えこひいきの何が悪い
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今日はセールス以外で初めてアズール先輩に話しかけられた。アズール先輩によると、消灯時間になっても戻らない寮生五人がいたそうだ。その五人は外泊許可が下りていないのにいないものだから、ジェイド先輩とフロイド先輩で手分けして一晩中探し回る羽目になったのだとか。
結果、オクタヴィネル寮の五人は真夜中になぜか学園裏の森で寝ていたところを見回り中のバルガス先生に見つかったらしい。彼らが言うには、天体観測をしようと思っていたがあまりに気持ち良すぎて眠ってしまったのだとか。
それならよかったじゃないですかと言えば、アズール先輩は「貴方を怒らせたあの五人ですよ」と付け加えた。正直、どうでもよかった。私の人生には関係ないし、もはやどうでもいい人たちだ。あまり突っかかるなともシルバー先輩に言われたし、これ以上関わる気も何か言うつもりもない。
そういうわけで「はぁ……」と生返事を返せば、アズール先輩は暫し私をじっくり見て「いえ、何も知らないのでしたら結構です」と立ち去ってしまった。なんだったんだ一体。
そう考えこんでいるうちに夜風に当たりたくなって、上着を羽織り玄関へ出た。吹きこんでくる風の冷たさに目を細める。
「人の子」
扉の先にいた友人に思わず目が丸くなる。今日来るとは思ってなかったけど、こういう時に話し相手がいるのは嬉しい。
「ツノ太郎。どうしたの?」
「いいや。お前の顔を見に来た。息災か」
なぁんだ。ツノ太郎、気を使ってくれたんだね。こういうのはありがたいから受け取っておこう。
「心配しなくても元気だよ。あ、一緒に散歩する?」
そう聞けば、ツノ太郎は目を丸くして「僕を招待するのか?」なんて言うから、そうだよとしっかり頷く。逆に聞くけど、友達を誘わないことなんてあるの?
ツノ太郎は楽しそうに口元に手を当てて上品に笑った。
「ふふふ、お前は本当に恐れを知らないと見える。いいだろう。この僕を連れて散歩をするといい」
上から目線は変わらないね。ツノ太郎さんや。
でもツノ太郎の散歩は特殊らしくて、私はなぜか一瞬でツノ太郎の腕に抱えられて、オンボロ寮の屋根の上にいた。目の前には白く大きく輝く月があって、手を伸ばせば届きそうだ。
「綺麗……」
「ふふ、僕のお気に入りの場所だ」
「最高。ツノ太郎ありがとう」
こんないい景色が見られる場所があったんだ。わたしはツノ太郎に屋根に下ろしてもらうと、そこに座り込んだ。冬が近いからか、空気も澄んでいる。月が綺麗に見える日だ。
ツノ太郎も座り込むと、私の目尻を指で触ってきた。どうしたの、と聞くと、ツノ太郎はなんだかさっきより険しい表情をしている。
「……シルバーたちを庇って、泣かされたのか?」
ああ、あの時のことか。そう言えばツノ太郎にはまだ話してなかったけど、ディアソムニア寮でそのことを聞いたから心配してくれたのかな。まさか意外と大ごとになっていたりして。
「ディアソムニア寮をバカにしたから、頭にきちゃっただけ。なんか、大ごとになってる?」
「いいや、シルバーから聞いた」
「そっか」
よかった。大ごとになっていたら、シルバー先輩に迷惑かけちゃうからね。あの花のしおりの思い出も悲しいものになっちゃう。
「なぜ、庇う? お前のことではないだろう」
ツノ太郎までシルバー先輩と同じこと言うなぁ。答えはもう決まっているんだけれども。
「……好きな人と、好きな人たちがいる寮をバカにして欲しくなかっただけ」
今なら、トレイン先生に言い返せる。えこひいきだってするよ、人間だから。確かに先輩にはダメなところだってあるけれど、それを乗り越える姿勢を否定できないでしょ、てね。
私の話を聞いたツノ太郎は薄く笑った。
「その様子だと、僕は含まれているようだな」
「当たり前だよ。ツノ太郎は最初にできたディアソムニア寮の友達なんだから」
ツノ太郎はなぜか驚いた顔をしているけれど、私にとってそれは本当のことだ。だから、いま否定されても言い返せるよ。
