序
設置決定から僅か2時間後、内閣府の廊下を段ボールを積んだ台車が列を成して巨災対の隣の部屋へと移動してきた。
巨災対メンバーも様子を見に廊下へと出てきている。
部屋が隣なのは矢口の指示だ。彼の直感では、最終的に部屋を隔てている壁を取り払い、統合させる必要が出てくると考えているからだ。
そして、荷物の列の後に背広を着た官僚達が歩いてきた。先頭に立つ若い男は背広でなく、防衛省の制服を着た自衛官であった。
「黒木部長!」
袖原が驚いて男を呼び止めた。
彼も袖原に気付き、近づく。袖原が敬礼する。
「袖原君、ここでは巨災対と巨特対のメンバー同士という立場だ。畏まらなくてもいい」
「はっ!」
袖原の省内で「厄介者」といわれていると話と巨災対内での様子を知る他のメンバーはその自衛官然とした態度に驚きを隠せない。
他のメンバーに視線を向け、男は敬礼した。
「防衛省統合幕僚監部防衛計画部長、黒木翔。只今より巨大不明浮遊物体特設対策準備室に着任致します。どうぞよろしくお願い致します」
つまり、袖原の上司に当たり、彼らも黒木の名前に覚えがあった。
霞ヶ関と市ヶ谷ではそうそう官僚内部でも個人の噂が省庁を越えて広まることは滅多にないが、黒木は例外だった。東大主席卒という事実の他、国家公務員試験を最高得点で合格という噂も含め、余多の秀才逸話が語られ、防衛省は黒木自身の希望からで実際には全ての省庁からラブコールをされていたとも噂がある。そして、二十代後半の若さにして、他の名だたる防衛官僚達を抜いて部長にまでなった男だ。
それらをもって、黒木はヤングエリートというあだ名で羨望の眼差しを受けている。
「ど、どうも」
森が面を喰らった様子で、辿々しく挨拶をする。
一方、黒木は手を下げ、隣の部屋へと入っていった。
他のメンバーも関連する省庁の部署の人間であれば、一度は名前を耳にしたことのある実力者揃いであった。
開始ギリギリまで廊下で眉間に皺を寄せてスマートフォンを操作している男は、黒田康作外務省総合外交政策局宇宙室所属となっているが、同じ外務省の小松原曰く宇宙室で彼の顔を見たことはないという。
そして、小松原は黒田という名前に覚えがあった。邦人テロ対策室。こちらも彼の顔を見たことがある訳ではないが、ここのメンバーに影の外交官なる存在がいるという噂があり、それが黒田だという。真偽は不明だが、二つの部署に席を置きながら、その実務が謎に包まれている人物は官僚でなくても興味をそそられた。
「黒田さん、始まりますよ」
「わかった」
冠城亘法務省刑事局総務課企画調査室室長に呼ばれて、黒田は入室した。
「巨大不明浮遊体特設対策準備室設置決定から短い時間で集まって頂いた皆様にまずお礼を申し上げます。現時点で巨大不明浮遊体に特別な動きもなく、以前の巨大不明生物出現時のような緊急対策、防衛出動は許可できません。しかし、ミクロネシア連邦の使者、サルノセルジナ公国王女の提言を無視することもできません。本対策準備室は巨大不明浮遊体が何らかの行動を起こした際に、速やかかつ適切な防衛行動、防災計画の実施を可能な体制とするものです」
矢口は志村の用意した原稿を暗証し、最後に一同の顔を見て一言付け足した。
「決して地球外知的生命体との防衛戦争を目的としたものではありませんが、想定しうる最悪の事態を想定した対策を用意して下さい」
暗に宇宙戦争の可能性を比喩した表現であったが、彼らの中にそれを笑う者はいなかった。
そして、黒木が矢口に交代し、進行役となる。
「自己紹介は済ませているので、本題から入る。彼の火力は全く不明。浮遊している状態が如何にして可能としているかも不明。5000年前の話が情報として上げられているが、その信憑性と共に実証もなく、鵜呑みにはできない。現地の調査隊もサンプルは早急に分析へ送ることになったが、各省庁からの指示で現地に残っている」
