君と光満ちる茨道を歩いて行こう
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華やかなファンファーレの音に包まれた教会は、人でごった返していた。しかし、誰もが大きな木の扉の向こうから現れる花嫁を待っている。今か今かと待ち構えている顔たちの中には、スマホを構えているものもいた。
重い音を立てて開かれた扉の向こうから、光が漏れる。たちまち歓声と拍手で満ち溢れた会場でエースとデュースは最前列を陣取ったはいいものの、列からはみ出しそうな程ユウの花嫁姿を見ようとする人だかりであまり彼女の姿が見えない。
「見えねーんだけど!」
「というか、グリムはどこに行ったんだ」
何やら得意げな顔をして出て行ったあいつの行き先なんか知らない、と答えたエースは、目の前に光景に目を奪われた。純白のドレスに身を包んだユウは、白と桃色の花に彩られたブーケを持って歩いている。王道のドレスだからこそ出せる気品と高潔さに、思わず息を忘れてしまう。ベールの下でも分かるほどにメイクは濃いが、しかし嫌味過ぎない清純さを宿すその彫刻のような顔つきに、本当にあれはユウだろうかと二人は疑った。
彼女のドレスを持っているのは、リドルとエペルだ。
「リドルくーん! こっちこっち!」
ユウを撮り終わったケイトが容赦なく浴びせるフラッシュに、リドルの頬が薔薇も恥じらうほど色づく。トレイにやめさせるんだと縋るような視線を送るが、彼は涼しい顔をしてその視線を流した。せっかく後輩の式に出席している彼を、一枚でも多く写真に収めたいので。
「エペル! 姿勢が乱れてる! もっと顎を下げて!」
参列者の中からヴィルが指をさしながら怒号を飛ばす。せっかくの式なのだから何もそこまで言わずとも、とエペルはため息を吐きたくなる。
「まあまあ、ヴィル。ほら、トリックスターをご覧。とても綺麗だね」
「ふん、当然よ。あたしのメイクとセンスがあれば立派なレディになれるんだから」
満足げに腕を組むヴィルの注意が反れて、エペルはほっと溜息をついた。彼の斜め前でユウの手を引く魔獣が呟く。
「おい、お前の式、ずいぶんと賑やかなんだな。まるでパーティーだ」
「あはは、みんな気合いを入れてくれたんだよ」
楽しそうにユウが笑うとその場に花が舞う。しかし、エースとデュースは彼女のたおやかな手が繋いでいる先に、灰色の獣がいることに気が付いた。
「あー! お前ずりー!」
エースが指をさす先で、グリムはユウの手を取って空中に浮きながら歩いていた。ふふん、と自慢げに笑う彼は、向かう先のエースとデュースに自慢する。
「俺様はユウの相棒だからな。お前らと違って、ここで手を繋げるんだゾ」
くそ……と拳を握り締めているエースの隣から影が飛び出した。ネイビーの髪は揺れ、逞しい手が彼女の空いた腕を取った。
「僕だって、ユウのマブだ! グリムだけ抜け駆けはさせないぞ!」
なんの抜け駆けなんだろう、とユウが瞬きすると、彼女とグリムの間にテラコッタの髪が入り込んだ。
「んじゃ、俺も混ぜてもらおーっと」
意地悪く笑って歪んだハートのペイントに、ユウは苦笑した。
「エースまで……。仕方ないなぁ」
ユウはここに来られない新婦の父役としてグリムを単純に抜擢しただけなのだが、マブには不評だったようだ。更に追加された二人の父役の登場に、会場は沸き立っている。おそらく茨の谷の結婚式はもう少し荘厳なのだろうが、あくまでユウとシルバーの式だ。少しくらい勝手にしてもかまわないだろうと、ユウは二人に手を取ってもらい、ブーケをグリムに託した。
四人で歩くバージンロードは狭く感じるが、その狭さこそ彼女の胸を満たした。この世界に来る前からずっとあった孤独を、苦しみを溶かしてくれた存在が傍で彼女の幸せを見守っている。
