茨の道中
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ユウたちは闇の鏡によって茨の谷の国境から数キロ入った山奥で下ろしてもらっていた。例年なら転送魔法一つで飛んで行けるのだが、そうしなかった理由は二つある。一つは転送魔法自体が術者に負荷の大きい魔法だからだ。その上この魔法は茨の谷へ持ち込む荷物もといお土産を持っていけるほどの強度はなかったため、闇の鏡を経由することになった。二つ目は、魔法も全く使えないユウがこの帰省についてくるからだ。その上ユウは転送魔法だと酔ってしまう体質らしく、体調でも崩してせっかくのホリデーが台無しになってはいけないというマレウスをはじめとするディアソムニア寮の気遣いで帰省の手順を変えた。
マレウスはどうしてもユウたちについて行きたいと駄々をこねたが、一国の領主となる未来を背負っている彼を危険な目に遭わせるわけにもいかない。ユウが道中の話を聞かせるということで、彼は一足先に城へと向かっていた。
茨の谷はその名の通りで、険しい峡谷に加えて茨に囲まれているからこそ他の勢力に攻め込まれにくく、妖精たちは人間とのいさかいを争いを望まない限り避けることができた。春先にもかかわらず日照時間が少ないために雪深いそこに辿りつくためには、今回用意した馬でも三日ほどかかる。
そのため、道中に危険がないと言い切れないのがこの帰省の特徴でもあった。ユウは目の前の一つ目の鬼サイクロプスと目が合って、それを確信した。急いで馬に進路変更を手綱で伝え、引き返すがサイクロプスはそのままついてくる。足音が雪崩のような轟音を立てて近づいてきた。
「させるか!」
緑の雷がサイクロプスの足に直撃するが、かすり傷一つ浴びせられない。箒に乗りながらサイクロプスを追いかけるセベクは、舌打ちをした。しかし、光で目が眩んだサイクロプスの隙をついて、シルバーは茨を雪原から出現させ、その棘を象のような足に絡めた。痛みに苦しんだサイクロプスが片膝をついて、歩みを止める。
「親父殿。今です」
「あいわかった」
リリアがマジカルペンを天に向け、その頭上に重力の塊ともいえる無属性の魔法を生み出した。木の葉や雪が舞い上がり、サイクロプスはたった一つしかないその目で巨大な魔力の渦を捉えた。
「わしのおやつはやらんぞ! 一つ目!」
轟音と共に鳥が羽ばたき、緑の閃光がユウの視界を奪った。離れたところでシルバーたちを見守っていた彼女は、そっと目を開ける。そこにはクレーターのように抉れた大地とその中心で眠っているサイクロプスがいた。
「ユウ、大丈夫か?」
彼女の傍に下りてきたシルバーが駆け寄ってくる。ユウは何ともないと答え、再びリリアが放った魔法の威力をクレーターを見つめて感じていた。
「リリア先輩、凄いですね」
「ああ。本来なら俺とセベクで片づけなければいけないところを、おひとりで済ませてしまった」
寂しい響きを含んだその声にユウがそんなことはないと言おうとすると、リリアの明るい声が近づいてきた。
「ユウ! 大丈夫か?」
恋人とまったく同じことを聞いてくるリリアに思わず笑ってしまったユウは、しっかり頷いた。リリアはクレーターの中心で眠っているサイクロプスを見たあと、降りてきたセベクとシルバーに近づき、頭を出せという。
まさかこれは怒られてしまうのだろうか、とシルバーとセベクがこめかみに冷汗をかきながらお辞儀してリリアに頭を差し出す。リリアはその頭を掻き抱いて笑った。
「よくやった! サイクロプス相手に見事な連携じゃったぞ!」
とても嬉しそうにするリリアの様子にあっけを取られたのは一瞬で、セベクが大声でありがとうございます! と言い、シルバーは嬉しそうにはにかんだ。
「巨人すらも軽くいなせるようになったとは、我が子の成長はかくも早い。嬉しいぞ」
