第四章 決戦




 深夜0時20分。ゴジラGⅡは金沢市を通過して手取川へ侵入していた。
 そして、その後方をサシバが追尾していた。

「こちら対G機動護衛隊サシバ、対象はまもなく引継ポイントへ到達します」

 白河が通信を入れると、陸上防衛隊から応答があった。
 
『こちら陸上防衛隊航空隊。目標を視認』
「こちらサシバ。目標データをリンク送信」
『受信完了』

 白河はモニターを見上げた。サシバの暗視カメラ映像に映るゴジラ。
 そこへ3機のUH-60JA、ブラックホークが飛来するのが見えた。3機はサシバ同様、ゴジラGⅡと距離を保つ。
 
『追跡任務を引き継ぎます。以後、当隊が追尾を継続します』
「了解。以降の追跡任務を陸上防衛隊へ移管します」

 通信を切ると白河は仲間達を見て頷くと、“おおと”へ報告を入れた。

「こちらサシバ、陸防へ追尾引継ぎ完了。これより帰投します」
『了解』

 すぐに“おおと”から返答があった。
 そして、そのまま武田艦長から艦隊全体への通信が繋がった。

『GⅡの追跡任務は陸防へ移管した。これより本艦隊は災害派遣を主任務とする』

 武田艦長の宣言を聞き終えると同時にサシバは旋回。“おおと”のいる能登沖へ向かった。


 





 深夜2時半頃、七尾の矢田新埠頭に“あいづ”が到着した。
 普段ならコンテナが並ぶ広大な埠頭だが、停電により真っ暗な岸壁に僅かな非常灯が灯るだけとなっていた。更に崩れたコンテナが片付けられずに残されており、その崩れた衝撃によって、岸壁にもヒビが入っている。
 その暗い埠頭に“あいづ”から灯るライトが煌々と輝く。

『港の損傷箇所確認。……係留完了。船尾スロープ開放』

 “あいづ”は船尾を埠頭に向けて接岸し、スロープを岸壁に出した。
 “あいづ”の作業甲板から航空牽引車とフォークリフトがそれぞれ発電機、浄水装置、燃料タンクを荷下ろしする。

『艦載機、発艦準備』
「気をつけろ! 飛ばされるなよ!」
「固定大丈夫か?」

 作業甲板の奥で、MCH-101“マーリン”のローターが回転を始め、轟音と風が巻き起こる。
 MCH-101には七尾周辺の孤立地域へ運ぶ物資と隊員が乗っていた。港に降ろしている物資より小型のものが中心だが、発電機や衛星通信機材、浄水装置、燃料タンク、医療品などが積み込まれている。
 そして、既に移動中に整理した孤立地域を順に周りながら、ピストン輸送を行う。
 その様子を艦橋のモニター越しに確認した黒崎艦長は、視線を窓に向けた。七尾湾の向こうに見える能登島も闇に沈んでいる。

「こちら“あいづ”、七尾到着。荷揚げと救助隊を編成し、10分後に合同庁舎で地域側と合流予定です」

 そのまま外を見つめて黒崎艦長が“おおと”へ報告すると、武田艦長からすぐに応答があった。

『こちら“おおと”、了解した。輪島側は荷揚げを終え、沿岸地域に展開している。哨戒機によるスポット支援も順調だ。医療的支援が必要な患者は順次“おおと”で受け入れ、トリアージできている。資材の補給の為、現在“あこう”が小松へ回航し、積込をしている。2時間後には第二陣を展開できる見込みだ』
「了解です。“あいづ”も荷揚げと指揮所仮設の準備を終え次第、回航します」

 現在荷揚げをしている物資は、矢田新埠頭にある七尾港湾合同庁舎に運ぶ。まだ非常灯と発電機に繋いだ電灯で照らしている段階だが、この辺りで災害対策拠点とするには最適な建物だった。これからこの建物が、MCH-101の中継地、周辺地域救援の仮設指揮所になり、更に地震発生から停止中の七尾大田火力発電所の運転再開に向けたサポートを行うことになる。

