茨の道中
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リリアに連れてこられたユウは森の中にひっそりと佇む古い民家を見上げていた。彼女のいた世界には煙突などなかったからだ。
「ここが……。あまりお城から離れていないんですね」
「まあな。その方がお主にとっても、シルバーにとっても都合がいいじゃろ」
にやりと笑ったリリアに、ユウは照れ臭く笑って返す。シルバーと距離が離れるのは仕方のないことだと思っていたため、これほど近いのは幸運と呼んでもいい程だった。
ユウはさっそく民家に入ろうと足を踏み出した時、リリアがマジカルペンを構えながらキャリーケースに呪文を唱えた。すると、キャリーケースはひとりでに家の中へ入り、衣服はクローゼットへ、勉強道具は机へ、洗面用具は水場へと動き出した。同時に埃っぽかった室内を、るんるんと箒が水の入ったバケツと雑巾と一緒にダンスをしながら掃除を始める。
あっという間の出来事にリリアを見たユウは口をぽかんと開けていて、リリアはサービスじゃ、と悪戯に笑った。そしてユウの鼻先に三本の指を立てて突き付けた。
「それとユウ。三日の辛抱じゃ」
「え、何のことでしょう」
目を丸くしたユウにリリアはいたって真面目な表情で、右腕の肘を左手で抱えながら右の掌を天に向けた。
「これから、シルバーは騎士団の着任とマレウスの護衛に就く。その間お主はここでの人間の匂いを落としてもらう。言っておくが、城に入るにはそれが前提条件じゃ」
「前提条件……」
ぼんやりと呟いたユウに、リリアは肩を竦め、苦笑を返した。
「人間を良く思わないものが妖精族の中にも一定以上おる。そ奴らにお主のことを認めさせるためにも、お主には頑張ってもらわなければならん。長旅が明けたばかりですまんが、なに、ホリデーが明けるまでの話じゃ。お主ならできる」
にっこりと笑って安心を与えてくれるリリアに、ユウは力強く返事を返す。まあ、ユウに万が一にでも危害を加えようとする者が現れるなら、このリリア・ヴァンルージュが相手になる心づもりではあるのだが。全く人に頼るという選択肢を持とうとしない彼女の自立心に恐れ入ったリリアは、しばらく彼女の様子をシルバーのためにも観察して報告しようと決めた。
「匂いが変わるために食べ物もこちらで指定したものを食すように。不用意に人間の食べ物を食すと、匂いが戻ってしまうから気を付けるようにな」
「かしこまりました」
「三日たてば、シルバーはこちらに顔を出すじゃろう。その時に存分に甘やかしてもらうが良い」
リリアの色気をたっぷり含んだ物言いにユウは耳まで顔を真っ赤にした。
「り……リリア先輩!」
くははは! と口を開けて笑ったリリアは、飛び上がって照れて怒ったユウの頭を撫でた。
「そうムキになるな。愛らしさが増すだけじゃぞ」
*
ユウはそれからリリアの言いつけ通り、指定された食べ物のみを食べるようになった。そのほとんどは木の実だったり、ハーブだったり、肉であったりと素材をそのまま使うオーガニック重視なのだなとユウは料理しながら思っていた。リリアの言う人間の食べ物とは人工調味料などで味付けされたものを言うらしい。あとは着色料、保存料が入っているものも含まれるとこの民家の棚で眠っていた文献を読んで知った。
シルバーに会えない間、彼女は茨の谷の知識を少しでもつけようと本を読んだり、洗濯、料理、掃除と授業がない日にオンボロ寮でしていたこととさほど変わらないことをしていた。ユウはシルバーに会いたい思いを募らせ、手紙の一つでも書こうかと考えた。しかし人間の匂いが取れるまではそもそも何もできないので、お城を見ることしかできないという結論に至った。
そんな我慢ももう明日の朝で終わりだとユウは夜の城を眺めた。真っ暗で時々緑の雷が雲の中で走る。どの窓にシルバーはいるのだろう、とユウが城の窓一つ一つを確認していく。人影は見えるが、生憎ユウには優れた視力はない。彼女は全く見つけられないことを残念に思いながらも、明日会える楽しみで胸が高鳴っていた。そのまま彼女は窓の戸を閉め、隙間風が吹く穴に布を刺しこんだ。