「つまり、分析待ちはしつつも、今の時点では例の預言者達の言葉くらいしか情報がないと?」
「それを肯定せざる得ない。なので、彼の正体を突き止めることもこの対策準備室の役割となる。その為、隣の巨災対との連携も必要となるというのが赤坂官房長と矢口大臣の考えだ」
冠城の発言に黒木は答える。
それを受けて、冠城は隣に立つ黒田を見て言った。
「でしたら、黒田さんのお持ちの情報を共有した方がいいですね。この中で一番本件の専門家に近しい立場にいらっしゃいますから」
冠城をチラリと黒田は睨むが、元々このタイミングで情報共有をするつもりであった為、慣れた様子でスマートフォンを室内に用意したモニターに繋げる。
「昨夜、セルジナ公国政府専用機がサルノ王女暗殺を目的と考えられる人為的な爆破によって消息を経った。私は外務省側の担当として本件に関わっていますが、警察庁の担当が現在スカイツリーで保護したサルノ王女を護衛しています。彼女が何故無事に我が国の押上にいたのかは不明ですが、彼女は自らを金星人と名乗り、こちらの動画で我が国への警告をしていた。概要としてはこうですが、皆さん確認済みということで進めていいですね?」
形式的な確認だ。問題ないことを確認すると黒田は続ける。
「警察庁から既にサルノ王女の保護するホテルで不審者を確認しているらしいが、本件と直接の関係がないので割愛します。彼女曰く、巨大不明浮遊体はキングギドラという三つ首の龍という話だが、実際は球体。また金星人の母星を滅ぼした存在としていますが、金星人を名乗るサルノ王女自身は生存しています。この矛盾からも、情報の信憑性は薄いと言わざる得ません。しかし、警察庁担当の進藤曰く、サルノ王女、及びモル氏、ロラ氏の三人が同時にキングギドラの覚醒を口にし、直後に巨大不明浮遊体の出現が確認されたことは事実として存在する。預言有無の問題ではなく、仮にサルノ王女らの話に耳を傾けるとなると、キングギドラは知的生命体としての意思を持ち、それが我が国を含む地球人の侵略というものである可能性が高いという点にあります」
「何れにしても彼の出自は隕石。つまり、地球外の存在というのは事実としてありますから、対応は慎重になります」
黒田の報告を受けて黒木が話を先に続ける。冠城もその点には補足をする。
「根本的にあれを生物と捉えるか、物質と捉えるかということもありますが、法的には仮に地球外知的生命体だとしても物として解釈します。またあれがキングギドラなる存在で、自らを我が国へ責めてきた侵略国家に準ずる存在と明言をした場合は、法の解釈からすると防衛出動が許可できると言えます。またゴジラの様に災害としての人的、物的な被害を著しく受けた場合は、ゴジラ関連法の転用が解釈上可能になるので、防衛出動が可能です。しかし、後者は元々が超法規的措置に対する後付けの根拠法の為、巨大不明浮遊体に対して効力を持てるように改定が必要になります」
「それについては防衛省でもプランを立てています。可能な限り、初動のタイムラグを減らす様に準備を進めていますが、先守防衛を徹底し、攻撃根拠を作る他ないのが実情です」
「後者の布告に関しては、泉総理からいつでも出す覚悟はできているとのことです。それとラドンの絡みで本日中に準じ国内に避難指示を出すことが決定しています」
「では、形式的にはそれを理由にして富山県と黒部周辺地域に避難を呼び掛けていただきたい」
矢口に黒田が提案する。
「それは勿論だが、なぜ富山県を優先する?」
「モスラなる巨大生物が富山県沖にて待機しており、キングギドラが動き出した時点で洋上への誘導と攻撃をしたいと使者から申し出があるためです。まもなくミクロネシア連邦政府を介して正式に提案が入るようです」
