不器用な貴方の守り方
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その翌日の朝、シルバー先輩がお見舞いに来てくれた。と言ってもここは先輩の部屋なわけで、むしろ私が使わせてもらっている立場なのだが。
先輩が何か言いたそうに口を開く。その前に、私の方が先に声を上げていた。
「シルバー先輩……大変、ご迷惑をおかけしました!」
すぐさま土下座をベッドの上でした。本当にシルバー先輩にはたくさんの迷惑と心配をかけた。体中疲れ切っているだろうに、今ここを使わせてもらっているのが申し訳ないくらいだ。
先輩の慌てた声が頭を上げろと言ってくれる。そっと顔を上げると、シルバー先輩はいつの間にか目線を合わせるように膝を折っている。目をぱちぱち瞬きしながら、私に「体はもう大丈夫か?」と聞いてくれた。ああ、この優しさが恋しかった。先輩はやっぱり優しいなぁ。
だから、しっかり私の言葉で今の気持ちを伝えたい。もう二度と悲しい顔を先輩にさせないために。
真っ直ぐオーロラシルバーの瞳を見返して、腹の底から声を出した。
「それと、私は今死んでまで家族に会いたいとは思っていません」
先輩は知らないんでしょうけど、私には貴方という居場所がある。シルバー先輩が私に教えてくれたんですよ。
そっと微笑んで正座のまま姿勢を正す。この提案が受け入れられるのかは分からないけれど、今できることは今尽くすしかない。そんな姿勢を貴方がしてきたから、私も見習いたいんだ。
「今は、とりあえず元の世界に行く方法を探しながら、これからもシルバー先輩と一緒にこの先もいたいんです。……そ、それじゃダメですか?」
自信がなくて思わず先輩に聞き返してしまった。恥ずかしさで俯いたその瞬間、確かな重みと共にシルバー先輩の銀髪が目の前で揺れた。咄嗟に抱え込んできた体を抱きしめると、シルバー先輩の腕がぎゅうぎゅうと苦しいくらいに締め付けてくる。
「ダメなわけがないだろう」
ああ、よかった。思わず出てきたため息に、自分でも思った以上に緊張していることを自覚して笑ってしまった。ぽん、と一度先輩の大きくて暖かい背中を叩く。
「よかった。怒られるかと思ってました」
「俺はお前に失礼なことを言った。怒る資格もない」
腕を体に回しながら身体を離した先輩は、辛そうに眉を寄せて私の頬を撫でた。制服姿なのに手袋をはめないから、直に伝わるぬくもりが心地よい。
「俺は自分を抑えられなかった。お前が家族の元に逝こうとするなら、きっとお前も俺自身も許せなくなる」
きゅっと唇を引き結んだ先輩の瞳が一瞬揺れたと同時にまた抱きしめられる。今度はそっと壊れ物にでも触るような優しい抱き方だから、ドキドキする心臓が伝わりそうで急に心拍数が上がった。
「……怖かったんだ。お前を喪うのが」
耳元でささやかれた声は細かく震えている。その言葉を聞くと同時に、先輩の腕がまたぎゅうっと締め付けてきた。苦しくてたまらないのに、自分の体も先輩の震えが伝わったかのようにぶるぶる震え出した。
「ユウ、おこがましい願いだと分かっている。だが、頼む。どこにも行かないでくれ」
掠れるような声で囁かれた懇願が、胸を突き刺した。ボロボロと零れだした涙が止まらなくて、先輩と離れなくていいようにぎゅっと体を押し付けて、背中に添えていただけの手で先輩の制服にしがみついた。
私は先輩に、家族を亡くした私の辛い思いをさせるところだったんだ。きっと私は、先輩が死んじゃいそうになったら気が狂う。怖くて怖くて、きっともう誰かを愛することも怖くなる。
そんな怖い思いを今までさせていたことへの後悔と自責、先輩が必死に耐えてくれた今を愛おしく思った。
「先輩に怖い思いをさせて……ごめんなさい。も、もう、無茶しませんから」
「なぜお前も泣く?」
震えている声に気が付いた先輩が、そっと必要最低限の隙間だけを作って体を離し、私の目元を拭った。よくよく見れば、先輩の頬には雫が伝った後があった。溢れても収まらない涙を拭う先輩の手を両手で包んだ。
「だって、私が先輩の立場だったら、怖くて怖くて……そんな怖い思いをさせていたと思ったら、涙が出てきました」
先輩は一瞬固まると、緩く口角を上げた。笑い事じゃないのに、なんで笑っているんだこの人は。さっきまで辛い思いをしていたのに、なぜ笑えるんだろう。
先輩の手つきはますます優しくなって、しっとりとした優しい光を宿しながら私を瞳に映している。
「お前は不思議な奴だな」
「変ですか?」
「いいや。すべてが愛おしい」
左の頬にそっと手が添えられる。それが合図だと体はいつの間にか覚えたのか、私は瞼を下ろした。未だ先輩の顔を見ながら近づくのは恥ずかしくてできないのだ。
