告白(?)
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さて、時間は私が待ちに待ったシルバー先輩が遊びに来る日になった。そわそわしながら談話室に廊下、玄関と一つ一つ確かめる。先輩がいつ来てもいいように茶葉だってジェイド先輩とカリム先輩のおすすめを飲んで選んだ。カリム先輩のは凄く甘かったから、大人しくジェイド先輩のおすすめを買ったけども。
私の服装もこの前のみっともないスウェットじゃなくて、制服で迎える準備はできてる。そもそも女子の私服で会うのが何だか恥ずかしいし。自室の鏡で何度も自分の姿がおかしくないか確認をしていると、グリムになんでにらめっこしてるんだと突っ込まれた。
ピンポーン、とインターホンが鳴らされて、すぐさま玄関に向かう。乱れた髪だけささっと手櫛で整えて、ゆっくりと扉を開ければ銀色の髪が夕焼けを弾いた。
「こんばんは、シルバー先輩!」
「ああ、こんばんは」
し、シルバー先輩だ……! 最近の先輩は護衛の任が忙しいからか、廊下で挨拶をするか馬術部に顔を出すくらいしかなかった! だから今日会えて、とっても嬉しい!
どうぞ中へと案内すると、シルバー先輩は一瞬だけど踏み出す足の反応が鈍くなった。入ってからの先輩は普通に歩いているけれど、なんだ今の違和感。シルバー先輩、どことなく緊張しているような……。いやいや、多分護衛での緊張感が解け切ってないんだ。それなら私がリラックスのお手伝いをしないとね!
ソファに腰掛けてもらった先輩に、喫茶店のメイドさんよろしく飲み物を尋ねる。
「先輩、紅茶は飲まれますか?」
「ああ」
「セイロンとダージリン、あとアールグレイもあります。どれがお好みですか?」
茶葉の名前を並べただけで先輩は首を傾げた。ああ、ちょっとこれは気合を入れ過ぎたかもしれない。今の反応絶対分かってくれていないよね。
「俺はそういった茶葉には疎いから、お前のおすすめを頂こう」
「分かりました! 今持ってきますね」
先輩におすすめを注文されるなんて、ますます気合が入る。分からないで済ませないで、私に判断を委ねてくれている辺りに信頼してくれているんだなって思える。先輩が無意識だったとしても、こういった言葉を返せるところに人間性は素晴らしい。
なんて思っているうちに、先輩のために淹れたダージリンは完成した。私はダージリンが好きだから知ってもらいたかった、なんて不純な理由で作っちゃだめでしたかね?
そろそろとトレイに載せて運んでいく。談話室で先輩が何をしているのかと顔を上げれば、先輩はスマホをもって私にカメラを向けていた。緑色のライトが撮影スタンバイを告げている。
「先輩? カメラを向けて、どうしたんですか?」
膝を屈めてそっとローテーブルにトレイを置く。ティーカップたちを並べると、シルバー先輩はスマホを下ろした。
「……お前を撮ろうと思った。ダメだろうか」
「全然構いませんけど……私単体なんですか?」
写真ってこの世界ではエースたちとしか撮ったことないけど、みんなでワイワイ映るものじゃないの? シルバー先輩は私の反応に納得いかないのか、首を傾げた。
「何か違うのか?」
「いえ、私は写真を撮る時って皆で写るものだと思っていたので」
なるほど、そうか、と呟いた先輩は、何か考え始めたのか顎に手を当てて俯いた。ああ、この状態になると思考の海に沈んでしばらく帰ってこなくなる……というか眠っちゃう。それはなんだか残念なので、ここは我を出していこう。
ソファに思い切って隣に腰掛ければ、先輩の俯いている顔が目に入った。うっ、目が眩むけど堪えて私!
「せっかくですから、二人で写真撮りませんか?」
覗き込んだ先輩の顔はびっくりするくらい綺麗で、呆けた顔ですらなんだか様になっている。いいのか? と問われ、もちろんです! と返す。シルバー先輩はそれでは頼むと言って、インカメラに変えて私に近づいた。
わ、わ、わー! 近い近い! 森系のいい香りする! あああああ!
