ホリデーは人さらいにご注意
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それからユウはシルバーがセベクと通ったというエレメンタリースクールの前を通ったり、公園で剣術の稽古をしている子どもたちを見かけたりした。噴水の傍で声を張り上げながら模造刀を振り下ろす迫力に、ユウは思わず足を止めてしまった。
「気になるか?」
「はい。茨の谷ではこんなに小さい子たちが剣を振って練習しているんですね」
「ああ、この谷の者は皆幼い時から騎士団に入ることが夢なんだ」
まるで小さなセベクたちみたいだとユウが笑うと、尊敬する心だけを見ればそうだな、とシルバーが笑った。
少し歩けば、馬を貸し出す厩舎があった。そこでシルバーが料金を支払い、二頭の馬を借りる。ユウがどうしたんだと尋ねると、この先の森で見せたいものがあるとシルバーが一頭の馬の手綱を渡した。
そうして再びシルバーの後をついて行くことになったユウは、馬で森の中を駆けながら十数分して小さな家に辿り着いた。シルバーが馬を止めて降りるので、ユウもそれに倣った。
「ここが俺の生まれ育った家だ」
「小さな森の中にあるなんておとぎ話みたいですね」
素敵だとユウが微笑むと、シルバーがそうだろうかと首を傾げた。コンクリートジャングルで育ってきた人間からすれば十分おとぎ話なのだ。シルバーが戸を開け、ユウに入るよう戸を押さえて立っていた。お辞儀をして入ると、簡素な作りではあるがあちこちに思い出が刻まれていることが分かった。
「あまり帰ってきてないのに、綺麗ですね」
「ああ。親父殿が時々手入れしてくださる。俺もセベクもなるべく掃除するようにしているが、あの人は俺たちの先を行く」
今回の帰省では先にするつもりだったんだが、と悔しそうに話すシルバーだが、ユウは血は繋がらずとも親子の情を結んだ関係が微笑ましくて仕方なかった。
「リリア先輩、とっても優しいですね」
ユウの暖かい言葉に、シルバーは細い息を吐いた。わずかに口角が持ち上がった彼は眩しそうにユウを見つめる目を細める。
「ああ。俺もそのご恩に報いたい」
廊下を少し歩けば、大黒柱に刻まれた細い切り傷がシルバー、セベクという名前と共に横なぎに刻まれている。幾重にも重なったそれは天井へと向かって伸びていた。ユウがシルバーを呼び、その傷を指さした。
「あ、ここは身長を測ったんですか?」
「ああ、初めは俺の方が大きかったが、見る見るうちにセベクに追い越されてしまった」
「ふふ、こんな小さな先輩に会ってみたい」
今のユウの腰ほどしかないシルバーを思い、くすくすと笑った彼女にシルバーは腕を組む。彼もまた柱の傷から見える残像のようなものを見ていた。
「そうか?」
「はい! とっても可愛くて、今みたいに優しい子なんでしょうねえ」
頭に音符を飛ばしそうなほど上機嫌なユウに、シルバーはぼそりと呟いた。
「……俺は幼いお前に会ってみたい」
その発言にユウは青ざめた顔で両手を全力で横に振る。しまいには首まで振り出すので、不思議な生き物だとシルバーは眺めた。
「絶対先輩に幻滅されるので、嫌です」
その昔は虫もカエルも手づかみをし、喧嘩に強かったことで男子からは将軍と恐れられた過去を持つユウは、そんな自分を見られでもしたらきっと嫌われるに違いないと肝を冷やしていた。絶対だめだと否定をしていると、シルバーが若干寂しそうな視線でユウを見ていた。
「どんなお前でも、俺はきっと好きになれる」
恥ずかしげもなくはっきり言えるシルバーに、ユウは自分が悪い気がしてきた。これがいらふわコンビが持つ力か、とその純粋な光を宿した目から彼女は視線をそらした。
「……もう、私が照れてるのが変みたいになるじゃないですか」
それからシルバーがいきなり寝てしまったり、小鳥や森の動物たちとシルバーを介抱したりと目覚めるのを待っていればすっかり日は暮れ始めていた。起きたシルバーが早いうちに離れに戻ろうと言うので動物たちとの別れもそこそこにユウは再びシルバーを馬を駆けた。
馬を返したころには、天に三日月が浮かんでいた。シルバーとユウは固く指を絡め合った手で、はぐれないようシルバーのマジカルペンが照らす光魔法を頼りに歩く。冷え込んできた空気にユウがくしゃみをすれば、シルバーが真っ赤になった彼女の手を自分の手ごとポケットに入れた。それが何となく恥ずかしいとユウが見上げれば、そこにはわずかに照らされた真っ赤な耳があった。
「茨の谷はどうだ?」
ぼそりと聞かれた言葉に、ユウは弾けんばかりの笑顔で答えた。
「すっかり好きになりました! 先輩、連れてきてくれてありがとうございます」
ポケットの中で手を一度強く握ると、シルバーの大きく汗ばんだ手が彼女の小さな手をゆっくり締め付けた。思いつめたシルバーの鼻先は赤くなっている。
「……いつか、お前のいた世界に行ってみたい」
沁みるような声で言うので、ユウはそっと腕ごとシルバーにくっつける。彼の声がやけに大きく聞こえる雪景色が悲しいものにならないよう、彼女は努めて明るく振舞った。
