君と光満ちる茨道を歩いて行こう
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ユウは卒業式を終えると、マブとグリム、オンボロ寮への別れもそこそこに闇の鏡を使って、その日のうちに茨の谷にやってきた。彼らに別れを告げるのはとっくのとうに済ませてある(なるべくシルバーに早く会いたいと言ったら呆れながら快諾してくれた)ので、必要最低限の荷物だけが詰め込まれたリュックを背負って彼女は式典服のまま山の中にいた。
「どうしよう……」
茨の谷の電波はこんな山奥には届かない。そもそもシルバーに出る時に連絡すると言っておきながら急いで出てきたせいで、マジカメのチャット一つ連絡していないのだ。どうしたものかとユウが後頭部を搔いていると、彼女の前に伸びている影に角の生えた影が重なる。足元のそれに気づいたユウは、急いで振り向いた。
「おかえり、ユウ」
まさか彼がここに来ているとは知らず、ユウは目を丸くした。
「ツノ太郎……どうやって気づいたわけ?」
「たまたま飛ばしていた烏の目にお前が入ったんだ。安心しろ。シルバーも馬で駈け付ける」
そこは転送魔法じゃないんだ、とユウが呟くと、マレウスはにんまりと笑った。
「お前と少し話がしたいんだ。少しくらい手間を取らせても、いいだろう?」
なるほどと合点がいったユウは、目の前の友人の気が済むまで恋人に会わせてもらえないことが分かった。仕方ない、と彼女は嘆息する。
「分かった。シルバー先輩が来るまでだからね」
歩きながら話そうとすると、マレウスが人差し指を小さく振れば、雪のテーブルと椅子ができる。どこかのファンタジー映画で見た冬の女王だと喜んだユウは、さっそくその席に着いた。マレウスもゆっくりと腰かけ、彼女と対面した。
「お前は随分と様変わりしたな」
「そうかな?」
「そうだ。そして、シルバーと共にその生を歩むと決めてからは、ますます変わった」
ライムグリーンの目を細め、マレウスは目の前の人間に声を低くして問う。
「お前はそれでいいのか」
「……どういう意味?」
突然語気が闇の支配者としての風格を帯びたマレウスに、ユウは目をそらさず問い返す。マレウスはその度胸に免じて、もう少しだけ詳しく教えてやろうと笑った。
「この谷に骨を埋めるなら、それ相応の覚悟が必要だ。城の中も外も人間への風当たりが未だ強い者たちもいる。それでも、お前はここで生きるか?」
マレウスの言うことは正しい。あくまで妖精族としての立場から見ても、未だに人間への敵対心は消え去っていない。人間への禍根を残した勢力も以前ほどではないとはいえ存在するうえ、そのような事件が起きる度に祖母が胸を痛めていることを彼は知っていた。だからこそ、これからこの谷で生きようとする異世界の人の子にその覚悟を見いだそうとした。
ユウはマレウスの言葉を一つ一つ脳内で反芻しながら、結果的に一つの答えに辿り着く。その答えを自分ではじき出しておきながら、彼女は不覚にも笑ってしまった。ユウの笑みを注視するマレウスに、彼女は目を閉じて淡く微笑む。
「私はシルバー先輩のいない世界なんて考えられない。ツノ太郎も知ってるでしょ」
「ああ。そうだな」
そう言うと思った、とマレウスが少しだけ拍子抜けすると、開かれた黒曜石の瞳が白銀の世界でキラキラと輝いた。
「それにさ、今まで茨の谷での妖精と人間の確執の歴史は変えられない。だから風当たりが強くて当たり前だと思う」
話している内容はとても明るいものとは言えないのに、徐々に希望に満ちていく声音にマレウスは自然と彼女の答えを待っていた。にっこりと、ユウは笑った。
「そして、私たちはそれを変えていくことができる。少しずつだけど」
確定ではないが確信を抱いた彼女の姿に、マレウスはユウに何かしら計画があると踏んだ。やはり、この人の子は自分の友人である。彼自身が想像もしなかったことをしようとしているのだ。
「ふ。何やら面白いことを考えているようだな」
「うん。リリア先輩の夢を叶えようとするシルバー先輩を、助けたいんだ」
やはり、と笑ったマレウスは、浮足立った子供のようにユウに期待の視線を向ける。
「僕には聞かせてくれないのか」
「まだ構想段階だから、話せない。でも、きちんと君にも報告するつもりだよ」
今すぐ聞かせてもらえないのは不満だが、彼女が聞かせるというのだからきっと教えてくれるだろう。マレウスは背もたれに寄り掛かって、くつくつと喉を鳴らしている。
