魔法石は守護する
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城の空気は常日頃変わらない。それはこの城主の孫が誰をも寄せ付けない雰囲気をまとっているからなのか、護衛がはたまた乱入者を牽制するために寄せ付けないのか、その両方か。いずれにせよ、賑やかな場所を好むものからすれば息がつまりそうな程、静寂と重々しい魔力で城内は満ちている。
マレウスは自室で祖母の政務のこまごまとした書類作業もとい手伝いをしながら、息抜きにホリデーに連れてきたユウの様子をカラスの報告で聞く。どうやらリリアに遊んでもらっているらしいと知って安堵のため息を吐いたのは、扉の前で控えている銀髪の麗しい青年だった。マレウスはくすりと笑った。
「シルバー。気になるか?」
シルバーは何のことでしょう、と毅然としたふるまいを見せているが、マレウスはそれすら彼のはりぼてのようなブラフにしか見えず、笑いがこみ上げる。マレウスは椅子に凭れかかり、左手の中にシルバーが収まるように手を動かした。
「どれほど落ち着いた様子を見せていても、長年一緒にいた僕にはわかる。あの人の子が何をしているのか心配なのだろう?」
シルバーの凪のような瞳が一瞬だけ揺れ、一度瞼によって隠されると、彼はしっかりと頷いた。
「……気になります」
「この護衛ももうじきセベクに交代できる。その時に存分に構ってやると良い」
「お気遣い、ありがとうございます」
お辞儀をしたシルバーは存外ユウに首ったけのようで、谷のあちこちではユウの噂が独り歩きしている。ユウに相談されていた時はシルバーが振り向くなど微塵も考えなかったが、あの魔法石はその予想を大きく覆すものだった。
マレウスは17年間見てきたシルバーの新しい一面に俄然興味が湧いていた。
「ふふ。して、人の子が身につけている魔法石はお前が作ったものか?」
「……はい」
「なかなかに美しい色を放ちながら、その実魔力で人の子を覆うとはよく考えたものだ」
あの魔法石の製作はなかなか繊細な作業であり、針に糸を通すよりも集中力も時間も食う。それゆえに、効果は絶大だ。彼女に迫る危険は大概の下級精霊なら跳ねのける。魔力による攻撃も跳ね返す力もある。しかし、物理攻撃や催眠と言った精神支配には弱い。が、シルバーがいれば大概はどうにかなることだ。なにより、あの溢れ出ている魔力にはシルバーの彼女への執念ともいえるものが混じっている。きっと下心をもって彼女に触れたなら、想像するのもおぞましいことが起こるだろう。
マレウスがくすくすと笑っていると、シルバーは顔色一つ変えず淡々と魔法石を身につけさせた理由を述べた。
「あれぐらいしないと、余計なものが寄ってきますから。魔除けのようなものです」
「ふふ、お前も大概だな。だが、それくらいせぬと手元にはいてくれないのだろうな。あの人の子は」
ユウは人の身ゆえにあまりに儚いからこそ、そして数々の苦難をものともせず乗り越えてきた強さがあるからこそ、その強さに甘んじてどこかへ行ってしまうだろう。そんな真似をさせるつもりもないシルバーの執着心は紛れもない妖精たちが持つ特性だ。見えない鎖で徐々にあの娘の自由を気づかぬうちに縛っていく未来が、一体どんな結末を見せるのかマレウスには予想もつかなかった。
マレウスは自室で祖母の政務のこまごまとした書類作業もとい手伝いをしながら、息抜きにホリデーに連れてきたユウの様子をカラスの報告で聞く。どうやらリリアに遊んでもらっているらしいと知って安堵のため息を吐いたのは、扉の前で控えている銀髪の麗しい青年だった。マレウスはくすりと笑った。
「シルバー。気になるか?」
シルバーは何のことでしょう、と毅然としたふるまいを見せているが、マレウスはそれすら彼のはりぼてのようなブラフにしか見えず、笑いがこみ上げる。マレウスは椅子に凭れかかり、左手の中にシルバーが収まるように手を動かした。
「どれほど落ち着いた様子を見せていても、長年一緒にいた僕にはわかる。あの人の子が何をしているのか心配なのだろう?」
シルバーの凪のような瞳が一瞬だけ揺れ、一度瞼によって隠されると、彼はしっかりと頷いた。
「……気になります」
「この護衛ももうじきセベクに交代できる。その時に存分に構ってやると良い」
「お気遣い、ありがとうございます」
お辞儀をしたシルバーは存外ユウに首ったけのようで、谷のあちこちではユウの噂が独り歩きしている。ユウに相談されていた時はシルバーが振り向くなど微塵も考えなかったが、あの魔法石はその予想を大きく覆すものだった。
マレウスは17年間見てきたシルバーの新しい一面に俄然興味が湧いていた。
「ふふ。して、人の子が身につけている魔法石はお前が作ったものか?」
「……はい」
「なかなかに美しい色を放ちながら、その実魔力で人の子を覆うとはよく考えたものだ」
あの魔法石の製作はなかなか繊細な作業であり、針に糸を通すよりも集中力も時間も食う。それゆえに、効果は絶大だ。彼女に迫る危険は大概の下級精霊なら跳ねのける。魔力による攻撃も跳ね返す力もある。しかし、物理攻撃や催眠と言った精神支配には弱い。が、シルバーがいれば大概はどうにかなることだ。なにより、あの溢れ出ている魔力にはシルバーの彼女への執念ともいえるものが混じっている。きっと下心をもって彼女に触れたなら、想像するのもおぞましいことが起こるだろう。
マレウスがくすくすと笑っていると、シルバーは顔色一つ変えず淡々と魔法石を身につけさせた理由を述べた。
「あれぐらいしないと、余計なものが寄ってきますから。魔除けのようなものです」
「ふふ、お前も大概だな。だが、それくらいせぬと手元にはいてくれないのだろうな。あの人の子は」
ユウは人の身ゆえにあまりに儚いからこそ、そして数々の苦難をものともせず乗り越えてきた強さがあるからこそ、その強さに甘んじてどこかへ行ってしまうだろう。そんな真似をさせるつもりもないシルバーの執着心は紛れもない妖精たちが持つ特性だ。見えない鎖で徐々にあの娘の自由を気づかぬうちに縛っていく未来が、一体どんな結末を見せるのかマレウスには予想もつかなかった。