静寂が降りる頃に
きりも目処も見当たらなかっただけで、そこに痺れを切らしかけている4人組が何らかの圧力を楓に仕掛けたようだ。
圧力の正体は知らない。そんな物は無いのかもしれない。
そこへ現れた、流れ者の明奈がそれなりの仕事をしたので少し風向きが読めなくなった4人組。
明奈が『予想の範疇で成功してくれなかった』のが原因のようだ。
いつまで経っても中堅程度以下の仕事しかこなさないのが気に食わなかったのだろう。
新しい雇い人でも楓に押し付ける算段だったのかもしれない。
背景に潜む事情は想像の範囲なら幾らでも湧き出る。
明奈がなすべき事は組長の楓の命により、この4人の命を簒奪することだ。
慈悲は無い。
速やかにスマートにスムーズに仕事を成し遂げてこの街を去る。
この街を去った後に楓がどのような身の振り方をしようが明奈には知った事ではない。
「…………」
雀荘【たの屋】の前でバラクラバを被る。
午後9時。
店の中には常連が犇きあっているだろう。
その時間帯をわざと選んだ。
標的が一番警戒していない時間帯。
こんなにも客が居るのだからまさか襲撃などするはずが無いと言う思い込みを逆手に取った。
バラクラバの下でややニヒルな微笑を浮かべる。
脳内に4人の顔を投影する。
何れも60代近い、そろそろロートルの域に差し掛かった中年だ。
リタイヤしてもいい年齢なのに、楓という神輿を担いで裏で糸を引きたがる狡猾な性格。その思考が気に食わない。
何が有っても速やかに、だ。
この雀荘に集まる客層も調べてある。
カタギの人間ばかりだ。
どこかのヤクザや組織の息が掛かった店ではない。
ラドムVIS35を抜く。
雑多な住宅街の中に在る雀荘。
夜更けともなると紳士の社交場に変貌する、どこの街角でも見かける商業施設。
小さな2階建ての鉄筋コンクリートの建物。1階は設計事務所だが今はもうシャッターが閉まっている。2階の窓が明々と蛍光灯が点いている。周辺へ配慮してか、マージャンパイが奏でる独特の雑音や客の声が外に漏れないように防音の配慮がされている。
階段を一歩一歩上がる。足取りに変化は無い。
ラドムVIS35のスライドを引く。
撃鉄が起きたままになる。
いつでも撃発できる。
左手に予備弾倉を持つ。
右手にだらりと提げたラドムVIS35をゆらりと上げ、その銃口を雀荘のドアに向ける。左手の親指と人差し指だけでドアノブを回して開け、ズカズカと店内に入る。
店内の空気に変化が無い。
周りの人間はバラクラバをすっぽりと被った闖入者の存在に呆気に取られている。
呆けた顔が幾つも並んでいる中、明奈は左右へ視線を振る。
明奈の肩を掴む手。
「警察を呼びますよ!」
声の雰囲気からして40代前半。
台詞の内容からして店員。
その店員の鳩尾に振り返りもせずに肘打ちを叩き込んで一撃で気を失わせる。店員は何かのジョークが行き過ぎたので止めようと思っただけで、『本物の殺し屋が、カタギの店に現れたとは、露ほども思っていなかった』。
「……」
視界の右で4人の男が後ろ腰に手を廻す仕草が見えた。その面々は楓から渡された資料に添えられていた4人の顔と一致する。
発砲したのは4人の内の1人だった。
FN M1910と思しきシルエット。32口径の非力な銃声が雀荘に轟く。
銃弾は明奈の背後の壁に弾痕を穿っただけで終わる。
突然、恐慌状態に叩き込まれる。雀荘の内部8つ有るテーブルのそれぞれの客が一斉に立ち上がり、出入り口に殺到する。
この店はどこの勢力にも干渉されない中立地帯だ。
そこで弱小ヤクザの【屋長組】の構成員が拳銃を発砲しようものなら、ちょっとやそっとの賄賂では隠せないレベルの事件に発展する。
