月が天頂にさしかかる前に、リリアはディアソムニア寮に帰ってきた。その帰りを待ちわびていたかのようにマレウスは寮の談話室にある玉座に腰掛け、その両隣にシルバーとセベクは控えていた。
「意外と早く帰ってきたな。リリア」
「なに、ユウがシルバーと楽しく話せていたか、確認して来ただけよ」
　すると、シルバーが一歩前に出て、膝をついた。
「お二人に報告したいことがあります」
「なんだ？　話してみろ」
　マレウスの勧めもあって、シルバーは顔を上げると常にない笑顔で言った。
「マレウス様、親父殿、告白が上手くいきました」
　この言葉に真っ先に反応したのは、リリアだった。思わず飛び上がった彼は、そのままシルバーにとびついた。なんとか受け止めたシルバーに精一杯のハグをリリアは贈った。
「おお！　よくやったぞ！　シルバー！　おめでとう！」
　嬉しそうなリリアの様子に破顔したシルバーを見て、マレウスも嬉しさを隠せなかった。ただ一人状況の飲み込めないセベクに、マレウスはそっと告げた。
「セベク、シルバーに恋人ができた。明日は祝うぞ」
「はっ！　ただいま準備してまいります！」
　そう意気込んだセベクは、そのまま寮の談話室から出ていった。おそらく、今からサムの店にでも行くのだろう。
　リリアが興奮冷めやらぬ様子でシルバーの肩を掴み、キラキラと瞳を輝かせた。
「して、どうやって口説いた？　情熱的にキスでもしたのか？」
　シルバーは緩く笑いながら、首を横に振った。
「茨の谷に伝わる方法です。『夢でユウを見た』と言ったら、『私も』と喜んで返してくれました」
　思いもかけなかった告白の方法に、リリアとマレウスはゆっくりと首を傾げた。リリアの顔色が怪訝なものに変わる。
「……シルバー、お主はユウに一度でも『好き』と言ったか？」
　そう問われたシルバーは至極当然と言った調子で、調子を乱さず答えた。
「言っていません」
　リリアはあちゃあと顔に手を当てて天を仰いだ。わしの教育が悪かったのやもしれぬと後悔している調子の彼の前で、マレウスは手で口元を隠しながら肩を小刻みに震わせた。
「ふふふ、これは面白くなってきたな」
　リリアは顔の手を退けると、シルバーの名前を喝を入れて呼んだ。シルバーはあまりの覇気に立ちあがって姿勢を更に正す。
「わしがこちらの世界での告白の方法を伝授してやる！　今すぐついてまいれ！」
　背後に鬼気迫るものを感じたシルバーは何か間違っていたのだろうかとこめかみに汗を垂らした。マレウスはそんなシルバーを見て、苦労するな、と呟く。それは紛れもなく、ユウも含めて言っていた。