夢破れて正夢となる
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それから『親父殿』すなわちシルバー先輩のお父さんに挨拶をしに行こうということでついて行けばリリア先輩にお付き合いの報告をしたり、マレウス様にも報告をとシルバー先輩に言われ仕方なく会いに行ってみれば意地悪な笑顔でツノ太郎が玉座に座っていたりと、私は理解が追い付かなかった。
「おめでとう人の子」
なーんて、言われたけれど私はそれ以前にマレウス様への嫉妬の話やシルバー先輩への恋心もかのディアソムニア寮寮長に知られていたわけだ。手伝ってくれてもいいじゃないかと文句を言うと、ツノ太郎ははっと鼻で笑った。
「それでは、お前の力で叶えることにならんだろう? 結果的にお前は成し遂げた。それでいいじゃないか」
くそー! ツノ太郎はどこか人の力量測るくせがあると思ったけれど、そういうことだったのか。まんまと彼の掌の上で転がされていたと歯ぎしりを堪えれば、シルバー先輩が私を今まで見たことのない眼で凝視してきた。いや、先輩、そんな目で私を見ないで。
「ユウ、その呼び方は?」
「え? ツノ太郎?」
シルバー先輩はおろおろと私とツノ太郎を交互に見て、不安そうにしている。ツノ太郎は右手を上げて、小さく笑った。
「いい、僕が呼ぶことを許したんだ。なにもお前の恋人に雷を落とそうなどとは考えていない」
そうツノ太郎が言うとシルバー先輩はほっと息をついて、ひざまづいた。うわあ、おとぎ話の世界が目の前で繰り広げられているんですが。セベクが慌てた様子で私に声をかけた。
「ユウ! 若様の前で膝をつかぬとは何事だ!」
「私はツノ太郎の友人であって家来じゃないから、膝はつかないよ」
なんて屁理屈を返せば、ツノ太郎とリリア先輩は大笑いで最終的に咳き込んでいた。そんなに喜んでいるのが不思議だったのか、セベクの背景には宇宙が漂っていた。
*
あとは二人で話しあってくるといいとリリア先輩に言われ、私はシルバー先輩にオンボロ寮まで送ってもらっていた。見上げた先の月は三日月だ。鋭くて刃みたいなそれを一瞬眺めると、シルバー先輩は呟いた。
「ユウは泣き虫なのか」
「え?」
いきなり何の質問なのだ、これは。驚く私に、シルバー先輩は淡々とその根拠を並べた。
「初めて会った時は明るいものだと思っていたが、怒った時やつらい時、さっきの告白でも泣いていただろう」
「そ、それは……」
先輩の前だと安心しているから。
なんて、言ってもいいのだろうか。生意気だと自分でも思うけれど、本当のことだし言っても最悪「ああ、そうか」くらいで終わらせてくれるかもしれない。
意を決して、私の過去を話すことにした。まあ、全部お母さんの受け売りなんだけど。
「昔は泣き虫ユウってあだ名がつくくらい小さい頃は泣き虫だったと母に聞かされたことがあります。今じゃ何も覚えていないんですけど、私が泣いて大騒ぎしたせいで勝手に悪者扱いされた男の子がいたんです。彼は私を泣き止ませようと必死にしてくれていたのに怒られているのを見た私はそれから泣くことをやめたと、母が教えてくれました」
そんな泣き虫を卒業したと思われた私だけど、先輩の前では赤ちゃん返りとは言わないが、どうやら幼いところも見せてしまう位には心を許しているのだろう。自分のことなのに断言できないのが何だか不思議だ。
「だから、先輩の前で泣き虫になれるのは、きっと甘えているんだと思うんです。泣いても、先輩は優しく受け止めてくれるから。そんな先輩だから、私」
言いきらないうちに、先輩に腕を引かれて思わずよろける。一体どうしたんだろうと顔を上げたら、ふに、と形容するのが正しい感触が唇にした。先輩の瞳がすぐそばにあることに思考が停止する。
ようやく離れた時、ドキドキ心臓が鳴り出した。先輩の目がギラギラ光っていて、ちょっとだけ怖いのに逸らせない。
「嬉しい」
今のどこで?! あわわわ何かしでかしたんだろうか。
口を開けては閉めようとしてを繰り返しているうちに、耳に熱が集まってくる。先輩はずっと真剣なまなざしで私を見ると、また近づいてくる。そっと目を閉じたら、また唇にあの感触がした。
先輩はなぜかそのまま私の肩に顔を乗せるようにして、抱きしめてくる。なぜか抱きしめられている私に、先輩は熱っぽい声で耳元に囁いた。
「お前が俺に甘えてくれていると知って……つい、喜んでしまった」
はわわわわわ! なんなんだこの人は……! 恥ずかしすぎて体中がぶるぶる震えてきた。ああ、もう好きが体中に溢れて、腕が自然とシルバー先輩の背中に回る。大きくて暖かいその背中に手を添えただけなのに、シルバー先輩の腕はさらにきつくなった。
「これからも、甘えてほしい」
そんなお願い事、人生で初めてされた。それもシルバー先輩からだなんて、本当に私は夢でも見ているんじゃないかと疑ってしまう。
でも甘えてばかりじゃいられない。先輩にもらった幸せを私も少しずつ、返しきれなかったとしても、返していくんだ。