それを覚悟して……明奈はラドムVIS35をできるだけ体に引き寄せて両手で握り、サイトを顔面に寄せる。
我流のCARシステムといったスタイルだ。
連中の発砲は続く。
いずれの銃弾も逃げ惑う客の背中に叩き込まれてあっという間に阿鼻叫喚の地獄絵図を展開する。客が邪魔で、連中の拳銃弾は明奈に届かない。
今し方、明奈の目前で背中を撃たれて崩れ落ちそうになった客の襟首を掴んで遮蔽にすると、虫の息の遮蔽の首元から銃口を覗かせて4人組の内1人で38口径5連発のスナブノーズを握った男の腹に2発、9mmパラベラムを叩き込む。
スナブノーズの男はその場に崩れ落ちる。
崩れ落ちるモーションの最中に更に追い討ちを掛ける。
更に1発、発砲。
その銃弾は腹を撃たれた男の顔面に吸い込まれ、後頭部からミキサーに掛けられたような小脳の細胞片を撒き散らして、決して助からない負傷をした。
左右に広がる4人組の内の3人。
足取りや身のこなしは素人だった。
逃げ惑う客やテーブルが邪魔で、思ったように体を進める事ができない。
その場で負傷者を遮蔽に、銃弾を発砲する作戦に切り替える。
当初の目論見どおりの速やかな致死は早くも崩れ去る。
左手が疲れてきたので遮蔽にしていた客を手放す。
床に転がった負傷者は32口径を1発、左肩甲骨に叩き込まれただけだ。救急救命でなくとも充分に助かる。
銃撃。銃声。客達の悲鳴。
3人居た店員はその役目を為さない。
狭い出入り口で押し合い圧し合いする客に流れ弾が襲い掛かる。
38口径の輪胴式や32口径の中型自動式が乱射される。
襲撃された場に居た4人組は自分達が狙われる案件について心当たりが有ったのだろう。焦りの表情は有っても驚愕の表情は無い。
恐れるばかりに拳銃を乱射するがお粗末な物で、たった7m先に居る明奈に命中させる事ができずにいた。
勿論、明奈は突っ立っていたのではない。
客が背後の出入り口に集まるにつれて左右に動き易くなり、椅子を蹴り飛ばしたり雀卓を遮蔽にして小刻みな移動を繰り返していた。
それらの動きは無駄弾を撃たせる目的も果たす。
途端に銃声が止む。
薬室や弾倉の実包を使い果たしたのだろう。
直ぐに再装填する小さな作動音が聞こえる。その音を聞いて遮蔽から飛び出し、右手側に居た1人の標的の胸部に2発と頭部に2発の9mmを叩き込む。
脳漿が爆ぜて、背後の壁に盛大なアートを描く。
即座に死体と化した男は、床に崩れ落ち、額から上が開放された頭蓋から残っていた脳漿の破片を血と共に床に零した。
両方の眼球が被弾の衝撃で飛び出している。
バックステップを踏んで男女兼用のトイレ手前にある洗面に体を滑り込ませると弾倉を交換した。
残弾は1発だ。薬室に1発。
合計2発撃てる。鉄火場では出来るだけ弾倉は満タンにしておきたい。
残り2人。
洗面から転げるようにして飛び出る。
普通に目の高さで走って飛び出たのであれば、狙い撃ちされる可能性があった。
実際に前転気味に飛び出た明菜の頭上に銃弾が集中した。
発砲音からして中型オートや38口径の輪胴式。
腕に覚えが無さそうな2人の拳銃でも、だからと言って弾頭の威力が変わるわけではない。まともに当たれば死ぬ。
狭い空間で小さな移動。
連中は仲間を呼ぶ気配が無い。
矢張り、元から手勢を従えずに自分達で楓を最大限に利用したいだけだったのか。
右手側に横っ飛び。
雀卓の陰から飛び出ながら2人の内、右手側に居た男の太腿に向かって引き金を引く。
ろくなエイムもしない適当な発砲だった。
続けて3発。
太腿を撃ち抜かれた男は中型オートを放り出し、前のめりに蹲ると怪鳥のような悲鳴を挙げた。後続する3発の9mmによって腕や腹部を撃たれ悲鳴を挙げる勢いを無くした。
「ま、待て! 降参だ!」
