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シルバーには一つ悩みがあった。弟子のような後輩、オンボロ寮の監督生ユウが無理をしている気がする。それは彼がつい先週のランニングで感じた違和感がきっかけだった。
待ち時間通りに鏡舎で合流したのはいいものの、走り出した途端ユウは明らかに息が上がっているのにペースを緩めなかった。何度もシルバーは止まれと言っているのに聞かないので無理やり腕を掴んでようやく止まった。その時、彼女はシルバーの声が届いていなかったのか、初めて声をかけられたかのように目を丸くした。すぐさま彼女は指示に背いたことを謝ったが、その後もおかしなことが続いた。
ペアになった実験では調合の具合もよく分かっていないのに先走って失敗したり、魔法史では違うページを予習していたりと彼女らしくなく急いている印象だった。だからシルバーは、ついに昨日何を焦っているんだと尋ねた。シルバーの言うことに素直に従い、何より偽りのない言葉を返してくる彼女のことだ。これで、素直に彼女は胸に抱えるものを教えてくれるだろう。
「……ちょっと寝不足で」
困ったように笑うユウに、シルバーは戸惑った。彼女の話す言葉も仕草も嘘はないと思えるのに、直感と言えるところでシルバーは違うと感じていた。頭ではユウの言い分を受け入れられているのに、彼は心でそれが嘘じゃないかと感じたのだ。
ユウを疑うことに気が引けたシルバーは、たまらず育ての親であるリリアに救いを求めた。疑ってしまっては彼女に申し訳ないだろうと、言ってほしかったのだ。しかし、リリアは断固とした表情で彼に言った。
「もしお主がそう感じているならば、それはユウが隠し事をしていると考えるべきじゃ。時に直感は恐ろしい程、物事の真理を突くことがある」
シルバーはその言葉を否定したかったが、彼の何千倍も長く生きているリリアの言葉は確かな重みをもっていた。その言葉を無視することなどできない一方ユウをどうすればいいのか戸惑う彼に、リリアは一つの助言を授けた。
「シルバー。なにもユウはお主を嫌っているわけではあるまい。誰しも、人に言えぬことの一つや二つは抱えているもの。たまたまそれが表面に出かけておるのだ。あまりに辛そうなら、お主が手を貸してやるが良い」
彼女が辛いなら手を貸すこと。その方策を知ったシルバーは、この広い学園内で寮章のないブレザーを探していた。彼女の笑顔を守ると決めた彼にとって、あんな辛そうな笑顔の彼女を放っておくことはできなかった。
廊下を歩いていると、この学園でただ一匹の魔獣の生徒を見つけたシルバーは真っ先に彼の元へ駆け寄った。
「グリム」
「お、なんだ銀髪野郎じゃねえか。どうしたんだ?」
腕を組む彼に、シルバーは膝を折って視線を合わせ、ユウの居場所を尋ねた。グリムはシアンの瞳をぱちくりと瞬きすると、なにかいいことを思いついたのか意味ありげな笑顔を浮かべた。
「俺様について来い」
そう言って歩き出したグリムの後をシルバーは追いかける。どうやら居場所を知っているらしいグリムは、一年の教室の前へ連れてきていた。1Aと書かれたプレートが下がっていて、ユウの声が中から聞こえた。
「子分はここだゾ」
「すまない。助かった」
「ツナ缶一個で許してやる」
分かった、と頷いたシルバーは、扉に手をかけ押す。そこにはたくさんの魔法が溢れていた。
「次は俺の番!」
そう言った彼は水魔法でクジラを出現させた。さすがに実物大とは言えないが、シルバーの上を泳いでいく。すると、他の生徒が離れたところで魔法の練習をしている生徒めがけてマジカルペンを向けた。
「くらえ! 俺のユニーク魔法!」
そうして放たれた光の矢は彼に向かうけれど、瞬時に防衛魔法でその光の矢は弾かれる。弾かれたその光は一直線にグリムに向かっていた。シルバーの足より前に着地することを彼は分かってはいたが、グリムに直撃すると気づいた時にはマジカルペンを持つ前だった。光の矢に足がすくんだグリムは動くことができない。
間に合わない。
シルバーがそう直感した時だった。
「グリム!!」
その瞬間、グリムの前にとっさに飛び込んでくる影があった。光の矢がブレザーを羽織った背中に食い込み、グリムを抱えた体はそのまま壁際まで滑っていく。