『あと、CICから全方位索敵システムGOD EYEの災害派遣対応が完了したと報告があった。“あいづ”の方でも適宜情報の更新ができるようにCICへの集約を各班へ通達しておいてくれ』
「了解です」

 黒崎艦長は今の内容をMCH-101と七尾に展開している班員へ通達し、自身も艦橋からCICへ移動した。
 戦術卓に表示されている電子海図には各地域のライフライン復旧状況、死傷者数、啓開状況などが視覚的に分かるレイアウトで表示されていた。これを可能にした全方位索敵システムの情報統合能力も目を見張るものだが、短時間で膨大な情報を視覚的に共有可能なレイアウトに整理した技術者達の技量にも感嘆するものだった。

 
 





 ゴジラGⅡの追跡を引き継いで3時間が経過した。
 UH-60JAブラックホークの編隊による追跡を続けていたが、手取川上流から山岳地帯である白山山系へ入り、次第に苦戦し始めていた。

『対象、谷へ侵入』
『熱源追跡困難』
『高度を上げます』

 暗闇の山中を飛ぶ3機のブラックホークは、高度を上げながら展開する。山間に茂る木々に阻まれ、ゴジラGⅡの姿は次第に隠れていく。

『通り過ぎたか?』
『旋回します。レーダーに反応ありません』
『目標をロストした。最終確認地点を送れ』
『こちら地上班、進路予測を更新。偵察隊より山岳追跡班を投入。観測班は振動センサーを設置せよ』

 木々を縫うように偵察オートバイのヘッドライトが光の糸を伸ばす。

『こちら山岳追跡班、林道にて倒木帯を発見。推定位置を送る』
『こちら航空隊、足跡を確認』
『対象再捕捉。進路予測を更新し、追跡を続行する』

 その後も断続的にロストと再捕捉を繰り返しながら、ゴジラGⅡは白山山系を進むが、4時前から完全にロストした。
 人類から見れば巨大なゴジラも所詮は50メートル級であり、2000メートル級の山が並ぶ中では容易にその姿を隠してしまう。
 標高が上がり、日の出前の上空追跡はリスクが高くなる。偵察オートバイと軽装甲機動車を投入し、ゴジラGⅡの進路予測をしながらの追跡は夜通し続けた。








「総理、お時間です」

 秘書官の声で官邸内の仮眠室で寝ていた双里は目を開けた。
 時計を確認する。午前6時。予定通りの時間だった。4時間の仮眠を取ったはずだが、まるで眠れた気がしなかった。
 
「……よし。今起きた。着替えはあるか?」
「入口の前に」
「わかった」

 寝惚けた頭を叩き起こすように着替えを済ませ、仮眠室から出た。
 ネクタイを締め直しながら双里は官邸の廊下を歩いていると、昨夜から一睡もしていない職員達が慌ただしく行き交っていた。
 双里は総理執務室に隣接する小会議室へ入る。壁面モニターには北陸地方の富山・石川を拡大した地図が映し出されていた。地図上には、震源にバツ印、震度7の地域が赤く色分けされ、更にゴジラGⅡの移動経路を示した線が引かれていた。
 一方で会議机の上には大型の地図が広げられ、職員達が赤ペンで状況を書き込んでいた。

「総理、お疲れ様です」

 官房長官が立ち上がり、内閣危機管理監や防衛庁長官達も後に続く。
 
「状況を」

 腰を下ろした双里が聞くと、そのままブリーフィングが始まった。

「まず被害状況について、発災から現在までの地震及びゴジラGⅡに関連した集計です。死者42人、行方不明者3人、重傷者161人、軽傷者624人。避難者は富山湾沖地震に加え、GⅡ通過地域からの避難が発生している為、現在約63000人です。孤立集落は能登半島25地区、白山山岳地帯5地区を確認しており、24地区との接触を完了しました。残る能登5地区、白山1地区もまもなく接触予定です」
「ライフラインは?」

