ホリデーは人さらいにご注意
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ユウはカタカタという物音で目が覚めた。ちちちと鳴く小鳥たちが豆でもねだりに来たのかと起き上がると、窓から差し込む朝日が彼女のベッドを照らしていた。時計を見ればもう7時だ。
彼女の鼻腔を香ばしい香りがくすぐる。焼けた小麦粉の匂いや漂ってくるミルクの香りにお腹がきゅうっと鳴った。しかし、彼女はドキドキと心臓を逸らせた。彼女の自室は二階なので、一階のキッチンで誰かが料理をしている。ユウはそっと模造刀を持って、一階へと降りて行った。万が一強盗や悪戯好きの妖精であったなら、容赦をしてはいけないと再三リリアに口酸っぱく言われている。少なくともこの家で悪さは働かせないと、ユウはキッチンにつながる扉を開いた。
ダイニングと一体になっているため、すぐそこにはテーブルと行儀よく並んだ椅子が見える。足音と気配を殺して、一歩一歩そうっと歩けば熱の残ったコンロの上で鍋からミルクの香りがした。蓋をそっと開けてみれば、クラムチャウダーだ。大好物を見て腹が鳴る。
「ただいま」
突然背後から声がして肩を震わせると、彼女の体は自然と模造刀を振りかざしていた。その腕を掴んだしっかりとした腕が、彼女を引き寄せる。力強い腕に抱きしめられたユウはそのまま模造刀を落とした。森の匂いが鼻腔をくすぐり、喉の奥から迫ってくる強烈な感情にユウは嗚咽を堪えた。模造刀を離した彼女の小さな手は彼の背中をしっかり掴む。
「先輩! おかえりなさい」
ただいま、と言うシルバーの胸元に目を当て、涙を見られないようユウは必死に隠した。シルバーも彼女の頭を抱えるように抱きしめ、その髪に鼻を埋める。
「……ユウ。大分匂いが変わったな」
「あ、こっちの食べ物を食べて、人間の匂いを消そうってリリア先輩に言われて」
事情があってと必死に言いつのるユウを、シルバーの腕がきつく抱きしめた。一体何かまずいことでも言っただろうかと、ユウが眉を困らせて見上げる。シルバーは涼やかな目にユウだけを映したまま、静かに話し出した。
「……お前の匂いがしないから、あまり落ち着かない」
困ったように笑うシルバーにユウの心臓はぎゅっと縮こまった。むしろ落ち着かなくなったのは彼女の方だ。
「先輩……あの、私」
なにかを言い募ろうにも言葉にならないユウは、言葉では持て余してしまうこの感情をどう伝えればいいのか混乱した。しかし、シルバーの方が先に言葉を紡いだ。
「ようやく会えて嬉しい。元気そうでよかった」
彼女の頬を優しい手つきで撫でるシルバーに、ユウは心臓が耳元で鳴っているような心地になった。言葉がせり上がってこないもどかしさは頬の熱に変わり、ようやく彼女の口から言葉が零れた。
「わ、私もです」
ようやく会えた喜びに笑みを深めるユウに、シルバーはその柔らかな頬に口づけを送った。驚いて目を丸くしたユウは熟れたトマトのように頬を赤くする。視線をさまよわせたユウは足元に転がっている模造刀を見て、話題を変えた。
「あ、ごめんなさい。てっきり強盗か悪戯好きの妖精だと思ってて、模造刀なんか向けて」
「気にするな。いい太刀筋だった」
しみじみと言うシルバーの言葉に、ユウはどうやら彼は怒っていないようだと胸をなでおろした。
「あのまま食らっていたら、きっと相手は脳震盪を起こして倒れただろう。お前の鍛錬の成果が出ていて、俺は嬉しい」
それは喜ぶべきなのかとユウは首を傾げたくなった。しかし、シルバーのことだ。きっとなんの他意もなく言っているのだろう。この話は内密に、とだけシルバーに約束させた。万が一話が漏れれば、リリアに笑いものにされる。そしてかの麗しい騎士の恋人は、男勝りで模造刀を所かまわず振るうなどといううわさ話が茨の谷を駆けまわり、二度と外に出られなくなるとユウは脳内で悲劇を繰り広げていた。。
