茨の道中
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頭上に立ち込める暗雲とは異なり、見張る先の森は月光に照らされている。鞘に入ったままの剣がかちゃりと鳴った。
「シルバー。交代だ。お前も少し休め」
「ありがとうございます」
城の見張りを終えたシルバーは冷たい風が頬を撫でる外から場内に入れば、頬の周りが暖かくなるのを感じた。静かな城内に立てた足音を石の壁が反響する。慣れた足取りでシルバーは他の騎士たちが眠って転がっている休憩室に足を運んだ。彼は決まって窓の傍に座るスペースがあるだけの石畳に腰掛ける。月が穏やかに照らす森は、見張りをしている間も静かだった。
「シルバー。何を見ている」
背後からセベクが声をかける。おそらく次の見張り番なのだろう、下ろした前髪を律儀にワックスで固めている。シルバーは視線を森から外すことなく、静かに告げた。
「……ユウは元気だろうかと、考えていた」
「あの人間は逞しいだろう。心配する必要などあるか?」
ふん、と鼻を鳴らしたセベクの肩にそっと寄しかかる手が現れる。
「おいおい、セベク。それくらい分かってやれって」
セベクはおちゃらけた調子の赤髪の青年に目を丸くした。彼の隣に深い緑の髪をした比較的小柄な青年も現れる。ちなみにこの二人はシルバーとセベクと同年代のように見えて、二人の年齢を足して三倍しても届かないほどの長寿である。尖った耳がそれを示していた。
「恋人がいると、離れている方が寂しくて、落ち着かなくなるのさ」
「そうそう。セベクも好きな人ができたらきっとそうなる」
うんうんと二人して頷くさまにセベクは耳まで赤くして吠えた。
「やめてください! 僕はそんな相手要りません!」
「ははっ。照れるなって」
モスグリーンの髪をした青年がアメジストの瞳で、再び窓を見つめだしたシルバーの顔を覗き込んだ。
「シルバー。いつ恋人には会える?」
「明後日には。ただ、明日はマレウス様の護衛があるので、すぐに帰るのは難しいかと」
寂しさが滲んだ言葉に、三人は静かにシルバーの影を背負った背中を見つめる。赤髪の騎士が、シルバーの背中を叩いた。
「なあに。護衛は俺たちがしっかりやっておくさ。お前は、お前のすべきことをしろ」
「そして、シルバーの恋人を紹介してほしい」
ニコニコと見下ろす見慣れた二つの顔に、シルバーははい、と頷いて返す。モスグリーンの髪の騎士は、セベクにねえねえと笑顔で声をかける。もうそろそろ交代の声がかかりそうだからと去ろうとするセベクに彼は聞いた。
「セベクの同級生なんでしょ? どんな子? 可愛い? 色っぽい? お姫様?」
セベクがやれやれと天を見上げて両掌を彼に向けた。降参を見せたセベクの返事を彼はじっと待つ。セベクはポケットの手袋を手に取った。
「真面目さが取り柄の頑固者です」
「へー、セベクが珍しく褒めてる」
「褒めていません!」
ばっと手袋をはめて抗議したセベクを放って、赤髪の騎士はまた窓を見ている銀の髪に語りかけた。
「シルバー。どんな人だ?」
「……俺の傍がいいと言ってくれる、優しい女性です」
ユウのことを口にしただけで、普段感情をあらわにしない彼が緩く口角を上げている。その様に二人の騎士はほお、と意味ありげに笑った。
「シルバーがそんな風に笑って話す相手ねぇ……。本当に会ってみたくなったかも」
「今度、騎士団で宴を開く。その時に、彼女も連れて来い。歓迎するぞ」
笑顔でユウに招待するよう告げる二人の騎士に、シルバーは分かりましたと頷く。そろそろ交代しろ、との号令がかかり、セベクは足早に休憩室から去った。
「シルバー。交代だ。お前も少し休め」
「ありがとうございます」
城の見張りを終えたシルバーは冷たい風が頬を撫でる外から場内に入れば、頬の周りが暖かくなるのを感じた。静かな城内に立てた足音を石の壁が反響する。慣れた足取りでシルバーは他の騎士たちが眠って転がっている休憩室に足を運んだ。彼は決まって窓の傍に座るスペースがあるだけの石畳に腰掛ける。月が穏やかに照らす森は、見張りをしている間も静かだった。
「シルバー。何を見ている」
背後からセベクが声をかける。おそらく次の見張り番なのだろう、下ろした前髪を律儀にワックスで固めている。シルバーは視線を森から外すことなく、静かに告げた。
「……ユウは元気だろうかと、考えていた」
「あの人間は逞しいだろう。心配する必要などあるか?」
ふん、と鼻を鳴らしたセベクの肩にそっと寄しかかる手が現れる。
「おいおい、セベク。それくらい分かってやれって」
セベクはおちゃらけた調子の赤髪の青年に目を丸くした。彼の隣に深い緑の髪をした比較的小柄な青年も現れる。ちなみにこの二人はシルバーとセベクと同年代のように見えて、二人の年齢を足して三倍しても届かないほどの長寿である。尖った耳がそれを示していた。
「恋人がいると、離れている方が寂しくて、落ち着かなくなるのさ」
「そうそう。セベクも好きな人ができたらきっとそうなる」
うんうんと二人して頷くさまにセベクは耳まで赤くして吠えた。
「やめてください! 僕はそんな相手要りません!」
「ははっ。照れるなって」
モスグリーンの髪をした青年がアメジストの瞳で、再び窓を見つめだしたシルバーの顔を覗き込んだ。
「シルバー。いつ恋人には会える?」
「明後日には。ただ、明日はマレウス様の護衛があるので、すぐに帰るのは難しいかと」
寂しさが滲んだ言葉に、三人は静かにシルバーの影を背負った背中を見つめる。赤髪の騎士が、シルバーの背中を叩いた。
「なあに。護衛は俺たちがしっかりやっておくさ。お前は、お前のすべきことをしろ」
「そして、シルバーの恋人を紹介してほしい」
ニコニコと見下ろす見慣れた二つの顔に、シルバーははい、と頷いて返す。モスグリーンの髪の騎士は、セベクにねえねえと笑顔で声をかける。もうそろそろ交代の声がかかりそうだからと去ろうとするセベクに彼は聞いた。
「セベクの同級生なんでしょ? どんな子? 可愛い? 色っぽい? お姫様?」
セベクがやれやれと天を見上げて両掌を彼に向けた。降参を見せたセベクの返事を彼はじっと待つ。セベクはポケットの手袋を手に取った。
「真面目さが取り柄の頑固者です」
「へー、セベクが珍しく褒めてる」
「褒めていません!」
ばっと手袋をはめて抗議したセベクを放って、赤髪の騎士はまた窓を見ている銀の髪に語りかけた。
「シルバー。どんな人だ?」
「……俺の傍がいいと言ってくれる、優しい女性です」
ユウのことを口にしただけで、普段感情をあらわにしない彼が緩く口角を上げている。その様に二人の騎士はほお、と意味ありげに笑った。
「シルバーがそんな風に笑って話す相手ねぇ……。本当に会ってみたくなったかも」
「今度、騎士団で宴を開く。その時に、彼女も連れて来い。歓迎するぞ」
笑顔でユウに招待するよう告げる二人の騎士に、シルバーは分かりましたと頷く。そろそろ交代しろ、との号令がかかり、セベクは足早に休憩室から去った。