誰も彼もその状況をただ見ていることしかできなかった。ようやく停止した体がまとうブレザーに寮章がないことを確認したシルバーはとっさに駆けだす。自分を包んだその腕の匂いを知っていたグリムは、一寸も動かない腕から飛び出し叫んだ。
「ユウ!!」
待ち時間通りに鏡舎で合流したのはいいものの、走り出した途端ユウは明らかに息が上がっているのにペースを緩めなかった。何度もシルバーは止まれと言っているのに聞かないので無理やり腕を掴んでようやく止まった。その時、彼女はシルバーの声が届いていなかったのか、初めて声をかけられたかのように目を丸くした。すぐさま彼女は指示に背いたことを謝ったが、その後もおかしなことが続いた。
ペアになった実験では調合の具合もよく分かっていないのに先走って失敗したり、魔法史では違うページを予習していたりと彼女らしくなく急いている印象だった。だからシルバーは、ついに昨日何を焦っているんだと尋ねた。シルバーの言うことに素直に従い、何より偽りのない言葉を返してくる彼女のことだ。これで、素直に彼女は胸に抱えるものを教えてくれるだろう。
「……ちょっと寝不足で」
困ったように笑うユウに、シルバーは戸惑った。彼女の話す言葉も仕草も嘘はないと思えるのに、直感と言えるところでシルバーは違うと感じていた。頭ではユウの言い分を受け入れられているのに、彼は心でそれが嘘じゃないかと感じたのだ。
ユウを疑うことに気が引けたシルバーは、たまらず育ての親であるリリアに救いを求めた。疑ってしまっては彼女に申し訳ないだろうと、言ってほしかったのだ。しかし、リリアは断固とした表情で彼に言った。
「もしお主がそう感じているならば、それはユウが隠し事をしていると考えるべきじゃ。時に直感は恐ろしい程、物事の真理を突くことがある」
シルバーはその言葉を否定したかったが、彼の何千倍も長く生きているリリアの言葉は確かな重みをもっていた。その言葉を無視することなどできない一方ユウをどうすればいいのか戸惑う彼に、リリアは一つの助言を授けた。
「シルバー。なにもユウはお主を嫌っているわけではあるまい。誰しも、人に言えぬことの一つや二つは抱えているもの。たまたまそれが表面に出かけておるのだ。あまりに辛そうなら、お主が手を貸してやるが良い」
彼女が辛いなら手を貸すこと。その方策を知ったシルバーは、この広い学園内で寮章のないブレザーを探していた。彼女の笑顔を守ると決めた彼にとって、あんな辛そうな笑顔の彼女を放っておくことはできなかった。
廊下を歩いていると、この学園でただ一匹の魔獣の生徒を見つけたシルバーは真っ先に彼の元へ駆け寄った。
「グリム」
「お、なんだ銀髪野郎じゃねえか。どうしたんだ?」
腕を組む彼に、シルバーは膝を折って視線を合わせ、ユウの居場所を尋ねた。グリムはシアンの瞳をぱちくりと瞬きすると、なにかいいことを思いついたのか意味ありげな笑顔を浮かべた。
「俺様について来い」
そう言って歩き出したグリムの後をシルバーは追いかける。どうやら居場所を知っているらしいグリムは、一年の教室の前へ連れてきていた。1Aと書かれたプレートが下がっていて、ユウの声が中から聞こえた。
「子分はここだゾ」
「すまない。助かった」
「ツナ缶一個で許してやる」
分かった、と頷いたシルバーは、扉に手をかけ押す。そこにはたくさんの魔法が溢れていた。
「次は俺の番!」
そう言った彼は水魔法でクジラを出現させた。さすがに実物大とは言えないが、シルバーの上を泳いでいく。すると、他の生徒が離れたところで魔法の練習をしている生徒めがけてマジカルペンを向けた。
「くらえ! 俺のユニーク魔法!」
そうして放たれた光の矢は彼に向かうけれど、瞬時に防衛魔法でその光の矢は弾かれる。弾かれたその光は一直線にグリムに向かっていた。シルバーの足より前に着地することを彼は分かってはいたが、グリムに直撃すると気づいた時にはマジカルペンを持つ前だった。光の矢に足がすくんだグリムは動くことができない。
間に合わない。
シルバーがそう直感した時だった。
「グリム!!」
その瞬間、グリムの前にとっさに飛び込んでくる影があった。光の矢がブレザーを羽織った背中に食い込み、グリムを抱えた体はそのまま壁際まで滑っていく。
誰も彼もその状況をただ見ていることしかできなかった。ようやく停止した体がまとうブレザーに寮章がないことを確認したシルバーはとっさに駆けだす。自分を包んだその腕の匂いを知っていたグリムは、一寸も動かない腕から飛び出し叫んだ。
「ユウ!!」