第四章 決戦




 数日後、2005年8月20日土曜日の正午。
 それは突如、前触れもなく起きた。
 小さなズズズという低い振動音が響き、それがゴゴゴと地鳴りとなった時、そこにいた人々は地震だと気がついた。

『地震です。地震です。こちらは富山放送局です。ただ今大きな揺れが起きています。慌てずに身の安全を確保してください』

 昼のニュース番組を放送していたGHKでは、画面が激しく振動する中、キャスターが机にしがみつき、頭を守りながら防災の呼びかけを行なっていた。
 直後、映像が波打ち、放送が途切れた。
 まもなく揺れが収まり、北陸の地図を映す画面に切り替わり、ポーンというチャイム音と共に画面のテロップに「ただいま北陸地方で強い地震がありました」と表示された。次々と震度が表示されていく。
 富山県と石川県能登半島で震度6が表示された。
 テロップに「津波の情報に注意してください」という表記が流れる。
 震源を示す赤いバツ印が石川県能登沖に付き、次第に県単位だった震度表示が市町村ごとの詳細な情報へ更新されていく。
 震源の位置が富山湾北部に更新され、震源の深さは約12km。マグニチュードは7.2と推定されることがテロップで流れる。
 その後、震度6とされていた富山と能登の中で、氷見市沿岸部と七尾湾沿岸の一部が震度7、富山湾沿岸部で震度6強、内陸部では震度6弱を観測したことが伝えられた。
 

 





 その時、双里総理は官邸の執務室にいた。

「総理! テレビ! ……テレビをつけて下さい!」

 神宮寺の後任で官房長官となった閣僚が血相をかいて駆け込んできた。彼に続いて紙の束を抱えた官僚も執務室に流れ込んでくる。
 何事かと思いつつも、双里はテレビの電源を入れた。
 既に、富山湾北部地震の情報は更新されており、双里はすぐにゴジラGⅡの近くで大地震が発生した事実を把握した。

「今、気象庁からも連絡がありました。かなり近い位置です。あの辺りはひずみ集中帯に位置するので、恐らくそこでの横ずれ断層型地震だと思われる……と」
「……防衛庁は?」
「危機管理監が確認中です」

 状況確認を求める双里に官房長官は答えた。そのやり取りをしている所までであった。彼らが会話としてやり取りをまともに交わせていたのは。
 まるで示し合わせたかの様に次の瞬間から、各省庁からのファックスと電話が一斉に殺到し、官邸内は一気に慌ただしくなった。








 舞鶴基地も極めて軽微であったが、地震の揺れを観測した。もっとも護衛艦“おおと”にいた彼らは到底感知することのできないものであったが。

「白井さん、要請は?」
『まだだ。恐らく被害確認の段階だろう』

 武田艦長は海上幕僚長の白井 虎次郎海将からの連絡を受けていた。
 武田の聞いた要請とは県知事からの防衛隊への災害派遣要請のことだ。ゴジラが姿を現していない以上、対G機動護衛隊は身動きが取れない。せめて災害派遣としてゴジラGⅡの動向を確認できる能登半島沿岸まで行きたい。そこまで行ければ、全方位索敵システム“GOD EYE”を使い、富山湾内のゴジラGⅡを確認できる。
 しかし、電話口の白井の反応は渋いものだった。

『仮に要請があっても災派まで時間がかかるのは知っているだろう』
「わかりました。いつでも対応できるように準備しておきます」
『全く。………頼んだぞ』

 電話を終えると、武田は護衛艦“あいづ”の艦長、黒崎 修二二佐へ通信を入れた。

「災害派遣準備を行う。対G機動護衛隊は出港準備を始める」

 





「護衛艦“おおと”、護衛艦“あいづ”、護衛艦“あこう”、出港準備を始めました」

 舞鶴基地の司令に武田が報告に来た。
 それを聞いた司令は思わず腰を浮かした。

「しかし、まだ要請はないですよ。幾ら対G機動護衛隊でも今の段階では……」
「あくまでも災害派遣準備です。出港準備ができ次第、対G機動護衛隊は海上で待機をします。我々が港の入口にいたら、要請を受けた際に皆さんの邪魔になってしまいますから」
「………港湾が接岸可能な状態を保持しているか、先行して確認をしておいて頂けると助かります」
「善処します」

 苦笑した司令に武田は答えた。








 地震発生から3時間後、舞鶴地方隊司令部は自主派遣準備命令を下し、災害派遣を行う準備を始めた。
 その頃、湾外に出港を済ませていた対G機動護衛隊は、サシバを富山湾に向けて発艦させていた。

「今回は最短ルートで富山湾へ向かいます。ただし、能登半島沿岸上空以降はその状況確認も任務に含まれます。高度、速度は臨機応変に、です」
「了解。操縦はこちらの判断で行います」

 白河の指示に操縦士は応答した。少し緊張が伝わる。

「訓練通りにやればいいんです。行きましょう」
「……はい!」






 

 発災から5時間後。夏場の為、まだ陽は沈んでいないものの、被災地の富山湾沿岸は確実に近づく夜に警戒をしていた。
 1時間程前に能登半島の上空へ到達したサシバは速度を落として低空で被災地の状況を確認しながら飛行をしていた。
 そして、湾内へ到達したサシバは海中にある観測球とデータリンクを行った。例によって非常に粗い解析結果であったが、恐れていた可能性が、現実味を帯び始めていた。その結果が出たのが約30分前のこと。
 現在は湾内上空を移動し、さながら魚群を探す漁船の如く、対象の痕跡を探していた。

「ポッドを投下。……散布完了。リンク開始」

 サシバから投下した“EYES POD”が海中で観測球を射出し、サシバと観測情報の同期を開始する。それを通信管制員が発声するのを静かに聴く白河。目を閉じてヘッドセットに手を当て、耳に意識を向けている。
 解析を行なっていた索敵解析員が思わず息を呑んだ。
 それを聴いて、白河はゆっくりと目を開き、モニターに描画されていく画像を注視した。
 一見すると何があるかわからない程に粗い画像。
 しかし、リアルタイムで更新されるそれは、海底を巨大な熱源が移動している様を示していた。

「……見つけた」

 発見の歓喜などなかった。正直、サシバにいる5人全員がここでの発見を望んでいなかった。
 画面には水深も表示されている。
 その水深は、60メートル。
 そして、そこはなだらかに浅くなる。

「……対象を目視しました」
「「「!」」」

 操縦士の言葉は最悪の想定を現実にするものであった。
 すぐさまモニターに外の映像を映す。
 そこには、津波と明らかに異なる海面の歪み。
 そして、中に潜む確かな存在。
 それは間違いなく、彼らが全方位索敵システムで捉えていたゴジラGⅡであった。

「氷見沿岸、水深が浅くなります」
「……出た」

 その瞬間、ゴジラGⅡが海面から姿を現した。
5/8ページ
スキ