でもツノ太郎は、そのまま楽しそうに笑って月を見た。
「なるほど、悪くない」
私も倣って月を見上げた。顔なんかないのに、月が笑っているような気がした。
結果、オクタヴィネル寮の五人は真夜中になぜか学園裏の森で寝ていたところを見回り中のバルガス先生に見つかったらしい。彼らが言うには、天体観測をしようと思っていたがあまりに気持ち良すぎて眠ってしまったのだとか。
それならよかったじゃないですかと言えば、アズール先輩は「貴方を怒らせたあの五人ですよ」と付け加えた。正直、どうでもよかった。私の人生には関係ないし、もはやどうでもいい人たちだ。あまり突っかかるなともシルバー先輩に言われたし、これ以上関わる気も何か言うつもりもない。
そういうわけで「はぁ……」と生返事を返せば、アズール先輩は暫し私をじっくり見て「いえ、何も知らないのでしたら結構です」と立ち去ってしまった。なんだったんだ一体。
そう考えこんでいるうちに夜風に当たりたくなって、上着を羽織り玄関へ出た。吹きこんでくる風の冷たさに目を細める。
「人の子」
扉の先にいた友人に思わず目が丸くなる。今日来るとは思ってなかったけど、こういう時に話し相手がいるのは嬉しい。
「ツノ太郎。どうしたの?」
「いいや。お前の顔を見に来た。息災か」
なぁんだ。ツノ太郎、気を使ってくれたんだね。こういうのはありがたいから受け取っておこう。
「心配しなくても元気だよ。あ、一緒に散歩する?」
そう聞けば、ツノ太郎は目を丸くして「僕を招待するのか?」なんて言うから、そうだよとしっかり頷く。逆に聞くけど、友達を誘わないことなんてあるの?
ツノ太郎は楽しそうに口元に手を当てて上品に笑った。
「ふふふ、お前は本当に恐れを知らないと見える。いいだろう。この僕を連れて散歩をするといい」
上から目線は変わらないね。ツノ太郎さんや。
でもツノ太郎の散歩は特殊らしくて、私はなぜか一瞬でツノ太郎の腕に抱えられて、オンボロ寮の屋根の上にいた。目の前には白く大きく輝く月があって、手を伸ばせば届きそうだ。
「綺麗……」
「ふふ、僕のお気に入りの場所だ」
「最高。ツノ太郎ありがとう」
こんないい景色が見られる場所があったんだ。わたしはツノ太郎に屋根に下ろしてもらうと、そこに座り込んだ。冬が近いからか、空気も澄んでいる。月が綺麗に見える日だ。
ツノ太郎も座り込むと、私の目尻を指で触ってきた。どうしたの、と聞くと、ツノ太郎はなんだかさっきより険しい表情をしている。
「……シルバーたちを庇って、泣かされたのか?」
ああ、あの時のことか。そう言えばツノ太郎にはまだ話してなかったけど、ディアソムニア寮でそのことを聞いたから心配してくれたのかな。まさか意外と大ごとになっていたりして。
「ディアソムニア寮をバカにしたから、頭にきちゃっただけ。なんか、大ごとになってる?」
「いいや、シルバーから聞いた」
「そっか」
よかった。大ごとになっていたら、シルバー先輩に迷惑かけちゃうからね。あの花のしおりの思い出も悲しいものになっちゃう。
「なぜ、庇う? お前のことではないだろう」
ツノ太郎までシルバー先輩と同じこと言うなぁ。答えはもう決まっているんだけれども。
「……好きな人と、好きな人たちがいる寮をバカにして欲しくなかっただけ」
今なら、トレイン先生に言い返せる。えこひいきだってするよ、人間だから。確かに先輩にはダメなところだってあるけれど、それを乗り越える姿勢を否定できないでしょ、てね。
私の話を聞いたツノ太郎は薄く笑った。
「その様子だと、僕は含まれているようだな」
「当たり前だよ。ツノ太郎は最初にできたディアソムニア寮の友達なんだから」
ツノ太郎はなぜか驚いた顔をしているけれど、私にとってそれは本当のことだ。だから、いま否定されても言い返せるよ。
でもツノ太郎は、そのまま楽しそうに笑って月を見た。
「なるほど、悪くない」
私も倣って月を見上げた。顔なんかないのに、月が笑っているような気がした。