えこひいきの何が悪い
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ぽつぽつと先ほどまでのことのあらましを伝えると、シルバー先輩は眉をしかめていた。やっぱり怒られるようなことあの人たち言ってたよね。
「そうか。ただ泣くほど庇うことじゃない」
何を言っているんだこの人。でもシルバー先輩はそれが当然正しいことだと思って私に話していた。
「俺は誰に何を言われようとも、自分の意思でするだけだ。ディアソムニア寮もそれは同じだ。お前の悪口を言われたわけじゃないだろう、だから」
「自分の悪口より最低なことを言われたのと同じです!」
だって、私は知っているんだ。
どんな正論で先輩たちが客観的に評価されても、先輩の言うことが正論で私の言ってることがただのえこひいきだったとしても、私にとっての真実はあの日私を助けてくれたシルバー先輩で、ディアソムニア寮を教えてくれたセベクやリリア先輩で、私の寮に遊びに来るツノ太郎なんだ。
「先輩たちは……優しいのに」
私はただ誤解しているだけだと言いたかったのに、あんなふうに怒ってしまった。もし怒っていなかったら、もう少し違った未来があったかもしれない。でも、あんな言い草はあんまりだよ。
「あの日私を助けてくれて心配してくれた先輩が、サボり魔だなんて考えられません! 私の尊敬する人を舐めてもらっちゃ困るんです!」
どうしたらこの人の良さが分かってもらえるんだろう。私はどうしたら、あの時先生にもわかってもらえるように言い返せたんだろう。何もできない自分が悔しい。
「あー! 考えてたら悔し泣きがっ!」
ボロボロとまた目から零れだした涙を袖で拭うと、シルバー先輩は顔を俯かせていた。何やら考え込んでいるようで、じっと見つめていると不意に目が合う。一瞬心臓が止まった。
「……そんな風に評価してもらっているとは知らず、否定して済まない」
「い、いえ! 先輩が謝る必要なんてないです……」
「ただ、やはりお前が泣くほど反抗する必要はない」
「はい……」
先輩はそれでも正しいことを言う。分かっているんだ。私のやってることってセベクみたいなことだって。でもそれじゃ嫌なんだ。大事な人のこと、バカにしてほしくないんだ。
シルバー先輩はとつとつと私に向けて、絞り出すように言葉を返してくれる。
「俺は自分でも惰眠を貪ってしまう怠惰な部分を克服できていない。その点について評価されないのは、承知の上だ」
「でも……ディアソムニア寮の寮生も言ってました。『寮長の護衛を十分に努めている。鍛錬も欠かさない信頼できる人だ』って。眠ることだって、自分で克服しようとしているって」
シルバー先輩はそれならいい、と呟いた。どうしてだろう。でも、この人はそれでいいと本当に思っているんだ。
私が首を傾げると、シルバー先輩は顎に手を当てて視線を斜め下に逸らす。また言葉を選んでくれているんだろう。ようやく視線を上げた時、また目が合って心臓が跳ねた。
「俺は、お前や寮生にそう評価してもらえているだけで十分だ。自分の至らない部分もこれから克服する」
そう宣言する先輩はとってもキラキラして見える。なんだこの人本当に人間なのか。妖精が実は作ったんですよ~と言われても疑わないくらいに見た目がいい。中身も素晴らしい。
「先輩は強いですね」
私なんて怒りに我を忘れてかっとなってしまったのに、こんな余裕を見せつけられると恥ずかしい。まだまだシルバー先輩の領域には行けないな……。
「お前も十分強い」
「え?」
思わず聴き返すと、先輩はしっかり頷いて腕を組んだ。
「人のために怒れる人物は、他者のために力が出せる。それは大切な人を守るために必要なものだ。そして、自分のことを差し置いて怒るお前のおかげで、俺はまた強くなろうと思えた。ありがとう」
「先輩……」
そんなこと言われるとまた私の涙腺が壊れますから……本当に、勘弁してほしい。
先ほどではないにしろ、ぽろぽろ出てきた涙を見た先輩は驚いた様子だ。
「なぜ泣く? なにか、気分を害すようなことでも言ったか?」
「こ、これは……感動の涙ですから大丈夫です。ごめんなさい、涙腺が緩くて」
収まれと思っているのに、先輩に優しい声をかけられた嬉しさは怒り以上に私の目を濡らした。ずっと泣いていると先輩も困ってしまうのに、収まらないのはなんで?
