シルバーは今日も眠れない
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「先輩。先輩。せーんぱい!」
はっと顔を上げたシルバーが見たのは、ユウの不安そうにのぞき込んでくる顔だった。ランニングを終えて玄関の階段で腰かけていたのだが、どうやら心あらずなシルバーを心配して声をかけてくれたらしい。
「大丈夫ですか?」
ユウには好きな人がいる。その事実がシルバーの心を重くさせ、ランニングでも剣術でも鍛錬に打ちこむことができない。授業中でもユウのことばかり頭に浮かんで、実験も危うく失敗するところだった。思考のどこを覗いてもユウで溢れかえっていることが苦しくてたまらない。
「もしかして、体調が優れないんですか?」
心配してかけてくれる言葉すら脳内で何度も反芻される。シルバーは重々しく口を開いた。
「ユウ、しばらく会えない」
それを聞いたユウは、目をどんぐりも顔負けの丸みを帯びて、身を引いた。明らかな焦りが彼女の表情にあった。
「ええ! ……私、なにかしましたか? あ! もしかして先輩に一目会おうと飛行術でグリムに無理言って屋根に突っ込んだあれですか? それとも、ディアソムニア寮でセベクと声を張り上げながら話していたことですか? あ! それとも」
どうやら、ユウはシルバーの知らないところで色々としでかしているらしい。ユウのことを何も知らないんだなとふと思いいたると、シルバーは歯噛みしたい気持ちにかられた。
「いや、お前のせいではない。ただ、俺の弱さがこんな結果をもたらした」
「先輩は弱くなんかないです!」
そう真っ直ぐ言いきられると、シルバーはどう反論してよいのか分からなくなった。事実、シルバーは剣術そのものだけをとればユウなど軽くのせる。しかし、今の彼は頭の中にユウが溜まっていって、溢れかえりそうなのだ。そのせいで何も手につかなくなった今は、きっと簡単に押し切られてしまうだろう。
「俺はお前のことを思い出しただけで鍛錬や授業に手がつかなくなる」
「え」
「落ち着きがなくなって、正常な判断ができない。そして、眠れない」
言ってしまった。自分の弱みをさらけ出すのはあまり気が進まないが、ユウを説得するためだとシルバーは淡々と説明した。そのことを聞いたユウは顔を青ざめて、ぶるぶると震え出した。
「え、えええ!? 先輩、それ私の所為じゃないですか! どうしよう。先輩に無意識に呪いをかけてしまったとか」
「おまえにはそんな力はないだろう」
「……その通りです」
「だから、俺の所為だ」
シルバーはどうにか自分に原因があると話を持ち込めて、ほっと落ち着く。しかし、ユウの不安そうな表情は依然消えない。
「でも、眠れないって」
「これはこれで助かっている。授業中も眠らなくていいのはとても嬉しい。睡魔に勝ったんだ。……集中できないが」
事実シルバーは寝不足で、いつここで寝落ちしてもおかしくないのだが全くと言っていいほど眠気を感じない。むしろ目が冴えているくらいだ。精神的な疲れは目の下にできたクマ同様濃くなっていくばかりだが。
「先輩、無理しないでください。目の下のクマなんて、似合わないです!」
ユウがずい、と近寄ると、シルバーは思わず顔を遠ざけた。避ける必要はないと頭で分かっているのだが、体が自然と熱くなってユウと距離をとりたがった。
「もちろん、護衛や授業などしなくちゃいけないことばかりです! でもそのすべては、資本となる体があってこそ! だから……睡眠をとることを蔑ろにしないでください」
真っ直ぐに自分を心配してくれるユウが眩しくて、思わずシルバーは目を細めてしまった。目を細めたら彼女の顔をまっすぐ見られないのに、そうせざるを得ない何かがシルバーの心臓を締め付けた。
「早く治るよう、祈ってます。ゆっくり休んでくださいね」
「すまない」
それでは、とユウがオンボロ寮に引っ込んだのを見送ったシルバーは、自身の腕を掴んで力一杯握りしめた。離れて行った彼女の体をすぐにでも閉じ込めたい。そんな世迷言を痛みでかき消すために。