目には目を歯には歯を、彼らを戦わせようという案だが、場所は日本領海内。現時点で容認できるものではない。
しかし、状況がそれを許すことはなかった。
緊急入電が入り、それを受けた志村が声を上げた。
「巨大不明浮遊体、動きました!」
午後3時42分、黒部ダム付近上空に存在する巨大不明浮遊体は突如として動き始めた。
進行方角はほぼ南西。音もなく高度も変わらずに真っ直ぐ時速60キロメートルの速度で移動し始めたのだ。
目視観測を行っていた安田達調査隊はその突然の変化に動揺していた。
「初速から一貫して時速60キロメートル。GPSの情報でも一切のズレもなく、一直線に進行していますね」
旭がパソコンの画面を見ながら、マイク越しに言った。
巨大不明浮遊体は飛騨山脈の山間を貫く様に進んでいる。
安田達はすぐさま待機していた富山県警のヘリコプターに搭乗し、離陸した。すぐにヘリコプターは追い付き、距離にして1キロメートルと離れていない。追尾としては近すぎる印象を受けるものの、それは相手が直径100メートルである故の相対的な印象である。
しかし、出発早々に追尾の課題が浮上した。巡航速度時速220キロメートルのベルシリーズを配備している富山県警察のヘリコプターであれば、追尾そのものは問題ないが、黒部ダムへ向けて出発して以降は補給が行えていない為、残りの航続可能距離は500キロメートル弱といったところだが、現在の追尾は燃費の悪い航行の為、もって200キロメートル程度というのがパイロットの見解であった。乗り捨てる訳にも行かず、また状況的に事務は後回しにできるとはいえ、プランを出していない航行を継続するわけにもいかない。また方角的にこのまま強行してしまうと岐阜県に侵入する。
「残念ですが、そろそろ決断の時です。許可が間に合えば、このまま岐阜県まで進み、飛騨エアパークで補給を行うことも可能ですが、現実的には途中で富山に引き返すしかありません。そのリスクを考えるとこの時点で決めることを推奨します」
「なんとかできませんか?」
「こればかりは管轄外としか……」
安田は食い下がるがパイロットも県警の一職員なのだ。そもそも既に山岳救助隊どころか警察組織の管轄を当に越えている。本来は自衛隊の範疇だ。
そう考えていると、まさに彼らの心を読んだかの様に連絡が入った。それを受けたパイロットが安田達に伝える。
「朗報です。富山地方協力本部の要請で巨大不明浮遊体の追跡に中部方面本部からUH-1Jが手配されたそうです。合流地点は福岡のヘリポートになります」
パイロットは富山県西部の地名を上げた。
安田の隣で、旭がヒューイかぁとUH-1Jの愛称を呟く。確かに実質的な機体性能では現在搭乗している富山県警の機体と変わらない。彼がどの程度の知識を有しているか不明だが、性能上ではブラックホークと呼ばれるUH-60JAなどが上位互換として上げられるが、中部方面の航空部隊に当該機体の配備はない。理由は単に機体価格が高い為だ。
そもそも陸上自衛隊には富山駐屯地があるが、まだヘリポートが工事中の為、着陸するスペースがあっても補給等のことも考えると、今回は民間のヘリポートの方が実用的な判断となる。
そして、機体は進路と速度を変え、富山県福岡町へ向かった。
安田達の乗るヘリコプターがヘリポートに到着する直前に、巨大不明浮遊体は突如静止した。
場所は黒部ダムから南西に10キロメートル程移動した神通川上流の山間の上空。巨大不明浮遊体からは富山市街地と日本海が一望できる位置であった。
連絡を受けた巨特対準備室では、国道と河川の定点観測カメラの中継映像をモニターに映し出し、確認していた。
「完全に静止していますね」
