日進月歩あるのみ
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それからの私の生活と言えば、少しだけ変わった。
朝日が昇り始める早朝、ゴーストに後ろの髪を見てもらうと、寝ぐせはゼロだと親指と人差し指で輪っかを作ってくれた。よし、髪の毛オッケー、体操服もちょっと気合入ったヴィル先輩からのプレゼント、鍛錬の疲れもなし!
すると玄関で呼び鈴が鳴る。そう言えば、この寮で呼び鈴が鳴らされたのは初めてかもしれない。すぐに玄関まで出れば、そこには息が止まってしまうくらい綺麗な人が立っていた。
「監督生。おはよう」
「お、おはようございます!」
この人と朝から会えるなんて嬉しい。まるで夢のようだ。
早速行くぞと走りだす先輩の後について行く。先輩は私のペースに合わせてくれているから、全く息が切れないのが申し訳ない。でも追いついていくのに必死な私は、謝罪すら口にできないままついて行った。
こうしてランニングをシルバー先輩と一週間に二日だけ一緒にすることになったのはつい先週のことだ。先輩から剣術を習うようにもなった。セベクに一応許可らしきものを取ろうとしたら、なぜかリリア先輩がシルバーから学べとしつこく言われた。それを聞いたセベクは僕が教えることはない! と言い切ったので、まあ今に至る。
朝見るこの人の顔も綺麗で、本当は横で眺められたらなんて思うけれど、残念ながら私は背中しか追えない。くそう、これが鍛錬を継続してきた年数の違いか……!
気が付けば、この島を一周して私のオンボロ寮に着いていた。着いてから肩で息をしないといけないくらい、私はボロボロだ。鍛錬ってこんなにきつかった? 膝に掌をついて腰を屈めると、シルバー先輩の靴が視界に入った。
「大丈夫か?」
心配そうにこちらを見下ろしているシルバー先輩は、タオルを差し出してくれた。ありがたく受け取って、汗を拭く。息がまだ切れるなんて恥ずかしい。シルバー先輩は汗一つかいてないのが尚更悔しい。
「……まだペースに追いつけなくて、すいません」
「上出来だ。セベクは俺と張り合ってたまに倒れる」
あいつ張り切ってるなぁ……。私はこの人と肩を並べるだけで、十分すごいと思うんだけど。
シルバー先輩が玄関前の階段に座り込むので、そっと隣に座ってみる。さすがに隙間を開けたけれど、シルバー先輩は水分補給をして真っ直ぐ朝日を見ていた。
「綺麗……」
「そうだな」
え! 今私口に出してた!?
急いで自分の口を手で覆うけれど、シルバー先輩は真っ直ぐ前を見たままだ。どうやら、私の言葉は目の前の朝焼けのものになったらしい。手を下ろした私も、朝焼けを眺めた。ちょっと残念だけど、でもそれで今はいいかもしれない。こうして横目に先輩の横顔がまだ見られるなら、それで。
「監督生、放課後は時間はあるか?」
ノールックでこっちに聞くせいで、一瞬独り言かと勘違いしそうになった。急いで何もありません! と答えると、シルバー先輩の顔がこっちを向いた。
「なら、放課後は剣術に付き合ってくれないか」
喉から出そうになったおかしな声を急いでタオルで塞いだ。思いもしない申し出に首が赤べこも顔負けの縦振りを見せる。
「いいんですか!」
「ああ。むしろ、こちらから願いたい」
シルバー先輩の首筋から汗がたらりと垂れる。なぜか汚いものに感じないのが不思議だ。そして、色っぽさを感じてしまう自分を許してほしい。
頬に走る熱はきっと朝日に当たったのと走り込んだ火照りだ。私は照れを隠せるように満面の笑みで答えた。
「喜んで!」
*
そして、今私は息切れを起こしながら模造刀を振ってシルバー先輩と打ち合いをしています。腕が痛い。でも、シルバー先輩が付き合ってくれているから応えたいんだ。学園裏の森は案外人も少ないからか、私の掛け声をすべて木々が吸い込んでいく。
「そこ、足がおろそかだ」
「はい!」
シルバー先輩の剣は一つ一つが重くて、受けきるので精いっぱいだ。模造刀なのに重いなんてことあるんだ。
「随分と熱が入っておるな」
その声でシルバー先輩は模造刀を下ろして、後ろにいたリリア先輩に向き直った。
「おやじ……リリア先輩」
リリア先輩が私に手をあげてくれたので、急いで私も剣を下ろして挨拶をする。少なくとも疲れていないようには見られないと、シルバー先輩に鍛錬をつけてもらえなくなるかもしれない。頬を汗が伝った。
「こんにちは!」
「おう。随分と鍛えられているようじゃが、シルバーの鍛錬はきつくないか?」
どうやらリリア先輩にはすべてお見通しのようだ。それでも、隠しきれない気持ちの方が笑顔になってにじみ出てしまった。