そっと唇に触れたぬくもりに苦しいくらいの愛おしさが溢れて、縋るようにまた先輩のシャツにしがみついた。私の背中に回った先輩の腕は、少しの隙間も許さないというようにきつくなった。
先輩が何か言いたそうに口を開く。その前に、私の方が先に声を上げていた。
「シルバー先輩……大変、ご迷惑をおかけしました!」
すぐさま土下座をベッドの上でした。本当にシルバー先輩にはたくさんの迷惑と心配をかけた。体中疲れ切っているだろうに、今ここを使わせてもらっているのが申し訳ないくらいだ。
先輩の慌てた声が頭を上げろと言ってくれる。そっと顔を上げると、シルバー先輩はいつの間にか目線を合わせるように膝を折っている。目をぱちぱち瞬きしながら、私に「体はもう大丈夫か?」と聞いてくれた。ああ、この優しさが恋しかった。先輩はやっぱり優しいなぁ。
だから、しっかり私の言葉で今の気持ちを伝えたい。もう二度と悲しい顔を先輩にさせないために。
真っ直ぐオーロラシルバーの瞳を見返して、腹の底から声を出した。
「それと、私は今死んでまで家族に会いたいとは思っていません」
先輩は知らないんでしょうけど、私には貴方という居場所がある。シルバー先輩が私に教えてくれたんですよ。
そっと微笑んで正座のまま姿勢を正す。この提案が受け入れられるのかは分からないけれど、今できることは今尽くすしかない。そんな姿勢を貴方がしてきたから、私も見習いたいんだ。
「今は、とりあえず元の世界に行く方法を探しながら、これからもシルバー先輩と一緒にこの先もいたいんです。……そ、それじゃダメですか?」
自信がなくて思わず先輩に聞き返してしまった。恥ずかしさで俯いたその瞬間、確かな重みと共にシルバー先輩の銀髪が目の前で揺れた。咄嗟に抱え込んできた体を抱きしめると、シルバー先輩の腕がぎゅうぎゅうと苦しいくらいに締め付けてくる。
「ダメなわけがないだろう」
ああ、よかった。思わず出てきたため息に、自分でも思った以上に緊張していることを自覚して笑ってしまった。ぽん、と一度先輩の大きくて暖かい背中を叩く。
「よかった。怒られるかと思ってました」
「俺はお前に失礼なことを言った。怒る資格もない」
腕を体に回しながら身体を離した先輩は、辛そうに眉を寄せて私の頬を撫でた。制服姿なのに手袋をはめないから、直に伝わるぬくもりが心地よい。
「俺は自分を抑えられなかった。お前が家族の元に逝こうとするなら、きっとお前も俺自身も許せなくなる」
きゅっと唇を引き結んだ先輩の瞳が一瞬揺れたと同時にまた抱きしめられる。今度はそっと壊れ物にでも触るような優しい抱き方だから、ドキドキする心臓が伝わりそうで急に心拍数が上がった。
「……怖かったんだ。お前を喪うのが」
耳元でささやかれた声は細かく震えている。その言葉を聞くと同時に、先輩の腕がまたぎゅうっと締め付けてきた。苦しくてたまらないのに、自分の体も先輩の震えが伝わったかのようにぶるぶる震え出した。
「ユウ、おこがましい願いだと分かっている。だが、頼む。どこにも行かないでくれ」
掠れるような声で囁かれた懇願が、胸を突き刺した。ボロボロと零れだした涙が止まらなくて、先輩と離れなくていいようにぎゅっと体を押し付けて、背中に添えていただけの手で先輩の制服にしがみついた。
私は先輩に、家族を亡くした私の辛い思いをさせるところだったんだ。きっと私は、先輩が死んじゃいそうになったら気が狂う。怖くて怖くて、きっともう誰かを愛することも怖くなる。
そんな怖い思いを今までさせていたことへの後悔と自責、先輩が必死に耐えてくれた今を愛おしく思った。
「先輩に怖い思いをさせて……ごめんなさい。も、もう、無茶しませんから」
「なぜお前も泣く?」
震えている声に気が付いた先輩が、そっと必要最低限の隙間だけを作って体を離し、私の目元を拭った。よくよく見れば、先輩の頬には雫が伝った後があった。溢れても収まらない涙を拭う先輩の手を両手で包んだ。
「だって、私が先輩の立場だったら、怖くて怖くて……そんな怖い思いをさせていたと思ったら、涙が出てきました」
先輩は一瞬固まると、緩く口角を上げた。笑い事じゃないのに、なんで笑っているんだこの人は。さっきまで辛い思いをしていたのに、なぜ笑えるんだろう。
先輩の手つきはますます優しくなって、しっとりとした優しい光を宿しながら私を瞳に映している。
「お前は不思議な奴だな」
「変ですか?」
「いいや。すべてが愛おしい」
左の頬にそっと手が添えられる。それが合図だと体はいつの間にか覚えたのか、私は瞼を下ろした。未だ先輩の顔を見ながら近づくのは恥ずかしくてできないのだ。
そっと唇に触れたぬくもりに苦しいくらいの愛おしさが溢れて、縋るようにまた先輩のシャツにしがみついた。私の背中に回った先輩の腕は、少しの隙間も許さないというようにきつくなった。