本編
子供の頃のあいつはもういない。
「アル、見て! 地球儀!」
ルチアーノがどこかから持ってきた地球儀を見せてくれたことを思い出した。
「ここがアメリカで、ここが故郷のイタリアでしょ……」
国々を指差したあと、彼は地球儀をひっくり返してこちらへ向けた。
「あっ、南極だ! これが南極だよ」
彼は、南極に刺さっている軸足がこちらに当たらないよう、地球儀を傾けてくれた。
「行ってみたいなー、アルはどう?」
自分が何と答えたかは忘れてしまった。
「やぁ」
アル・カポネが公園のベンチに座っていると、待ち合わせをしたルチアーノがやって来た。
高級な身なりをした、闇を纏 った男。
「……お前は会うたびに変わっていくな」
彼らは親友だった。
カポネが若い頃にニューヨークからシカゴに移って以来、数度しか会う機会はなかった。
「何を言うんだ。君の方が変わったさ。マスコミの前じゃ別人じゃないか」
カポネは立ち上がった。
「……別に、気前の良い男を演じているだけだ」
日が沈みかけた公園は薄暗い。二人は池の辺 りを歩いた。
途中、小さな城を見つけ、見晴し台まで上ってみることにした。
曇り空を写した池の先の野原には、小さなバラックが点々と散在している。
古びた服を着た子供たちが走り回り、皺 の深い老人が夕食のため鍋を沸かしていた。
「ねぇ、あれが恐慌で家を失った人たちだよ。昔の僕たちみたいだね」
ルチアーノは笑って言った。
カポネは黙っていた。
これから禁酒法は廃止されるだろう。そうなれば稼ぎは今より下回る。賭博だけでは売上や配当を維持できない。
合法事業にも手を付けてみる気はあるが、予想はつかないし……
自分以外の裏社会の者が新たに始める大きな仕事といえば、それは麻薬だろう。
「なぁ、ルチアーノ」
カポネが声をかける。
「ん?」
振り返った友人に、彼は告げた。
「お前がこれから何をしても、俺はお前の味方だ」
不意を突かれ、ルチアーノは少し目を見開いたが、すぐに嬉しそうな、困った笑顔を浮かべた。
「どうしたんだい、急にそんなこと言って」
彼はカポネを促して階段を下りた。
「でも嬉しいよ。君のような友達を持てて、僕は幸運だな」
彼らは公園の外の通りで迎えを待っていた。
すでに空は闇に覆われ、摩天楼が煌々と輝く。
「時間だ」
ルチアーノが時計を見ると、高級車が前に止まった。
「お待たせしました。お二人ともお揃いで」
助手席から紳士的な物腰の男性が現れた。
「リッカか」
「ニューヨークの皆様がお待ちですよ」
カポネの部下で、シカゴからニューヨークへの特使を勤めたことのあるポール・リッカは、後部座席のドアを開いた。
イタリア系秘密結社コーサ・ノストラは、旧世代の首領たちを排除し、五大ファミリーによって構成される。
例えボスが逮捕・死亡しても消滅することのない組織。
他地域の犯罪組織と連携し、巨大なシンジケートが国の隅々に根を張る。
集まった信の置ける首領たちに、彼は言った。
「君たちのような友人を得られるとは、僕は幸運 だ」
「アル、見て! 地球儀!」
ルチアーノがどこかから持ってきた地球儀を見せてくれたことを思い出した。
「ここがアメリカで、ここが故郷のイタリアでしょ……」
国々を指差したあと、彼は地球儀をひっくり返してこちらへ向けた。
「あっ、南極だ! これが南極だよ」
彼は、南極に刺さっている軸足がこちらに当たらないよう、地球儀を傾けてくれた。
「行ってみたいなー、アルはどう?」
自分が何と答えたかは忘れてしまった。
「やぁ」
アル・カポネが公園のベンチに座っていると、待ち合わせをしたルチアーノがやって来た。
高級な身なりをした、闇を
「……お前は会うたびに変わっていくな」
彼らは親友だった。
カポネが若い頃にニューヨークからシカゴに移って以来、数度しか会う機会はなかった。
「何を言うんだ。君の方が変わったさ。マスコミの前じゃ別人じゃないか」
カポネは立ち上がった。
「……別に、気前の良い男を演じているだけだ」
日が沈みかけた公園は薄暗い。二人は池の
途中、小さな城を見つけ、見晴し台まで上ってみることにした。
曇り空を写した池の先の野原には、小さなバラックが点々と散在している。
古びた服を着た子供たちが走り回り、
「ねぇ、あれが恐慌で家を失った人たちだよ。昔の僕たちみたいだね」
ルチアーノは笑って言った。
カポネは黙っていた。
これから禁酒法は廃止されるだろう。そうなれば稼ぎは今より下回る。賭博だけでは売上や配当を維持できない。
合法事業にも手を付けてみる気はあるが、予想はつかないし……
自分以外の裏社会の者が新たに始める大きな仕事といえば、それは麻薬だろう。
「なぁ、ルチアーノ」
カポネが声をかける。
「ん?」
振り返った友人に、彼は告げた。
「お前がこれから何をしても、俺はお前の味方だ」
不意を突かれ、ルチアーノは少し目を見開いたが、すぐに嬉しそうな、困った笑顔を浮かべた。
「どうしたんだい、急にそんなこと言って」
彼はカポネを促して階段を下りた。
「でも嬉しいよ。君のような友達を持てて、僕は幸運だな」
彼らは公園の外の通りで迎えを待っていた。
すでに空は闇に覆われ、摩天楼が煌々と輝く。
「時間だ」
ルチアーノが時計を見ると、高級車が前に止まった。
「お待たせしました。お二人ともお揃いで」
助手席から紳士的な物腰の男性が現れた。
「リッカか」
「ニューヨークの皆様がお待ちですよ」
カポネの部下で、シカゴからニューヨークへの特使を勤めたことのあるポール・リッカは、後部座席のドアを開いた。
イタリア系秘密結社コーサ・ノストラは、旧世代の首領たちを排除し、五大ファミリーによって構成される。
例えボスが逮捕・死亡しても消滅することのない組織。
他地域の犯罪組織と連携し、巨大なシンジケートが国の隅々に根を張る。
集まった信の置ける首領たちに、彼は言った。
「君たちのような友人を得られるとは、僕は
