シルバーは今日も眠れない
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さて、会わないと決めてもう二週間。そろそろユウのことは忘れている頃だろうと予想していたのに、シルバーは忘れるどころかますますユウのことを考えるようになっていた。
寝不足は加速し、ディアソムニア寮のパンダなどと不名誉なあだ名をつけられてしまった。この前の実験では縮れ毛になる魔法薬を作ってしまい、ふらついた足元にあった実験器具につまづいてセベクにかけてしまった。その結果、セベクの真っ直ぐな髪が見事なアフロヘアになった。何度も謝ったが「こんな髪型では若様のお傍にいられない!」と許してもらえず、リリアもセベクのアフロヘアを笑うものだから、ますます怒られてしまった。こんな不調ばかり起こしてどうすると反省したシルバーは、ユウに言われた通り寝ることに集中しようとした。しかし、逆に目が冴える。そして昼間には失敗するの悪循環が続いた。何故治らないんだ、とシルバーの胸のうちには苛立ちが溜まっていった。ユウのことを最近会ってもいないのに考えるだなんてどうかしている。
頭では分かっているのに、心と体は追いついてこず、シルバーは難儀した。ふらふらと廊下を歩いているだけで、クラスメイトから大丈夫かと声をかけられるくらいには彼の目の下のクマは濃くなっていた。ぼやける視界で、寮章のないブレザーを見たような気がして、シルバーは目を開けた。きょろきょろと廊下を見渡すがここは二年の教室が並ぶ廊下だ。ユウが来るはずがない。残念に思ったシルバーがため息を吐くと、ふと違和感を彼は感じた。
会わないようにしようと決めているにもかかわらず、彼女をなぜ探そうとしているんだ。
自分で課したことを今すぐにでも破りそうになっていることに、シルバーは憤った。騎士たるもの、自分が決めたことは最後まで貫き通すべし。それすらできないようでは、自立した一人前の騎士になどなれないのだ。ましてや、憧れの親父殿には遥か及ばないというのに。
思うままに拳をぶつけた先の柱にひびが入る。そっと見てみれば、シルバーの手袋と手首の間から赤く滴るものがあった。最近、思うようにいかない。感情の制御ができなくなったのはいつからだろうか。今のシルバーにその答えは一生出せそうになかった。
「なんじゃシルバー。元気がないと思ったら八つ当たりか?」
はっと彼が顔を上げれば、そこにはトマトジュースの缶を片手にリリアが立っていた。八つ当たりということは拳を殴りつけた様を見られたのだろう。急に気恥ずかしくなったシルバーは何とかこれ以上立ち入られないよう、予防線を張った。
「いえ……その、俺自身の問題なので、親父殿の手を煩わせるわけには」
げっそりとやつれた哀れな息子の顔を見たリリアは、ゆっくりと目を細める。明らかに憔悴している彼は自分のしでかしていることを恥じているだろう。その場を逃げ出したくなる気持ちもわかるが、リリアには父親としてシルバーをこのまま行かせるわけにはいかなかった。
「お主だけの問題だからと遠慮をするな。わしはお主の父じゃ、場所が悪ければほれ」
瞬時に展開した移動魔法でシルバーをリリアの自室に転送させる。シルバーは諦めた顔を隠すことなく、ふらりとリリアの椅子に腰かけた。
「……最近、ユウのことばかり、考えてしまうんです」
重々しく口を開いたシルバーの頬に若干の赤みが走る。リリアは若いな、と微笑んで、ベッドに腰掛けた。
「今は何をしているのか、クラスメイトと話していれば何を話しているのか、考えてしまうんです。これまで微塵も考える必要などなかったのに、突然彼女のことで頭がいっぱいになって、他のことに手がつかなくなりました。最初は鍛錬が足りないのだと思いました。しかし鍛錬を積み重ねても、彼女を考えることをやめない。……親父殿、俺は病にかかったのでしょうか。それとも、呪いでもかけられたのでしょうか」
寝不足と疲労が相まって精神衰弱を起こしているシルバーは、縋るような瞳でリリアを見上げ、常にない弱音を吐いた。リリアはそれを叱咤することなく、笑顔でシルバーの頭を優しくなでた。
「シルバー、それは病でもなければ呪いでもない。恋という奴じゃな」
「恋……?」
「おう、わしもよく悩まされておったわ。好きな相手が今何をしているのか気になるうえ、目の前にいるとつい張り切ってしまう。格好をつけた挙句ケガもした。しかしな、好きな相手が喜んで傍にいてくれれば、天にも昇るような心地になった」
まるでシルバーと一緒にこれまでの出来事を体験していたかのように語るリリアに、シルバーは何度も頷いて共感した。リリアは恋すら知らない初心な息子に、呆れたようなため息と笑顔で答えた。
