後編



 
 宇宙船に飛び乗った結城は綾瀬の後を追おうと内部に入ろうとしたが、それは上手くいかなかった。
 なぜなら、目の前に3人の仮面ライダーが立ち塞がっていたからである。

「お前達は……」
「「「イィーッ!」」」
「!」

 問答無用で襲い掛かってきたライダー達の攻撃を回避し、同時にパンチとチョップの攻撃を加える。しかし、彼らはすぐに起き上がり、奇声を上げる。

「「「イィーッ!」」」
「畜生、完全に人間ではなくなっているのか! ……俺も、コイツらと同じ様になっていたのか」

 結城は呻いた。しかし、当のライダー達はそのことを気にする事もなく、飛び上がった。

「くっ! ライダーキックか! ならば……」
「「「イィーッ!」」」

 三連続で繰り出されるライダーキックの最初の一人目を結城は回避し、そのライダーが着地した瞬間、その体を両手で掴み、着地の勢いを殺さずにそのまま投げた。

「「イィーッ!」」

 ライダーは続く二人目のライダーと激突し、そのまま砕け散り四肢が吹き飛ぶ。同時に自動自爆装置が作動し、爆発四散した。
 三人目のライダーはその爆発が煙幕となり、結城に命中することなく着地した。そして、視界のはっきりとしない中、結城を探して周囲を見回す。

「イィーッ!」

 ライダーはベルトのバックルに付いている羽を回転させて風を巻き起こさせる。煙幕が晴れ、視界が開ける。

「ライダー……」
「!」
「キィィィック!」

 ライダーの行動を予想していた結城は、煙幕を晴らしたライダーの位置を特定し、自分を見つけるよりもライダーキックを放った。
 ライダーキックはライダーに直撃し、結城が着地すると同時に、ライダーは爆発四散した。

「俺は……バイラスを、許さない!」

 結城が宇宙船内部に入ろうと出入口の穴に拳を突こうと構えると、周囲に巨大な宇宙船が取り囲んだ。

「! なんだ?」

 結城が驚く最中、宇宙船は連結し、四つ球体が数珠繋ぎになった一つの巨大な円形の宇宙船になった。
 結城が驚きのあまり拳を緩めた瞬間、彼の足元の出入口の穴が開き、彼は宇宙船内に落下した。

「……! 夏美!」

 上手く床に着地できた結城が顔を上げると、彼の数歩程の前に立つ綾瀬に気がついた。彼女は再び人間、綾瀬夏美の容姿になっていた。失った手も元に戻っている。
 慌てて結城は周囲を見回した。相変わらず宇宙船内は角の無い楕円形状の部屋構造となっている。そして、綾瀬と結城以外にこの部屋に誰もいない。

「警戒しなくても、私しかいないわよ」
「何を企んでいるんだ! この宇宙船は? 他のバイラスはどこへ行った?」
「一度にいくつも答えられるわけがないでしょう? でも、一言で答えるなら、貴方を倒す為。貴方を殺し損なったのは、私のミス。だから、私が貴方を殺す。そして、ここに集った地球上の全バイラスの総力を駆使してまずは新宿、次に東京、日本、最後は地球を征服するのよ」

 綾瀬は愉快そうに両手を広げて結城に語った。対して、結城はそれを鼻で笑った。

「やっと侵略宇宙人らしいことをしたじゃないか」
「既に共有を終わらせている。悪いけど、今の私はさっきまでの私とは、一味違うわよ」
「それ、悪役が正義の味方に負ける前に言う典型的な台詞だ。夏美、これで決着をつけるぞ!」

 結城が拳を構える。同時に、ヘルメットの眼が赤く光る。
 綾瀬も腕を鞭の様にしならせ、一度体の前に打ちつけた。床を打ち付ける音が響き、一瞬結城の視線が綾瀬から逸れた。その一瞬で、綾瀬はバイラスの姿に変身していた。

「相変わらず不細工だな、夏美」
「その減らず口を二度と動かせなくしてやろう!」

 一瞬の牽制、しかしそれは瞬時に攻撃に変わった。どちらが先でもなく、二人とも同時に動いた。
 綾瀬は複数の触手を様々な方向から結城の一点へ向って突き刺そうとする。
 結城は飛び上がり、ライダーキックの体勢を取ろうとする。
 触手は結城の体に一本も触れることはなかった。一方、結城のライダーキックも触手に阻まれ、中止を余儀なくされ、床に着地した。

「てぁああああああ!」
「! うぉおおおおお!」

 綾瀬は百合の花の様に広がっている頭部を束ねて槍の如く鋭く尖らせ、結城に突き刺そうと突撃してきた。攻撃は見事に結城の腹部を貫いた。しかし、結城は踏みとどまり、両手で綾瀬の頭部を掴んだ。そして、結城は声を張り上げて、腹に刺さる頭部を引き抜くと、そのまま綾瀬を逆さにして掴み上げ、飛び上がった。