「私も。いつか、先輩に紹介したいです」
二人の声はただ森の木々と枝に降り積もった雪たちだけが聞いていた。
「気になるか?」
「はい。茨の谷ではこんなに小さい子たちが剣を振って練習しているんですね」
「ああ、この谷の者は皆幼い時から騎士団に入ることが夢なんだ」
まるで小さなセベクたちみたいだとユウが笑うと、尊敬する心だけを見ればそうだな、とシルバーが笑った。
少し歩けば、馬を貸し出す厩舎があった。そこでシルバーが料金を支払い、二頭の馬を借りる。ユウがどうしたんだと尋ねると、この先の森で見せたいものがあるとシルバーが一頭の馬の手綱を渡した。
そうして再びシルバーの後をついて行くことになったユウは、馬で森の中を駆けながら十数分して小さな家に辿り着いた。シルバーが馬を止めて降りるので、ユウもそれに倣った。
「ここが俺の生まれ育った家だ」
「小さな森の中にあるなんておとぎ話みたいですね」
素敵だとユウが微笑むと、シルバーがそうだろうかと首を傾げた。コンクリートジャングルで育ってきた人間からすれば十分おとぎ話なのだ。シルバーが戸を開け、ユウに入るよう戸を押さえて立っていた。お辞儀をして入ると、簡素な作りではあるがあちこちに思い出が刻まれていることが分かった。
「あまり帰ってきてないのに、綺麗ですね」
「ああ。親父殿が時々手入れしてくださる。俺もセベクもなるべく掃除するようにしているが、あの人は俺たちの先を行く」
今回の帰省では先にするつもりだったんだが、と悔しそうに話すシルバーだが、ユウは血は繋がらずとも親子の情を結んだ関係が微笑ましくて仕方なかった。
「リリア先輩、とっても優しいですね」
ユウの暖かい言葉に、シルバーは細い息を吐いた。わずかに口角が持ち上がった彼は眩しそうにユウを見つめる目を細める。
「ああ。俺もそのご恩に報いたい」
廊下を少し歩けば、大黒柱に刻まれた細い切り傷がシルバー、セベクという名前と共に横なぎに刻まれている。幾重にも重なったそれは天井へと向かって伸びていた。ユウがシルバーを呼び、その傷を指さした。
「あ、ここは身長を測ったんですか?」
「ああ、初めは俺の方が大きかったが、見る見るうちにセベクに追い越されてしまった」
「ふふ、こんな小さな先輩に会ってみたい」
今のユウの腰ほどしかないシルバーを思い、くすくすと笑った彼女にシルバーは腕を組む。彼もまた柱の傷から見える残像のようなものを見ていた。
「そうか?」
「はい! とっても可愛くて、今みたいに優しい子なんでしょうねえ」
頭に音符を飛ばしそうなほど上機嫌なユウに、シルバーはぼそりと呟いた。
「……俺は幼いお前に会ってみたい」
その発言にユウは青ざめた顔で両手を全力で横に振る。しまいには首まで振り出すので、不思議な生き物だとシルバーは眺めた。
「絶対先輩に幻滅されるので、嫌です」
その昔は虫もカエルも手づかみをし、喧嘩に強かったことで男子からは将軍と恐れられた過去を持つユウは、そんな自分を見られでもしたらきっと嫌われるに違いないと肝を冷やしていた。絶対だめだと否定をしていると、シルバーが若干寂しそうな視線でユウを見ていた。
「どんなお前でも、俺はきっと好きになれる」
恥ずかしげもなくはっきり言えるシルバーに、ユウは自分が悪い気がしてきた。これがいらふわコンビが持つ力か、とその純粋な光を宿した目から彼女は視線をそらした。
「……もう、私が照れてるのが変みたいになるじゃないですか」
それからシルバーがいきなり寝てしまったり、小鳥や森の動物たちとシルバーを介抱したりと目覚めるのを待っていればすっかり日は暮れ始めていた。起きたシルバーが早いうちに離れに戻ろうと言うので動物たちとの別れもそこそこにユウは再びシルバーを馬を駆けた。
馬を返したころには、天に三日月が浮かんでいた。シルバーとユウは固く指を絡め合った手で、はぐれないようシルバーのマジカルペンが照らす光魔法を頼りに歩く。冷え込んできた空気にユウがくしゃみをすれば、シルバーが真っ赤になった彼女の手を自分の手ごとポケットに入れた。それが何となく恥ずかしいとユウが見上げれば、そこにはわずかに照らされた真っ赤な耳があった。
「茨の谷はどうだ?」
ぼそりと聞かれた言葉に、ユウは弾けんばかりの笑顔で答えた。
「すっかり好きになりました! 先輩、連れてきてくれてありがとうございます」
ポケットの中で手を一度強く握ると、シルバーの大きく汗ばんだ手が彼女の小さな手をゆっくり締め付けた。思いつめたシルバーの鼻先は赤くなっている。
「……いつか、お前のいた世界に行ってみたい」
沁みるような声で言うので、ユウはそっと腕ごとシルバーにくっつける。彼の声がやけに大きく聞こえる雪景色が悲しいものにならないよう、彼女は努めて明るく振舞った。
「私も。いつか、先輩に紹介したいです」
二人の声はただ森の木々と枝に降り積もった雪たちだけが聞いていた。