「のお、シルバー。お主はどうして眠れなくなるまでユウのことを考えるようになったんじゃ」
「それは……ユウに好きな相手がいると知ったからだと思います。その時から、考えるようになってしまったので」
シルバーはそう言うと、胸に手を当てて苦しくなる心臓を押さえた。ユウに好きな人がいる、そんなことがまだ胸の奥を占めている。
「ユウに好きな相手がいるとどうしてお主が苦しいか分かるか?」
分からないとシルバーが首を横に振れば、リリアが少しは考えぬか、とシルバーの頭に当てるだけのチョップを食らわせる。脳天に手刀を落とされたシルバーは頭蓋を両手で押さえた。
「それは、ユウの好きな相手はお主ではないことを残念に思っておるからよ。ならシルバー、何故お主が残念に思うか知っておるな?」
顔をようやく上げたシルバーは、まさかと目を見開き、リリアを見上げた。
「……これが、恋なのですか?」
「気づくのが遅いわ、戯け」
リリアに今度はデコピンを食らわされ、シルバーが額を押さえる。リリアは呆れたため息を吐いた。
「まあ、こればっかりはわしの教育の問題もあるんじゃが。シルバー、ユウから逃げるでない」
真っ直ぐに見つめてくるマゼンタの瞳を見返すシルバーのあどけない瞳に、リリアはよいか、と問いかけた。
「ユウに好きな相手がおっても、お主の態度次第では心変わりもするかもしれん。あの娘がお主の真剣な思いを無下にするような者でないことは一番よく知っているじゃろう」
確かにそうかもしれない、とリリアの言うことに頷いたシルバーは、立ち上がった。今すぐにでも彼女に会いたいのだ。
「親父殿、ユウを探してきます。彼女に会って、思いを伝えてきます」
「待て、シルバー。そう事を急くでない」
しかしリリアの言葉で歩みを止められたシルバーは、不服そうにリリアを見下ろす。リリアは、人差し指を立てて意味ありげに笑った。
「今言ったところで、お主はユウと会わぬようにしておるのだろう? なれば前後関係を知らんユウに混乱を招く。あやつには会えるようになったと伝えた後、時間を置いて思いを告げるのが良かろう」
流石はリリア、先人の知恵とはこれほどまでも心強いのかとシルバーは従うことにした。確かに今いきなり伝えたところで、ユウが頷くとは限らない。彼女の心が整ったうえで挑むのもまた一つの戦術だろう。シルバーはユウに会うくらいならいいだろうかとリリアに尋ねた。リリアは目を丸くすると、口を大きく開けて笑った。
「すまんすまん! はよう会いに行くがよい!」
寝不足は加速し、ディアソムニア寮のパンダなどと不名誉なあだ名をつけられてしまった。この前の実験では縮れ毛になる魔法薬を作ってしまい、ふらついた足元にあった実験器具につまづいてセベクにかけてしまった。その結果、セベクの真っ直ぐな髪が見事なアフロヘアになった。何度も謝ったが「こんな髪型では若様のお傍にいられない!」と許してもらえず、リリアもセベクのアフロヘアを笑うものだから、ますます怒られてしまった。こんな不調ばかり起こしてどうすると反省したシルバーは、ユウに言われた通り寝ることに集中しようとした。しかし、逆に目が冴える。そして昼間には失敗するの悪循環が続いた。何故治らないんだ、とシルバーの胸のうちには苛立ちが溜まっていった。ユウのことを最近会ってもいないのに考えるだなんてどうかしている。
頭では分かっているのに、心と体は追いついてこず、シルバーは難儀した。ふらふらと廊下を歩いているだけで、クラスメイトから大丈夫かと声をかけられるくらいには彼の目の下のクマは濃くなっていた。ぼやける視界で、寮章のないブレザーを見たような気がして、シルバーは目を開けた。きょろきょろと廊下を見渡すがここは二年の教室が並ぶ廊下だ。ユウが来るはずがない。残念に思ったシルバーがため息を吐くと、ふと違和感を彼は感じた。
会わないようにしようと決めているにもかかわらず、彼女をなぜ探そうとしているんだ。
自分で課したことを今すぐにでも破りそうになっていることに、シルバーは憤った。騎士たるもの、自分が決めたことは最後まで貫き通すべし。それすらできないようでは、自立した一人前の騎士になどなれないのだ。ましてや、憧れの親父殿には遥か及ばないというのに。
思うままに拳をぶつけた先の柱にひびが入る。そっと見てみれば、シルバーの手袋と手首の間から赤く滴るものがあった。最近、思うようにいかない。感情の制御ができなくなったのはいつからだろうか。今のシルバーにその答えは一生出せそうになかった。
「なんじゃシルバー。元気がないと思ったら八つ当たりか?」
