第四章 決戦




 大海原に砲声とミサイル射出の爆音が轟く。
 ゴジラGⅠは挑発し、攻撃をする前方の戦艦ミズーリに向けて咆哮をあげた。
 そして、襲いかかる16インチ砲から放たれた徹甲弾とLOSATの猛威にゴジラGⅠは回避も防御もせず、それどころか前進する勢いを増した。
 海面は徹甲弾着弾の衝撃で大きな水柱と共に海面を荒らし、LOSATは正確にゴジラGⅠの体表に着弾し、その表皮を貫く。
 貫徹兵器であるLOSATも、一発が与えるダメージは微々たるものだった。
 しかし、同じ部位への攻撃が数集まることでゴジラGⅠに苦痛を与える。彼らは海面から露出した右額部へ照準を集中させていた。
 表皮に突き刺さり続けたLOSATは遂に表皮を抉り、出血させた。

 グオォォォオオオオオオオオオオオォンッ!

 額からの出血で視界を奪われた右目の瞼を閉じ、ゴジラGⅠはスピードを落として怒りを込めた咆哮を上げながら、背鰭を発光させる。

 ドゴォォォォオオオオオオンッ!

 刹那、一際大きな着弾音がゴジラGⅠで起きた。徹甲弾が命中したのだ。
 負傷した右額でなかったが、咆哮を上げて浮上させた左肩に徹甲弾は直撃し、その衝撃でゴジラGⅠは海中に身体をきりもみさせて沈んだ。
 その後も徹甲弾は海面を吹き飛ばし、砲弾は海中のゴジラGⅠへと落ちてくる。
 ゴジラGⅠは背鰭を発光させたまま海中へと潜った。視線の遥か先にはミズーリの船底がある。背鰭の周囲の海水が沸騰し、泡立ち始めた。






 

「艦長、この音は………」

 原子力潜水艦トライアンフでゴジラGⅠ周囲で海水が泡立つ音を聴いたソナー員がマッケンジー艦長に問いかけた。
 マッケンジー艦長は目を瞑り、記憶した録音と同じものか最終確認する。
 そして、見開いた。

「間違いない。背鰭斬りだ」
 
 マッケンジー艦長はクルーズへ報告する。

『わかった。ソードフィッシュによる攻撃で本艦を援護せよ』
「了解」

 クルーズの指示を受け、マッケンジー艦長は口角を上げた。

「一番発射管開放せよ。ソードフィッシュ、発射準備」
「注水開始」
「発射管圧力正常」

 マッケンジー艦長は静かに頷いた。
 8ヶ月前、イギリス海軍がゴジラGⅠに敗北したのは原子力潜水艦トラファルガーを含めた艦隊だけでなかった。彼らの切り札といえるスピアフィッシュ重魚雷もゴジラGⅠには有効でなかった。
 モンテクリスト島で戦艦イリノイとゴジラGⅠが戦っていた頃、イギリス海軍は壊滅的被害を受けたポーツマス海軍基地で敗北の検証とゴジラへ有効となる“スピアフィッシュ対G改修”の検討が行われていた。コタンタン半島での列車砲や地中貫通爆弾がゴジラへ与えたダメージは、合衆国が主張した貫徹兵器の有効性を示していた。
 
 “Project SPEAR G”。
 
 それはイギリス海軍がゴジラGⅠへ叩きつける復讐の刃だった。
 発射システムなどの運用上の理由から基本設計はスピアフィッシュの姿を模していた。しかし、その中身は全く異なり、爆薬は半分以下にして代わりに超硬タングステン貫徹体を内蔵し、着弾までの加速に対して水の抵抗を減らしてゴジラの分厚く硬い皮膚の深部まで突き刺さる慣性の維持ができる構造へ設計を変更した。
 発射までは従来のスピアフィッシュ重魚雷と変わらない。だが、発射された瞬間からそれは魚雷ではなくなる。
超空洞を形成し、水の抵抗を切り裂きながら獲物へ突き刺さる高速水中貫徹兵器。
 それが旗艦と共に文字通りゴジラGⅠに踏み躙られた彼らの誇りを取り返す為の執念によって、半年以上の歳月をかけて完成させたトラファルガー級原子力潜水艦トライアンフの“ソードフィッシュ重魚雷”である。

「ソードフィッシュ発射」

 マッケンジー艦長が静かに命じる。

「一番、二番、三番発射管、同時開放………発射」
 
 潜水艦トライアンフの魚雷発射口が開き、コンッ! と艦内にソードフィッシュが圧縮空気で静かに海中へ押し出された音が聞こえた。
 3本の魚雷はゆっくりとトライアンフを追い抜き、艦首から十数メートル離れた瞬間、後端が白く輝き、一瞬だけ気泡が噴き出した。
 次の瞬間、海中とは思えない轟音がトライアンフの船体を震わせる。
 