「ライダー……」
「貴様ぁ……何ぉ?」

 綾瀬が声を上げる。しかし、結城は体を高速回転させる。

「きりもみぃぃぃシュゥゥゥート!」
「!」

 結城は掛け声と共に綾瀬を投げ飛ばした。綾瀬は高速回転する勢いのまま天井に叩き上げられ、衝撃で触手や体がズタズタに傷つく。

「まだだ!」

 床に落下した綾瀬は傷ついた触手を這わせて起き上がりながら叫んだ。
 結城は再び構える。しかし、今度は牽制する事なく綾瀬の触手が襲い掛かってきた。結城は触手を回避しながら攻撃の隙を伺う。

「今だ! ライダー……」

 結城は飛び上がった。触手が次々に襲い掛かる。結城は背後に迫っていた壁を蹴り、更に天井を蹴り、一気に綾瀬との距離を詰め、ライダーキックを構えた。

「稲妻ァァァ」
「!」

 結城の蹴りは綾瀬の体に直撃し、そのまま部屋の反対側まで突き飛ばす。壁に激突した綾瀬はその衝撃に肉体が千切れ、壁から落ちることなく張り付き、そのまま絶命した。

「キック……!」

 着地した結城は静かに言った。

「見事ね、甲児」
「! ……馬鹿な」

 後方から聞こえた聞き覚えのある声に結城は振り返った。彼の眼に映ったのは、いつの間にか部屋にズラッと並んでいた綾瀬夏美の姿であった。

「「「「「「「「「「「「「「「「言ったでしょ? 私は既に共有を終わらせたと」」」」」」」」」」」」」」」」

 綾瀬達が合唱で答えた。

「どういう事だ?」

 結城が問うと、綾瀬達は一人ずつ答える。

「言葉のままだ」
「我々バイラスは」
「肉体を改造し」
「互いの肉体」
「知識」
「能力」
「全てを共有することが」
「できる」
「お前ら自身も改造していたのか……」

 結城が愕然とした声で言うと、綾瀬達は微笑んで言った。

「「「「「「「「「「「「「「「「当然でしょ、バイラスは完璧な生物なのだから」」」」」」」」」」」」」」」」
「完璧なんて、あるわけが無いだろう」
「「どうかしら?」」

 結城の言葉に応えるように、二人の綾瀬が前に出てきた。

「貴方は」
「地球人は」
「こんな事が」
「出来る?」
「なっ!」

 結城は声を上げた。二人の綾瀬達は、鏡に映した虚像と実像が一つになる様に、体が一つに重なった。それに伴って、綾瀬の体は一回りほど大きくなった。

「肉体を共有すると、こうなるのよ。基本的には密度が増えるだけだけど、飽和した分で体が大きくなる。この逆を利用したものが地球人への寄生よ」
「「「「「「「「「「「「「「「「さあ、諦めて死になさい」」」」」」」」」」」」」」」」

 綾瀬達が結城に迫る。結城はバイラスの遺体が張り付いた壁に追い詰められる。

「……一つだけ、聞かせてくれ。俺と戦った夏美は、ずっと俺と一緒にいたあの夏美だったのか?」
「「「「「「「「「「「「「「「「共有を終えた以上、個人などという概念自体が意味をなさい。しかし、確かにそのバイラスは貴方と共にいた綾瀬夏美のソースだ」」」」」」」」」」」」」」」」
「それを聞けて、未練はなくなった」

 結城は左手を自分の腹に開けられた穴に挿し込んだ。そして、ゆっくりと体の中から金属の箱の様なものを取り出した。

「コレが何か、わかるな?」
「「「「「「「「「「「「「「「「自動自爆装置!」」」」」」」」」」」」」」」」
「正解だ」

 結城は壁に左手を打ちつけた。
 刹那、自動自爆装置は爆発した。






 

 地面に向って落下する結城。夜空が視界に広がる。そして、月を遮る、煙を上げているバイラスの宇宙船を見つめる。
 彼は、死を覚悟した。

「結城さん!」

 声が聞こえた。それに気がついた時、彼に衝撃が襲った。しかし、それは彼が想像していた地面に落下した際の衝撃に比べて、遥かに小さい。
 バイラスの宇宙船を遮って、巨大な影が彼の視界に飛び込んでいた。

「鉄人……」

 彼は首を動かす。

「あまり急に動かねぇ方がいいぞ」

 聞きなれたしわがれ声が聞こえた。

「橘さん、ここは危険ですよ」
「馬鹿言うな。この程度の出入、修羅場にも入らねぇよ」

 橘は笑って言った。
 違和感に気付き、意識を体中にめぐらせる。そして、完全に機械のみであった左腕が爆発で、肩からごっそりと吹き飛んでいた事に気がついた。ヘルメットも腕の破片が飛んだのだろう。左眼から顎にかけての全体のおよそ三分の一が砕けていた。

「うぅ……はあっ!」

 妙に息苦しさを感じ、結城はヘルメットの顎のシールドを外し、そのままヘルメットを脱ぎ捨てた。一気に視界がひらける。

「ここは鉄人の手の上ですか」
「まだ状況が飲み込めてないみたいだな」

 江戸川が歯を見せて言った。

「どうやら、それは僕らも同じらしい」

 金田が頭上を見つめて言った。皆、それにつられて頭上のバイラスの宇宙船を見上げた。
 一見、何が起きているのかわからなかった。
 しかし、しばらく眺めていると、何が起きているのか理解できた。