そんな和やかな風景にユウが胸を温かくして見ていると、リリアとユウは目が合った。リリアがお主も来んかと手招きをするので、ユウがおずおずと近づけばしっかり頭を撫でられた。
「ユウ、あの状況で冷静な手綱さばき、見事じゃった。荷物も見たところどれも無事じゃろう。助かったぞ」
暖かなリリアの言葉で頬が持ち上がったユウは、口を開けて笑った。
「お役に立てて何よりです!」
マレウスはどうしてもユウたちについて行きたいと駄々をこねたが、一国の領主となる未来を背負っている彼を危険な目に遭わせるわけにもいかない。ユウが道中の話を聞かせるということで、彼は一足先に城へと向かっていた。
茨の谷はその名の通りで、険しい峡谷に加えて茨に囲まれているからこそ他の勢力に攻め込まれにくく、妖精たちは人間とのいさかいを争いを望まない限り避けることができた。春先にもかかわらず日照時間が少ないために雪深いそこに辿りつくためには、今回用意した馬でも三日ほどかかる。
そのため、道中に危険がないと言い切れないのがこの帰省の特徴でもあった。ユウは目の前の一つ目の鬼サイクロプスと目が合って、それを確信した。急いで馬に進路変更を手綱で伝え、引き返すがサイクロプスはそのままついてくる。足音が雪崩のような轟音を立てて近づいてきた。
「させるか!」
緑の雷がサイクロプスの足に直撃するが、かすり傷一つ浴びせられない。箒に乗りながらサイクロプスを追いかけるセベクは、舌打ちをした。しかし、光で目が眩んだサイクロプスの隙をついて、シルバーは茨を雪原から出現させ、その棘を象のような足に絡めた。痛みに苦しんだサイクロプスが片膝をついて、歩みを止める。
「親父殿。今です」
「あいわかった」
リリアがマジカルペンを天に向け、その頭上に重力の塊ともいえる無属性の魔法を生み出した。木の葉や雪が舞い上がり、サイクロプスはたった一つしかないその目で巨大な魔力の渦を捉えた。
「わしのおやつはやらんぞ! 一つ目!」
轟音と共に鳥が羽ばたき、緑の閃光がユウの視界を奪った。離れたところでシルバーたちを見守っていた彼女は、そっと目を開ける。そこにはクレーターのように抉れた大地とその中心で眠っているサイクロプスがいた。
「ユウ、大丈夫か?」
彼女の傍に下りてきたシルバーが駆け寄ってくる。ユウは何ともないと答え、再びリリアが放った魔法の威力をクレーターを見つめて感じていた。
「リリア先輩、凄いですね」
「ああ。本来なら俺とセベクで片づけなければいけないところを、おひとりで済ませてしまった」
寂しい響きを含んだその声にユウがそんなことはないと言おうとすると、リリアの明るい声が近づいてきた。
「ユウ! 大丈夫か?」
恋人とまったく同じことを聞いてくるリリアに思わず笑ってしまったユウは、しっかり頷いた。リリアはクレーターの中心で眠っているサイクロプスを見たあと、降りてきたセベクとシルバーに近づき、頭を出せという。
まさかこれは怒られてしまうのだろうか、とシルバーとセベクがこめかみに冷汗をかきながらお辞儀してリリアに頭を差し出す。リリアはその頭を掻き抱いて笑った。
「よくやった! サイクロプス相手に見事な連携じゃったぞ!」
とても嬉しそうにするリリアの様子にあっけを取られたのは一瞬で、セベクが大声でありがとうございます! と言い、シルバーは嬉しそうにはにかんだ。
「巨人すらも軽くいなせるようになったとは、我が子の成長はかくも早い。嬉しいぞ」
そんな和やかな風景にユウが胸を温かくして見ていると、リリアとユウは目が合った。リリアがお主も来んかと手招きをするので、ユウがおずおずと近づけばしっかり頭を撫でられた。
「ユウ、あの状況で冷静な手綱さばき、見事じゃった。荷物も見たところどれも無事じゃろう。助かったぞ」
暖かなリリアの言葉で頬が持ち上がったユウは、口を開けて笑った。
「お役に立てて何よりです!」