少しずつでもいい
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「監督生、すまない」
そう言いながら、シルバー先輩はまたこのオンボロ寮に来ていた。いや、私は大歓迎なんですけども。
「全然大丈夫ですよ。どこでもお好きに探してください」
シルバー先輩はこの間の占星術で忘れ物もとい教科書を取りに来たらしい。すまないと今にも頭を下げそうな勢いで言うのに対して、気にしてないです! の一点張りを返すことしかできない自分がつくづく嫌になる。
あー、もっと可愛い返答の仕方とかないの? もう少しリリア先輩やエペルみたいな可愛い顔してたら、また何か変わったのだろうか。鏡の向こうにいる自分は残念ながらくせっ毛をコテで伸ばすキューティクルの死んだ髪だし、肌艶はいくら良くても子供っぽい顔つきはいくら凄んだところでゴーストたちには笑われる一方だ。美人なら怒ったら凄みはあるのに、私が怒ったところで誰も怖がらないし、笑って返すだけだし。ええ、分かってますとも私が美人じゃないことくらい! でも、好きな人に振り向かれるような顔でありたいと思うじゃないか。
談話室に入ったシルバー先輩が何かを見ているようだ。私はその後ろにそっとついてみるけれど、先輩はいつもなら気配でそっと背中を取られないように動くのに一歩も動く気配を見せない。
どうしたんだろう。もしかして教科書が見つかったのかな?
「あ、見つかりました?」
シルバー先輩が凝視している視線の先にあったのは、私のスカートだ。ばっちりストライプのソファにかけられているそれは、黒地に花柄が入っていてお気に入りとして使っている。そういえば、この前町へ出かける時は久しぶりに女の子の格好して出てきたから、しまうの忘れてたかも……。
ひゅっと喉が鳴る。もしかしなくても、絶対絶命だ。こんなところでバレるとかあるの? 私ってかなり抜けているんじゃない?
そっと見上げれば、困惑した表情でこっちを見るシルバー先輩に思わず赤面してしまった。私と目が合った先輩は気まずそうに視線を外す。
「すまない……。このことは誰にも言わない」
あ、これはもしかして、女と気づいてくれたのか? むしろそれなら好都合! 嫌ではないですよ、貴方になら気づかれても大丈夫ですと言外ににこやかに答える。
「い、いえ。むしろ先輩なら」
「人には様々な趣味嗜好がある。俺はそれを否定したりしない」
ん? この違和感は何だろう。先輩が言ってることと私が思っていることにわずかながらズレがあるのを感じた。
「趣味嗜好? 先輩、何を言ってるんですか?」
「俺はお前が女性に憧れてることは胸に秘めておく」
いやいやいや! もっと良くない勘違いされていた!
「ちっがいます!! 私女なんです!!!」
勢いのあまりそのまま言ってしまった私を、シルバー先輩はぽかーんと表現するのが適切な顔で見下ろしてくる。その顔はちょっと笑ってしまいそうになるから、早いところ元の涼しい顔に戻ってほしい。
そのまま膝を着いた先輩は、今にも頭を床につけそうな勢いで落ち込んだ。
「か、勘違いしてしまってすまない……」
「え! いや、気にしてないですから! 大丈夫です!」
なんのフォローにもならない私の謝罪で、シルバー先輩は顔に手を当てながらずっと膝を着いている。なんだか気づかれた喜びよりも、気づかせてしまった不憫さが勝ってきた。先輩ごめんなさい……。
膝をついたまま立てそうにない先輩に何とか立ち直ってほしくて必死に声をかけた。
「た、立ってください。ほら、占星術の教科書を見つけましょう」
「……ああ」
先輩は何かが吹っ切れたのかすぐさま立ちあがり、談話室を出て行った。なんだったんださっきのあの初々しい反応は。どこへ消えたんだ、一体。
その後、グリムとゴーストたちがカーペットの下敷きになっている教科書を見つけると、先輩は淡々とした挨拶だけを返して帰った。むしろ、私の方が被害を受けているのでは? いや、シルバー先輩に女と気づいてもらった(教えたという方が正しいのか)から、スカートのひとつくらい見せても構わない。グリムのツナ缶はその日だけ二缶出してあげた。
