熱愛プロポーズ!
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リリアは誰も来ない学園の屋根で食堂の人間たちを見下ろしていた。その中心では、ユウが模造刀で自分よりも体格の大きい学生を次々となぎ倒している。これはシルバーとセベクの剣術の甲斐があったものじゃな、と独り言ちる。なにより、彼女は女性の身でありながら必死に食らいついていた。あの胆力だけでも見上げたものだとリリアは思っているのだ。
「それがまあ、男相手でも物怖じせぬ逞しい子に成長したものよ」
おしとやかさはさておき、今後もユウの成長が楽しみだと笑ったリリアは、ユウによってなぎ倒された男たちの声を聴いていた。
「くそう! なんであんなに強いんだよ!」
「ジェイド! お前も手伝え!」
なんとまあ、弱者は強者に縋ることはあれど命令をするとはみっともない。リリアは仮にジェイドがこの件に手出しをするなら、遠隔で狙いをつけづらいが魔法で援護をしてやろうとマジカルペンを取り出した。
「確かにユウさんの剣術は目を見張るものがあります。きっと僕では太刀打ちできないでしょう」
なるほどそう来たか。リリアは構えようとしたマジカルペンを仕舞った。ジェイドの話を聞いた男たちは、顔を見合わせた。ジェイドの体術の強さは一緒に授業を受けた者なら知っている。学年内で手を合わせたものは誰も――フロイドは飽きたと言って不戦勝だが――勝つことなどできなかった。そんな彼の不戦敗宣言は、一定の絶望をユウに挑む男たちに与えた。
「無理だ」
「そもそも、なんで俺たちがこんなに必死になってあいつに構わなくちゃいけないんだ」
茶々を出してきたのはそちらだろう、とリリアがせせら笑うと、徐々にユウに挑む男たちが姿を消していった。まだ禍根が残っている輩もいるようだから、それはこちらで処分しておこうとリリアは屋根から飛び降りた。
そしてそのまま宙に浮いて、廊下を浮きながら移動する。その先には随分と大きくなった息子の背中があった。
シルバーは気配に気が付いて振り返ると、そこには何もいない。彼がおかしいなと首を傾げると、頭上から声が降ってきた。
「ここじゃ」
はっと彼が視線を向けると、リリアが宙をまるで泳ぐように浮いていた。申し訳ありません、と首を垂れれば、まだまだ修行不足じゃな、とリリアが笑った。
「何かあったんですか?」
随分とご機嫌なリリアの様子に気が付いたシルバーが尋ねると、リリアは噂に疎いこの息子が最近気にかけている人間の話をすることにした。
「くふふ、なんでもユウに告白する人物が増えておるらしい。相手が女と知ったうえでの好意じゃ」
案の定、シルバーの表情が硬くなる。おおよそこれは驚いてはいるが、その表情にわずかな焦りが見える。自然と低くなる声に、リリアはシルバーの様子が忙しなくなるのを見ていた。
「なぜ女と知られているんですか」
「さてな、ワシにも分からん」
とぼけてみせれば、シルバーの顔は確信に変わった。ユウの身に危険が迫っているかもしれない、などと考えておるんじゃろうなぁと眺めていれば、どこにいましたか? と尋ねられる。
「先ほどまで食堂におったが、もうどこぞへ行ったかもしれん」
「失礼します」
お辞儀もそこそこに風のようにその場を去ったシルバーの背中を見て、リリアは急げ急げとはやし立てた。
「なにしろあの娘は周りの好意に鈍感じゃ。いつ手を出されるか、分からんぞ」
上機嫌に鼻歌を歌ったリリアは、息子たちの様子を見て来いと眷属を飛ばし、その場を去った。
*
シルバーは急いで校内を走り回った。普段鍛錬で鍛えているはずなのに、焦りからか呼吸が上手くできない。頭の中で駆け巡るのは、傷ついて泣いている彼女の姿だ。
まさか、ユウに不用意に近づいた輩がいて、それで女性と気づいたのかもしれない。シルバーはスカートを見て勘違いしたところを本人に訂正されたが、実際のところ女性の体つきを見てしまったのかもしれない。それで欲情した者や女子だからと侮って乱暴をはたらく者がいるなら?