無傷だった1人が38口径のスナブノーズを放り出して両手を挙げた。
圧力の正体は知らない。そんな物は無いのかもしれない。
そこへ現れた、流れ者の明奈がそれなりの仕事をしたので少し風向きが読めなくなった4人組。
明奈が『予想の範疇で成功してくれなかった』のが原因のようだ。
いつまで経っても中堅程度以下の仕事しかこなさないのが気に食わなかったのだろう。
新しい雇い人でも楓に押し付ける算段だったのかもしれない。
背景に潜む事情は想像の範囲なら幾らでも湧き出る。
明奈がなすべき事は組長の楓の命により、この4人の命を簒奪することだ。
慈悲は無い。
速やかにスマートにスムーズに仕事を成し遂げてこの街を去る。
この街を去った後に楓がどのような身の振り方をしようが明奈には知った事ではない。
「…………」
雀荘【たの屋】の前でバラクラバを被る。
午後9時。
店の中には常連が犇きあっているだろう。
その時間帯をわざと選んだ。
標的が一番警戒していない時間帯。
こんなにも客が居るのだからまさか襲撃などするはずが無いと言う思い込みを逆手に取った。
バラクラバの下でややニヒルな微笑を浮かべる。
脳内に4人の顔を投影する。
何れも60代近い、そろそろロートルの域に差し掛かった中年だ。
リタイヤしてもいい年齢なのに、楓という神輿を担いで裏で糸を引きたがる狡猾な性格。その思考が気に食わない。
何が有っても速やかに、だ。
この雀荘に集まる客層も調べてある。
カタギの人間ばかりだ。
どこかのヤクザや組織の息が掛かった店ではない。
ラドムVIS35を抜く。
雑多な住宅街の中に在る雀荘。
夜更けともなると紳士の社交場に変貌する、どこの街角でも見かける商業施設。
小さな2階建ての鉄筋コンクリートの建物。1階は設計事務所だが今はもうシャッターが閉まっている。2階の窓が明々と蛍光灯が点いている。周辺へ配慮してか、マージャンパイが奏でる独特の雑音や客の声が外に漏れないように防音の配慮がされている。
階段を一歩一歩上がる。足取りに変化は無い。
ラドムVIS35のスライドを引く。
撃鉄が起きたままになる。
いつでも撃発できる。
左手に予備弾倉を持つ。
右手にだらりと提げたラドムVIS35をゆらりと上げ、その銃口を雀荘のドアに向ける。左手の親指と人差し指だけでドアノブを回して開け、ズカズカと店内に入る。
店内の空気に変化が無い。
周りの人間はバラクラバをすっぽりと被った闖入者の存在に呆気に取られている。
呆けた顔が幾つも並んでいる中、明奈は左右へ視線を振る。
明奈の肩を掴む手。
「警察を呼びますよ!」
声の雰囲気からして40代前半。
台詞の内容からして店員。
その店員の鳩尾に振り返りもせずに肘打ちを叩き込んで一撃で気を失わせる。店員は何かのジョークが行き過ぎたので止めようと思っただけで、『本物の殺し屋が、カタギの店に現れたとは、露ほども思っていなかった』。
「……」
視界の右で4人の男が後ろ腰に手を廻す仕草が見えた。その面々は楓から渡された資料に添えられていた4人の顔と一致する。
発砲したのは4人の内の1人だった。
FN M1910と思しきシルエット。32口径の非力な銃声が雀荘に轟く。
銃弾は明奈の背後の壁に弾痕を穿っただけで終わる。
突然、恐慌状態に叩き込まれる。雀荘の内部8つ有るテーブルのそれぞれの客が一斉に立ち上がり、出入り口に殺到する。
この店はどこの勢力にも干渉されない中立地帯だ。
そこで弱小ヤクザの【屋長組】の構成員が拳銃を発砲しようものなら、ちょっとやそっとの賄賂では隠せないレベルの事件に発展する。
それを覚悟して……明奈はラドムVIS35をできるだけ体に引き寄せて両手で握り、サイトを顔面に寄せる。