シルバーはうんうん唸っているユウに尋ねた。
「腹は空いていないか? 少しだが朝食を用意した」
「ぜひ、食べたいです!」
分かったと言ったシルバーは彼女を離し、席につくよう言って台所に立った。その様子があまりにも新鮮で目が離せなかったのは、彼女の背中をつついた小鳥たちが教えてくれた。
席に着いたユウは、差し出されたロールパンを一口かじると口にバターの深い味が染み込んでくる。あまりの美味しさに彼女はロールパンを頬張った。もぐもぐと頬を膨らませながら咀嚼するユウに、シルバーはリスのようだと微笑む。木の器にクラムチャウダーを入れた彼は、ユウの前にその器を置くと隣の席に座った。
「先輩、美味しいです……!」
「そのパンは城の料理を担当している釜戸の妖精が形が悪いからとくれたものだ。今後も持って帰るとしよう」
やった! と声を弾ませたユウは、クラムチャウダーにも口をつける。んん! と歓声を上げたユウは満天の星空のように輝いた目をシルバーに向けた。
「クラムチャウダーも美味しい……! 先輩、お料理が上手ですね!」
「いや、普通に作っただけだ。店のものとは比較にならないだろう」
「それでも、先輩が作ってくれたクラムチャウダーが私は好きです」
じっと見返してくる視線の強さにシルバーは根負けして、そうかと笑った。
ユウがすべて食べ終わった後、シルバーが今日の予定を聞いてきた。今日はシルバーが帰ってくると知っていたので特に何も入れていないと言うと、そうか、とシルバーは机の上に置かれたユウの手を握る。ユウが視線をシルバーに向けると、彼が澄んだ瞳で見つめていた。
「お前に茨の谷を案内したい」
「いいんですか!」
「ああ。出かけられるか?」
「いっ今すぐ支度します!」
急いで立ち上がったユウは、風のようにダイニングを出て行き、階段を駆け上がっていく。どたどたと忙しない足音が家じゅうに響くドラムになって、小鳥たちが笑うように歌い出した。シルバーは賑やかな家の中心で、首をこっくりこっくり揺らしていた。
彼女の鼻腔を香ばしい香りがくすぐる。焼けた小麦粉の匂いや漂ってくるミルクの香りにお腹がきゅうっと鳴った。しかし、彼女はドキドキと心臓を逸らせた。彼女の自室は二階なので、一階のキッチンで誰かが料理をしている。ユウはそっと模造刀を持って、一階へと降りて行った。万が一強盗や悪戯好きの妖精であったなら、容赦をしてはいけないと再三リリアに口酸っぱく言われている。少なくともこの家で悪さは働かせないと、ユウはキッチンにつながる扉を開いた。
ダイニングと一体になっているため、すぐそこにはテーブルと行儀よく並んだ椅子が見える。足音と気配を殺して、一歩一歩そうっと歩けば熱の残ったコンロの上で鍋からミルクの香りがした。蓋をそっと開けてみれば、クラムチャウダーだ。大好物を見て腹が鳴る。
「ただいま」
突然背後から声がして肩を震わせると、彼女の体は自然と模造刀を振りかざしていた。その腕を掴んだしっかりとした腕が、彼女を引き寄せる。力強い腕に抱きしめられたユウはそのまま模造刀を落とした。森の匂いが鼻腔をくすぐり、喉の奥から迫ってくる強烈な感情にユウは嗚咽を堪えた。模造刀を離した彼女の小さな手は彼の背中をしっかり掴む。
「先輩! おかえりなさい」
ただいま、と言うシルバーの胸元に目を当て、涙を見られないようユウは必死に隠した。シルバーも彼女の頭を抱えるように抱きしめ、その髪に鼻を埋める。
「……ユウ。大分匂いが変わったな」
「あ、こっちの食べ物を食べて、人間の匂いを消そうってリリア先輩に言われて」
事情があってと必死に言いつのるユウを、シルバーの腕がきつく抱きしめた。一体何かまずいことでも言っただろうかと、ユウが眉を困らせて見上げる。シルバーは涼やかな目にユウだけを映したまま、静かに話し出した。
