もう一体の機兵からはレイコさんの声が響いた。言わずもがな、レイコさんが同期した機兵だった。

『お待たせ致しました。加勢致します』

 レイコさんの操る機兵こと、ジェットジャガーは今足払いをした機体から引き剥がした44口径120mm滑腔砲をライフルの様に構え、メカゴジラの援護に入った。
11/27ページ
スキ