そして、一歩一歩進んだ先に、真っ白なタキシードに身を包んだシルバーがいた。これほど白が似合う男性はこの世にいないとユウは本気で思った。顔も声も人格に至るまで素晴らしいこの人と結婚する喜びで、泣きたくなる。
「ユウ」
彼女に手を伸ばす彼の喜びで満ち溢れた瞳に、ユウの心は絡めとられた。足を止めた彼女は、傍に居る三人に微笑んだ。
「ありがとう。ここからは最前列で見てて」
グリムにブーケをそのまま託すと彼女が伝えると、三人は視線を彼女から外すことなく離れていった。
新郎と新婦が並び立つ瞬間を注視する雰囲気で、会場は水を打ったように静まり返る。ユウはシルバーの方を向き、その手を取る。彼は段を上る彼女をそっとエスコートすると、ユウの潤んだ目を見つめながら微笑んだ。
「ユウ、今日は一段と綺麗だ」
「先輩も、とってもかっこいいです」
月並みな言葉しか出ないのが悔しいくらい、とユウが笑うと、シルバーは、俺もだと笑う。こほん! と咳払いした神父に、肩を竦めた二人は彼に向かって体を向けた。
「まずはそれぞれの血を持つ汝らの父より祝杯を」
リドルがシルバーに、エペルがユウに金の杯を手渡し、二人はそれを飲む。寿命を延ばす薬は既にこの杯に混ぜられている。その味が吐き出しそうな程にまずいのは想定外だったが、シルバーは青い顔になりながら飲み干した。ユウが心配そうに見つめていると、彼は力なく笑みを見せる。大丈夫だと新婦を安心させ、杯を返すと二人は再び神父を見上げた。
「汝ら、病めるときも健やかなるときも互いを慈しみ、尊敬し、愛し合っていくと誓いますか?」
二人の誓います、という言葉が式場に響く。反響するそれらはまるで会場にいる全員に知らしめるようだ。
「では、誓いの口づけを」
シルバーはユウのベールを上げ、彼女の顔をじっと見つめた。瞬きした彼女の長く縁どられたまつ毛の先で、光が弾けた。ユウもまた、オーロラシルバーの瞳を吸い込まれそうなほど見つめている。シルバーの手が彼女の肩を掴み、そっと彼が背を屈める。降ってくる唇の優しい感触に、ユウは目を閉じた。
二人の誓いを見届けた参列者たちは歓声を上げ、指笛を鳴らしたり、拍手を送る。そっと離れた二人に、神父がお行きなさい、と優しい笑みを湛え、彼らを送り出した。
ユウはシルバーと腕を組み、一歩一歩会場の外へ歩む。親類の席にいるリリアが心底慈しんでいる瞳で拍手を送っていた。
「おめでとう。お主らの行く末に、多くの幸あらんことを」
その言葉に、シルバーとユウは膝を折ってお辞儀を返す。そして、幸せそうに互いを見つめ合った。
「おめでとう!!!」
リリアの隣からした歓声に負けない大声に、ユウもシルバーも目を丸くする。そこには顎まで流れる涙を拭うことも忘れて拍手を送るセベクがいた。
「シルバー! 絶対に彼女と幸せになれ! そうでなければ、僕が許さない!!」
シルバーはその言葉に無論だと頷き、ユウは普段見られないセベクの涙に感極まり、もらい泣きをした。シルバーが宥めるが、一度崩壊した涙腺はそうそう止められない。その時、彼女の前で緑の光がふわりと横切った。
「おやおや、せっかくの祝いの場で泣くとは、お前も不思議な人間だ」
最前列にいたマレウスがユウの頭上から彼女をしげしげと見下ろす。
「仕方ない。僕から一つ贈り物を授けるとしよう」
ユウが何のことだか分からず涙を流していると、マレウスの掌が彼女の眼前を横切る。ユウは一瞬だけマレウスとよく似た角を持つ女性が見えた。
「お前は孤独にならない。愛するものの傍にお前の魂は常にある」
マレウスの声が脳髄に響く不思議な感覚にユウが酔いしれていると、涙はいつの間にか止まっていた。シルバーが泣き止んだのを見届け、マレウスに頭を下げる。
