茨の道中
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シルバーたちが荷物を馬車に載せている間、外の景色を楽しむがいいと言われたユウは目の前の白銀の世界に目を輝かせていた。黒い森に粉砂糖でもまぶされたような、視界に強烈なコントラストを与える地上に加えて、空の澄んだ青が彼女の目を奪う。
ユウは迷わず雪の中に飛び込んだ。このコートは魔法の糸で編まれたものらしく、糸の一本一本が彼女をあらゆるものから守るのだそうだ。だから、コートは雪に濡れることもなく、彼女の肌にその冷たさが触れることを許さなかった。
「わあ! 雪ですよ!」
「そう喜んでもらえるとは、連れてきたかいがある。存分に楽しむがよい」
「あはは! すごーい! 沈んじゃう!」
まるで雪を初めて見た犬のようだとリリアが目を細めると、セベクがこめかみに青筋を立てながら叱りつけた。
「子どものように喚くな! はぐれたら大変だろう!」
「大丈夫! ここでしか、はしゃがないから!」
きゃっきゃと雪と戯れているユウに呆れてものも言えないとセベクが最後の荷物を載せる。旅路の安全確認から戻ってきたシルバーは、リリアに道は安全であると報告を済ませると、雪の中ではしゃいでいたユウが身動きを止めた。シルバーが何かあったのだろうかと近づけば、ユウは天を見上げて流れていく雲を眺めていた。
「大丈夫か?」
「ふふ、先輩が入ると景色が100億倍綺麗になりますね」
「そうか」
にこにこと喜んでいる様子のユウに、シルバーは微笑み返した。遠くでセベクがもうじき出立だと号令をかけている。シルバーは倒れこんでいるユウに手を出した。
「そろそろ行かないと到着が遅れる。行くぞ」
「よっと」
ユウは勢いで上体を起こすと、お尻の部分がずぼりと深みにはまった。思いもよらぬ事態にユウは慌てふためいた。膝下を振りながら何度も雪の地面を押すが、徐々に腕が雪の中に沈みこんでいく。
「きゃっ! ちょっと、はまって抜けない……!」
「何をしているんだ! 遅いぞ!」
セベクが急かす声に焦ったユウは目の前の恋人に、申し訳なさでいっぱいになりながら潤んだ瞳で見上げた。
「すいません……。先輩助けてください」
「手を出せ」
ユウは言われた通り手を出す。シルバーは何とか伸ばされたその腕を掴んで、引き上げた。無事に立ちあがれてほっとしたのも束の間、ユウは膝の裏から腕を入れられ持ち上げられる。シルバーがお姫様抱っこしてくれたことに、ユウは頬に熱が集まるのを感じた。
「いや……ここまでせずとも」
申し訳なさから下ろすよう言うが、シルバーの視線はセベクたちが待つ城の門だ。雪除けの魔法をかけているのか、シルバーはサクサクと前に進んでいた。
「雪に足を取られて体力を消耗すると、この先の旅に支障が出る」
「はい……」
シルバーの正論にユウは自分の浅はかさを反省した。ただでさえ体力も魔力もこのパーティの中では最もない上に、転送魔法では酔うという体質のせいで迷惑をかけている。それなのに心配ばかりかけてどうするんだと、ユウはうなだれた。それに、と続けられた言葉でユウがそっと見上げれば、シルバーは熱の籠った瞳を彼女に向けていた。
「茨の谷に着けば、お前としばらく会えない。もう少しだけ、こうさせてほしい」
ぎゅっと抱える腕が強くなったのを感じて、ユウはシルバーの胸元に縋りついた。茨の谷に着けばしばらくシルバーと会えないことも辛いが、なにより不意にそうやって寂しい顔をされるのがユウの心臓を締め付けた。
無事馬車に辿り着いた二人に、リリアは目を丸くして言った。
「なんじゃ、もう少し二人でゆっくりしても良かったんじゃぞ」
「いえ、マレウス様の護衛のこともあります。先を急ぎましょう」
「おぬしは固いのシルバー。ユウはいいのか?」
不満そうなリリアがため息をついて腕を組むと、ユウはお姫様抱っこをされたまま頬を赤らめた。