「いえ、むしろ楽しいです! 自分の面倒を見てくださって、本当に感謝しきれません!」
なんだかセベクみたいなこと言ってるな私。でもシルバー先輩はセベクの時とは違って、本気で向かってくるから自分の知らなかった体の癖や剣術とは何たるかを教えてくれた。ここまで来るのにセベクのトレーニングもなかったら正直しんどかっただろう。
リリア先輩は楽しそうに笑った。
「くふふ。じゃが、頑張りすぎはケガの元じゃ。お主はここまでにしておくとよい」
と言われましても、私の師匠はシルバー先輩だ。そっとシルバー先輩を窺うように見上げれば、シルバー先輩は頷いた。
「リリア先輩の言う通りだ」
「はい!」
なら、今日はここまでということか。もう少し一緒にいたかったけれど、筋肉の悲鳴もすごいからやっぱりランニングでまたこの人といるしかないのかな。
「シルバーは良き師か?」
リリア先輩がそう聞いてきたので、思わず反射で私は答えていた。
「はい! これからもお供したいです!」
シルバー先輩は私に知らなかった世界を教えてくれる。そこへ行けるなら、何だってできちゃうんだ。結構しんどいから、メニューについて行くしか方法がないんだけれど。
「そんな笑顔で答えるとは、よほど嬉しいんじゃな」
そう言われて、自分の頬がびっくりするくらい持ち上がっていたことに気づく。なんだかシルバー先輩も私のこと見ているし、恥ずかしい。
「きょ、今日はありがとうございました! 失礼します!」
急いで走り出したけれど、どくどくと鳴る心臓はいつになっても収まる気配がしない。ああああ私、今可愛く見えていたかな!? そんなくだらなくて重要なことが頭の中をぐるぐる渦巻いていると、目の前の木に頭をぶつけた。
*
ユウの去った先を見つめているシルバーにリリアは視線をやっていた。普段は他人と交わろうにも敬遠されてしまうシルバーに懐く存在が現れたことに、リリアは感慨深いものを感じていた。
「くふふ。子犬みたいにシルバーの顔を窺うのは誠に愛らしいのぉ。……シルバー、慕ってくれるものがいるのはどんな気持ちじゃ」
そっと見上げたシルバーの顔は、リリアが知る中ではどれにも分類できない類のものだった。普段リリアに向ける微笑みとは違う、しかし慈愛に満ちたその笑みを確かに彼は見た。
「……俺には勿体ないものです」
朝日が昇り始める早朝、ゴーストに後ろの髪を見てもらうと、寝ぐせはゼロだと親指と人差し指で輪っかを作ってくれた。よし、髪の毛オッケー、体操服もちょっと気合入ったヴィル先輩からのプレゼント、鍛錬の疲れもなし!
すると玄関で呼び鈴が鳴る。そう言えば、この寮で呼び鈴が鳴らされたのは初めてかもしれない。すぐに玄関まで出れば、そこには息が止まってしまうくらい綺麗な人が立っていた。
「監督生。おはよう」
「お、おはようございます!」
この人と朝から会えるなんて嬉しい。まるで夢のようだ。
早速行くぞと走りだす先輩の後について行く。先輩は私のペースに合わせてくれているから、全く息が切れないのが申し訳ない。でも追いついていくのに必死な私は、謝罪すら口にできないままついて行った。
こうしてランニングをシルバー先輩と一週間に二日だけ一緒にすることになったのはつい先週のことだ。先輩から剣術を習うようにもなった。セベクに一応許可らしきものを取ろうとしたら、なぜかリリア先輩がシルバーから学べとしつこく言われた。それを聞いたセベクは僕が教えることはない! と言い切ったので、まあ今に至る。
朝見るこの人の顔も綺麗で、本当は横で眺められたらなんて思うけれど、残念ながら私は背中しか追えない。くそう、これが鍛錬を継続してきた年数の違いか……!
気が付けば、この島を一周して私のオンボロ寮に着いていた。着いてから肩で息をしないといけないくらい、私はボロボロだ。鍛錬ってこんなにきつかった? 膝に掌をついて腰を屈めると、シルバー先輩の靴が視界に入った。
「大丈夫か?」
心配そうにこちらを見下ろしているシルバー先輩は、タオルを差し出してくれた。ありがたく受け取って、汗を拭く。息がまだ切れるなんて恥ずかしい。シルバー先輩は汗一つかいてないのが尚更悔しい。
「……まだペースに追いつけなくて、すいません」
「上出来だ。セベクは俺と張り合ってたまに倒れる」
あいつ張り切ってるなぁ……。私はこの人と肩を並べるだけで、十分すごいと思うんだけど。
シルバー先輩が玄関前の階段に座り込むので、そっと隣に座ってみる。さすがに隙間を開けたけれど、シルバー先輩は水分補給をして真っ直ぐ朝日を見ていた。
「綺麗……」
「そうだな」
え! 今私口に出してた!?