パシャリという乾いた音と共にようやく先輩が離れたことで呼吸もできるようになる。先輩にこれでいいかと先ほどの写真を見せてもらった。必死に表情を作ってピースサインをする私に対し、先輩は相変わらずの涼しい顔だ。表情を作らなくても美しいこの人は何なんだ。
「マジカメで送ろう」
「お、お願いします!」
こうして先輩とのツーショットを手に入れられるなんて思ってもなかったよ……。送信されたバイブレーションが私自身を喜びで震わせる。確認のために画面を見てみれば、まぎれもない加工なしの先輩とのツーショットが表示された。
わあああ! この写真家宝にしよう……。
「でも、珍しいですね。先輩がカメラで撮りたいだなんて。なんで撮影しようと思ったんですか?」
私なんて被写体になるほど魅力のかけらもないと思いますが。むしろシルバー先輩の方が良い被写体になるのでは? あ、私は先輩を被写体にしてピンで撮りたいです。
シルバー先輩の長い色素の薄いまつ毛がそっと伏せられて、それだけで心臓がイルカのように跳ねる。
「……マジカメにお前が載せている写真を見ていて、俺は一つもお前と写真を撮ったことがないと気が付いた。もし、お前が急に元の世界に帰った時、俺はお前との思い出を残さなかったことを悔やむだろう」
なんだ。そういうことだったのか。
先輩とお別れする未来は凄く寂しいし起きてほしくないけれど、いつかはあるかもしれない。それを見越した上での先輩なりの思い出作りだったのかな。
「先輩、忘れないようにしてくれて、ありがとうございます」
先輩の顔がまた上がって、私を見る。心臓が胸の中でバクバクと跳ねるのが苦しいけど、今言わないと私も帰る時になって後悔してしまう。この恋が叶わなくても、先輩との思い出は楽しいものにしておきたい。
それからは、先輩に会えない間に学校であったことを話していた。先輩に話を振ろうにも、俺には話す話題があまりないの一言で切られてしまうから、私の漫談みたいになっている。それに先輩は私の話を頷いて聞いてくれるけど、時々寝てしまう。気が付けば、先輩が来てから一時間も経っていた。
「先輩、私の話聞いてて飽きてきません?」
そう尋ねると、先輩はいいやと首を横に振った。
「飽きる、というより、楽しそうに話すお前を見ているのが楽しい、というのが正しい」
いやいやいや、心の広さ東京ドーム100個分じゃないですか。ありがとうございます。そんなことを言ってくださるだけで私は嬉しいし、幸せです。
心の中で千手観音のように無数の手を合わせていると、シルバー先輩が申し訳なさそうに言った。
「むしろ、お前にばかり話させてしまって済まない。疲れるだろう」
「いえいえ! 私は先輩に話を聞いていただけて、とっても嬉しいです!」
すると、先輩は何か思いつめたような表情をした。あれ? 私まずいこと言っちゃったかな? これは、話題を変えたほうがいいのかもしれない。
「あ、そう言えば先輩、私に言いたいことがあるっておっしゃっていましたよね」
その瞬間先輩は飲んでいたお茶で咳き込んだ。こっちから顔を背けて、苦しそうに咳き込んでいるから謝ったけど、お前のせいじゃないとも言われ、何も言えない。咳が止まると、すぐに先輩は私の方を真剣な目でこちらを見てくる。張り詰めた空気に、私も思わず背筋を正して先輩の方に体を向けた。先輩のオーロラシルバーの瞳がきらりと光った。
「夢の中で、お前に会った」
え? 何その報告、可愛い……。じゃなくて、私が夢に!?