「先輩にお姫様抱っこされたので、十分です」
その返答にリリアは口を大きく開けて笑った。
「くはは! 我が息子の恋人は可愛いものじゃな!」
ユウは迷わず雪の中に飛び込んだ。このコートは魔法の糸で編まれたものらしく、糸の一本一本が彼女をあらゆるものから守るのだそうだ。だから、コートは雪に濡れることもなく、彼女の肌にその冷たさが触れることを許さなかった。
「わあ! 雪ですよ!」
「そう喜んでもらえるとは、連れてきたかいがある。存分に楽しむがよい」
「あはは! すごーい! 沈んじゃう!」
まるで雪を初めて見た犬のようだとリリアが目を細めると、セベクがこめかみに青筋を立てながら叱りつけた。
「子どものように喚くな! はぐれたら大変だろう!」
「大丈夫! ここでしか、はしゃがないから!」
きゃっきゃと雪と戯れているユウに呆れてものも言えないとセベクが最後の荷物を載せる。旅路の安全確認から戻ってきたシルバーは、リリアに道は安全であると報告を済ませると、雪の中ではしゃいでいたユウが身動きを止めた。シルバーが何かあったのだろうかと近づけば、ユウは天を見上げて流れていく雲を眺めていた。
「大丈夫か?」
「ふふ、先輩が入ると景色が100億倍綺麗になりますね」
「そうか」
にこにこと喜んでいる様子のユウに、シルバーは微笑み返した。遠くでセベクがもうじき出立だと号令をかけている。シルバーは倒れこんでいるユウに手を出した。
「そろそろ行かないと到着が遅れる。行くぞ」
「よっと」
ユウは勢いで上体を起こすと、お尻の部分がずぼりと深みにはまった。思いもよらぬ事態にユウは慌てふためいた。膝下を振りながら何度も雪の地面を押すが、徐々に腕が雪の中に沈みこんでいく。
「きゃっ! ちょっと、はまって抜けない……!」
「何をしているんだ! 遅いぞ!」
セベクが急かす声に焦ったユウは目の前の恋人に、申し訳なさでいっぱいになりながら潤んだ瞳で見上げた。
「すいません……。先輩助けてください」
「手を出せ」
ユウは言われた通り手を出す。シルバーは何とか伸ばされたその腕を掴んで、引き上げた。無事に立ちあがれてほっとしたのも束の間、ユウは膝の裏から腕を入れられ持ち上げられる。シルバーがお姫様抱っこしてくれたことに、ユウは頬に熱が集まるのを感じた。
「いや……ここまでせずとも」
申し訳なさから下ろすよう言うが、シルバーの視線はセベクたちが待つ城の門だ。雪除けの魔法をかけているのか、シルバーはサクサクと前に進んでいた。
「雪に足を取られて体力を消耗すると、この先の旅に支障が出る」
「はい……」
シルバーの正論にユウは自分の浅はかさを反省した。ただでさえ体力も魔力もこのパーティの中では最もない上に、転送魔法では酔うという体質のせいで迷惑をかけている。それなのに心配ばかりかけてどうするんだと、ユウはうなだれた。それに、と続けられた言葉でユウがそっと見上げれば、シルバーは熱の籠った瞳を彼女に向けていた。
「茨の谷に着けば、お前としばらく会えない。もう少しだけ、こうさせてほしい」
ぎゅっと抱える腕が強くなったのを感じて、ユウはシルバーの胸元に縋りついた。茨の谷に着けばしばらくシルバーと会えないことも辛いが、なにより不意にそうやって寂しい顔をされるのがユウの心臓を締め付けた。
無事馬車に辿り着いた二人に、リリアは目を丸くして言った。
「なんじゃ、もう少し二人でゆっくりしても良かったんじゃぞ」
「いえ、マレウス様の護衛のこともあります。先を急ぎましょう」
「おぬしは固いのシルバー。ユウはいいのか?」
不満そうなリリアがため息をついて腕を組むと、ユウはお姫様抱っこをされたまま頬を赤らめた。
「先輩にお姫様抱っこされたので、十分です」
その返答にリリアは口を大きく開けて笑った。
「くはは! 我が息子の恋人は可愛いものじゃな!」