「ガスタービン点火確認」

 報告が伝えられる時、既に3本のソードフィッシュ重魚雷は爆発的な推力により一瞬で加速させ、それぞれの周囲に巨大な超空洞を形成した。
 ソードフィッシュは遂に海中を泳ぐ魚雷の限界を超えた。自ら生み出した巨大な気泡で包み、その中を弾丸のように突き進んだ。
 海中を一直線に貫く3本の白い航跡を残してゴジラGⅠへと“飛んでいく”3本のソードフィッシュ。
 それは、まるで海神のトライデントのようだった。

「100ノット到達……尚も加速中です!」

 通常の魚雷なら緩やかな弧を描くはずの航跡だが、ソナー画面に映るソードフィッシュの航跡は、一直線に伸びていた。
 そして、彼らが固唾を飲んで見守る中、直線を引いた航跡は対象と重なった。

「対象へ到達!」

 艦内が静まり返り、誰も声を発さない。
 そして、数秒遅れて海上観測班から通信が入り、ソードフィッシュがゴジラGⅠを貫いたことが報告された。

「命中確認」
「……よし」

 マッケンジー艦長は静かに呟き、安堵した。 








 その時、海上のミズーリは海中から背鰭を発光させたまま迫り来るゴジラGⅠと距離を保つために、攻撃から加速に転じ、退避行動に移行していた。

「機関室からタービンが限界だと……」
「ここで追いつかれたら全てが終わる! 計画も、本艦も!」

 ミズーリの艦橋では、艦長が鬼気迫る形相で叫んでいた。
 そこに各艦からの報告が入る。

「駆逐艦より、まもなく退避完了です」
「ソードフィッシュ発射!」

 それを聞いてクルーズと艦長は外を確認する。
 背鰭斬りの体勢に入っているゴジラGⅠを確認できるものの、当然ながら海中の魚雷は見えない。
 刹那、ゴジラGⅠが大きく体をくの字に横へと倒して回転した。続いて背鰭の破片が海面から飛び散った。そして、左肩の表皮を抉られて出血をし、もがいているゴジラGⅠが海中から飛び出した。
 ソードフィッシュ重魚雷はゴジラGⅠの右脇腹、背鰭の先端、左肩へ命中し、その全てがゴジラの硬い表面を貫いていた。

「……よし! このまま1発目のN・バメーストを使わせる。その間に本艦はUターンを終えて、後続艦隊とキルポイントで合流します」

 クルーズは艦長へ伝えると艦橋に戻った。
 艦橋へ入ると、クルーズはすぐに全艦へ通信を入れた。

「シナリオの書き直しは終わった。……これより本作戦は、“ヒミスヴィザ”作戦へ移行する。前衛部隊は“囮艦”を出せ!」

 クルーズは海図を確認する。現在の進路は北東、フィリピン方面を示している。ここまで約45度進路を変えることができたが、まだ足らない。
 ヒミスヴィザ作戦は本来、カマウ沖に布陣して行う予定のゴジラGⅠ迎撃作戦であった。ゴジラGⅠにN・バメーストを連続で使用させることによる消耗を狙う。
 ゴジラGⅠが機動力を大きく低下して広い洋上にいる条件を満たせば、オキシジェン・デストロイヤーを積んだ弾道ミサイルが使用可能になる。

「……現役艦を犠牲にするんだ。ゴジラ、この一発は高くつくぞ!」

 ゴジラGⅠは背鰭をまだ発光させ続けている。これまでの戦いでクルーズには、このあとN・バメーストを放つと確信があった。
 額、脇腹、左肩、背鰭。かつてない負傷をしたゴジラGⅠとミズーリの間に乗員がタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦へ退避して無人となったアーレイ・バーク級駆逐艦が割って入った。
 事前準備などできない状況下で用意した囮艦は、前衛4隻の中で、たまたま乗員が少なかったことで選ばれた現役のイージス艦だった。

『ソードフィッシュ発射。本艦は潜航します』

 潜水艦トライアンフからマッケンジー艦長の通信が入った。発射されたソードフィッシュ重魚雷は加速せず、ゆっくりと浮上しながら前進し、囮艦の直下でガスタービンエンジンを点火した。
 刹那、ソードフィッシュ重魚雷は真っ直ぐゴジラGⅠへと突き進む。
 ゴジラGⅠが咆哮を上げる瞬間、その頭部にソードフィッシュ重魚雷は直撃した。