すると、小鳥の声がした。次の瞬間には肩に重みを感じて、そろりと見てみればリスが乗っている。わたしの髪と頬の間にやってきた彼らは、私の頬に小さな頭を押し付けたり、涙を掬ってくれた。
「え? なに?」
どういうことですか? とシルバー先輩を見れば、先輩も同じく小鳥やリスに肩に乗られている。遅れてやってきた小鳥たちが先輩の周りで何やら素敵な歌を歌っていて、聞いてて何だか心が落ち着いてきた。
すると、一羽の小鳥がシルバー先輩にくちばしに挟んだ花を持ってきた。どうやら、渡したいのだろう。くるくると先輩の周りを飛んで、受け取ってほしいとアピールしている。
「……ああ。ありがとう」
またあの微笑みだ。横顔なのにどきっとしてしまうくらい綺麗な笑顔は本当に息をすることも忘れて見入ってしまう。先輩は花を受け取ると、何やら小鳥の声に耳を傾けている。分かったと頷いたシルバー先輩は私を見た。そしてそのまま、小鳥が渡した花を私に差し出す。
「小鳥たちがくれた。お前に渡したいそうだ」
「わあ、ありがとうございます」
小鳥からの贈り物なんて人生で初めてだ。そんな初めてを先輩から渡されるなんて思ってもなかったので、嬉しさは倍増されて、泣いたその顔で笑っていた。ああ、なんだか単純で恥ずかしいけど、とっても嬉しい。
「やはり、お前には笑顔が似合う」
え?
「先輩、今なんて言いました?」
一瞬のことだったけど、なにかとても大切なことを言われた気がする。でも先輩はいつもの涼やかな顔で、首を横に振った。
「なんでもない。独り言だ」
「そうか。ただ泣くほど庇うことじゃない」
何を言っているんだこの人。でもシルバー先輩はそれが当然正しいことだと思って私に話していた。
「俺は誰に何を言われようとも、自分の意思でするだけだ。ディアソムニア寮もそれは同じだ。お前の悪口を言われたわけじゃないだろう、だから」
「自分の悪口より最低なことを言われたのと同じです!」
だって、私は知っているんだ。
どんな正論で先輩たちが客観的に評価されても、先輩の言うことが正論で私の言ってることがただのえこひいきだったとしても、私にとっての真実はあの日私を助けてくれたシルバー先輩で、ディアソムニア寮を教えてくれたセベクやリリア先輩で、私の寮に遊びに来るツノ太郎なんだ。
「先輩たちは……優しいのに」
私はただ誤解しているだけだと言いたかったのに、あんなふうに怒ってしまった。もし怒っていなかったら、もう少し違った未来があったかもしれない。でも、あんな言い草はあんまりだよ。
「あの日私を助けてくれて心配してくれた先輩が、サボり魔だなんて考えられません! 私の尊敬する人を舐めてもらっちゃ困るんです!」
どうしたらこの人の良さが分かってもらえるんだろう。私はどうしたら、あの時先生にもわかってもらえるように言い返せたんだろう。何もできない自分が悔しい。
「あー! 考えてたら悔し泣きがっ!」
ボロボロとまた目から零れだした涙を袖で拭うと、シルバー先輩は顔を俯かせていた。何やら考え込んでいるようで、じっと見つめていると不意に目が合う。一瞬心臓が止まった。
「……そんな風に評価してもらっているとは知らず、否定して済まない」
「い、いえ! 先輩が謝る必要なんてないです……」
「ただ、やはりお前が泣くほど反抗する必要はない」
「はい……」
先輩はそれでも正しいことを言う。分かっているんだ。私のやってることってセベクみたいなことだって。でもそれじゃ嫌なんだ。大事な人のこと、バカにしてほしくないんだ。
シルバー先輩はとつとつと私に向けて、絞り出すように言葉を返してくれる。