シルバーの拳が音を立てて唸った。足取りは大分早くなり、前へ前へとかけていくが、目だけは彼女を捉えられなかった。そのことがますますシルバーの鼓動を逸らせた。
「ユウ……!」
シルバーは学園内にいない彼女を手当たり次第に生徒に聞き回り、ようやくオンボロ寮に帰る姿を見たと聞くことができた。何かユウとのことでからかわれた気もするが、もはやどうでもいい。ユウが傷ついて泣いていやしないか、それだけがシルバーの頭を占めていた。
急いた足でオンボロ寮に向かえば、ゴーストたちにまだ帰ってきていないと言われた。しかし、毎日鍛錬を積んでいるとはいえ、流石に走り回りすぎたのだろう。シルバーは足を止めた瞬間、瞼が降りてくるのを感じた。
まだ、彼女を見つけていないのに、眠ることはできない。そう思い、ぐっと膝に力を入れて、オンボロ寮の玄関に腰掛けた。それが睡魔の罠と知らず、シルバーは瞼を下ろしてしまった。
「それがまあ、男相手でも物怖じせぬ逞しい子に成長したものよ」
おしとやかさはさておき、今後もユウの成長が楽しみだと笑ったリリアは、ユウによってなぎ倒された男たちの声を聴いていた。
「くそう! なんであんなに強いんだよ!」
「ジェイド! お前も手伝え!」
なんとまあ、弱者は強者に縋ることはあれど命令をするとはみっともない。リリアは仮にジェイドがこの件に手出しをするなら、遠隔で狙いをつけづらいが魔法で援護をしてやろうとマジカルペンを取り出した。
「確かにユウさんの剣術は目を見張るものがあります。きっと僕では太刀打ちできないでしょう」
なるほどそう来たか。リリアは構えようとしたマジカルペンを仕舞った。ジェイドの話を聞いた男たちは、顔を見合わせた。ジェイドの体術の強さは一緒に授業を受けた者なら知っている。学年内で手を合わせたものは誰も――フロイドは飽きたと言って不戦勝だが――勝つことなどできなかった。そんな彼の不戦敗宣言は、一定の絶望をユウに挑む男たちに与えた。
「無理だ」
「そもそも、なんで俺たちがこんなに必死になってあいつに構わなくちゃいけないんだ」
茶々を出してきたのはそちらだろう、とリリアがせせら笑うと、徐々にユウに挑む男たちが姿を消していった。まだ禍根が残っている輩もいるようだから、それはこちらで処分しておこうとリリアは屋根から飛び降りた。
そしてそのまま宙に浮いて、廊下を浮きながら移動する。その先には随分と大きくなった息子の背中があった。
シルバーは気配に気が付いて振り返ると、そこには何もいない。彼がおかしいなと首を傾げると、頭上から声が降ってきた。
「ここじゃ」
はっと彼が視線を向けると、リリアが宙をまるで泳ぐように浮いていた。申し訳ありません、と首を垂れれば、まだまだ修行不足じゃな、とリリアが笑った。
「何かあったんですか?」
随分とご機嫌なリリアの様子に気が付いたシルバーが尋ねると、リリアは噂に疎いこの息子が最近気にかけている人間の話をすることにした。
「くふふ、なんでもユウに告白する人物が増えておるらしい。相手が女と知ったうえでの好意じゃ」
案の定、シルバーの表情が硬くなる。おおよそこれは驚いてはいるが、その表情にわずかな焦りが見える。自然と低くなる声に、リリアはシルバーの様子が忙しなくなるのを見ていた。
「なぜ女と知られているんですか」
「さてな、ワシにも分からん」
とぼけてみせれば、シルバーの顔は確信に変わった。ユウの身に危険が迫っているかもしれない、などと考えておるんじゃろうなぁと眺めていれば、どこにいましたか? と尋ねられる。
「先ほどまで食堂におったが、もうどこぞへ行ったかもしれん」
「失礼します」
お辞儀もそこそこに風のようにその場を去ったシルバーの背中を見て、リリアは急げ急げとはやし立てた。
「なにしろあの娘は周りの好意に鈍感じゃ。いつ手を出されるか、分からんぞ」
上機嫌に鼻歌を歌ったリリアは、息子たちの様子を見て来いと眷属を飛ばし、その場を去った。
*
シルバーは急いで校内を走り回った。普段鍛錬で鍛えているはずなのに、焦りからか呼吸が上手くできない。頭の中で駆け巡るのは、傷ついて泣いている彼女の姿だ。
まさか、ユウに不用意に近づいた輩がいて、それで女性と気づいたのかもしれない。シルバーはスカートを見て勘違いしたところを本人に訂正されたが、実際のところ女性の体つきを見てしまったのかもしれない。それで欲情した者や女子だからと侮って乱暴をはたらく者がいるなら?
シルバーの拳が音を立てて唸った。足取りは大分早くなり、前へ前へとかけていくが、目だけは彼女を捉えられなかった。そのことがますますシルバーの鼓動を逸らせた。
「ユウ……!」
シルバーは学園内にいない彼女を手当たり次第に生徒に聞き回り、ようやくオンボロ寮に帰る姿を見たと聞くことができた。何かユウとのことでからかわれた気もするが、もはやどうでもいい。ユウが傷ついて泣いていやしないか、それだけがシルバーの頭を占めていた。
急いた足でオンボロ寮に向かえば、ゴーストたちにまだ帰ってきていないと言われた。しかし、毎日鍛錬を積んでいるとはいえ、流石に走り回りすぎたのだろう。シルバーは足を止めた瞬間、瞼が降りてくるのを感じた。
まだ、彼女を見つけていないのに、眠ることはできない。そう思い、ぐっと膝に力を入れて、オンボロ寮の玄関に腰掛けた。それが睡魔の罠と知らず、シルバーは瞼を下ろしてしまった。