はっと彼が顔を上げれば、そこにはトマトジュースの缶を片手にリリアが立っていた。八つ当たりということは拳を殴りつけた様を見られたのだろう。急に気恥ずかしくなったシルバーは何とかこれ以上立ち入られないよう、予防線を張った。
「いえ……その、俺自身の問題なので、親父殿の手を煩わせるわけには」
げっそりとやつれた哀れな息子の顔を見たリリアは、ゆっくりと目を細める。明らかに憔悴している彼は自分のしでかしていることを恥じているだろう。その場を逃げ出したくなる気持ちもわかるが、リリアには父親としてシルバーをこのまま行かせるわけにはいかなかった。
「お主だけの問題だからと遠慮をするな。わしはお主の父じゃ、場所が悪ければほれ」
瞬時に展開した移動魔法でシルバーをリリアの自室に転送させる。シルバーは諦めた顔を隠すことなく、ふらりとリリアの椅子に腰かけた。
「……最近、ユウのことばかり、考えてしまうんです」
重々しく口を開いたシルバーの頬に若干の赤みが走る。リリアは若いな、と微笑んで、ベッドに腰掛けた。
「今は何をしているのか、クラスメイトと話していれば何を話しているのか、考えてしまうんです。これまで微塵も考える必要などなかったのに、突然彼女のことで頭がいっぱいになって、他のことに手がつかなくなりました。最初は鍛錬が足りないのだと思いました。しかし鍛錬を積み重ねても、彼女を考えることをやめない。……親父殿、俺は病にかかったのでしょうか。それとも、呪いでもかけられたのでしょうか」
寝不足と疲労が相まって精神衰弱を起こしているシルバーは、縋るような瞳でリリアを見上げ、常にない弱音を吐いた。リリアはそれを叱咤することなく、笑顔でシルバーの頭を優しくなでた。
「シルバー、それは病でもなければ呪いでもない。恋という奴じゃな」
「恋……?」
「おう、わしもよく悩まされておったわ。好きな相手が今何をしているのか気になるうえ、目の前にいるとつい張り切ってしまう。格好をつけた挙句ケガもした。しかしな、好きな相手が喜んで傍にいてくれれば、天にも昇るような心地になった」
まるでシルバーと一緒にこれまでの出来事を体験していたかのように語るリリアに、シルバーは何度も頷いて共感した。リリアは恋すら知らない初心な息子に、呆れたようなため息と笑顔で答えた。
「のお、シルバー。お主はどうして眠れなくなるまでユウのことを考えるようになったんじゃ」
「それは……ユウに好きな相手がいると知ったからだと思います。その時から、考えるようになってしまったので」
シルバーはそう言うと、胸に手を当てて苦しくなる心臓を押さえた。ユウに好きな人がいる、そんなことがまだ胸の奥を占めている。
「ユウに好きな相手がいるとどうしてお主が苦しいか分かるか?」
分からないとシルバーが首を横に振れば、リリアが少しは考えぬか、とシルバーの頭に当てるだけのチョップを食らわせる。脳天に手刀を落とされたシルバーは頭蓋を両手で押さえた。
「それは、ユウの好きな相手はお主ではないことを残念に思っておるからよ。ならシルバー、何故お主が残念に思うか知っておるな?」
顔をようやく上げたシルバーは、まさかと目を見開き、リリアを見上げた。
「……これが、恋なのですか?」
「気づくのが遅いわ、戯け」
リリアに今度はデコピンを食らわされ、シルバーが額を押さえる。リリアは呆れたため息を吐いた。
「まあ、こればっかりはわしの教育の問題もあるんじゃが。シルバー、ユウから逃げるでない」
真っ直ぐに見つめてくるマゼンタの瞳を見返すシルバーのあどけない瞳に、リリアはよいか、と問いかけた。
「ユウに好きな相手がおっても、お主の態度次第では心変わりもするかもしれん。あの娘がお主の真剣な思いを無下にするような者でないことは一番よく知っているじゃろう」
確かにそうかもしれない、とリリアの言うことに頷いたシルバーは、立ち上がった。今すぐにでも彼女に会いたいのだ。
「親父殿、ユウを探してきます。彼女に会って、思いを伝えてきます」
「待て、シルバー。そう事を急くでない」
しかしリリアの言葉で歩みを止められたシルバーは、不服そうにリリアを見下ろす。リリアは、人差し指を立てて意味ありげに笑った。
「今言ったところで、お主はユウと会わぬようにしておるのだろう? なれば前後関係を知らんユウに混乱を招く。あやつには会えるようになったと伝えた後、時間を置いて思いを告げるのが良かろう」
流石はリリア、先人の知恵とはこれほどまでも心強いのかとシルバーは従うことにした。確かに今いきなり伝えたところで、ユウが頷くとは限らない。彼女の心が整ったうえで挑むのもまた一つの戦術だろう。シルバーはユウに会うくらいならいいだろうかとリリアに尋ねた。リリアは目を丸くすると、口を大きく開けて笑った。
「すまんすまん! はよう会いに行くがよい!」