ホリデーは人さらいにご注意
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茨の谷の中心、それも城下町は様々な声が入り乱れている。競りの声に値段交渉、一歩歩けば見慣れないものばかりが視界を埋め尽くしていく。嗅ぎ慣れない香辛料の香りと独特な商品を並べる露店たちにユウは足を止めた。
「茨の谷の中心地……市場だ」
「ここでも緑の服を着る人が多いですねえ」
ユウはきょろきょろと周りを見ながら、ディアソムニア寮でも身につけられている深い緑色がこの谷の景色を一周回るだけでもかなりの種族が愛用していることに気が付いた。以前マレウスが黒が高貴な色であることを教えてくれたことを思い出したが、緑色はまた何か意味があるのだろうか、と思案しているうちにシルバーに名前を呼ばれる。シルバーの先導に置いて行かれないよう、彼女は必死に銀髪を追った。
「茨の魔女を崇敬しているものは多い。こっちだ」
「はい!」
シルバーの後ろをついて歩いていると、細い路地に入った。その石垣の上の妖精たちがユウに向かって手を振っている。彼女の手のひらほどしかない妖精たちは、淡く輝いていた。
「可愛い~」
足を止めたユウが手を振り返すと、妖精たちが口元に手を当てて肩を震わせている。じっと見ていたユウに近寄ってくるようで、何かあったのだろうかと彼女は妖精を見つめる。そのうちの一人がこちらに飛び立ってきたところで、大きな背中が彼女の前に立ちはだかった。
「俺の連れだ。不用意に手を出してもらっては困る」
その瞬間、ユウは覚醒した。顔は見えずとも話し声でシルバーが怒っていることくらい、彼女には分かった。守るようにして立っているシルバーの大きな背中の向こうで、妖精たちが鈴のような声で抗議しているようだ。生憎ユウは妖精言語を履修していないので、シルバーの剣呑な様子からでしか事の成り行きを見守ることができなかった。
妖精たちがいっせいに飛び立ち、シルバーがユウに振り向いた。咄嗟にユウが謝ると、シルバーは首を横に振った。
「いいや。あれはあいつらの悪戯だ。教えなかった俺も悪い。一歩間違えれば、連れ去られるところだった」
「そんな……」
「本当だ。妖精の羽の鱗粉には催眠作用がある。それを利用した悪戯好きな妖精もいるから、俺たちみたいな二人組がはぐれてしまうこともここでは当たり前だ」
また迷惑をかけてしまったとうなだれたユウに、シルバーはそっと大きな手を差し出す。ユウはそれに顔を上げると、シルバーの真っ直ぐな瞳がそこにあった。
「だが、はぐれるのは困る。行くぞ」
ユウが差し出されたその手をおそるおそる取ると、シルバーの手がしっかりと彼女を掴み次の目的地へと連れて行く。やけに力が強いとユウが見上げれば、そこには赤くなった耳がある。ふいに、あの城でリリアに聞かされた話を思い出した。
『シルバーは感情が高ぶると耳が赤くなるんじゃ。覚えておくんじゃぞ』
覚えていたおかげで、ユウの心に絡みついていた重りは外れ、風に流れた。ユウは心の中でリリアに感謝を告げた。掌に染み込むぬくもりがくすぐったくて、ユウは力を入れて握り返す。すると、シルバーがどうかしたのかと尋ねてくるので、彼女ははにかんだ。
「先輩から離れたくなくて、握ってました」
シルバーは一瞬目を瞠り、そしてその手の指をユウの指の間に絡めた。繋いでいるのは手のはずなのに、二人して心臓まで繋がった気がした。
「茨の谷の中心地……市場だ」
「ここでも緑の服を着る人が多いですねえ」
ユウはきょろきょろと周りを見ながら、ディアソムニア寮でも身につけられている深い緑色がこの谷の景色を一周回るだけでもかなりの種族が愛用していることに気が付いた。以前マレウスが黒が高貴な色であることを教えてくれたことを思い出したが、緑色はまた何か意味があるのだろうか、と思案しているうちにシルバーに名前を呼ばれる。シルバーの先導に置いて行かれないよう、彼女は必死に銀髪を追った。
「茨の魔女を崇敬しているものは多い。こっちだ」
「はい!」
シルバーの後ろをついて歩いていると、細い路地に入った。その石垣の上の妖精たちがユウに向かって手を振っている。彼女の手のひらほどしかない妖精たちは、淡く輝いていた。
「可愛い~」
足を止めたユウが手を振り返すと、妖精たちが口元に手を当てて肩を震わせている。じっと見ていたユウに近寄ってくるようで、何かあったのだろうかと彼女は妖精を見つめる。そのうちの一人がこちらに飛び立ってきたところで、大きな背中が彼女の前に立ちはだかった。
「俺の連れだ。不用意に手を出してもらっては困る」
その瞬間、ユウは覚醒した。顔は見えずとも話し声でシルバーが怒っていることくらい、彼女には分かった。守るようにして立っているシルバーの大きな背中の向こうで、妖精たちが鈴のような声で抗議しているようだ。生憎ユウは妖精言語を履修していないので、シルバーの剣呑な様子からでしか事の成り行きを見守ることができなかった。
妖精たちがいっせいに飛び立ち、シルバーがユウに振り向いた。咄嗟にユウが謝ると、シルバーは首を横に振った。
「いいや。あれはあいつらの悪戯だ。教えなかった俺も悪い。一歩間違えれば、連れ去られるところだった」
「そんな……」
「本当だ。妖精の羽の鱗粉には催眠作用がある。それを利用した悪戯好きな妖精もいるから、俺たちみたいな二人組がはぐれてしまうこともここでは当たり前だ」
また迷惑をかけてしまったとうなだれたユウに、シルバーはそっと大きな手を差し出す。ユウはそれに顔を上げると、シルバーの真っ直ぐな瞳がそこにあった。
「だが、はぐれるのは困る。行くぞ」
ユウが差し出されたその手をおそるおそる取ると、シルバーの手がしっかりと彼女を掴み次の目的地へと連れて行く。やけに力が強いとユウが見上げれば、そこには赤くなった耳がある。ふいに、あの城でリリアに聞かされた話を思い出した。
『シルバーは感情が高ぶると耳が赤くなるんじゃ。覚えておくんじゃぞ』
覚えていたおかげで、ユウの心に絡みついていた重りは外れ、風に流れた。ユウは心の中でリリアに感謝を告げた。掌に染み込むぬくもりがくすぐったくて、ユウは力を入れて握り返す。すると、シルバーがどうかしたのかと尋ねてくるので、彼女ははにかんだ。
「先輩から離れたくなくて、握ってました」
シルバーは一瞬目を瞠り、そしてその手の指をユウの指の間に絡めた。繋いでいるのは手のはずなのに、二人して心臓まで繋がった気がした。