少しずつでもいい
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次の瞬間には、そこは私の知るオンボロ寮でもなく、なんとなく静かで寂しいディアソムニア寮のどこかだと分かった。
「ここは、俺の部屋だ。そこのベッドに座ってくれ」
べ、べっど!? シルバー先輩の部屋!! ちょ、なになに何が起こった! あまりの出来事に何も頭が働かないのがますます怖い。
大人しくベッド――ではなく、先輩がいつも使っているであろう大きな椅子に腰をかけた。彼女でもないのに、そこに腰掛けるのは心臓に悪い。私はおそるおそる声を出した。
「な……なんの用事でしょう……」
まさか、もう弟子は採らない、お前は破門だとか言われる? それとも私の恋心を暴露したリリア先輩のおかげで「悪いが、そういう目で見れない」と断られる? もうダメだ。それなら、もう何も優しくしないで。
シルバー先輩は私と相対するようにベッドに腰掛けた。真っ直ぐな眼差しが怖いのに、逸らせないのはなんでだろう。
「……お前に、先日は失礼な態度をとってしまった。親父殿にも、マレウス様にも叱られてしまった」
え、そんなこと起こっていたの? それも、シルバー先輩のお父さんや寮長さんまで怒るって、どこまで影響広がっているんだ。
とりあえず、落ち込んでいる先輩を励ますのが先決だ。私はとっさに掌を見せて、笑顔で安心させようとした。
「全然気にしなくていいんですよ。私なんてほら、言わないと気づかないくらいには女の子の欠片もなかったですし」
「そんなことは無い」
はっきり言いきられたおかげで、私の感情は一瞬だけ死滅した。ああこの綺麗な瞳に断言されると、それが真実と信じ込める自信はある。騎士様って本当に女性への扱いが手厚い。広辞苑並みに分厚い。優しすぎるよ。
「ユウが時々女じゃないのかということは、何度かセベクも言っていた」
あの白菜! 何私の事べらべら話してるんだ! ていうか、1年は全員知ってると思ってたのに! セベクのバカ! 知っててよ!
「それに……俺はお前が愛らしいと思う時がある」
あ、愛らしい?!
どっと心臓に拳が入る音がする。思わず胸に手を当てて衝撃に耐えると、シルバー先輩は偽りのない瞳で私を綺麗に映していた。
「普段から身だしなみに気を使いながら、男の中で違和感なく立ち振る舞うのは至難の業だろう。俺ならまず無理だ」
なになになに?! すごい褒めてくれる!! 嬉しいけど、嬉しいけど!! これは一体どういうことなんだ?
先輩は戸惑っている私が口元を手で隠しているのも気に留めず、辛そうに視線を下げた。
「お前が女性だとしても俺は気にしないつもりでいた。そのつもりでいたんだが、恥ずかしながら俺は女性に慣れていない」
何その可愛い理由ー! すいません今すぐこの人にキノコリゾットを出してください。それか今すぐ山に行ってキノコを採りに行かせてください。貢ぎます。今までの悩みとかどうでもよくなるレベルでシルバー先輩が真剣に悩んでくれていたからもう私が謝りたいくらいだ。
「どう、接していいのかわからなくなった。普段通りに振舞おうにも、お前の姿を見ると落ち着かなくなる。呆れたことに、そんな自分を制御できなかった」
あれ、先輩何だか自己嫌悪モードに入っていませんか? 顔色良くないですよ。このまま放っておくと多分この人は自分を責めてばかりでよくない。
先輩、と声をかければそろそろと視線が上がってくる。ようやく視線が合った時に微笑んで返した。
「むしろ、それが当然かと。私がもしシルバー先輩の立場だったら、びっくりしてちょっと距離置きます。自分の気持ちに整理が必要なので。だから、先輩は先輩のペースで仲良くしてくれると私は嬉しいです」
私の言葉に安堵したのか、先輩も少しだけ口角を持ち上げた。ああ、この微笑みを守っていきたいんだ。
「……ありがとう」
*
でも私へのお詫びを何かしたいと先輩が引き下がらないので、今まで好きになった人の共通点を教えてもらうことにした。先輩は顎に指先を当てて、少し考えこむ。
「俺の好きな人の共通点……どの人も俺を育ててくれた」
あああ生まれた時からが出発点だった! 完全に出遅れた私にとってその条件は巻き返しが絶望的だ。
「それと、自分にも厳しい人だ」
いつも自分に甘いキャンディ舐めさせるような心持をしていてごめんなさい。これからはもっと自分に厳しく生きます!