志村が呟いた。
「これが仮にこの地点への移動であったら、富山市内の主要施設を狙った戦略と取ることができます」
「既に市内を中心に避難を呼びかけられています」
黒木の言葉に総務省の職員が答えた。
一方で黒田はスマートフォンで連絡をどこかと取っている。
「わかった。……繋げよう」
「手伝います」
黒田の様子をいち早く察した冠城が彼のスマートフォン画面とパソコンの画面を同期させ、映像通話をパソコンの内臓カメラから可能にさせた。
画面が切り替わり、進藤の顔が映し出された。
「巨大不明浮遊体特設対策準備室だ。こちらが事務局の矢口大臣」
『初めまして。父から先生の事は存じ上げております。警察庁の進藤です』
「矢口です。長官と共にお父上には父の代よりお世話になっております。……で、何かわかるのだな?」
無駄な挨拶は最小限に、矢口は進藤に問いかけた。
進藤も矢口のその態度は親近感が湧いた。
『はい。先生は既にお会いしていましたね? 彼女達が答えを知っています』
進藤はカメラの向きを変え、モルとロラを映した。
『『あの場所から真っ直ぐ先の海にモスラがいます』』
「やはり領海内にいたのですね」
『『それは……すみません』』
矢口の言葉に二人は謝罪をするが、そもそも彼女達がどの程度領海侵犯を重大に捉えているか甚だ疑問だと、矢口は思った。
それにモスラを攻撃する為に移動したと考えられる一方で、モスラがいると気づいたことで静止、足止めできたとも考えられる。仮に後者であった場合の最悪の想定は、既に巨災対メンバーを介して対応するように担当者へ厳命している。その対応が間に合うかどうかはこの足止めに左右されると言っても過言ではない。
「仮にモスラが対応した場合、それ相応の被害を出すと考えて良いのですね?」
『『はい。モスラはその大きさから、悪気はなくても日本の皆さんにご迷惑をおかけしてしまいます』』
「わかった。……富山県知事と市長、防災センター、消防局と警察本部へ至急連絡を! どの警報でも、何でも構いません! 速やかに富山市民の自主避難を呼び掛ける最も効果的な警報を出して中心地から避難するように呼び掛けて下さい! 責任は俺が取りますっ!」
その鬼気迫る矢口の言葉に一同は驚きつつも、慌てて彼の言ったことを各方面へ即時通達した。
矢口は察していた。彼の、今でもまぶたの裏に鮮明に残るゴジラの記憶。この判断が誤りとなれば、彼の政治生命は一貫の終わりだ。恐らく明日のラドン来襲すら待たずに、自らの立場を辞することを迫られるだろう。
しかし、彼は迷わなかった。彼の言葉の真意を察した黒木の機転で、ゴジラに向けて放たれるはずの熱核兵器が誤って富山市内中心地へ向けて放たれたという旨の誤報を市内へ向けて放った。
当該地区で一斉にJアラートが不気味な不協和音を上げた。そして、アナウンスが流れ、瞬く間に市内は大パニックとなった。
その様子を苦渋の表情で矢口達は見つめる。
「先生、赤坂さんが30分後に緊急記者会見を開くと」
「……志村、水をくれ」
志村が渡したペットボトルの水をぐびぐびと飲む。心拍数は上がっているが、不思議と退陣会見を30分後に開く不安は感じていなかった。今は一分一秒でも惜しかった。
一同が固唾を飲んで見守る中、意図的な誤報によって避難は着々と進んでいる。
「巨大不明浮遊体が変形しています!」
映像の監視を続けていた職員が叫び、中央のモニターの表示が切り替わる。
球体の中央から渦を巻きながら金色の粒子が広がり形を変える。
瞬く間に、それは百合の花の様なラッパ状の形になった。
「避難は? 見込みでいい!」
「多く見積もって80%です!」
矢口の声に誰かが答えた。
同時に映像通話先のモルとロラが叫んだ。
『『モスラ、逃げてっ!』』