「何か出てきたぞ! ……なんかデカイぞ、あのバイラス!」

 江戸川が言うのも無理はない。宇宙船に開いた穴からイカ下足の様な六本の足、そして花びらの様に頭部に伸びる三本の鋭利な触角。灰色の体色をした姿は紛れもないバイラスであるが、その大きさは見る見るうちに大きくなり、鉄人と殆ど変わらぬほどにまで大きくなっていた。

「合体している?」
「共有です」

 金田が呟くと、結城が訂正した。そして、結城は彼らに、宇宙船内で見聞きしたバイラスの共有能力について手短に伝えた。

「何が完璧な生物だ。全部同じってことは、アメーバとかと同じじゃねぇか」

 単細胞、単細胞と笑いながら、江戸川が言った。
 一方、真剣な表情で橘が言う。

「実際は、それよりも厄介なものかもしれないな」
「どういう事だ?」

 江戸川が聞くと、彼を一瞥した後、橘は説明する。

「バイラスがどんな星で進化してきた生物だか儂は知らん。だが、生物である以上、完璧という事はありえない。それを改造したってぇ事は、人間で言えば、細胞から遺伝情報まで全部一切のエラーが生じないって言う意味だ」
「癌にならないってことだろ?」
「メリットだけでものを見たら、そう言える。だが、生物ってのは、子孫を残す。その最大の目的は種を絶やさねぇ様に、多様性を生み出す為の手段だ。もっと言えば、奴らは絶対に進化しない生物なんでぇ! つぅ事は、バイラスは既に絶滅種ってぇ事だ!」
「成程、それでわかりました。なぜ、彼らが侵略をするのか、その理由が」

 一斉に、発言をした金田に集中する。

「つまり、バイラスは生物として進化する道を捨てた。しかし、種の繁栄というのは、地球外生物であっても恐らく変わらない生物の本質と言えます。ならば、彼らにとって滅びない方法は一つ。それが、彼らの言うところの社会力へのこだわりです。共有能力によって得たある意味で究極的なコミュニケーション能力を備えた彼らは、他の惑星を侵略する事によって、生物の進化ではなく、社会の進歩をして、種の繁栄を続けようとしているんです。生物のもつ多様性の最大の利点である環境への適応性が無いわけですから、自分達自身が他の環境を自分に適した環境に変えてしまう」
「奴ら自身がまるでガンみたいだな」

 江戸川が言うと、橘は鼻で笑った。

「儂に言わせれば、地球人もそんなに違いはねぇ気がするがな」

 その時、唐突に鉄人が地面に着地した。

「うわっ! おい、金田!」

 江戸川は危ないだろ、と言おうとしたが、鉄人の急降下の理由が直ぐにわかり、口をつぐんだ。
 巨大なバイラスの触手の様な足が、鞭の如くしなりで鉄人に襲い掛かってきていたのだ。

「皆、一斉に地面に降りますよ!」

 金田は鉄人を操りながら、叫んだ。皆、首を縦に振った。
 巨大なバイラスは地面に降り立った。宇宙船も煙をまだ上げているものの、頭上に浮かび、攻撃準備を整えている。
 そして、鉄人は右手を地面に降ろした。同時に、金田達も地面に飛び降りた。
 地面に降り立つと、結城はバイラスと鉄人を見上げた。大きさはほぼ同じ。勝負の行方はわからないが、地球の命運は鉄人にかかっている事は間違いない事実であった。






 

 東京都新宿区上空へ偵察を目的に先発した戦闘機が破壊された高層ビル群の中で繰り広げられる鉄人とバイラスの戦闘を確認したのは、二体が対峙した直後の事であった。
 その近く、歌舞伎町に避難誘導をする為に集まった警察車両のパトライトの多数の赤い灯りが、上空からでも確認できた。
 そんな歌舞伎町を一瞥した副操縦士は、素早く二体の位置情報とその状況を基地と後続の攻撃を目的に出撃した戦闘機へ報告する。

「しまった! 敵宇宙船に捕捉された!」

 戦線離脱をしようとした直前に、操縦士は叫んだ。レーダーには、彼らの後方に迫る巨大な宇宙船の影が表示されていた。

『何とか耐えろ! 40秒後に到着する!』

 後続の戦闘機から通信が入る。しかし、その一分にも満たない時間も、今の彼らには途方もなく長い時間であった。
 敵の戦力もわからない。一つわかることは、自分達の乗る戦闘機よりも遥かに上回る性能を持つ機体であるという事だけであった。

「き、消えた!」

 レーダーを見て操縦士が叫んだ。一瞬で、レーダーの敵影は消えてしまったのだ。

「違う……上だ」

 副操縦士は声を震わせて、彼に伝えた。彼は頭上を見上げた。

「あ、あ………」

 言葉を発する事は出来なかった。戦闘機を上回る巨大な宇宙船が自分達の真上に迫っていた。
 刹那、後続の戦闘機の索敵装置から、味方機の表示が一つ消えた。
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