「せ、先輩も、私を頼ってくださいね」
私ができることなんて本当に小さいことばかりだけれど、と心の中で付け加えると、くすりと耳元で笑い声がした。
「ああ」
安堵したようなその声に、私も静かに笑った。
「おめでとう人の子」
なーんて、言われたけれど私はそれ以前にマレウス様への嫉妬の話やシルバー先輩への恋心もかのディアソムニア寮寮長に知られていたわけだ。手伝ってくれてもいいじゃないかと文句を言うと、ツノ太郎ははっと鼻で笑った。
「それでは、お前の力で叶えることにならんだろう? 結果的にお前は成し遂げた。それでいいじゃないか」
くそー! ツノ太郎はどこか人の力量測るくせがあると思ったけれど、そういうことだったのか。まんまと彼の掌の上で転がされていたと歯ぎしりを堪えれば、シルバー先輩が私を今まで見たことのない眼で凝視してきた。いや、先輩、そんな目で私を見ないで。
「ユウ、その呼び方は?」
「え? ツノ太郎?」
シルバー先輩はおろおろと私とツノ太郎を交互に見て、不安そうにしている。ツノ太郎は右手を上げて、小さく笑った。
「いい、僕が呼ぶことを許したんだ。なにもお前の恋人に雷を落とそうなどとは考えていない」
そうツノ太郎が言うとシルバー先輩はほっと息をついて、ひざまづいた。うわあ、おとぎ話の世界が目の前で繰り広げられているんですが。セベクが慌てた様子で私に声をかけた。
「ユウ! 若様の前で膝をつかぬとは何事だ!」
「私はツノ太郎の友人であって家来じゃないから、膝はつかないよ」
なんて屁理屈を返せば、ツノ太郎とリリア先輩は大笑いで最終的に咳き込んでいた。そんなに喜んでいるのが不思議だったのか、セベクの背景には宇宙が漂っていた。
*
あとは二人で話しあってくるといいとリリア先輩に言われ、私はシルバー先輩にオンボロ寮まで送ってもらっていた。見上げた先の月は三日月だ。鋭くて刃みたいなそれを一瞬眺めると、シルバー先輩は呟いた。
「ユウは泣き虫なのか」
「え?」
いきなり何の質問なのだ、これは。驚く私に、シルバー先輩は淡々とその根拠を並べた。
「初めて会った時は明るいものだと思っていたが、怒った時やつらい時、さっきの告白でも泣いていただろう」
「そ、それは……」
先輩の前だと安心しているから。
なんて、言ってもいいのだろうか。生意気だと自分でも思うけれど、本当のことだし言っても最悪「ああ、そうか」くらいで終わらせてくれるかもしれない。
意を決して、私の過去を話すことにした。まあ、全部お母さんの受け売りなんだけど。
「昔は泣き虫ユウってあだ名がつくくらい小さい頃は泣き虫だったと母に聞かされたことがあります。今じゃ何も覚えていないんですけど、私が泣いて大騒ぎしたせいで勝手に悪者扱いされた男の子がいたんです。彼は私を泣き止ませようと必死にしてくれていたのに怒られているのを見た私はそれから泣くことをやめたと、母が教えてくれました」
そんな泣き虫を卒業したと思われた私だけど、先輩の前では赤ちゃん返りとは言わないが、どうやら幼いところも見せてしまう位には心を許しているのだろう。自分のことなのに断言できないのが何だか不思議だ。
「だから、先輩の前で泣き虫になれるのは、きっと甘えているんだと思うんです。泣いても、先輩は優しく受け止めてくれるから。そんな先輩だから、私」
言いきらないうちに、先輩に腕を引かれて思わずよろける。一体どうしたんだろうと顔を上げたら、ふに、と形容するのが正しい感触が唇にした。先輩の瞳がすぐそばにあることに思考が停止する。
ようやく離れた時、ドキドキ心臓が鳴り出した。先輩の目がギラギラ光っていて、ちょっとだけ怖いのに逸らせない。
「嬉しい」
今のどこで?! あわわわ何かしでかしたんだろうか。
口を開けては閉めようとしてを繰り返しているうちに、耳に熱が集まってくる。先輩はずっと真剣なまなざしで私を見ると、また近づいてくる。そっと目を閉じたら、また唇にあの感触がした。
先輩はなぜかそのまま私の肩に顔を乗せるようにして、抱きしめてくる。なぜか抱きしめられている私に、先輩は熱っぽい声で耳元に囁いた。
「お前が俺に甘えてくれていると知って……つい、喜んでしまった」
はわわわわわ! なんなんだこの人は……! 恥ずかしすぎて体中がぶるぶる震えてきた。ああ、もう好きが体中に溢れて、腕が自然とシルバー先輩の背中に回る。大きくて暖かいその背中に手を添えただけなのに、シルバー先輩の腕はさらにきつくなった。
「これからも、甘えてほしい」
そんなお願い事、人生で初めてされた。それもシルバー先輩からだなんて、本当に私は夢でも見ているんじゃないかと疑ってしまう。
でも甘えてばかりじゃいられない。先輩にもらった幸せを私も少しずつ、返しきれなかったとしても、返していくんだ。
「せ、先輩も、私を頼ってくださいね」
私ができることなんて本当に小さいことばかりだけれど、と心の中で付け加えると、くすりと耳元で笑い声がした。
「ああ」
安堵したようなその声に、私も静かに笑った。