「本当ですか! それは嬉しいです。嫌な夢じゃなかったですか?」
思わず身を乗り出して聞いたら、先輩が背中をのけぞらせる。あ、近づきすぎてしまった。すぐに反省して離れると、シルバー先輩はしっかりと横に首を振ってくれた。
「いや、とても幸福な夢だ」
うわあ! すごく嬉しい。そんな夢に出演していたというのに、私は一体何を忘れているんだ……。思い出せないというか、その夢に出てきた私にいったんなりたい。
そういえば、私も一度先輩の夢を見たことがあったな。いつだったか忘れたけど、あの時の先輩も綺麗な顔していたなぁ。今思い出してもいい夢だったから、つい頬が緩んだ。
「実は私も同じ夢を見ました。木の根元で寝ている先輩を見つける夢です」
すると先輩は、はっとしたような表情をして、次の瞬間、北極の分厚い氷すらも解かすような微笑みを見せた。
「そうか……。それは、嬉しい」
あああああなんですかその笑顔は! 息とまっちゃう! 胸が苦しい! 先輩の笑顔だけで軽く一人(主に私が)死にますから……!
「ユウ、これからもよろしく頼む」
「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いします」
なぜかよろしくと言われたものの、私もぜひよろしくしたい。差し出された手を掴んだら、しっかりと握られた。先輩私の手をしっかり握らないでください、恥ずかしすぎて走って逃げ出したいです。
先輩はすっかり暗くなった談話室の窓の向こうの夜空を眺めながら話した。
「ユウは卒業したらどうするんだ」
えええ、いや考えていなかったです。今は先輩といられるこの日常が幸せだから、とりあえず今のところ思っていることを素直に言うしかないよね。
「……正直考えあぐねています。帰る方法も見つかっていない状態でここに居座ろうにも、居場所がなくて」
あはは、と乾いた笑いで不安をごまかす。
私が卒業後も先輩といられる可能性なんて万に一つあるかどうか。先輩が4年生になって実習に行ってしまう前に告白の一つくらいはしないときっと後悔する。そんな勇気出るかも知らないけれど。
シルバー先輩は私の手を強く握ると、私の方を見た。なんだか、王子様に手を握られているみたいで恥ずかしいです。いや、先輩は騎士様だったな。
「今度のホリデーに、茨の谷に来ないか」
「え」
思いがけない申し出に目を丸くすることしかできない。シルバー先輩はいたって本気で考えているようで、私の目をしっかりと捉えながら話してくれた。
「お前はよくディアソムニア寮の気候が好きだと言うだろう。環境の似ている茨の谷なら過ごしやすい。それにセベクやリリア先輩もいる。顔なじみがいないよりは楽しいと思う」
ああ、先輩はホリデーで帰る家のない私に気を遣ってくれているのか。本当に優しい人だな。それが嬉しくって思わず笑ってしまうと先輩は首を傾げた。
それと茨の谷には、もちろんリリア先輩やセベクもいるけれど、大事な人を忘れていませんか?
「シルバー先輩もいます」
「ああ、そうだ」
先輩はわずかだけれど頬を持ち上げた。ああ、滲むような嬉しさが見えるようで、胸につまるような幸福感が溢れてくる。
「ふふ。なんだか楽しみになってきました! でも、私皆さんの帰省についてきちゃっていいんですか? あ、分かりました。私だけ別行動なんですね。大丈夫です把握しています」
早口で自分のことだけささっと言うと、シルバー先輩はゆっくりと私に掌を向けた。
「いや、マレウス様はお前も連れて行くだろう。あの方は大層お前を気に入っていらっしゃる」
いやー、そのマレウス様? 私は思わず嫉妬してしまったけれど、申し訳ないくらい気を遣ってもらっている気がする。この帰省で私もついてきていいだなんて寛容すぎる。これは先輩も思わず慕いたくなるんだろうなぁ。
「会ったこともないのによく親切にしてくれますね」
シルバー先輩は、それだけお前が気に入られているんだと嬉しそうに話す。顔には出ていないけれど、声には滲んでいるその優しさが握られている手の熱を上げていく。
「俺を育ててくださった方だ。きっとユウもあの方の良さが分かる」
シルバー先輩の笑顔の回数が地味に増えた気がするけど、気のせい? かな? いやいや、きっとそれだけマレウス様が好きなんだよ。なんだかここまで好かれているのを見るともはや妬く以前に、先輩の純粋さに心が焼かれそうだ。
「ぜひお会いしてみたいです」
そう返すと、シルバー先輩はちょっと子供みたいな笑顔ではにかんだ。思いもかけないところで新しい笑顔を見た私は、目を押さえてしまった。
私の服装もこの前のみっともないスウェットじゃなくて、制服で迎える準備はできてる。そもそも女子の私服で会うのが何だか恥ずかしいし。自室の鏡で何度も自分の姿がおかしくないか確認をしていると、グリムになんでにらめっこしてるんだと突っ込まれた。
ピンポーン、とインターホンが鳴らされて、すぐさま玄関に向かう。乱れた髪だけささっと手櫛で整えて、ゆっくりと扉を開ければ銀色の髪が夕焼けを弾いた。
「こんばんは、シルバー先輩!」
「ああ、こんばんは」
し、シルバー先輩だ……! 最近の先輩は護衛の任が忙しいからか、廊下で挨拶をするか馬術部に顔を出すくらいしかなかった! だから今日会えて、とっても嬉しい!
