貴方の口で教えて
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二月と聞いてユウはもうそろそろバレンタインデーじゃないかとそわそわしだしたのに、ここナイトレイブンカレッジは男子校のためか全く色恋に関することどころかバレンタインと言う単語すら出てこなかった。どうもツイステッドワンダーランドではバレンタインデーなどという国民行事は存在しないらしい。
ユウはこれに肩を落とすどころか、むしろ好機だと思った。彼女の思い人はなにせ人の思いに鈍感なうえ、鍛錬と親父殿とマレウス様でできている人間だ。そういうところが好きなのだが同時に彼女の小さな胸を締め付けた。もし思いが叶わなかったとき、きっとユウは耐えきれない。それならいっそ思いは伝えず、チョコを送って気持ちに決着をつける方がいいと彼女は決心した。トレイに菓子作りの手伝いを頼んで断られやしないかとひやひやしたが、チョコを作る目的を教えるという交換条件を渋々受け入れて交渉は成立した。
「ユウ、チョコはビターなんだな」
「はい。バナナでアクセントをつけようかと思って」
「うん、なかなかいいチョイスだ」
褒められて頬を紅潮させたユウは、嬉しくてにっこりと笑った。トレイに今のうちにバターも溶かしておくんだぞ、と釘を刺され、ユウは忙しなく動き始める。なにせ、今から作るのは彼女の決別と初恋の相手への切ない思いを込めた世界で一つだけのチョコなのだ。気を抜いてなどいられない。
それに、この初恋の相手もどうやらマスターシェフに参加して、様々な審査員から意見をもらいながら日々鍛錬を積んでいるとトレイが教えてくれた。彼が頑張っていると聞くだけで、ユウは慣れないハンドミキサーを持ってだるくなった腕や繰り返す試食で味覚を忘れかけた舌も忘れて作り続けた。
何度も試食を重ね、形を整え、トレイと一緒に飽きたチョコブラウニーを再び口にする。ユウは目をばっと見開いてトレイを見た。
「トレイ先輩! これ!」
トレイはゆっくりと頬を持ち上げ、ユウの三角巾で縛られた頭を撫でる。その表情に疲れは見えるが、確かな彼女へのねぎらいがあった。
「ああ、よくやったな。完成だ」
やったー! という歓声は、ハーツラビュル寮に響き渡った。ユウはさっそく購買部へ追加のラッピングを買いに着替え始める。後片付けはトレイがすると引き受けてくれたので、ユウは何度も頭を下げた。
「これくらい慣れているからいいさ。早く行かないと購買部が閉まるぞ」
「い、行ってきます!」
急いで厨房から出て行ったユウを見送ったトレイの背後から声がした。どうやら透過魔法でずっと隠れて見ていたようだ。
「やほートレイくん。ユウちゃん、上手くできたんだ?」
「ああ。俺も納得の出来だ」
「えー! ねえ、一口ぐらい食べてもいい? あ、マジカメにも上げたい!」
トレイはやれやれと笑いながら首を横に振った。
「試食もマジカメもダメだ。これは、ユウが自分で作ったプレゼントだ。俺が勝手に許可していいものじゃない」
「それもそうだね。でも、これ誰に贈るわけ? あー、グリちゃんとか?」
そうかもな、と薄く笑ったトレイは、脳裏にいつも眠ってしまう銀髪の後輩を思った。リドルとは同じ馬術部にいるが、普段他人にも自分にも厳しい彼の評価が高い人物だ。ユウの思いが無事に届くと良いが、とトレイは調理器具についたチョコを洗い流した。
「トレイくん、今すっごく意地悪な顔してるよ?」
「そうか? いつもこんな顔だぞ」
どーだか、と呟いたケイトは、にやりとトレイの肩に腕を乗せて笑った。彼もきっと考えていることは同じだろう。
