第一章 出現



 ゴジラは陸軍部隊の攻撃に誘導され、ミッドタウン中心地へ到達していた。
 戦闘ヘリの攻撃に過敏な反応を示したゴジラは、背鰭を発光させる。素早く転進させ、白熱光を回避する。
 しかし、ゴジラはその後を追い、ブロードウェイから外れる。

「ゴジラ、34番通り東へ進路を変えました」
「34番通りって言ったら………」

 グリーンが本部へ届いた報告を聞き、呟く。三神は視線をマンハッタンの地図へ移した。
 観光のポイントとなる建築物が幾つか並んでいるが、東側にある有名な建築物は一つであった。

「エンパイアーステートビル」
「これはゴジラの皮肉かね?」

 クルーズは苦笑交じりに言った。それに対してグリーンは言った。

「あの巨体でビルを上ったら褒めてやる」

 グリーンの皮肉を知る筈のないゴジラは、息を大きく吸い込む。素早く戦闘ヘリは、攻撃を加え、離脱する。ゴジラは、そのままパワーブレスを放った。
 標的を外したパワーブレスは、エンパイアーステートビルに直撃し、その巨体を揺らす。亀裂の入った歴史的建造物は、続くゴジラの地響きと長い尾による衝撃に亀裂が更に大きくなる。
 しかし、尚も悠然と立ちはだかる巨塔に、ゴジラは咆哮を上げ、体当たりする。天空から瓦礫が落ちる。更に、背鰭を光らせると、巨塔に頭を突っ込む。右目から流れる赤い液体が伝う屋内に向かい、白熱光を放った。煙と炎が上がる。
 そして、再度ゴジラは咆哮し、同時にその巨体を巨塔へ突進させる。巨塔は轟音を立る。そして、土煙をあげて崩れた。
 瓦礫は、ゴジラのみならず、陸軍の部隊も巻き込む。
 この報告は、すぐに司令本部にも届いた。

「エンパイアーステートビル、倒壊!」
「どうやら、キングコングとは好みが違う様だな」

 グリーンは報告を聞いて笑った。

「軽率だぞ。慎みたまえ!」
「それなら批判されない作戦を遂行しては如何ですか?」
「ゴジラ、移動開始!」
「エンパイアーステートビルといえど、ゴジラの前では只の壁か」

 グリーンの皮肉に、舌を打つとスミス大佐は部隊に移動の指示を出す。

「パークアベニューよりゴジラへの攻撃あり。ゴジラ、南下を始めました」
「どこの部隊だ?」
「不明。照明弾などが中心との報告。恐らく、ゲーン一家かと」

 スミス大佐は再び舌を打ち、言った。

「23番通りに回れ!合衆国陸軍の威信をかけて、ゴジラを撃退するぞ!」






『ゴジラがエンパイアーステートビルを破壊した為、地上波放送の配信が停止していました』
『現在は?』
『はい。現在は中継を経由して配信しております』

 古地の質問に鈴木へ答えた。

「あ、もしもし………」

 三浜は電話に出た。すぐに所長に取り次いだ。

「所長、毎朝新聞からです」

 所長は電話に応じる。そして、三浜はテレビを見る。

『今入った情報です。………ゴジラは、チャイナタウンまで南下。陸軍部隊の誘導作戦によるものだという事です』
『先ほど陸軍を撹乱したという謎の集団は?』
『我々のいるセントラルパークに現れたというゴジラ團という謎の集団ですが、司令本部のみを襲撃し、我々取材陣のいる地域には現れなかった為、入手した情報は大変少ないです。ただ、現在のところ彼らは現れていない模様です』
『成程。では、ゴジラは現在陸軍部隊の誘導に従って、チャイナタウンへ向かったのですね』
『はい。………あ、今情報が入りました』

 鈴木はカンぺを確認する。

『ゴジラ團と思しき、車両集団がバリケードを突破し、マンハッタンから脱出したという情報が入りました。詳細は不明ですが、エンパイアーステートビルをゴジラが破壊している隙を狙って脱出したと警察は発表しています。この件につき、ニューヨーク市警は遺憾の意を示しております』
『追跡は失敗したそうです』
『まぁ、この状況下。仕方がないでしょうね』

 古地は同意する。

「毎朝新聞、なんですって?」
「明日の朝刊に載せたいといって、質問責めにあった」

 三浜に聞かれ、所長は肩を叩きながら答えた。

「ミジンコさんの事ですか?」
「そこまでは向こうも知らなかったみたいだよ。聞かれなかったから当然答えなかったけど」
「まぁそれが懸命ですね」
「しょ、所長!」

 役場の新人女性職員である土井由紀が部屋に駆け込んできた。ちなみに、上がり症で、それが年寄りには可愛くみえるらしく、彼女の人気は密かに高い。

「こんな夜分にどうしたの?」
「な、何を悠長に言っているんですか! 大変なんですよ! 色々なテレビ局や新聞社が島に取材に来るって連絡が来たんですよ!」

 由紀が言うと、事実以上に大変に伝わる。しかし、今回は本当に大変であるらしい。

「ゴジラが現れて、メディアもどこを取材すればいいか分からないんでしょうね」
「明日は忙しい事になりそうだね」

 所長は溜息を吐いた。
 一方、そのメディアであるテレビは、更に最新情報を伝えていた。

『ウィリアムスバーグ橋へ達したゴジラを攻撃した海軍部隊は、陸軍部隊から引き継ぎ、ゴジラを大西洋へ誘導しています。………情報です!陸海軍は、ウィリアムスバーグ橋の橋脚を破壊し、ゴジラを海へ落としたそうです。繰り返します。ゴジラは海に落ちました!』
『ゴジラはどうですか?』
『まだわかりません。陸軍司令本部からの情報では、海軍は艦隊を増やし、ゴジラを誘導しているそうです』






「ブルックリン橋、通過」
「マンハッタンを出たわ。やった!」

 優は報告を聞き、小さく拍手をする。

「まだだ。多分今頃、激しい戦闘をしたフルトン市場の横を過ぎたはずだ。せめて、自由の女神があるリバティ島を通り過ぎるまでは気を抜けない」

 三神は言った。しかし、それもすぐに報告された。

「リバティ島、通過。ゴジラは大西洋沖へ向かって進んでいきます」
「よし、後は海軍次第だな。あれを出したんだ。精々、合衆国への再来を防いで貰いたい」

 スミス大佐は首を回しながら言った。
 グリーンが聞く。

「あれ、とは?」
「原子力潜水艦だ。今頃、魚雷でゴジラの注意を艦隊から潜水艦へ移しているだろう」
「無謀だ!………確証はありませんが、ゴジラは核エネルギーを吸収できる特殊な生態を持っている可能性があります。餌を与える様なものかも………」

 三神が言った。しかし、スミス大佐は笑った。

「なら、それは誘導作戦を成功させやすいという事だろ?」

 3時間後、原子力潜水艦はゴジラの攻撃を受けて、大西洋の深海で撃沈した。潜水艦の核エネルギーを吸収した為か、その後ゴジラは追尾のできない深海へと消えていった。
 そして、追尾を終了したと同時に、激戦を繰り広げたニューヨークでの作戦は完了となった。
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