「っ!」

 まるで額を弾丸で撃ち抜かれたかのように、ゴジラGⅠの頭部が大きく仰け反る。その勢いのまま空を仰ぐように海面へ上半身を叩きつけ、倒れた。

「……失神したのか?」

 海面に倒れたゴジラGⅠは仰向けになり、ゆっくりと海中に沈んでいく。急所を直撃したとしても絶命に至るダメージには及ばないことは、彼らも承知していた。
 しかし、ゴジラGⅠを騙して囮艦を標的にN・バメーストを吐かせる期待以上のダメージを与えたことは間違いない。

「作戦は続行! しかし、この機会は無駄にするべきでない。このまま距離を保ちながら、本艦含む前衛艦隊の転進を始める。……後続部隊は?」
「キルポイントに到達し、“囮艦”の乗員退避がまもなく完了します」
「よし。……艦長、お願いします」

 クルーズが顔を艦長に向ける。艦長は頷くと、操舵士に命令する。

「速力そのまま、面舵30度!」
「了解」

 操舵士が舵を右に傾けた。
 その時、クルーズが叫んだ。

「待て!」

 艦橋にいた皆が驚いてクルーズを見る。
 しかし、クルーズはその視線を構わず、言葉を続ける。

「様子がおかしい! 対象の状況を確認しろ!」

 クルーズはサーモグラフィーやソナー画面、カメラ映像を確認し始めた。
 今もゴジラGⅠは仰向けで海面付近に沈んでいる。
 しかし、背鰭斬りの時から今も変わらず背鰭は発光し続けている。そして、行き場を失ったエネルギーが白熱光となって口から漏れ出ていたことにクルーズは気づいたのだ。

「何か、何かがおかしい」

 クルーズは生唾を飲む。

「対象の体温が急上昇しています。周囲の海水温も急上昇中です」

 ゴジラGⅠの周囲の海面が白く煙り、無数の気泡が海を覆う。
 そして、失神していた目が開き、退け反らせていた頭部を持ち上げた。更に両腕を前に突き出し、背を大きく丸め、頭部を足元へ向けるアルマジロのような姿勢を取った。

「……何をするつもりだ?」
 
 クルーズが呟く。しかし、その姿勢の意味を誰も答えられない。
 次の瞬間、ゴジラGⅠの口から青白い閃光が迸った。
 
 刹那、海が爆ぜた。

「くっ! ゴジラァァァァァァァァァ——………」

 それはあまりにも突然のことで、戦艦ミズーリの艦橋にいた誰一人として何が起きたか、わからなかった。
 







「ミズーリ……他2隻も、全艦通信途絶。反応なし」
「ミズーリ……ミズーリ……応答ありません」

 潜水艦トライアンフは何が起こったかわからず、混乱していた。通信担当が繰り返し通信で呼びかけ続けているが、返答はない。

「目標、急速離脱!」
 
 その時、ソナー員が震える声を上げた。

「速度……」

 言葉を詰まらせる彼に、マッケンジー艦長や他の隊員も近づき、画面に表示されたゴジラGⅠの移動速度を見たが、彼らも自身の目を疑った。誰もその数字を信じられない。
 ソナー員は絞り出すように言葉を続けた。

「70ノット……対象との距離から、それ以上である可能性が高いです」

 艦内が静まり返る。

「馬鹿な……70ノット……だと?」

 マッケンジー艦長も思わず、目が眩んで片手を手すりに突いた。

「艦長。後続部隊が望遠で観測した結果、海面が激しく荒れており、ミズーリ含む前衛艦隊のものと思われる無数の残骸が確認される……と」

 まもなく洋上で撮影された画像が届いた。望遠による撮影かつノイズにより、非常に見づらいが、太陽の燦々と注ぐ陽射しに反射して海面の状況は強調されていた。蒸気によって海面付近は白く揺らめき、海面は嵐の中にあるように激しく荒れている。その中に、ミズーリ達の残骸が無数に漂っている。

「……対象は?」
「依然として70ノット以上で移動していますが、まもなく観測限界に……」

 マッケンジー艦長の質問に答えるソナー員。
 そこまで聞けば十分だった。マッケンジー艦長は、ゴジラGⅠの進行方向を確認した。
 進路は多少東へ傾いたが、南シナ海を真っ直ぐ通過して日本を目指している。

「前衛艦隊の救難は後衛艦隊に託す。本艦は、対象を追跡する」
「しかし………」
「追いつける速度ではない。しかし、我々がここで追わなければ、対象を見失う! ………せめて、対象の進行ルートを特定するまでは追い続ける! これより、本艦は全速潜航を開始する!」
「「「「「「了解!」」」」」」

 潜水艦トライアンフは全速力で海流に乗りながらゴジラGⅠを追跡した。
 しかしながら、その全力でも40ノット近く速いゴジラGⅠとの距離はすぐに開き、わずかな時間で見失った。
 それでも、潜水艦トライアンフの追跡によって、ゴジラGⅠが70ノット強の速度で、一直線に海中を移動していると確認することができた。
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