我流のCARシステムといったスタイルだ。
連中の発砲は続く。
いずれの銃弾も逃げ惑う客の背中に叩き込まれてあっという間に阿鼻叫喚の地獄絵図を展開する。客が邪魔で、連中の拳銃弾は明奈に届かない。
今し方、明奈の目前で背中を撃たれて崩れ落ちそうになった客の襟首を掴んで遮蔽にすると、虫の息の遮蔽の首元から銃口を覗かせて4人組の内1人で38口径5連発のスナブノーズを握った男の腹に2発、9mmパラベラムを叩き込む。
スナブノーズの男はその場に崩れ落ちる。
崩れ落ちるモーションの最中に更に追い討ちを掛ける。
更に1発、発砲。
その銃弾は腹を撃たれた男の顔面に吸い込まれ、後頭部からミキサーに掛けられたような小脳の細胞片を撒き散らして、決して助からない負傷をした。
左右に広がる4人組の内の3人。
足取りや身のこなしは素人だった。
逃げ惑う客やテーブルが邪魔で、思ったように体を進める事ができない。
その場で負傷者を遮蔽に、銃弾を発砲する作戦に切り替える。
当初の目論見どおりの速やかな致死は早くも崩れ去る。
左手が疲れてきたので遮蔽にしていた客を手放す。
床に転がった負傷者は32口径を1発、左肩甲骨に叩き込まれただけだ。救急救命でなくとも充分に助かる。
銃撃。銃声。客達の悲鳴。
3人居た店員はその役目を為さない。
狭い出入り口で押し合い圧し合いする客に流れ弾が襲い掛かる。
38口径の輪胴式や32口径の中型自動式が乱射される。
襲撃された場に居た4人組は自分達が狙われる案件について心当たりが有ったのだろう。焦りの表情は有っても驚愕の表情は無い。
恐れるばかりに拳銃を乱射するがお粗末な物で、たった7m先に居る明奈に命中させる事ができずにいた。
勿論、明奈は突っ立っていたのではない。
客が背後の出入り口に集まるにつれて左右に動き易くなり、椅子を蹴り飛ばしたり雀卓を遮蔽にして小刻みな移動を繰り返していた。
それらの動きは無駄弾を撃たせる目的も果たす。
途端に銃声が止む。
薬室や弾倉の実包を使い果たしたのだろう。
直ぐに再装填する小さな作動音が聞こえる。その音を聞いて遮蔽から飛び出し、右手側に居た1人の標的の胸部に2発と頭部に2発の9mmを叩き込む。
脳漿が爆ぜて、背後の壁に盛大なアートを描く。
即座に死体と化した男は、床に崩れ落ち、額から上が開放された頭蓋から残っていた脳漿の破片を血と共に床に零した。
両方の眼球が被弾の衝撃で飛び出している。
バックステップを踏んで男女兼用のトイレ手前にある洗面に体を滑り込ませると弾倉を交換した。
残弾は1発だ。薬室に1発。
合計2発撃てる。鉄火場では出来るだけ弾倉は満タンにしておきたい。
残り2人。
洗面から転げるようにして飛び出る。
普通に目の高さで走って飛び出たのであれば、狙い撃ちされる可能性があった。
実際に前転気味に飛び出た明菜の頭上に銃弾が集中した。
発砲音からして中型オートや38口径の輪胴式。
腕に覚えが無さそうな2人の拳銃でも、だからと言って弾頭の威力が変わるわけではない。まともに当たれば死ぬ。
狭い空間で小さな移動。
連中は仲間を呼ぶ気配が無い。
矢張り、元から手勢を従えずに自分達で楓を最大限に利用したいだけだったのか。
右手側に横っ飛び。
雀卓の陰から飛び出ながら2人の内、右手側に居た男の太腿に向かって引き金を引く。
ろくなエイムもしない適当な発砲だった。
続けて3発。
太腿を撃ち抜かれた男は中型オートを放り出し、前のめりに蹲ると怪鳥のような悲鳴を挙げた。後続する3発の9mmによって腕や腹部を撃たれ悲鳴を挙げる勢いを無くした。
「ま、待て! 降参だ!」
無傷だった1人が38口径のスナブノーズを放り出して両手を挙げた。