「……お前の匂いがしないから、あまり落ち着かない」
困ったように笑うシルバーにユウの心臓はぎゅっと縮こまった。むしろ落ち着かなくなったのは彼女の方だ。
「先輩……あの、私」
なにかを言い募ろうにも言葉にならないユウは、言葉では持て余してしまうこの感情をどう伝えればいいのか混乱した。しかし、シルバーの方が先に言葉を紡いだ。
「ようやく会えて嬉しい。元気そうでよかった」
彼女の頬を優しい手つきで撫でるシルバーに、ユウは心臓が耳元で鳴っているような心地になった。言葉がせり上がってこないもどかしさは頬の熱に変わり、ようやく彼女の口から言葉が零れた。
「わ、私もです」
ようやく会えた喜びに笑みを深めるユウに、シルバーはその柔らかな頬に口づけを送った。驚いて目を丸くしたユウは熟れたトマトのように頬を赤くする。視線をさまよわせたユウは足元に転がっている模造刀を見て、話題を変えた。
「あ、ごめんなさい。てっきり強盗か悪戯好きの妖精だと思ってて、模造刀なんか向けて」
「気にするな。いい太刀筋だった」
しみじみと言うシルバーの言葉に、ユウはどうやら彼は怒っていないようだと胸をなでおろした。
「あのまま食らっていたら、きっと相手は脳震盪を起こして倒れただろう。お前の鍛錬の成果が出ていて、俺は嬉しい」
それは喜ぶべきなのかとユウは首を傾げたくなった。しかし、シルバーのことだ。きっとなんの他意もなく言っているのだろう。この話は内密に、とだけシルバーに約束させた。万が一話が漏れれば、リリアに笑いものにされる。そしてかの麗しい騎士の恋人は、男勝りで模造刀を所かまわず振るうなどといううわさ話が茨の谷を駆けまわり、二度と外に出られなくなるとユウは脳内で悲劇を繰り広げていた。。
シルバーはうんうん唸っているユウに尋ねた。
「腹は空いていないか? 少しだが朝食を用意した」
「ぜひ、食べたいです!」
分かったと言ったシルバーは彼女を離し、席につくよう言って台所に立った。その様子があまりにも新鮮で目が離せなかったのは、彼女の背中をつついた小鳥たちが教えてくれた。
席に着いたユウは、差し出されたロールパンを一口かじると口にバターの深い味が染み込んでくる。あまりの美味しさに彼女はロールパンを頬張った。もぐもぐと頬を膨らませながら咀嚼するユウに、シルバーはリスのようだと微笑む。木の器にクラムチャウダーを入れた彼は、ユウの前にその器を置くと隣の席に座った。
「先輩、美味しいです……!」
「そのパンは城の料理を担当している釜戸の妖精が形が悪いからとくれたものだ。今後も持って帰るとしよう」
やった! と声を弾ませたユウは、クラムチャウダーにも口をつける。んん! と歓声を上げたユウは満天の星空のように輝いた目をシルバーに向けた。
「クラムチャウダーも美味しい……! 先輩、お料理が上手ですね!」
「いや、普通に作っただけだ。店のものとは比較にならないだろう」
「それでも、先輩が作ってくれたクラムチャウダーが私は好きです」
じっと見返してくる視線の強さにシルバーは根負けして、そうかと笑った。
ユウがすべて食べ終わった後、シルバーが今日の予定を聞いてきた。今日はシルバーが帰ってくると知っていたので特に何も入れていないと言うと、そうか、とシルバーは机の上に置かれたユウの手を握る。ユウが視線をシルバーに向けると、彼が澄んだ瞳で見つめていた。
「お前に茨の谷を案内したい」
「いいんですか!」
「ああ。出かけられるか?」
「いっ今すぐ支度します!」
急いで立ち上がったユウは、風のようにダイニングを出て行き、階段を駆け上がっていく。どたどたと忙しない足音が家じゅうに響くドラムになって、小鳥たちが笑うように歌い出した。シルバーは賑やかな家の中心で、首をこっくりこっくり揺らしていた。