「構わない。ユウ、その贈り物は大事にしておくことだ」
いいな、と尋ねられ、ユウは何が起きたのか分からないまま頷いた。ただ、彼がかけたのは優しい贈り物には違いないので、彼女はマレウスに膝を折って礼をした。
「ありがとう。ツノ太郎」
二人は再び腕を組み、周囲から浴びせられる花弁のシャワーの中を歩きだす。懐かしい顔たちがおめでとうと全力で祝ってくれたり、今後もぜひモストロ・ラウンジをご贔屓にしてくださいと営業スマイルを向けられたり、タブレット越しで祝辞を言われたりと様々だ。通りの中にはシルバーとまったく同じ顔の彼もいたり、虹色の翅を広げて拍手を送る彼女がいる。「おめでとうございます!」と叫ぶ後輩の彼は、隣にいるルームメイトと一緒にハンカチで涙を拭っている。ユウは懐かしいその顔たちに、様々なことがあったと思い出が去来した。
バージンロードの両端には茨を模したレプリカが置かれている。それは、たとえ茨道でも互いに手を取って生きていくという茨の谷における新郎新婦の決意の証である。
マレウスの言うように行く先は困難な道のりになるかもしれない。しかし、シルバーが隣にいるなら、ユウは茨で出来上がったその道を喜んで歩む。おそらく互いの手を離そうとする時もあるだろう。怒りで我を忘れることもあるだろう。それでも、互いを見つめることだけは忘れないように、その先にある光まで向かって行こう、と彼の手を力強く握った。
ユウは出口を出る一歩手前で足を止める。シルバーがどうかしたのかと振り返れば、ユウは心底幸せそうな笑顔で彼を見上げていた。
「シルバー先輩……愛しています。この先もずっと」
真っ直ぐに放たれた言葉に、シルバーは心臓を握られた心地がした。こんな風に自らを高ぶらせるのは、これまでもこれからも彼女しかいないだろう。
「俺もお前を誰より愛している。ユウ」
シルバーは溢れんばかりの愛おしさが湛えられた笑みを彼女に向ける。互いが解けてしまわないように指を絡めた二人の前で扉が開いた。
「行こう」
光が満ちる世界へ、二人は手を取って歩きだした。
「君が大好きだ」
END
重い音を立てて開かれた扉の向こうから、光が漏れる。たちまち歓声と拍手で満ち溢れた会場でエースとデュースは最前列を陣取ったはいいものの、列からはみ出しそうな程ユウの花嫁姿を見ようとする人だかりであまり彼女の姿が見えない。
「見えねーんだけど!」
「というか、グリムはどこに行ったんだ」
何やら得意げな顔をして出て行ったあいつの行き先なんか知らない、と答えたエースは、目の前に光景に目を奪われた。純白のドレスに身を包んだユウは、白と桃色の花に彩られたブーケを持って歩いている。王道のドレスだからこそ出せる気品と高潔さに、思わず息を忘れてしまう。ベールの下でも分かるほどにメイクは濃いが、しかし嫌味過ぎない清純さを宿すその彫刻のような顔つきに、本当にあれはユウだろうかと二人は疑った。
彼女のドレスを持っているのは、リドルとエペルだ。
「リドルくーん! こっちこっち!」
ユウを撮り終わったケイトが容赦なく浴びせるフラッシュに、リドルの頬が薔薇も恥じらうほど色づく。トレイにやめさせるんだと縋るような視線を送るが、彼は涼しい顔をしてその視線を流した。せっかく後輩の式に出席している彼を、一枚でも多く写真に収めたいので。
「エペル! 姿勢が乱れてる! もっと顎を下げて!」
参列者の中からヴィルが指をさしながら怒号を飛ばす。せっかくの式なのだから何もそこまで言わずとも、とエペルはため息を吐きたくなる。
「まあまあ、ヴィル。ほら、トリックスターをご覧。とても綺麗だね」
「ふん、当然よ。あたしのメイクとセンスがあれば立派なレディになれるんだから」
満足げに腕を組むヴィルの注意が反れて、エペルはほっと溜息をついた。彼の斜め前でユウの手を引く魔獣が呟く。