「トレイくんがそれだけ笑うってことは、めちゃくちゃ面白いんでしょ」
「それ以上は企業秘密だ。だがまあ、何が起こるか分からないから面白いな」
やっぱり、と喜んだケイトは、俺も早く話の内容知りたいなーとぼやいた。
ユウはこれに肩を落とすどころか、むしろ好機だと思った。彼女の思い人はなにせ人の思いに鈍感なうえ、鍛錬と親父殿とマレウス様でできている人間だ。そういうところが好きなのだが同時に彼女の小さな胸を締め付けた。もし思いが叶わなかったとき、きっとユウは耐えきれない。それならいっそ思いは伝えず、チョコを送って気持ちに決着をつける方がいいと彼女は決心した。トレイに菓子作りの手伝いを頼んで断られやしないかとひやひやしたが、チョコを作る目的を教えるという交換条件を渋々受け入れて交渉は成立した。
「ユウ、チョコはビターなんだな」
「はい。バナナでアクセントをつけようかと思って」
「うん、なかなかいいチョイスだ」
褒められて頬を紅潮させたユウは、嬉しくてにっこりと笑った。トレイに今のうちにバターも溶かしておくんだぞ、と釘を刺され、ユウは忙しなく動き始める。なにせ、今から作るのは彼女の決別と初恋の相手への切ない思いを込めた世界で一つだけのチョコなのだ。気を抜いてなどいられない。
それに、この初恋の相手もどうやらマスターシェフに参加して、様々な審査員から意見をもらいながら日々鍛錬を積んでいるとトレイが教えてくれた。彼が頑張っていると聞くだけで、ユウは慣れないハンドミキサーを持ってだるくなった腕や繰り返す試食で味覚を忘れかけた舌も忘れて作り続けた。
何度も試食を重ね、形を整え、トレイと一緒に飽きたチョコブラウニーを再び口にする。ユウは目をばっと見開いてトレイを見た。
「トレイ先輩! これ!」
トレイはゆっくりと頬を持ち上げ、ユウの三角巾で縛られた頭を撫でる。その表情に疲れは見えるが、確かな彼女へのねぎらいがあった。
「ああ、よくやったな。完成だ」
やったー! という歓声は、ハーツラビュル寮に響き渡った。ユウはさっそく購買部へ追加のラッピングを買いに着替え始める。後片付けはトレイがすると引き受けてくれたので、ユウは何度も頭を下げた。
「これくらい慣れているからいいさ。早く行かないと購買部が閉まるぞ」
「い、行ってきます!」
急いで厨房から出て行ったユウを見送ったトレイの背後から声がした。どうやら透過魔法でずっと隠れて見ていたようだ。
「やほートレイくん。ユウちゃん、上手くできたんだ?」
「ああ。俺も納得の出来だ」
「えー! ねえ、一口ぐらい食べてもいい? あ、マジカメにも上げたい!」
トレイはやれやれと笑いながら首を横に振った。
「試食もマジカメもダメだ。これは、ユウが自分で作ったプレゼントだ。俺が勝手に許可していいものじゃない」
「それもそうだね。でも、これ誰に贈るわけ? あー、グリちゃんとか?」
そうかもな、と薄く笑ったトレイは、脳裏にいつも眠ってしまう銀髪の後輩を思った。リドルとは同じ馬術部にいるが、普段他人にも自分にも厳しい彼の評価が高い人物だ。ユウの思いが無事に届くと良いが、とトレイは調理器具についたチョコを洗い流した。
「トレイくん、今すっごく意地悪な顔してるよ?」
「そうか? いつもこんな顔だぞ」
どーだか、と呟いたケイトは、にやりとトレイの肩に腕を乗せて笑った。彼もきっと考えていることは同じだろう。
「トレイくんがそれだけ笑うってことは、めちゃくちゃ面白いんでしょ」
「それ以上は企業秘密だ。だがまあ、何が起こるか分からないから面白いな」
やっぱり、と喜んだケイトは、俺も早く話の内容知りたいなーとぼやいた。