刹那、ラッパ状の巨大不明浮遊体の中心部が閃光を放った。光は一直線に神通川、富山市中心地、富山湾を結び、一瞬の内にその全てが粉砕し、空中に舞った。そして、海中から巨大な芋虫が宙に舞い上がった。誰に聞かずとも、それがモスラだと皆がわかった。
そして、天地の上下をひっくり返したかの様に舞い上がった粉塵、霧状の水、そしてモスラは一斉に本来あるべき地へと落下した。モスラも大きな水しぶきと海岸線に波紋状に津波を起こし、船舶や湾岸の通りに残っていた車輌や避難中の人々を巻き込む。
その光景に巨特対準備室の面々の中でも目を背ける者がいたが、矢口や黒木達はそれを目に焼き付けようとすら思える程に瞬き一つせずに見つめていた。
「はい。……わかりました」
一時、息を殺しているかのような静けさに包まれた室内に内線のコール音が響き、志村が応対した。
受話器を置くと、矢口に耳打ちする。
矢口も頷き、深呼吸を一度だけする。
「今、泉総理から連絡がありました。先の光を巨大不明浮遊体によるわが国に対する急迫不正な武力攻撃と判断し、自衛隊へ防衛出動命令が出されました」
今回はゴジラと異なる。ゴジラの場合は明らかに生物であり、当初も災害派遣が検討された。最終的には根拠法のゴジラ関連法を後付けにした布告による防衛出動となった。
当初この巨大不明浮遊体は、領空侵犯と判断するには法的評価が弱かった。単純な話だ。他国の航空機と評価するには無理があるからだ。浮遊の原理も不明かつ、形状も航空機とは表現できないものであったからだ。
その為、観察以外の具体的な対応ができなかった。
しかし、先の攻撃は明らかにわが国に対する急迫不正な武力攻撃と法的評価をするに十分なものであった。その為、泉は防衛出動命令に踏み切ったのだ。
同刻、防衛省統合幕僚本部、市ヶ谷中央指揮所に矢島統合幕僚副長以下、陸、海、空それぞれの幕僚らがこの時を待っていた。
「官邸より入電! 防衛出動発令!」
通信担当自衛官が報告し、一斉に部長階級クラスの防衛省官僚がテーブル上に富山県地域の地図を広げた。
「作戦は?」
矢島の声が響く。
直ぐに陸上幕僚長が答える。同時に資料がテーブルに出される。
「プランT-5を元に展開可能です」
「富山駐屯地の支援を受けつつ、陸空火力による対空迎撃作戦か」
作戦の基本形はシンプルだ。現地陸上作戦域の整理を富山駐屯部隊により行い、攻撃そのものは陸上自衛隊の弾道ミサイルによる攻撃と航空自衛隊による空爆によって制圧するものだ。
初期作戦位置は黒部ダム上空であったものだが、基本的な運用は変わらない。彼らの用意した作戦の殆どが国内主要防衛地点へ移動した場合のケース別フローによるものであった為、本作戦は最もシンプルなものとなっていた。
ここからは作戦指示に関わる確認事項になる。
「避難は?」
「まだ完了の報告はありません」
「彼の火力は?」
「富山市を横断する対象物の全てが粉砕されています。熱とは異なる火力兵器と推測されます」
「彼我の火力差は?」
「未知数です。早期の威力偵察を進言します」
「海中の巨大生物は?」
「霞ヶ関からの情報で彼と敵対。しかし、我に味方かは不明」
「作戦の妨害は?」
「官邸より、極力敵対するな。しかし、防衛相より、三つ巴にするくらいなら奴らを戦わせろ、と」
それを聞いた矢島は小声で「面白いことを言う」と呟いた。
「これよりプランT-5を元にした巨大不明浮遊体への迎撃、ウカワ作戦を開始する」
矢島は、大伴家持が神通川での鵜飼い漁を詠んだ万葉集第17巻4023の歌「婦負川の早き瀬ごとに篝さし八十伴の男は鵜川立ちけり」を原典とした作戦名を言った。
まもなく先行部隊として富山駐屯地から避難誘導を含めた作戦地域の整理が行われ、同時に航空自衛隊の部隊が出撃した。