「おい、お前の式、ずいぶんと賑やかなんだな。まるでパーティーだ」
「あはは、みんな気合いを入れてくれたんだよ」
楽しそうにユウが笑うとその場に花が舞う。しかし、エースとデュースは彼女のたおやかな手が繋いでいる先に、灰色の獣がいることに気が付いた。
「あー! お前ずりー!」
エースが指をさす先で、グリムはユウの手を取って空中に浮きながら歩いていた。ふふん、と自慢げに笑う彼は、向かう先のエースとデュースに自慢する。
「俺様はユウの相棒だからな。お前らと違って、ここで手を繋げるんだゾ」
くそ……と拳を握り締めているエースの隣から影が飛び出した。ネイビーの髪は揺れ、逞しい手が彼女の空いた腕を取った。
「僕だって、ユウのマブだ! グリムだけ抜け駆けはさせないぞ!」
なんの抜け駆けなんだろう、とユウが瞬きすると、彼女とグリムの間にテラコッタの髪が入り込んだ。
「んじゃ、俺も混ぜてもらおーっと」
意地悪く笑って歪んだハートのペイントに、ユウは苦笑した。
「エースまで……。仕方ないなぁ」
ユウはここに来られない新婦の父役としてグリムを単純に抜擢しただけなのだが、マブには不評だったようだ。更に追加された二人の父役の登場に、会場は沸き立っている。おそらく茨の谷の結婚式はもう少し荘厳なのだろうが、あくまでユウとシルバーの式だ。少しくらい勝手にしてもかまわないだろうと、ユウは二人に手を取ってもらい、ブーケをグリムに託した。
四人で歩くバージンロードは狭く感じるが、その狭さこそ彼女の胸を満たした。この世界に来る前からずっとあった孤独を、苦しみを溶かしてくれた存在が傍で彼女の幸せを見守っている。
そして、一歩一歩進んだ先に、真っ白なタキシードに身を包んだシルバーがいた。これほど白が似合う男性はこの世にいないとユウは本気で思った。顔も声も人格に至るまで素晴らしいこの人と結婚する喜びで、泣きたくなる。
「ユウ」
彼女に手を伸ばす彼の喜びで満ち溢れた瞳に、ユウの心は絡めとられた。足を止めた彼女は、傍に居る三人に微笑んだ。
「ありがとう。ここからは最前列で見てて」
グリムにブーケをそのまま託すと彼女が伝えると、三人は視線を彼女から外すことなく離れていった。
新郎と新婦が並び立つ瞬間を注視する雰囲気で、会場は水を打ったように静まり返る。ユウはシルバーの方を向き、その手を取る。彼は段を上る彼女をそっとエスコートすると、ユウの潤んだ目を見つめながら微笑んだ。
「ユウ、今日は一段と綺麗だ」
「先輩も、とってもかっこいいです」
月並みな言葉しか出ないのが悔しいくらい、とユウが笑うと、シルバーは、俺もだと笑う。こほん! と咳払いした神父に、肩を竦めた二人は彼に向かって体を向けた。
「まずはそれぞれの血を持つ汝らの父より祝杯を」
リドルがシルバーに、エペルがユウに金の杯を手渡し、二人はそれを飲む。寿命を延ばす薬は既にこの杯に混ぜられている。その味が吐き出しそうな程にまずいのは想定外だったが、シルバーは青い顔になりながら飲み干した。ユウが心配そうに見つめていると、彼は力なく笑みを見せる。大丈夫だと新婦を安心させ、杯を返すと二人は再び神父を見上げた。
「汝ら、病めるときも健やかなるときも互いを慈しみ、尊敬し、愛し合っていくと誓いますか?」
二人の誓います、という言葉が式場に響く。反響するそれらはまるで会場にいる全員に知らしめるようだ。
「では、誓いの口づけを」
シルバーはユウのベールを上げ、彼女の顔をじっと見つめた。瞬きした彼女の長く縁どられたまつ毛の先で、光が弾けた。ユウもまた、オーロラシルバーの瞳を吸い込まれそうなほど見つめている。シルバーの手が彼女の肩を掴み、そっと彼が背を屈める。降ってくる唇の優しい感触に、ユウは目を閉じた。
