ゴジラvsメガロ




 約1000年前、太陽系から遥か遠い銀河の彼方で、星々の輝く宇宙の海に一隻の宇宙船が眩い光を伴って姿を現した。それはシートピアの中心に聳えた塔の頂より宇宙へと旅立ったあの宇宙船だった。
 イースター島近海に落ちた“シード”に接触した島民が、M宇宙ハンター星の種と文明の記憶という叡智を継承した第二期のM宇宙ハンター星雲人は滅びた第一期のM宇宙ハンター星雲人が完成させることのできなかったワープを完成させていた。それ故に、“シード”が万の歳月を要した距離の移動を乗員が船に持ち込んだ食糧の心配することのない程の僅かな時間で目的地まで到達した。
 目的地は“シード”の放った“故郷”。目的は、滅亡した先代の失ったM宇宙ハンター星への“帰還”。
 彼らの宇宙船の前方には地球とは異なる自然法則による生態系が築かれ、そしてその末に滅亡した混沌とした惑星があった。この星は衛星を持たない代わりに、星が生まれる遥か昔に滅びた超巨大太陽の残骸が塵となって周囲を漂う。M宇宙ハンター星雲のある恒星系は超巨大太陽の成れの果てである中性子星を中心としつつも、既にその後継である小型の太陽が互いに引き合わない調和の取れた距離に存在していた。その重力が渦潮の如く複雑に入り組んだ星系の中で、奇跡的なバランスを保って存在する星こそ、M宇宙ハンター星であった。
 あの極彩色を纏う青白い強烈な光を放つ中性子星が重力崩壊を起こす前の超巨大太陽であった頃、ここには全く別の恒星系、銀河が存在していた。そして、そこには地球人やM宇宙ハンター星雲人よりも高度な文明を築いた知性が存在していた。その彼らが超巨大太陽と運命を共にするに際して、宇宙に残した遺物。その一つが“シード”の元になった。
 しかし、“シード”は第一期のM宇宙ハンター星雲人が自らの手で制御、自身達の文明を継承させる道具にすることができた存在であった。第一期のM宇宙ハンター星雲人の文明が滅亡にまで追い込まれた混沌を作った存在は、それよりも遥かに獰猛なハンターであった。
 宇宙船を作った第二期のM宇宙ハンター星雲人となったシートピア人もその記憶を継承していた。故に、ハンターを制御する技術の開発をしていた。勝算があった。

キシャァァァァアアアアッ!

 初めて辿り着いた彼らのルーツとなる星の大気圏へと到達した船に地表から飛び立つ赤い閃光。それは甲高い咆哮を伴っていた。
 それこそがかつての文明を滅ぼしたハンター。鎌状の爪となった腕と胸から腹部にある小刻みな振動をする一列の刃。赤く発光する無数の複眼で構成されたバイザー状の目。まさに生きる殲滅兵器。それこそが、ガイガンであった。

キシャァァァァアアアアッ!

 宇宙船は“シード”を元にそれと同等の存在を作り、また持ち込んでいた。その目的はガイガンへの対抗手段の獲得とガイガンの無力化であった。叡智を与え、進化と文明をもたらした“シード”を完全に作ることは不可能であった。しかし、この星に遺された力を利用することで、第一期のM宇宙ハンター星雲人がガイガンに滅亡させられるまでに完成させることができなかった起動装置を完成させることができた。
 宇宙船は装置を使い、星そのものに施した文明の力を起動させた。これでガイガンを制御し、彼らは更なる高位な文明の知性に進化するはずだ。

キシャァァァァアアアアッ!