そう言いながら、シルバー先輩はまたこのオンボロ寮に来ていた。いや、私は大歓迎なんですけども。
「全然大丈夫ですよ。どこでもお好きに探してください」
シルバー先輩はこの間の占星術で忘れ物もとい教科書を取りに来たらしい。すまないと今にも頭を下げそうな勢いで言うのに対して、気にしてないです! の一点張りを返すことしかできない自分がつくづく嫌になる。
あー、もっと可愛い返答の仕方とかないの? もう少しリリア先輩やエペルみたいな可愛い顔してたら、また何か変わったのだろうか。鏡の向こうにいる自分は残念ながらくせっ毛をコテで伸ばすキューティクルの死んだ髪だし、肌艶はいくら良くても子供っぽい顔つきはいくら凄んだところでゴーストたちには笑われる一方だ。美人なら怒ったら凄みはあるのに、私が怒ったところで誰も怖がらないし、笑って返すだけだし。ええ、分かってますとも私が美人じゃないことくらい! でも、好きな人に振り向かれるような顔でありたいと思うじゃないか。
談話室に入ったシルバー先輩が何かを見ているようだ。私はその後ろにそっとついてみるけれど、先輩はいつもなら気配でそっと背中を取られないように動くのに一歩も動く気配を見せない。
どうしたんだろう。もしかして教科書が見つかったのかな?
「あ、見つかりました?」
シルバー先輩が凝視している視線の先にあったのは、私のスカートだ。ばっちりストライプのソファにかけられているそれは、黒地に花柄が入っていてお気に入りとして使っている。そういえば、この前町へ出かける時は久しぶりに女の子の格好して出てきたから、しまうの忘れてたかも……。
ひゅっと喉が鳴る。もしかしなくても、絶対絶命だ。こんなところでバレるとかあるの? 私ってかなり抜けているんじゃない?
そっと見上げれば、困惑した表情でこっちを見るシルバー先輩に思わず赤面してしまった。私と目が合った先輩は気まずそうに視線を外す。
「すまない……。このことは誰にも言わない」
あ、これはもしかして、女と気づいてくれたのか? むしろそれなら好都合! 嫌ではないですよ、貴方になら気づかれても大丈夫ですと言外ににこやかに答える。
「い、いえ。むしろ先輩なら」
「人には様々な趣味嗜好がある。俺はそれを否定したりしない」
ん? この違和感は何だろう。先輩が言ってることと私が思っていることにわずかながらズレがあるのを感じた。
「趣味嗜好? 先輩、何を言ってるんですか?」
「俺はお前が女性に憧れてることは胸に秘めておく」
いやいやいや! もっと良くない勘違いされていた!
「ちっがいます!! 私女なんです!!!」
勢いのあまりそのまま言ってしまった私を、シルバー先輩はぽかーんと表現するのが適切な顔で見下ろしてくる。その顔はちょっと笑ってしまいそうになるから、早いところ元の涼しい顔に戻ってほしい。
そのまま膝を着いた先輩は、今にも頭を床につけそうな勢いで落ち込んだ。
「か、勘違いしてしまってすまない……」
「え! いや、気にしてないですから! 大丈夫です!」
なんのフォローにもならない私の謝罪で、シルバー先輩は顔に手を当てながらずっと膝を着いている。なんだか気づかれた喜びよりも、気づかせてしまった不憫さが勝ってきた。先輩ごめんなさい……。
膝をついたまま立てそうにない先輩に何とか立ち直ってほしくて必死に声をかけた。
「た、立ってください。ほら、占星術の教科書を見つけましょう」
「……ああ」
先輩は何かが吹っ切れたのかすぐさま立ちあがり、談話室を出て行った。なんだったんださっきのあの初々しい反応は。どこへ消えたんだ、一体。
その後、グリムとゴーストたちがカーペットの下敷きになっている教科書を見つけると、先輩は淡々とした挨拶だけを返して帰った。むしろ、私の方が被害を受けているのでは? いや、シルバー先輩に女と気づいてもらった(教えたという方が正しいのか)から、スカートのひとつくらい見せても構わない。グリムのツナ缶はその日だけ二缶出してあげた。