夢に見て
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祭りの会場はどこも他人で溢れている。立ち並ぶ屋台と人の声で溢れるこの通りが、シルバーにとっては新鮮だった。あれもそれもと見ていると、遠くでユウの声がする。
「先輩! どこですか?」
はっとしたシルバーが首を前後左右に巡らせるが、ユウが人混みに紛れて見えなくなっていることに気が付く。シルバーはすぐさまもと来た道を探した。似たような服装をした人物を探すこともそうだが、何より人の波に逆らうのは思った以上に体力を消耗する。ユウの姿を探すシルバーは屋台の隙間から伸びた手に掴まれた。
「先輩!」
そこにはユウがいた。急いで人の流れから外れるように、ユウの傍に近寄る。不安そうに見上げている彼女に、シルバーは深く反省した。物珍しさだけでユウを見失うところだった自分を思い切り叩いてやりたい。
「すまなかった。ここの賑やかな祭りが珍しくて、つい見入ってしまった」
「大丈夫ですよ。私もはぐれちゃってすいません」
嬉しそうに笑ったユウは、シルバーに手を差し出した。この見上げてくる視線をこれまでの経験則で予測すると、なにか提案したいようだ。
「あの、はぐれないように手を繋ぎませんか?」
なるほど、その手があったか。シルバーはもちろんだと頷き、彼女の小さな手を握る。ユウの頬が若干先ほどよりも赤い気がするが、シルバーはこれで彼女と離れなくて済むことに安堵していた。
「せっ先輩……その、私」
何か言いたげな彼女が手を強く握る。シルバーはどうしたと彼女の目を覗き込むように見つめた。何度か金魚のように口をパクパクとさせたあと、まるで怒ったリドルのように顔を真っ赤にした彼女は言った。
「わっ私おすすめの屋台があるので! そちらへ行きましょう!」
セベクも顔負けのユウの声量にシルバーはなぜこれほどうるさくなったのかと考え始めた。そもそもそれほどのことはしていないし、彼女も怒っているわけではなさそうなのだがなぜこんなに大きな声を出すのだろう。
「……ああ、頼む」
しかし、シルバーからすれば、生き生きしているユウが見られるだけで嬉しかった。早く戻らねばならないが、心から楽しんでいる彼女をもう少しだけ眺めていたかった。自分への隠し事も何もない暖かな彼女の笑顔が見られるよう、彼はユウの提案を飲む。案の定、ユウは赤らんだ顔を輝かせ、シルバーの手を引いた。
*
ユウが行きたいと言った屋台は一通り巡った後、彼女はもうすぐ花火だと言って人気のない森へとシルバーの手を引いて連れて行く。足元が良く見えないのになぜこれほど前へ進めるんだと考えると、ここはユウの夢だから彼女の思うままに動いているのかとシルバーは気が付いた。
「絶好の花火スポットは、ここです」
森の一部が開けた部分になっており、木々の向こうにはユウの暮らす街の明かりが見えた。その瞬間、派手な音がシルバーの耳を轟かせた。大砲のようなその音に思わず身構えて臨戦態勢に入りかけると、頭上に大輪の光の輪が二つ出現していた。
「ほら! 花火ですよ!」
ユウが空を指すとまた花火が現れ、形を様々に変えていく。派手な音ではあるが、ずっと見つめてしまうほどに美しいものだとシルバーは目に焼き付けていた。
「先輩。綺麗ですね」
花火の轟音の間に聞こえたユウの言葉に隣を見れば、にこりとこちらに微笑む彼女がいた。その穏やかな表情に再び心音が不規則に鳴るので、シルバーは彼女を掴む手を強くした。
「ああ。そうだな」
花火を見つめる彼女のキラキラと花火を反射する瞳や普段はさらけ出されないうなじがシルバーの目に焼き付く。うなじに垂れたおくれ毛が夜風でゆらりと揺れた。シルバーは細いその首に垂れる髪へ無意識に手を伸ばした。
するり、と彼女のうなじを撫でると、びくりと小さなユウの肩が跳ねる。驚いた彼女がうなじを押さえシルバーを見上げた瞬間、彼は自分が何をしでかしたのか気が付いた。
「す、すまない」
なんと言えばいい。無意識にうなじを触ってしまっていたなどと言って気味悪がられないだろうか、とシルバーの胸に不安がよぎる。見上げたユウは照れたように笑った。
「先輩なら何されても怖くないですから、大丈夫です」
シルバーに全幅の信頼を寄せる彼女に、彼は頭を抱えたい気持ちでいっぱいになった。こんな風に簡単に心を許されては困る。これでは彼女を守るどころか、彼女に許されてばかりではないだろうか。
ユウは再び花火を見上げて、うっとりとした表情を浮かべる。
「ああ、夢ならこのまま覚めなければいいのに」
その一言で、シルバーは心臓に氷を押し付けられた。
「ダメだ」
低く唸った彼にユウは驚いてまたシルバーを見上げる。シルバーの両手が彼女の小さな肩を捉えた。
「ユウ、起きるんだ」
彼女が目覚めなければ、グリムとの約束も学園長からの餞別も、親父殿のアドバイスや手配も無駄になってしまう。なにより、彼女には聞けていないのだ。自分を寂しくさせる笑顔の理由を。
「ここは夢だ。目を覚ませ」
「先輩、何を言ってるんですか?」
戸惑うユウにシルバーは迷いのない瞳で、残酷な問いを突き付けた。
「なら、お前はどうやって元の世界に帰ったんだ。まだ帰る方策は見つかってもいないぞ」