 …………はずだった。
 刹那、ガイガンは咆哮と共に目から赤いビームを放ち、宇宙船を破壊した。宇宙船は崩壊しながら、地表に墜落。
 装置の影響で、ガイガンはフラフラと地表に着地。次第に活動が緩慢になる。
 起動装置は見事に星遺物を完成させ、ガイガンの活動を抑え、文明の再生、進化が始まった。
 しかし、本来その文明を謳歌するはずであった第一期のM宇宙ハンター星雲人も、文明を継承するはずであった第二期のM宇宙ハンター星雲人もそこに生き残っていなかった。
 唯一、この破滅からの再生を始めたばかりの不毛の地にあった生命は、墜落現場の宇宙船の残骸の中に残されていているのみであった。
 それは積荷に混って地球から運ばれていた。
 まだ炎の上がる残骸に包まれた荷物の小さな隙間でカサカサと動く小さな黒い姿が、炎の影に揺れていた。

 
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 ドームから姿を現したメガロはゆっくりとシートピアの上を移動し始めた。
 一方、その前方に位置する岸壁では墜落したヘリコプターから脱出した陣川達4人の姿があった。
 岸壁で垂直に落ちる壁面と暗い夜の海面を確認した陣川は、身につけていた装備を外し始めた。

「身につけているものを放棄しろ。この高さなら海へ飛び込みができる」
「それであれば、ロープで補助して壁伝いに」

 銘斗がヘリコプターからの脱出時に掴んだ鞄からロープを出して見せる。
 それを確認して陣川は笑みを浮かべて頷いた。咄嗟の脱出時に鞄を掴んでいた銘斗に対してのものだ。
 
「そうだな。…………よし、赤木! 先にイブキとロープで降りろ! レイコは俺と援護を」
「レイコ……さんです。サンまでが名称です」
「ややこしいな。じゃぁ、レイコさんさんなのか?」
「いいえ、私は仕える身。敬称不要です」
「…………あ、わかった」

 これ以上の言葉は飲み込む。一方、銘斗は手早くイブキと共にロープを巻いて壁面を蹴りながら降下をする。
 それを確認した陣川とレイコさんも切り替え、ピンと張るロープを守って立つ。

「着水を確認したらロープを掴んで降下しろ」
「私は問題ありません。陣川様は摩擦を手袋だけで防ぐのですか?」
「言っただろ。俺は装備を放棄して海に飛び込む」
「了解。…………何か接近してきます!」

 レイコさんがメガロの手前から迫る複数の生体反応を察知し、脱出時にヘリコプターから持ち出せた一丁のサブマシンガンを構える。陣川もライフルは失っていた為、身につけていた拳銃を構える。
 メガロの足音とその地響きがシートピア中に轟いている中、素早く走る者達の足音が混ざっていた。
 それは忍者の様に素早く俊敏であった。暗く、そして凹凸のある悪路を全くものともせずに走ってきた。

「速いな……」
「先程の者達です。どうやら本気を出しているようです。有効射程まで10。……迎え撃ちます」
「応!」

 レイコさんの視界には彼らの姿を捉えていた。今尚、地球人に擬態した姿を残しているものの、明らかにそれが異形とわかる特徴を現していた。左右の額がヒビ割れ、一対の長い触覚を生やし、瞼は大きく開かれ、眼球は黒い複眼になっている。そして、肩から第二の腕が生えていた。第二の腕は黒い光沢を帯びた鎧の様な殻を持っている。
 有効射程圏内に彼らが達した瞬間、レイコさんはサブマシンガンの引き金を引く。
 刹那、硝煙と銃声が高速で銃口から吐き出され、反動で地面を踏み込むレイコさんの両足が土砂にめり込みながら後退する。

「「「「「「イイィィィーッ!」」」」」」

 彼らは地面を蹴り、跳躍。弾丸の嵐を回避する。

「!」
「ええい、ままよっ!」

 レイコさんが跳躍して散開する彼ら、第三期のM宇宙ハンター星雲人達に照準が外れる。
 しかし、それを援護する陣川。拳銃を両手で構え、空中の星雲人を射撃する。一人、また一人と次々に弾丸が命中する。
 同時に陣川達の背後でイブキ達が着水し、ロープの張りがなくなった。

「よし、行くぞ!」
「畏まりました」
 
 陣川は拳銃を投げ捨て、海に向けて飛び込む。
 続いてレイコさんもスカートを翻しながら飛び降り、壁面に垂れるロープを掴む。ロープを掴む手から煙を上げながら降下し、陣川の着水に続いてレイコさんも着水した。
 海の中に落ちたレイコさんの体は海の底へと向かって沈んでいく。