はっと顔を上げたシルバーが見たのは、ユウの不安そうにのぞき込んでくる顔だった。ランニングを終えて玄関の階段で腰かけていたのだが、どうやら心あらずなシルバーを心配して声をかけてくれたらしい。
「大丈夫ですか?」
ユウには好きな人がいる。その事実がシルバーの心を重くさせ、ランニングでも剣術でも鍛錬に打ちこむことができない。授業中でもユウのことばかり頭に浮かんで、実験も危うく失敗するところだった。思考のどこを覗いてもユウで溢れかえっていることが苦しくてたまらない。
「もしかして、体調が優れないんですか?」
心配してかけてくれる言葉すら脳内で何度も反芻される。シルバーは重々しく口を開いた。
「ユウ、しばらく会えない」
それを聞いたユウは、目をどんぐりも顔負けの丸みを帯びて、身を引いた。明らかな焦りが彼女の表情にあった。
「ええ! ……私、なにかしましたか? あ! もしかして先輩に一目会おうと飛行術でグリムに無理言って屋根に突っ込んだあれですか? それとも、ディアソムニア寮でセベクと声を張り上げながら話していたことですか? あ! それとも」
どうやら、ユウはシルバーの知らないところで色々としでかしているらしい。ユウのことを何も知らないんだなとふと思いいたると、シルバーは歯噛みしたい気持ちにかられた。
「いや、お前のせいではない。ただ、俺の弱さがこんな結果をもたらした」
「先輩は弱くなんかないです!」
そう真っ直ぐ言いきられると、シルバーはどう反論してよいのか分からなくなった。事実、シルバーは剣術そのものだけをとればユウなど軽くのせる。しかし、今の彼は頭の中にユウが溜まっていって、溢れかえりそうなのだ。そのせいで何も手につかなくなった今は、きっと簡単に押し切られてしまうだろう。
「俺はお前のことを思い出しただけで鍛錬や授業に手がつかなくなる」
「え」
「落ち着きがなくなって、正常な判断ができない。そして、眠れない」
言ってしまった。自分の弱みをさらけ出すのはあまり気が進まないが、ユウを説得するためだとシルバーは淡々と説明した。そのことを聞いたユウは顔を青ざめて、ぶるぶると震え出した。
「え、えええ!? 先輩、それ私の所為じゃないですか! どうしよう。先輩に無意識に呪いをかけてしまったとか」
「おまえにはそんな力はないだろう」
「……その通りです」
「だから、俺の所為だ」
シルバーはどうにか自分に原因があると話を持ち込めて、ほっと落ち着く。しかし、ユウの不安そうな表情は依然消えない。
「でも、眠れないって」
「これはこれで助かっている。授業中も眠らなくていいのはとても嬉しい。睡魔に勝ったんだ。……集中できないが」
事実シルバーは寝不足で、いつここで寝落ちしてもおかしくないのだが全くと言っていいほど眠気を感じない。むしろ目が冴えているくらいだ。精神的な疲れは目の下にできたクマ同様濃くなっていくばかりだが。
「先輩、無理しないでください。目の下のクマなんて、似合わないです!」
ユウがずい、と近寄ると、シルバーは思わず顔を遠ざけた。避ける必要はないと頭で分かっているのだが、体が自然と熱くなってユウと距離をとりたがった。
「もちろん、護衛や授業などしなくちゃいけないことばかりです! でもそのすべては、資本となる体があってこそ! だから……睡眠をとることを蔑ろにしないでください」
真っ直ぐに自分を心配してくれるユウが眩しくて、思わずシルバーは目を細めてしまった。目を細めたら彼女の顔をまっすぐ見られないのに、そうせざるを得ない何かがシルバーの心臓を締め付けた。
「早く治るよう、祈ってます。ゆっくり休んでくださいね」
「すまない」
それでは、とユウがオンボロ寮に引っ込んだのを見送ったシルバーは、自身の腕を掴んで力一杯握りしめた。離れて行った彼女の体をすぐにでも閉じ込めたい。そんな世迷言を痛みでかき消すために。