どうぞ中へと案内すると、シルバー先輩は一瞬だけど踏み出す足の反応が鈍くなった。入ってからの先輩は普通に歩いているけれど、なんだ今の違和感。シルバー先輩、どことなく緊張しているような……。いやいや、多分護衛での緊張感が解け切ってないんだ。それなら私がリラックスのお手伝いをしないとね!
ソファに腰掛けてもらった先輩に、喫茶店のメイドさんよろしく飲み物を尋ねる。
「先輩、紅茶は飲まれますか?」
「ああ」
「セイロンとダージリン、あとアールグレイもあります。どれがお好みですか?」
茶葉の名前を並べただけで先輩は首を傾げた。ああ、ちょっとこれは気合を入れ過ぎたかもしれない。今の反応絶対分かってくれていないよね。
「俺はそういった茶葉には疎いから、お前のおすすめを頂こう」
「分かりました! 今持ってきますね」
先輩におすすめを注文されるなんて、ますます気合が入る。分からないで済ませないで、私に判断を委ねてくれている辺りに信頼してくれているんだなって思える。先輩が無意識だったとしても、こういった言葉を返せるところに人間性は素晴らしい。
なんて思っているうちに、先輩のために淹れたダージリンは完成した。私はダージリンが好きだから知ってもらいたかった、なんて不純な理由で作っちゃだめでしたかね?
そろそろとトレイに載せて運んでいく。談話室で先輩が何をしているのかと顔を上げれば、先輩はスマホをもって私にカメラを向けていた。緑色のライトが撮影スタンバイを告げている。
「先輩? カメラを向けて、どうしたんですか?」
膝を屈めてそっとローテーブルにトレイを置く。ティーカップたちを並べると、シルバー先輩はスマホを下ろした。
「……お前を撮ろうと思った。ダメだろうか」
「全然構いませんけど……私単体なんですか?」
写真ってこの世界ではエースたちとしか撮ったことないけど、みんなでワイワイ映るものじゃないの? シルバー先輩は私の反応に納得いかないのか、首を傾げた。
「何か違うのか?」
「いえ、私は写真を撮る時って皆で写るものだと思っていたので」
なるほど、そうか、と呟いた先輩は、何か考え始めたのか顎に手を当てて俯いた。ああ、この状態になると思考の海に沈んでしばらく帰ってこなくなる……というか眠っちゃう。それはなんだか残念なので、ここは我を出していこう。
ソファに思い切って隣に腰掛ければ、先輩の俯いている顔が目に入った。うっ、目が眩むけど堪えて私!
「せっかくですから、二人で写真撮りませんか?」
覗き込んだ先輩の顔はびっくりするくらい綺麗で、呆けた顔ですらなんだか様になっている。いいのか? と問われ、もちろんです! と返す。シルバー先輩はそれでは頼むと言って、インカメラに変えて私に近づいた。
わ、わ、わー! 近い近い! 森系のいい香りする! あああああ!