 官房長官の報告を聞いた双里が問いかけると、危機管理監が説明する。
 
「七尾市全域および能登半島北部で停電中ですが、七尾大田火力発電所の復旧作業を開始しています。断水は広域で発生していますが、浄水装置による給水所の設置を各地域で進めています。熱中症の対策として十分ではありませんが、ある程度の効果は期待できると思います。また、主要自治体との連絡は確保済みです」

 危機管理監が説明を終えると、防衛庁長官が後を引き継ぐ。
 
「続いて救助活動についてですが、対G機動護衛隊により継続中で医療的優先度の高い被災者は、“おおと”並びに周辺地区の医療機関へのヘリコプターによる搬送が行われています。また、ゴジラGⅡは陸上防衛隊が追跡中です。現在位置はロストしていますが、進行ルートは把握できており、飛騨方面への進路予測をしています」
「総理。現在発災から18時間、加えてゴジラGⅡの出現ですが、正直なところ、現状は想定の2日先にいます。対G機動護衛隊の初動は極めて良好です。2時間後には舞鶴地方隊へ引継ぎ予定ですが、既に初動は完了したといえます」
「対G機動護衛隊により、分断された能登半島復旧の拠点となる七尾に指揮所を開設する準備が整っております。人命に関わる重症患者の把握と搬送は概ね完了。今後は患者の受け入れを整理する段階です。つまり、既に状況把握と初動が完了しているので、舞鶴地方隊への引き継ぎ後は本格的な復旧にむけた災害派遣から開始できます」

 官房長官と防衛庁長官の説明を聴き、双里はその異常な成果に驚きつつも安堵した。

「そうか。間に合ったのか……」

 そして、官房長官が彼を労うように伝えた。
 
「内外の反発が大きい2兆円でしたが、安い代償だったかもしれません」
「そうだな」

 2兆円とは、対G法の予算だ。昨年度は補正予算と特別国債で捻出し、今年度も対G防衛整備計画費として計上した。
 金食い虫や軍拡予算と非難に晒されつつも、双里達は大罪人となった神宮寺が残した対G法の防衛整備計画を推し進めた。その結果、昨日のゴジラ出現に間に合ったのだ。

 
 





 午前8時。輪島沖に対G機動護衛隊は再集結していた。
 この8時間で“あこう”は小松と2往復し、“あいづ”も七尾と2往復。サシバ帰投後は能登半島の状況把握をサシバが担い、哨戒ヘリのSH-60は患者搬送などの救助活動に回り、MCH-101が七尾を拠点に孤立集落の支援を行った。その結果、この時点で全ての孤立集落との接触を完了していた。
 輪島沖に現れた舞鶴地方隊は、おおすみ型輸送艦2隻を引き連れていた。大型輸送艦には、甲板上に航空部隊のヘリが並び、格納庫に陸上防衛隊の施設科先遣隊の重機、そして医療機材と共に衛生隊が乗り込んでいた。
 輸送艦へ“おおと”艦内で保護していた患者や被災者を引き取る。この後、彼らは七尾に開設した指揮所を拠点に本格的な救援、復旧活動を行う。

『こちら舞鶴地方隊。救援活動を引き継ぎます』
「対G機動護衛隊、災害派遣任務を終了。舞鶴港へ回航する」

 武田艦長の宣言と共に、対G機動護衛隊の長い一夜が終わりを迎えた。





 

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「……三神さん、起きて下さい」

 明け方に横田基地に到着した三神と優は仮眠室を借りてやっと眠りについていた。
 ヒガシヤマに揺さぶられて目を開いた三神は、頭痛を感じながらも時刻を確認する。正午少し前。思ったよりも眠っていたらしい。

「すみません。結構寝てしまいましたね」
「いいえ。それは問題ありません。……タイランド湾でミズーリの部隊とGⅠがまもなく遭遇戦になると情報がありました」

 一瞬にして三神の目は覚めた。
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