アストライア・ノヴァ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ティティとの戦いから数日。
ティティは川平のおじさんに連れて行かれ、それから一度も会えていない。
復讐者の後継人の事も、あたしとの友達の事も結局あの日彼女がどうするかの返答は聞けなかった。
彼女の処罰もどうするのかも教えてもらえなかった。
あたしはいつも通り学校に通って、バイトに行って、帰りに誰かが迎えに来てくれる。
以前と変わらない生活に戻った。
ただひとつ。ティティが居ないという事を除いて…
ぽっかりと胸に穴が空いたような感覚についため息が出てしまう。
ホームルームの先生の話なんてまるで耳に入ってこなくて
ぼんやりと窓から外を眺め、どこを見るでもなく景色を眺める。
その内に「きりーつ」というクラスメイトの声が聞こえ、あたしはハッと我に帰り
ガタガタと席を立つみんなに慌ててあたしも合わせて立ち上がると
「礼」と続く号令に合わせて頭を下げた。
これで今日の帰りのホームルームは終了だ。
担任の先生が「早く帰れよ〜」とだけ言い残して教室を去って行き、それを聞いているのか聞いていないのか分からないクラスメイト達が
今日の学業から解放された嬉しさで、みんな楽しそうにそれぞれの友達とテンション高くお喋りをし始めている。
「(あたしも帰ろ…)」
ため息をつくとカバンを持ち早々に教室を出る。
途中別のクラスの友達がカラオケに誘ってくれたけど気分じゃなくて、バイトではないがバイトを理由にして断った。
学校を出てもティティはいない。
そう考えたら胸が痛くて…なんだか気怠くて。
昇降口でノロノロと靴を履き替えて、重い足取りで校門へ向かう。
この間まではその校門の所にティティが寄り掛かって待ってて
あたしを見つけると「美香!帰ろ〜!」と元気に声をかけてくれたのに。
もう…誰も……
「っあ……美香…」
「ツナ…」
ティティがいつもいた場所に、今日はツナが寄りかかって待っていた。
「どうしたの?ティティは、もう…」
居ないから、護衛の対象はいないはずなのに。
でもツナはどこか気まずそうに目を泳がせながら
「あ…うん。分かってる。その…」
「?」
「今日さ、バイト無いんだろ?
だから…美香と一緒に…帰ろうと、思って…」
ぎこちない空気があたしとツナの間に流れる。
ティティの事ですっかり忘れていたけど、あたしとツナは大喧嘩の真っ最中で…
あたしなんて、ツナに別れ話を持ちかけようとすらしていた。
それはティティのマインドコントロールによるものだったのだけれど
それをどさくさに紛れて無かった事にし、仲直り出来るほどお互い器用でもなかった。
しばらく沈黙が続く。
「えっと…」
耐えられなくなったらしいツナが何か言いかけるが
「うん…いいよ。一緒に帰ろう」
あたしが遮って、そう笑いかけた。
「ぁ…うんっ」
ツナが嬉しそうに笑って頷く。
久しぶりに二人並んで一緒に帰り道を歩く。
とは言え、気まずさは拭えずなかなかパッと思いつく話題が思い付かない。
ティティの話はあたしが気分じゃないし…
「ぁ…獄寺くんと山本くんは?」
「獄寺くんはバイト。山本は部活」
「そ、そっか」
「うん…」
「……………」
「……………」
やっぱり、会話が続かない。
ツナもツナで何か話題を探しているようで
結局あたしもツナもお互いに話題を探している間に並盛商店街に入り、無言のまま商店街を抜けてしまった。
炎真達のいる民宿に帰るあたしとはここで別れる事になる。
並んで歩いていた足を止めるとツナが釣られたように足を止めてあたしを見る。
「………じゃあ…あたし、こっちだから…」
「ぇ………」
「またね」
「っ」
背を向けようとした時、ガシッと腕を掴まれた。
振り返るとツナが必死な表情で
「かっ…帰ってきてほしいんだ!」
「ツナ…」
そして彼は頭を下げ
「本当にごめん!!
『行ってしまえ』だなんてっ『もう助けてあげない』だなんて酷い事言って!
あんなの本心じゃない!言葉にしてしまったけど本心じゃないんだ!!
嫉妬で、ただ美香を傷付ける為だけにっあんな事を!!」
「ちょっ…ちょっとツナ…!」
周りを見れば商店街を行き交う人々が何事かと此方を見てくる。
ツナはそれに気付かない程必死なのか、頭を下げ続けるだけで動こうとしない。
掴まれてる腕を離そうとしたけど、ツナの手はそれを許してくれなかった。
「だから美香!帰ってきてほしいんだ!
何回だって謝るから…!
オレ、美香と別れたく」
「わっ分かった!分かったわツナ!一緒に帰るわ!