二人の誓いを見届けた参列者たちは歓声を上げ、指笛を鳴らしたり、拍手を送る。そっと離れた二人に、神父がお行きなさい、と優しい笑みを湛え、彼らを送り出した。
ユウはシルバーと腕を組み、一歩一歩会場の外へ歩む。親類の席にいるリリアが心底慈しんでいる瞳で拍手を送っていた。
「おめでとう。お主らの行く末に、多くの幸あらんことを」
その言葉に、シルバーとユウは膝を折ってお辞儀を返す。そして、幸せそうに互いを見つめ合った。
「おめでとう!!!」
リリアの隣からした歓声に負けない大声に、ユウもシルバーも目を丸くする。そこには顎まで流れる涙を拭うことも忘れて拍手を送るセベクがいた。
「シルバー! 絶対に彼女と幸せになれ! そうでなければ、僕が許さない!!」
シルバーはその言葉に無論だと頷き、ユウは普段見られないセベクの涙に感極まり、もらい泣きをした。シルバーが宥めるが、一度崩壊した涙腺はそうそう止められない。その時、彼女の前で緑の光がふわりと横切った。
「おやおや、せっかくの祝いの場で泣くとは、お前も不思議な人間だ」
最前列にいたマレウスがユウの頭上から彼女をしげしげと見下ろす。
「仕方ない。僕から一つ贈り物を授けるとしよう」
ユウが何のことだか分からず涙を流していると、マレウスの掌が彼女の眼前を横切る。ユウは一瞬だけマレウスとよく似た角を持つ女性が見えた。
「お前は孤独にならない。愛するものの傍にお前の魂は常にある」
マレウスの声が脳髄に響く不思議な感覚にユウが酔いしれていると、涙はいつの間にか止まっていた。シルバーが泣き止んだのを見届け、マレウスに頭を下げる。
「構わない。ユウ、その贈り物は大事にしておくことだ」
いいな、と尋ねられ、ユウは何が起きたのか分からないまま頷いた。ただ、彼がかけたのは優しい贈り物には違いないので、彼女はマレウスに膝を折って礼をした。
「ありがとう。ツノ太郎」
二人は再び腕を組み、周囲から浴びせられる花弁のシャワーの中を歩きだす。懐かしい顔たちがおめでとうと全力で祝ってくれたり、今後もぜひモストロ・ラウンジをご贔屓にしてくださいと営業スマイルを向けられたり、タブレット越しで祝辞を言われたりと様々だ。通りの中にはシルバーとまったく同じ顔の彼もいたり、虹色の翅を広げて拍手を送る彼女がいる。「おめでとうございます!」と叫ぶ後輩の彼は、隣にいるルームメイトと一緒にハンカチで涙を拭っている。ユウは懐かしいその顔たちに、様々なことがあったと思い出が去来した。
バージンロードの両端には茨を模したレプリカが置かれている。それは、たとえ茨道でも互いに手を取って生きていくという茨の谷における新郎新婦の決意の証である。
マレウスの言うように行く先は困難な道のりになるかもしれない。しかし、シルバーが隣にいるなら、ユウは茨で出来上がったその道を喜んで歩む。おそらく互いの手を離そうとする時もあるだろう。怒りで我を忘れることもあるだろう。それでも、互いを見つめることだけは忘れないように、その先にある光まで向かって行こう、と彼の手を力強く握った。
ユウは出口を出る一歩手前で足を止める。シルバーがどうかしたのかと振り返れば、ユウは心底幸せそうな笑顔で彼を見上げていた。
「シルバー先輩……愛しています。この先もずっと」
真っ直ぐに放たれた言葉に、シルバーは心臓を握られた心地がした。こんな風に自らを高ぶらせるのは、これまでもこれからも彼女しかいないだろう。
「俺もお前を誰より愛している。ユウ」
シルバーは溢れんばかりの愛おしさが湛えられた笑みを彼女に向ける。互いが解けてしまわないように指を絡めた二人の前で扉が開いた。
「行こう」
光が満ちる世界へ、二人は手を取って歩きだした。
「君が大好きだ」
END