パシャリという乾いた音と共にようやく先輩が離れたことで呼吸もできるようになる。先輩にこれでいいかと先ほどの写真を見せてもらった。必死に表情を作ってピースサインをする私に対し、先輩は相変わらずの涼しい顔だ。表情を作らなくても美しいこの人は何なんだ。
「マジカメで送ろう」
「お、お願いします!」
こうして先輩とのツーショットを手に入れられるなんて思ってもなかったよ……。送信されたバイブレーションが私自身を喜びで震わせる。確認のために画面を見てみれば、まぎれもない加工なしの先輩とのツーショットが表示された。
わあああ! この写真家宝にしよう……。
「でも、珍しいですね。先輩がカメラで撮りたいだなんて。なんで撮影しようと思ったんですか?」
私なんて被写体になるほど魅力のかけらもないと思いますが。むしろシルバー先輩の方が良い被写体になるのでは? あ、私は先輩を被写体にしてピンで撮りたいです。
シルバー先輩の長い色素の薄いまつ毛がそっと伏せられて、それだけで心臓がイルカのように跳ねる。
「……マジカメにお前が載せている写真を見ていて、俺は一つもお前と写真を撮ったことがないと気が付いた。もし、お前が急に元の世界に帰った時、俺はお前との思い出を残さなかったことを悔やむだろう」
なんだ。そういうことだったのか。
先輩とお別れする未来は凄く寂しいし起きてほしくないけれど、いつかはあるかもしれない。それを見越した上での先輩なりの思い出作りだったのかな。
「先輩、忘れないようにしてくれて、ありがとうございます」
先輩の顔がまた上がって、私を見る。心臓が胸の中でバクバクと跳ねるのが苦しいけど、今言わないと私も帰る時になって後悔してしまう。この恋が叶わなくても、先輩との思い出は楽しいものにしておきたい。
それからは、先輩に会えない間に学校であったことを話していた。先輩に話を振ろうにも、俺には話す話題があまりないの一言で切られてしまうから、私の漫談みたいになっている。それに先輩は私の話を頷いて聞いてくれるけど、時々寝てしまう。気が付けば、先輩が来てから一時間も経っていた。
「先輩、私の話聞いてて飽きてきません?」
そう尋ねると、先輩はいいやと首を横に振った。
「飽きる、というより、楽しそうに話すお前を見ているのが楽しい、というのが正しい」
いやいやいや、心の広さ東京ドーム100個分じゃないですか。ありがとうございます。そんなことを言ってくださるだけで私は嬉しいし、幸せです。
心の中で千手観音のように無数の手を合わせていると、シルバー先輩が申し訳なさそうに言った。
「むしろ、お前にばかり話させてしまって済まない。疲れるだろう」
「いえいえ! 私は先輩に話を聞いていただけて、とっても嬉しいです!」
すると、先輩は何か思いつめたような表情をした。あれ? 私まずいこと言っちゃったかな? これは、話題を変えたほうがいいのかもしれない。
「あ、そう言えば先輩、私に言いたいことがあるっておっしゃっていましたよね」
その瞬間先輩は飲んでいたお茶で咳き込んだ。こっちから顔を背けて、苦しそうに咳き込んでいるから謝ったけど、お前のせいじゃないとも言われ、何も言えない。咳が止まると、すぐに先輩は私の方を真剣な目でこちらを見てくる。張り詰めた空気に、私も思わず背筋を正して先輩の方に体を向けた。先輩のオーロラシルバーの瞳がきらりと光った。
「夢の中で、お前に会った」
え? 何その報告、可愛い……。じゃなくて、私が夢に!?
「本当ですか! それは嬉しいです。嫌な夢じゃなかったですか?」
思わず身を乗り出して聞いたら、先輩が背中をのけぞらせる。あ、近づきすぎてしまった。すぐに反省して離れると、シルバー先輩はしっかりと横に首を振ってくれた。
「いや、とても幸福な夢だ」
うわあ! すごく嬉しい。そんな夢に出演していたというのに、私は一体何を忘れているんだ……。思い出せないというか、その夢に出てきた私にいったんなりたい。
そういえば、私も一度先輩の夢を見たことがあったな。いつだったか忘れたけど、あの時の先輩も綺麗な顔していたなぁ。今思い出してもいい夢だったから、つい頬が緩んだ。
「実は私も同じ夢を見ました。木の根元で寝ている先輩を見つける夢です」
すると先輩は、はっとしたような表情をして、次の瞬間、北極の分厚い氷すらも解かすような微笑みを見せた。
「そうか……。それは、嬉しい」
あああああなんですかその笑顔は! 息とまっちゃう! 胸が苦しい! 先輩の笑顔だけで軽く一人(主に私が)死にますから……!