急いで自分の口を手で覆うけれど、シルバー先輩は真っ直ぐ前を見たままだ。どうやら、私の言葉は目の前の朝焼けのものになったらしい。手を下ろした私も、朝焼けを眺めた。ちょっと残念だけど、でもそれで今はいいかもしれない。こうして横目に先輩の横顔がまだ見られるなら、それで。
「監督生、放課後は時間はあるか?」
ノールックでこっちに聞くせいで、一瞬独り言かと勘違いしそうになった。急いで何もありません! と答えると、シルバー先輩の顔がこっちを向いた。
「なら、放課後は剣術に付き合ってくれないか」
喉から出そうになったおかしな声を急いでタオルで塞いだ。思いもしない申し出に首が赤べこも顔負けの縦振りを見せる。
「いいんですか!」
「ああ。むしろ、こちらから願いたい」
シルバー先輩の首筋から汗がたらりと垂れる。なぜか汚いものに感じないのが不思議だ。そして、色っぽさを感じてしまう自分を許してほしい。
頬に走る熱はきっと朝日に当たったのと走り込んだ火照りだ。私は照れを隠せるように満面の笑みで答えた。
「喜んで!」
*
そして、今私は息切れを起こしながら模造刀を振ってシルバー先輩と打ち合いをしています。腕が痛い。でも、シルバー先輩が付き合ってくれているから応えたいんだ。学園裏の森は案外人も少ないからか、私の掛け声をすべて木々が吸い込んでいく。
「そこ、足がおろそかだ」
「はい!」
シルバー先輩の剣は一つ一つが重くて、受けきるので精いっぱいだ。模造刀なのに重いなんてことあるんだ。
「随分と熱が入っておるな」
その声でシルバー先輩は模造刀を下ろして、後ろにいたリリア先輩に向き直った。
「おやじ……リリア先輩」
リリア先輩が私に手をあげてくれたので、急いで私も剣を下ろして挨拶をする。少なくとも疲れていないようには見られないと、シルバー先輩に鍛錬をつけてもらえなくなるかもしれない。頬を汗が伝った。
「こんにちは!」
「おう。随分と鍛えられているようじゃが、シルバーの鍛錬はきつくないか?」
どうやらリリア先輩にはすべてお見通しのようだ。それでも、隠しきれない気持ちの方が笑顔になってにじみ出てしまった。
「いえ、むしろ楽しいです! 自分の面倒を見てくださって、本当に感謝しきれません!」
なんだかセベクみたいなこと言ってるな私。でもシルバー先輩はセベクの時とは違って、本気で向かってくるから自分の知らなかった体の癖や剣術とは何たるかを教えてくれた。ここまで来るのにセベクのトレーニングもなかったら正直しんどかっただろう。
リリア先輩は楽しそうに笑った。
「くふふ。じゃが、頑張りすぎはケガの元じゃ。お主はここまでにしておくとよい」
と言われましても、私の師匠はシルバー先輩だ。そっとシルバー先輩を窺うように見上げれば、シルバー先輩は頷いた。
「リリア先輩の言う通りだ」
「はい!」
なら、今日はここまでということか。もう少し一緒にいたかったけれど、筋肉の悲鳴もすごいからやっぱりランニングでまたこの人といるしかないのかな。
「シルバーは良き師か?」
リリア先輩がそう聞いてきたので、思わず反射で私は答えていた。
「はい! これからもお供したいです!」
シルバー先輩は私に知らなかった世界を教えてくれる。そこへ行けるなら、何だってできちゃうんだ。結構しんどいから、メニューについて行くしか方法がないんだけれど。
「そんな笑顔で答えるとは、よほど嬉しいんじゃな」
そう言われて、自分の頬がびっくりするくらい持ち上がっていたことに気づく。なんだかシルバー先輩も私のこと見ているし、恥ずかしい。
「きょ、今日はありがとうございました! 失礼します!」
急いで走り出したけれど、どくどくと鳴る心臓はいつになっても収まる気配がしない。ああああ私、今可愛く見えていたかな!? そんなくだらなくて重要なことが頭の中をぐるぐる渦巻いていると、目の前の木に頭をぶつけた。
*
ユウの去った先を見つめているシルバーにリリアは視線をやっていた。普段は他人と交わろうにも敬遠されてしまうシルバーに懐く存在が現れたことに、リリアは感慨深いものを感じていた。
「くふふ。子犬みたいにシルバーの顔を窺うのは誠に愛らしいのぉ。……シルバー、慕ってくれるものがいるのはどんな気持ちじゃ」
そっと見上げたシルバーの顔は、リリアが知る中ではどれにも分類できない類のものだった。普段リリアに向ける微笑みとは違う、しかし慈愛に満ちたその笑みを確かに彼は見た。
「……俺には勿体ないものです」