不器用な貴方の守り方
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リリアの朝は遅い。それは愛する息子の恋人の意識を取り戻すためにオンラインゲームを放棄し、授業の時間も費やして文献をあさったり実験を繰り返していたせいだ。目の下のクマをセベクとシルバーに心配されたが、それもここ三日意識の戻らなかったユウの看病に付きっきりだったシルバーに比べれば大したことではない。
むしろ、シルバーは人間の身でありながら命でも削るようにつきっきりで自らの体調を顧みず傍を離れようとはしないから、リリアが無理やり魔法で眠らせたくらいだ。こういう時だけ、シルバーの居眠り体質が功を奏したと思った。
しかし、緊急とはいえシルバーがユウにかけた古の魔法は未完成だ。本来なら痛みは一日で済む所をシルバーが自らの焦りで細かい部分の詠唱や手順を抜かしたおかげで、ユウは痛み止めの魔法がなければ気絶するような痛みを与えられていた。そこはマレウスがある程度調整をしてくれたおかげで、彼女が意識を取り戻しても気絶しなかったのだが。マレウスを上手く補佐するための痛み止めにかけた集中力と魔力は、今後しばらく回復するのに時間がかかりそうだ。
今日はホリデーも近づき、授業もないせいか、生徒のほとんどは太陽が天高く昇るこの時間帯にディアソムニア寮にいなかった。さて、恋人の様子をそろそろ見に行っている頃だろうとリリアが談話室にクマを作った顔で出せば、シルバーは談話室のソファで眠っていた。ユウが寝ているのはシルバーの部屋なのだから、てっきりあの椅子やベッドで仲睦まじく寝ているものだと思っていたのだが、息子の様子を見るにそうでもないらしい。
リリアは眠っているシルバーの肩をゆすって起こした。眠たそうなシルバーはリリアを視認するとすぐさま立ちあがって、姿勢を正す。それに対してリリアが良いから座れと言うのは、ここディアソムニア寮ではおなじみの光景だ。
「シルバー、ユウの所に顔を出さんのか?」
「……しばらく、顔も見たくないと言われましたから」
もしシルバーに犬の耳としっぽがついていたなら、間違いなく耳と尾は垂れているだろう。あまりに落ち込んだ様子のシルバーに、リリアは何があったんじゃと尋ねた。そしてその訳を聞いたリリアは、こめかみの血管がことごとく千切れんばかりに怒鳴った。
「こんの大馬鹿者!!!」
シルバーはリリアにそう怒鳴られて、面食らった。コウモリの形をした眷属もシルバーの頭をつついて、責め立てる。
「しかし、あんな真似をするなど、正気の沙汰ではないでしょう」
「それはそれじゃ! 家族を亡くした者への礼儀がなっとらんことに、わしは腹を立てておる。『死にたがり』と決めつけ家族に会いたいのではないかと予測するなど、騎士として……恋人としてあってはならん考え方じゃ。今すぐ改めよ」
厳しく戒める声に、シルバーは返す言葉もなかった。昨晩ユウの逆鱗に触れてから、何度も酷いことを言ってしまったと自分を責めては、やはり死にたがりな真似をするユウが悪いとシルバーの頭の中で論が反復横跳びをしていた。しかし、その論争もリリアの言葉で決着がついた。
リリアは一度大きくため息を吐くと、真っ直ぐ彼の本心を見透かすような目でシルバーを見つめた。
「シルバー。少し頭を冷やせ。ユウがお主の元を離れてまで家族に会いたいというなら、とっくの昔にそうしていたはずじゃ。しかし、ユウの幸福な夢にはお主が入っていた。それが何を意味しておるか分かるか」
リリアが分かってほしいと縋るような思いで問いかける。シルバーは首を横に振った。リリアは少しは自分で考えんか、と文句を言うと、コウモリがシルバーの頭に体当たりした。リリアは腰に手を当て、ようく考えるんじゃぞ、とシルバーの鼻先に人差し指を突きつけた。
「夢に入り込むのに親しい仲の者がいいというのは、幸福に結びつきやすいからわしは提案した。そして、あの夢でユウが必要としなければ弾かれたかもしれんのに、お主は存在できた。それはユウが家族の元に逝くよりも、お主を選んだということじゃ。お主はあの娘の生における楔、生きる理由の一つと言っても構わん。それほどに思われておるのに、お主はいまだに手放されることを恐れるか」
リリアの厳しい声が示した一つの事実に、シルバーは自分への落胆と怒りで握りこぶしを作り、俯いた。大きくなったはずの肩があまりにも小さく見えたリリアは、シルバーが一見冷徹ともとられかねない発言をしたその心を知っている。だからこそ、自分の感情で互いを傷つけあってしまった息子とその恋人を思うと堪らなく悲しい気持ちになった。