情報収集のつもりが思った以上に心のダメージを食らってしまった。どうしてこんなに理想ははるか遠いんだ。
泣き出したい私の前で、先輩は珍しくスマホを触っている。何をしているんだろうと眺めていれば、画面を見せられた。そこには先輩のマジカメのIDとメールアドレス、携帯電話の番号まで載っている。
「ユウ。もし何かあったら、俺に連絡しろ。何かしら役には立つ」
「え! そ、そんな……いいんですか?」
そんな豪華特典がつくようなことした覚えもないんですけど。でもシルバー先輩は頷いて返してくれている。きっと本当に心配してくれているんだ。
「迷惑か?」
「まさか! スマホ出しますね!」
急いでスマホを出して、私もマジカメのIDとメールアドレス、電話番号を教えた。きちんと迷惑じゃないですか? と聞き返せば、大事なことだから構わない、と見事な答えで返された。
シルバー先輩はスマホに私の情報を登録させると、画面からまた私の顔に目線をくれた。この視線が一番心臓に悪いかも。
「それと、鍛錬や剣術の内容も女性向けに変えておく。体力がついて行かないどころか体を壊してしまうからな」
「はい」
どこまでも気遣いがある先輩だなぁ。そんな先輩だから好きになっちゃったわけですが。
「先輩、これからもよろしくお願いします」
そう言ってお辞儀をすると、顔を上げた時に先輩はまたあの微笑みを見せた。
「こちらこそ、よろしく頼む」
「ここは、俺の部屋だ。そこのベッドに座ってくれ」
べ、べっど!? シルバー先輩の部屋!! ちょ、なになに何が起こった! あまりの出来事に何も頭が働かないのがますます怖い。
大人しくベッド――ではなく、先輩がいつも使っているであろう大きな椅子に腰をかけた。彼女でもないのに、そこに腰掛けるのは心臓に悪い。私はおそるおそる声を出した。
「な……なんの用事でしょう……」
まさか、もう弟子は採らない、お前は破門だとか言われる? それとも私の恋心を暴露したリリア先輩のおかげで「悪いが、そういう目で見れない」と断られる? もうダメだ。それなら、もう何も優しくしないで。
シルバー先輩は私と相対するようにベッドに腰掛けた。真っ直ぐな眼差しが怖いのに、逸らせないのはなんでだろう。
「……お前に、先日は失礼な態度をとってしまった。親父殿にも、マレウス様にも叱られてしまった」
え、そんなこと起こっていたの? それも、シルバー先輩のお父さんや寮長さんまで怒るって、どこまで影響広がっているんだ。
とりあえず、落ち込んでいる先輩を励ますのが先決だ。私はとっさに掌を見せて、笑顔で安心させようとした。
「全然気にしなくていいんですよ。私なんてほら、言わないと気づかないくらいには女の子の欠片もなかったですし」
「そんなことは無い」
はっきり言いきられたおかげで、私の感情は一瞬だけ死滅した。ああこの綺麗な瞳に断言されると、それが真実と信じ込める自信はある。騎士様って本当に女性への扱いが手厚い。広辞苑並みに分厚い。優しすぎるよ。
「ユウが時々女じゃないのかということは、何度かセベクも言っていた」
あの白菜! 何私の事べらべら話してるんだ! ていうか、1年は全員知ってると思ってたのに! セベクのバカ! 知っててよ!