その瞬間、シルバーはユウから見えない力で弾かれ、彼女から遠ざかっていく。シルバーは彼女に手を伸ばした。
「ユウ!!」
「先輩! どこですか?」
はっとしたシルバーが首を前後左右に巡らせるが、ユウが人混みに紛れて見えなくなっていることに気が付く。シルバーはすぐさまもと来た道を探した。似たような服装をした人物を探すこともそうだが、何より人の波に逆らうのは思った以上に体力を消耗する。ユウの姿を探すシルバーは屋台の隙間から伸びた手に掴まれた。
「先輩!」
そこにはユウがいた。急いで人の流れから外れるように、ユウの傍に近寄る。不安そうに見上げている彼女に、シルバーは深く反省した。物珍しさだけでユウを見失うところだった自分を思い切り叩いてやりたい。
「すまなかった。ここの賑やかな祭りが珍しくて、つい見入ってしまった」
「大丈夫ですよ。私もはぐれちゃってすいません」
嬉しそうに笑ったユウは、シルバーに手を差し出した。この見上げてくる視線をこれまでの経験則で予測すると、なにか提案したいようだ。
「あの、はぐれないように手を繋ぎませんか?」
なるほど、その手があったか。シルバーはもちろんだと頷き、彼女の小さな手を握る。ユウの頬が若干先ほどよりも赤い気がするが、シルバーはこれで彼女と離れなくて済むことに安堵していた。
「せっ先輩……その、私」
何か言いたげな彼女が手を強く握る。シルバーはどうしたと彼女の目を覗き込むように見つめた。何度か金魚のように口をパクパクとさせたあと、まるで怒ったリドルのように顔を真っ赤にした彼女は言った。
「わっ私おすすめの屋台があるので! そちらへ行きましょう!」
セベクも顔負けのユウの声量にシルバーはなぜこれほどうるさくなったのかと考え始めた。そもそもそれほどのことはしていないし、彼女も怒っているわけではなさそうなのだがなぜこんなに大きな声を出すのだろう。
「……ああ、頼む」
しかし、シルバーからすれば、生き生きしているユウが見られるだけで嬉しかった。早く戻らねばならないが、心から楽しんでいる彼女をもう少しだけ眺めていたかった。自分への隠し事も何もない暖かな彼女の笑顔が見られるよう、彼はユウの提案を飲む。案の定、ユウは赤らんだ顔を輝かせ、シルバーの手を引いた。
*
ユウが行きたいと言った屋台は一通り巡った後、彼女はもうすぐ花火だと言って人気のない森へとシルバーの手を引いて連れて行く。足元が良く見えないのになぜこれほど前へ進めるんだと考えると、ここはユウの夢だから彼女の思うままに動いているのかとシルバーは気が付いた。
「絶好の花火スポットは、ここです」
森の一部が開けた部分になっており、木々の向こうにはユウの暮らす街の明かりが見えた。その瞬間、派手な音がシルバーの耳を轟かせた。大砲のようなその音に思わず身構えて臨戦態勢に入りかけると、頭上に大輪の光の輪が二つ出現していた。
「ほら! 花火ですよ!」
ユウが空を指すとまた花火が現れ、形を様々に変えていく。派手な音ではあるが、ずっと見つめてしまうほどに美しいものだとシルバーは目に焼き付けていた。
「先輩。綺麗ですね」
花火の轟音の間に聞こえたユウの言葉に隣を見れば、にこりとこちらに微笑む彼女がいた。その穏やかな表情に再び心音が不規則に鳴るので、シルバーは彼女を掴む手を強くした。
「ああ。そうだな」
花火を見つめる彼女のキラキラと花火を反射する瞳や普段はさらけ出されないうなじがシルバーの目に焼き付く。うなじに垂れたおくれ毛が夜風でゆらりと揺れた。シルバーは細いその首に垂れる髪へ無意識に手を伸ばした。
するり、と彼女のうなじを撫でると、びくりと小さなユウの肩が跳ねる。驚いた彼女がうなじを押さえシルバーを見上げた瞬間、彼は自分が何をしでかしたのか気が付いた。
「す、すまない」
なんと言えばいい。無意識にうなじを触ってしまっていたなどと言って気味悪がられないだろうか、とシルバーの胸に不安がよぎる。見上げたユウは照れたように笑った。
「先輩なら何されても怖くないですから、大丈夫です」
シルバーに全幅の信頼を寄せる彼女に、彼は頭を抱えたい気持ちでいっぱいになった。こんな風に簡単に心を許されては困る。これでは彼女を守るどころか、彼女に許されてばかりではないだろうか。
ユウは再び花火を見上げて、うっとりとした表情を浮かべる。
「ああ、夢ならこのまま覚めなければいいのに」
その一言で、シルバーは心臓に氷を押し付けられた。
「ダメだ」
低く唸った彼にユウは驚いてまたシルバーを見上げる。シルバーの両手が彼女の小さな肩を捉えた。
「ユウ、起きるんだ」
彼女が目覚めなければ、グリムとの約束も学園長からの餞別も、親父殿のアドバイスや手配も無駄になってしまう。なにより、彼女には聞けていないのだ。自分を寂しくさせる笑顔の理由を。
「ここは夢だ。目を覚ませ」
「先輩、何を言ってるんですか?」
戸惑うユウにシルバーは迷いのない瞳で、残酷な問いを突き付けた。
「なら、お前はどうやって元の世界に帰ったんだ。まだ帰る方策は見つかってもいないぞ」
その瞬間、シルバーはユウから見えない力で弾かれ、彼女から遠ざかっていく。シルバーは彼女に手を伸ばした。
「ユウ!!」