「ここが……。あまりお城から離れていないんですね」
「まあな。その方がお主にとっても、シルバーにとっても都合がいいじゃろ」
にやりと笑ったリリアに、ユウは照れ臭く笑って返す。シルバーと距離が離れるのは仕方のないことだと思っていたため、これほど近いのは幸運と呼んでもいい程だった。
ユウはさっそく民家に入ろうと足を踏み出した時、リリアがマジカルペンを構えながらキャリーケースに呪文を唱えた。すると、キャリーケースはひとりでに家の中へ入り、衣服はクローゼットへ、勉強道具は机へ、洗面用具は水場へと動き出した。同時に埃っぽかった室内を、るんるんと箒が水の入ったバケツと雑巾と一緒にダンスをしながら掃除を始める。
あっという間の出来事にリリアを見たユウは口をぽかんと開けていて、リリアはサービスじゃ、と悪戯に笑った。そしてユウの鼻先に三本の指を立てて突き付けた。
「それとユウ。三日の辛抱じゃ」
「え、何のことでしょう」
目を丸くしたユウにリリアはいたって真面目な表情で、右腕の肘を左手で抱えながら右の掌を天に向けた。
「これから、シルバーは騎士団の着任とマレウスの護衛に就く。その間お主はここでの人間の匂いを落としてもらう。言っておくが、城に入るにはそれが前提条件じゃ」
「前提条件……」
ぼんやりと呟いたユウに、リリアは肩を竦め、苦笑を返した。
「人間を良く思わないものが妖精族の中にも一定以上おる。そ奴らにお主のことを認めさせるためにも、お主には頑張ってもらわなければならん。長旅が明けたばかりですまんが、なに、ホリデーが明けるまでの話じゃ。お主ならできる」
にっこりと笑って安心を与えてくれるリリアに、ユウは力強く返事を返す。まあ、ユウに万が一にでも危害を加えようとする者が現れるなら、このリリア・ヴァンルージュが相手になる心づもりではあるのだが。全く人に頼るという選択肢を持とうとしない彼女の自立心に恐れ入ったリリアは、しばらく彼女の様子をシルバーのためにも観察して報告しようと決めた。
「匂いが変わるために食べ物もこちらで指定したものを食すように。不用意に人間の食べ物を食すと、匂いが戻ってしまうから気を付けるようにな」
「かしこまりました」
「三日たてば、シルバーはこちらに顔を出すじゃろう。その時に存分に甘やかしてもらうが良い」
リリアの色気をたっぷり含んだ物言いにユウは耳まで顔を真っ赤にした。
「り……リリア先輩!」
くははは! と口を開けて笑ったリリアは、飛び上がって照れて怒ったユウの頭を撫でた。
「そうムキになるな。愛らしさが増すだけじゃぞ」
*
ユウはそれからリリアの言いつけ通り、指定された食べ物のみを食べるようになった。そのほとんどは木の実だったり、ハーブだったり、肉であったりと素材をそのまま使うオーガニック重視なのだなとユウは料理しながら思っていた。リリアの言う人間の食べ物とは人工調味料などで味付けされたものを言うらしい。あとは着色料、保存料が入っているものも含まれるとこの民家の棚で眠っていた文献を読んで知った。
シルバーに会えない間、彼女は茨の谷の知識を少しでもつけようと本を読んだり、洗濯、料理、掃除と授業がない日にオンボロ寮でしていたこととさほど変わらないことをしていた。ユウはシルバーに会いたい思いを募らせ、手紙の一つでも書こうかと考えた。しかし人間の匂いが取れるまではそもそも何もできないので、お城を見ることしかできないという結論に至った。
そんな我慢ももう明日の朝で終わりだとユウは夜の城を眺めた。真っ暗で時々緑の雷が雲の中で走る。どの窓にシルバーはいるのだろう、とユウが城の窓一つ一つを確認していく。人影は見えるが、生憎ユウには優れた視力はない。彼女は全く見つけられないことを残念に思いながらも、明日会える楽しみで胸が高鳴っていた。そのまま彼女は窓の戸を閉め、隙間風が吹く穴に布を刺しこんだ。