「のお、シルバー。今は己の弱さと向き合え。その苦しみはお主が強くなるために必要なものじゃ。お主はただユウを喪いたくなかっただけじゃろう?」
リリアの沁みるような温かい声が、シルバーの耳朶に響いた。窓を叩く雨粒のように彼の頬を一筋の涙が伝っていった。
むしろ、シルバーは人間の身でありながら命でも削るようにつきっきりで自らの体調を顧みず傍を離れようとはしないから、リリアが無理やり魔法で眠らせたくらいだ。こういう時だけ、シルバーの居眠り体質が功を奏したと思った。
しかし、緊急とはいえシルバーがユウにかけた古の魔法は未完成だ。本来なら痛みは一日で済む所をシルバーが自らの焦りで細かい部分の詠唱や手順を抜かしたおかげで、ユウは痛み止めの魔法がなければ気絶するような痛みを与えられていた。そこはマレウスがある程度調整をしてくれたおかげで、彼女が意識を取り戻しても気絶しなかったのだが。マレウスを上手く補佐するための痛み止めにかけた集中力と魔力は、今後しばらく回復するのに時間がかかりそうだ。
今日はホリデーも近づき、授業もないせいか、生徒のほとんどは太陽が天高く昇るこの時間帯にディアソムニア寮にいなかった。さて、恋人の様子をそろそろ見に行っている頃だろうとリリアが談話室にクマを作った顔で出せば、シルバーは談話室のソファで眠っていた。ユウが寝ているのはシルバーの部屋なのだから、てっきりあの椅子やベッドで仲睦まじく寝ているものだと思っていたのだが、息子の様子を見るにそうでもないらしい。
リリアは眠っているシルバーの肩をゆすって起こした。眠たそうなシルバーはリリアを視認するとすぐさま立ちあがって、姿勢を正す。それに対してリリアが良いから座れと言うのは、ここディアソムニア寮ではおなじみの光景だ。
「シルバー、ユウの所に顔を出さんのか?」
「……しばらく、顔も見たくないと言われましたから」
もしシルバーに犬の耳としっぽがついていたなら、間違いなく耳と尾は垂れているだろう。あまりに落ち込んだ様子のシルバーに、リリアは何があったんじゃと尋ねた。そしてその訳を聞いたリリアは、こめかみの血管がことごとく千切れんばかりに怒鳴った。
「こんの大馬鹿者!!!」
シルバーはリリアにそう怒鳴られて、面食らった。コウモリの形をした眷属もシルバーの頭をつついて、責め立てる。
「しかし、あんな真似をするなど、正気の沙汰ではないでしょう」
「それはそれじゃ! 家族を亡くした者への礼儀がなっとらんことに、わしは腹を立てておる。『死にたがり』と決めつけ家族に会いたいのではないかと予測するなど、騎士として……恋人としてあってはならん考え方じゃ。今すぐ改めよ」
厳しく戒める声に、シルバーは返す言葉もなかった。昨晩ユウの逆鱗に触れてから、何度も酷いことを言ってしまったと自分を責めては、やはり死にたがりな真似をするユウが悪いとシルバーの頭の中で論が反復横跳びをしていた。しかし、その論争もリリアの言葉で決着がついた。
リリアは一度大きくため息を吐くと、真っ直ぐ彼の本心を見透かすような目でシルバーを見つめた。
「シルバー。少し頭を冷やせ。ユウがお主の元を離れてまで家族に会いたいというなら、とっくの昔にそうしていたはずじゃ。しかし、ユウの幸福な夢にはお主が入っていた。それが何を意味しておるか分かるか」
リリアが分かってほしいと縋るような思いで問いかける。シルバーは首を横に振った。リリアは少しは自分で考えんか、と文句を言うと、コウモリがシルバーの頭に体当たりした。リリアは腰に手を当て、ようく考えるんじゃぞ、とシルバーの鼻先に人差し指を突きつけた。
「夢に入り込むのに親しい仲の者がいいというのは、幸福に結びつきやすいからわしは提案した。そして、あの夢でユウが必要としなければ弾かれたかもしれんのに、お主は存在できた。それはユウが家族の元に逝くよりも、お主を選んだということじゃ。お主はあの娘の生における楔、生きる理由の一つと言っても構わん。それほどに思われておるのに、お主はいまだに手放されることを恐れるか」
リリアの厳しい声が示した一つの事実に、シルバーは自分への落胆と怒りで握りこぶしを作り、俯いた。大きくなったはずの肩があまりにも小さく見えたリリアは、シルバーが一見冷徹ともとられかねない発言をしたその心を知っている。だからこそ、自分の感情で互いを傷つけあってしまった息子とその恋人を思うと堪らなく悲しい気持ちになった。
「のお、シルバー。今は己の弱さと向き合え。その苦しみはお主が強くなるために必要なものじゃ。お主はただユウを喪いたくなかっただけじゃろう?」
リリアの沁みるような温かい声が、シルバーの耳朶に響いた。窓を叩く雨粒のように彼の頬を一筋の涙が伝っていった。