だからほらっとりあえず此処じゃなくて移動しましょ!」
彼の言葉を遮って、腕を離してくれないのならとあたしが逆にツナの手首を掴んで引っ張る。
ザワザワと「なに?」「痴話喧嘩?」等と周りから囁かれるのを後ろで聞きながら、ツナを引きずって逃げるようにその場を去る。
そうして無言でツナを引っ張って、やがて辿り着いた場所は住宅地の公園。
あたしとツナが初めてキスをした場所だ。
あの時と同じく夕方で、あの時と同じく公園に人気はない。
振り返って見ればシュンと落ち込んでいるツナ。
ツナに近くのベンチに座らせ、そしてあたしも横に座る。
「もう…あんな大勢の前で急にどうしたのよ…」
「ご…ごめん…」
「少しは落ち着いた?」
「うん…」
「そう。それなら良かったわ」
「………また今日も美香のいない家に帰るのかと思ったら、つい。
もうイヤなんだ。もう…耐えられない。
本当に…本当にごめん。傷付けて…ごめん。
美香と別れたくなんかない」
「ツナ……」
「ずっと不安だったんだ。
美香は大人びてて、常に先の事を考えて行動出来るしっかり者で…
誰にも優しくて、バイトの仕事もしっかり出来て……
そんな凄い女の人がオレなんかと釣り合うのかずっとずっと不安に思ってたんだ。
本当は気付いてたんだよ。美香がキスしたがってるって、手を繋ぎたがってるって。
でも……美香と釣り合わないオレがそんな事していいのか心配で…
人目とか恥ずかしくて、気にして…だから拒絶してしまってた」
「…………」
そんな不安が…ツナの中に……
「美香に寂しい思いをさせてるって分かってた。
でも、急にはやっぱり出来なくて…!
どうしたらいいかも分からなくて、そんな風に悩んでたら…なんか、秋元先輩といい感じになってるし
元の世界だと元彼だって言うし、元彼だった秋元先輩はもっと積極的だったなんて言われて
『何も知らないくせに』って、ついカッとなって
八つ当たりと嫉妬であんな心にも無い事を言ってしまったんだ」
「そう…だったの…」
「でも…だからって傷付けていい理由にはならない。
本当に、本当にごめん!
美香…帰ってきてよ…!」
すっかり俯いてしまっててツナの表情は見えないが、声は縋るように震えていた。
ツナがまさかそんなに思い詰めてたなんて考えもしなかった。
思えばツナは元々自分に自信がない自己肯定感の低い人。
恋愛だって、好きな人を作る事は出来ても
その後の愛の育み方までは知らない。
あたしだって育み方は初心者も同然。
ただ単に、付き合った後の事を知っていただけ。
それなのに…結友と比べて……一人先走って……
「……あたしも…ごめん。
ツナがそんなに悩んでるなんて考えもしなかった。
ちょっとだけ恋愛を知ってるからって一人先走って
ツナのペースに合わせるってことを全然してなかったわ。
だってツナはあたしが初めての恋人だもの。
歳だって、ツナはまだ中学生で……
ただでさえ奥手な性格なのに、彼氏になったからってそんなすぐに彼氏らしい事出来ないわよね。
ツナの気持ちとか全然考えてなかった。
なのに結友と比べたり、あんなに責めたり…最低だわ。あたし」
「そっそんな事ない!」
ツナが勢いよく顔を上げてあたしを見る。
その勢いに驚いて思わず彼の瞳を見つめる。
「オレだってっ自分から出来ないだけでなく、美香がアプローチをしてくれてたのに
それを受け取れば良いだけなのに勝手な悩みで跳ね除けて…!
美香が物足りないって思うのは当たり前だよ!美香は何も悪くない!」
「元彼と比べるなんてナンセンスよ。
分かってたのについ比べてしまって…その結果ツナを傷付けて、更に追い込んでしまったわ」
「オレだって…美香が家に帰りたく無くなるほど追い詰めてしまった」
「ごめんね…ツナ…」
「ごめん……美香…」
「許してくれる?」
「オレも…許してくれる?」
「もちろんよ。だってあたしが悪いもの」
「オレも美香を許すよ。オレが悪いんだ」
「………じゃあ…おあいこってことで」
「……………うん。そうしよっか」
お互いに顔が近付き、コツンと額と額が当たる。
久しぶりに感じる…ツナとの甘い雰囲気。
あまりに久しぶりすぎて雰囲気に酔ってしまいそう。
自然と互いの手が重なってベンチの上でぎゅっと握り合う。
「これからはゆっくり…あたし達のペースで付き合っていこう?」
「うん…でも、なるべく頑張るよ」
「無理しなくていいわ」
「ううん。これは無理じゃないよ。
美香の為に、頑張りたいって思ったんだ」
「ツナ……」
「大好きだよ。美香」
「あたしも…大好き。ツナ」
額が離れ、お互い微笑みあう。
ツナのもう片方の手があたしの頬に触れ、自然とあたしは目を閉じる。
少し経って、唇に柔らかさと温かさを感じた。
それは去年…この公園で気持ちを打ち明け、恋人同士になれたあの日と、全く変わっていなかった。
・NEXT........蜈・蜉帙@縺セ縺励◆.....特典連siを復元しms..........