「俺は自分でも惰眠を貪ってしまう怠惰な部分を克服できていない。その点について評価されないのは、承知の上だ」
「でも……ディアソムニア寮の寮生も言ってました。『寮長の護衛を十分に努めている。鍛錬も欠かさない信頼できる人だ』って。眠ることだって、自分で克服しようとしているって」
シルバー先輩はそれならいい、と呟いた。どうしてだろう。でも、この人はそれでいいと本当に思っているんだ。
私が首を傾げると、シルバー先輩は顎に手を当てて視線を斜め下に逸らす。また言葉を選んでくれているんだろう。ようやく視線を上げた時、また目が合って心臓が跳ねた。
「俺は、お前や寮生にそう評価してもらえているだけで十分だ。自分の至らない部分もこれから克服する」
そう宣言する先輩はとってもキラキラして見える。なんだこの人本当に人間なのか。妖精が実は作ったんですよ~と言われても疑わないくらいに見た目がいい。中身も素晴らしい。
「先輩は強いですね」
私なんて怒りに我を忘れてかっとなってしまったのに、こんな余裕を見せつけられると恥ずかしい。まだまだシルバー先輩の領域には行けないな……。
「お前も十分強い」
「え?」
思わず聴き返すと、先輩はしっかり頷いて腕を組んだ。
「人のために怒れる人物は、他者のために力が出せる。それは大切な人を守るために必要なものだ。そして、自分のことを差し置いて怒るお前のおかげで、俺はまた強くなろうと思えた。ありがとう」
「先輩……」
そんなこと言われるとまた私の涙腺が壊れますから……本当に、勘弁してほしい。
先ほどではないにしろ、ぽろぽろ出てきた涙を見た先輩は驚いた様子だ。
「なぜ泣く? なにか、気分を害すようなことでも言ったか?」
「こ、これは……感動の涙ですから大丈夫です。ごめんなさい、涙腺が緩くて」
収まれと思っているのに、先輩に優しい声をかけられた嬉しさは怒り以上に私の目を濡らした。ずっと泣いていると先輩も困ってしまうのに、収まらないのはなんで?
すると、小鳥の声がした。次の瞬間には肩に重みを感じて、そろりと見てみればリスが乗っている。わたしの髪と頬の間にやってきた彼らは、私の頬に小さな頭を押し付けたり、涙を掬ってくれた。
「え? なに?」
どういうことですか? とシルバー先輩を見れば、先輩も同じく小鳥やリスに肩に乗られている。遅れてやってきた小鳥たちが先輩の周りで何やら素敵な歌を歌っていて、聞いてて何だか心が落ち着いてきた。
すると、一羽の小鳥がシルバー先輩にくちばしに挟んだ花を持ってきた。どうやら、渡したいのだろう。くるくると先輩の周りを飛んで、受け取ってほしいとアピールしている。
「……ああ。ありがとう」
またあの微笑みだ。横顔なのにどきっとしてしまうくらい綺麗な笑顔は本当に息をすることも忘れて見入ってしまう。先輩は花を受け取ると、何やら小鳥の声に耳を傾けている。分かったと頷いたシルバー先輩は私を見た。そしてそのまま、小鳥が渡した花を私に差し出す。
「小鳥たちがくれた。お前に渡したいそうだ」
「わあ、ありがとうございます」
小鳥からの贈り物なんて人生で初めてだ。そんな初めてを先輩から渡されるなんて思ってもなかったので、嬉しさは倍増されて、泣いたその顔で笑っていた。ああ、なんだか単純で恥ずかしいけど、とっても嬉しい。
「やはり、お前には笑顔が似合う」
え?
「先輩、今なんて言いました?」
一瞬のことだったけど、なにかとても大切なことを言われた気がする。でも先輩はいつもの涼やかな顔で、首を横に振った。
「なんでもない。独り言だ」