「それに……俺はお前が愛らしいと思う時がある」
あ、愛らしい?!
どっと心臓に拳が入る音がする。思わず胸に手を当てて衝撃に耐えると、シルバー先輩は偽りのない瞳で私を綺麗に映していた。
「普段から身だしなみに気を使いながら、男の中で違和感なく立ち振る舞うのは至難の業だろう。俺ならまず無理だ」
なになになに?! すごい褒めてくれる!! 嬉しいけど、嬉しいけど!! これは一体どういうことなんだ?
先輩は戸惑っている私が口元を手で隠しているのも気に留めず、辛そうに視線を下げた。
「お前が女性だとしても俺は気にしないつもりでいた。そのつもりでいたんだが、恥ずかしながら俺は女性に慣れていない」
何その可愛い理由ー! すいません今すぐこの人にキノコリゾットを出してください。それか今すぐ山に行ってキノコを採りに行かせてください。貢ぎます。今までの悩みとかどうでもよくなるレベルでシルバー先輩が真剣に悩んでくれていたからもう私が謝りたいくらいだ。
「どう、接していいのかわからなくなった。普段通りに振舞おうにも、お前の姿を見ると落ち着かなくなる。呆れたことに、そんな自分を制御できなかった」
あれ、先輩何だか自己嫌悪モードに入っていませんか? 顔色良くないですよ。このまま放っておくと多分この人は自分を責めてばかりでよくない。
先輩、と声をかければそろそろと視線が上がってくる。ようやく視線が合った時に微笑んで返した。
「むしろ、それが当然かと。私がもしシルバー先輩の立場だったら、びっくりしてちょっと距離置きます。自分の気持ちに整理が必要なので。だから、先輩は先輩のペースで仲良くしてくれると私は嬉しいです」
私の言葉に安堵したのか、先輩も少しだけ口角を持ち上げた。ああ、この微笑みを守っていきたいんだ。
「……ありがとう」
*
でも私へのお詫びを何かしたいと先輩が引き下がらないので、今まで好きになった人の共通点を教えてもらうことにした。先輩は顎に指先を当てて、少し考えこむ。
「俺の好きな人の共通点……どの人も俺を育ててくれた」
あああ生まれた時からが出発点だった! 完全に出遅れた私にとってその条件は巻き返しが絶望的だ。
「それと、自分にも厳しい人だ」
いつも自分に甘いキャンディ舐めさせるような心持をしていてごめんなさい。これからはもっと自分に厳しく生きます!
情報収集のつもりが思った以上に心のダメージを食らってしまった。どうしてこんなに理想ははるか遠いんだ。
泣き出したい私の前で、先輩は珍しくスマホを触っている。何をしているんだろうと眺めていれば、画面を見せられた。そこには先輩のマジカメのIDとメールアドレス、携帯電話の番号まで載っている。
「ユウ。もし何かあったら、俺に連絡しろ。何かしら役には立つ」
「え! そ、そんな……いいんですか?」
そんな豪華特典がつくようなことした覚えもないんですけど。でもシルバー先輩は頷いて返してくれている。きっと本当に心配してくれているんだ。
「迷惑か?」
「まさか! スマホ出しますね!」
急いでスマホを出して、私もマジカメのIDとメールアドレス、電話番号を教えた。きちんと迷惑じゃないですか? と聞き返せば、大事なことだから構わない、と見事な答えで返された。
シルバー先輩はスマホに私の情報を登録させると、画面からまた私の顔に目線をくれた。この視線が一番心臓に悪いかも。
「それと、鍛錬や剣術の内容も女性向けに変えておく。体力がついて行かないどころか体を壊してしまうからな」
「はい」
どこまでも気遣いがある先輩だなぁ。そんな先輩だから好きになっちゃったわけですが。
「先輩、これからもよろしくお願いします」
そう言ってお辞儀をすると、顔を上げた時に先輩はまたあの微笑みを見せた。
「こちらこそ、よろしく頼む」