「ユウ、これからもよろしく頼む」
「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いします」
なぜかよろしくと言われたものの、私もぜひよろしくしたい。差し出された手を掴んだら、しっかりと握られた。先輩私の手をしっかり握らないでください、恥ずかしすぎて走って逃げ出したいです。
先輩はすっかり暗くなった談話室の窓の向こうの夜空を眺めながら話した。
「ユウは卒業したらどうするんだ」
えええ、いや考えていなかったです。今は先輩といられるこの日常が幸せだから、とりあえず今のところ思っていることを素直に言うしかないよね。
「……正直考えあぐねています。帰る方法も見つかっていない状態でここに居座ろうにも、居場所がなくて」
あはは、と乾いた笑いで不安をごまかす。
私が卒業後も先輩といられる可能性なんて万に一つあるかどうか。先輩が4年生になって実習に行ってしまう前に告白の一つくらいはしないときっと後悔する。そんな勇気出るかも知らないけれど。
シルバー先輩は私の手を強く握ると、私の方を見た。なんだか、王子様に手を握られているみたいで恥ずかしいです。いや、先輩は騎士様だったな。
「今度のホリデーに、茨の谷に来ないか」
「え」
思いがけない申し出に目を丸くすることしかできない。シルバー先輩はいたって本気で考えているようで、私の目をしっかりと捉えながら話してくれた。
「お前はよくディアソムニア寮の気候が好きだと言うだろう。環境の似ている茨の谷なら過ごしやすい。それにセベクやリリア先輩もいる。顔なじみがいないよりは楽しいと思う」
ああ、先輩はホリデーで帰る家のない私に気を遣ってくれているのか。本当に優しい人だな。それが嬉しくって思わず笑ってしまうと先輩は首を傾げた。
それと茨の谷には、もちろんリリア先輩やセベクもいるけれど、大事な人を忘れていませんか?
「シルバー先輩もいます」
「ああ、そうだ」
先輩はわずかだけれど頬を持ち上げた。ああ、滲むような嬉しさが見えるようで、胸につまるような幸福感が溢れてくる。
「ふふ。なんだか楽しみになってきました! でも、私皆さんの帰省についてきちゃっていいんですか? あ、分かりました。私だけ別行動なんですね。大丈夫です把握しています」
早口で自分のことだけささっと言うと、シルバー先輩はゆっくりと私に掌を向けた。
「いや、マレウス様はお前も連れて行くだろう。あの方は大層お前を気に入っていらっしゃる」
いやー、そのマレウス様? 私は思わず嫉妬してしまったけれど、申し訳ないくらい気を遣ってもらっている気がする。この帰省で私もついてきていいだなんて寛容すぎる。これは先輩も思わず慕いたくなるんだろうなぁ。
「会ったこともないのによく親切にしてくれますね」
シルバー先輩は、それだけお前が気に入られているんだと嬉しそうに話す。顔には出ていないけれど、声には滲んでいるその優しさが握られている手の熱を上げていく。
「俺を育ててくださった方だ。きっとユウもあの方の良さが分かる」
シルバー先輩の笑顔の回数が地味に増えた気がするけど、気のせい? かな? いやいや、きっとそれだけマレウス様が好きなんだよ。なんだかここまで好かれているのを見るともはや妬く以前に、先輩の純粋さに心が焼かれそうだ。
「ぜひお会いしてみたいです」
そう返すと、シルバー先輩はちょっと子供みたいな笑顔ではにかんだ。思いもかけないところで新しい笑顔を見た私は、目を押さえてしまった。