「……………」

 しかし、レイコさんは慌てることなく、そのまま身を任せる。
 既に彼女の目にはそれが見えていたからだ。




「…………あそこだ!」

 岸壁では星雲人達が海を見渡し、陣川達の姿を探していた。
 そして、防衛隊員の格好をした星雲人の一人が海面の一点を指差した。
 そこには陣川、イブキ、銘斗が浮かんでいた。しかし、その背後から海中へと沈んだレイコさんの姿が現れる。彼女を含む一同は海の上に立っていた。否、海中から床が浮かんできたのだ。床の背後にはメーサー砲台が現れ、海水を滴らせて排水する。
 海中から現れたメーサー砲を主砲とする艦艇は、ナーガであった。

「さっさとハッチを開けて回収してくれ!」
『排水が終わるまでは待っていろ』

 甲板に立つ陣川に艦内から佐々木の声が聞こえる。
 佐々木は海上で待機しており、レイコさんの目の光を信号にして状況を伝えていた。そして、彼らの乗ったヘリコプターの墜落を受けて、救出の為に海中へ潜っていたのだ。

『どうやら遠隔式の機兵はアイツらのコントロールを奪われた。自律式も似たようなものだ。制御をスタンドアローンにさせるにも一度奪われたコントロールを取り戻すか、物理的に受信器を破壊するしかない』
「じゃあ、機兵隊はもう………」
『いや、このナーガがいる。有人機である機龍に遠隔制御の機構がないからな』
「ならば」
『羽田へ行く! そこにガルーダとガンダルヴァがいる』
  



 東京湾沿岸地域が戦場となるまでに時間はかからなかった。
 コントロールを奪われた機兵は戦車を始めとした有人機と交戦をしながら、街を破壊する。
 それは羽田空港滑走路も例外ではなかった。機兵が戦車に襲いかかる。
 しかし、その瞬間、機兵の頭部にミサイルが撃ち込まれて爆発四散する。更に対艦砲射撃をしながら東京湾内からナーガが上陸した。
 そして、ナーガは滑走路に置かれたガルーダとガンダルヴァに向かう。




『陣川、操縦席は空けておいた。腕は鈍っていないな?』

 ナーガから佐々木が呼びかける。

『応! ガルーダ、久しぶりに飛ぶぞ!』

 ガルーダの操縦席に乗り込んだ陣川は操縦桿を握り、その質感を確認して応える。
 モニターに赤木と佐々木の顔が表示される。

『ガンダルヴァ、準備完了です!』
『ナーガ、いつでもいいぞ!』

 二人の合図を聞き、陣川は口角を上げた。
 
『よしっ! さっさと機兵を返してもらうぞ! それだけじゃねぇ! あの偽者からアントニオも返してもらう! そして、日本を……いや、地球を守るぞっ!』

 陣川の声に呼応するようにガルーダは飛翔し、滑走路上の機兵を次々と爆撃する。
 そして、アクロバットな空中一回転をしてターン。再び滑走路へと戻る。
 同時にナーガが変形しながら砲門を開き、一斉掃射をする。その上にガンダルヴァが変形し、合体する。

『ナーガ、合体!』
『ガンダルヴァ、合体!』
『よぉぉぉぅぅしっ! ガルーダァァァーッ! 合っ体っ!』

 直立したナーガとガンダルヴァの合体したロボットにガルーダが変形しながら合体する。
 この3機の合体した姿こそ、機龍とも呼ばれる巨大な対怪獣兵器、メカゴジラである。

『刮目しやがれっ! これがぁぁぁぁぁあっ! 日本の防衛隊の力ぁぁぁぁああっ! そぉうっ! 名付けてぇっ! 防ぉぉぉぉおおお衛ぇぇぇえ……合っ体っ! メカゴジラァァァァァァァッ!』

キシャァァァァアアアアオォォォンッ!

 メカゴジラが周囲の機兵隊に対して咆哮を上げた。
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