「楽しみだな」
「うん。楽しみにしていて」
満足した様子のマレウスに、ユウは早く先輩に会わせて、とお願いした。彼は忘れていた、と言って、指を鳴らす。次の瞬間には、馬に乗っているシルバーの膝の上にいたので、彼女が絶叫を上げたのは言うまでもない。
山に響き渡ったその悲鳴を聞き、マレウスは腹を抱えながら笑った。
「どうしよう……」
茨の谷の電波はこんな山奥には届かない。そもそもシルバーに出る時に連絡すると言っておきながら急いで出てきたせいで、マジカメのチャット一つ連絡していないのだ。どうしたものかとユウが後頭部を搔いていると、彼女の前に伸びている影に角の生えた影が重なる。足元のそれに気づいたユウは、急いで振り向いた。
「おかえり、ユウ」
まさか彼がここに来ているとは知らず、ユウは目を丸くした。
「ツノ太郎……どうやって気づいたわけ?」
「たまたま飛ばしていた烏の目にお前が入ったんだ。安心しろ。シルバーも馬で駈け付ける」
そこは転送魔法じゃないんだ、とユウが呟くと、マレウスはにんまりと笑った。
「お前と少し話がしたいんだ。少しくらい手間を取らせても、いいだろう?」
なるほどと合点がいったユウは、目の前の友人の気が済むまで恋人に会わせてもらえないことが分かった。仕方ない、と彼女は嘆息する。
「分かった。シルバー先輩が来るまでだからね」
歩きながら話そうとすると、マレウスが人差し指を小さく振れば、雪のテーブルと椅子ができる。どこかのファンタジー映画で見た冬の女王だと喜んだユウは、さっそくその席に着いた。マレウスもゆっくりと腰かけ、彼女と対面した。
「お前は随分と様変わりしたな」
「そうかな?」
「そうだ。そして、シルバーと共にその生を歩むと決めてからは、ますます変わった」
ライムグリーンの目を細め、マレウスは目の前の人間に声を低くして問う。
「お前はそれでいいのか」
「……どういう意味?」
突然語気が闇の支配者としての風格を帯びたマレウスに、ユウは目をそらさず問い返す。マレウスはその度胸に免じて、もう少しだけ詳しく教えてやろうと笑った。
「この谷に骨を埋めるなら、それ相応の覚悟が必要だ。城の中も外も人間への風当たりが未だ強い者たちもいる。それでも、お前はここで生きるか?」
マレウスの言うことは正しい。あくまで妖精族としての立場から見ても、未だに人間への敵対心は消え去っていない。人間への禍根を残した勢力も以前ほどではないとはいえ存在するうえ、そのような事件が起きる度に祖母が胸を痛めていることを彼は知っていた。だからこそ、これからこの谷で生きようとする異世界の人の子にその覚悟を見いだそうとした。
ユウはマレウスの言葉を一つ一つ脳内で反芻しながら、結果的に一つの答えに辿り着く。その答えを自分ではじき出しておきながら、彼女は不覚にも笑ってしまった。ユウの笑みを注視するマレウスに、彼女は目を閉じて淡く微笑む。
「私はシルバー先輩のいない世界なんて考えられない。ツノ太郎も知ってるでしょ」
「ああ。そうだな」
そう言うと思った、とマレウスが少しだけ拍子抜けすると、開かれた黒曜石の瞳が白銀の世界でキラキラと輝いた。
「それにさ、今まで茨の谷での妖精と人間の確執の歴史は変えられない。だから風当たりが強くて当たり前だと思う」
話している内容はとても明るいものとは言えないのに、徐々に希望に満ちていく声音にマレウスは自然と彼女の答えを待っていた。にっこりと、ユウは笑った。
「そして、私たちはそれを変えていくことができる。少しずつだけど」
確定ではないが確信を抱いた彼女の姿に、マレウスはユウに何かしら計画があると踏んだ。やはり、この人の子は自分の友人である。彼自身が想像もしなかったことをしようとしているのだ。
「ふ。何やら面白いことを考えているようだな」
「うん。リリア先輩の夢を叶えようとするシルバー先輩を、助けたいんだ」
やはり、と笑ったマレウスは、浮足立った子供のようにユウに期待の視線を向ける。
「僕には聞かせてくれないのか」
「まだ構想段階だから、話せない。でも、きちんと君にも報告するつもりだよ」
今すぐ聞かせてもらえないのは不満だが、彼女が聞かせるというのだからきっと教えてくれるだろう。マレウスは背もたれに寄り掛かって、くつくつと喉を鳴らしている。
「楽しみだな」
「うん。楽しみにしていて」
満足した様子のマレウスに、ユウは早く先輩に会わせて、とお願いした。彼は忘れていた、と言って、指を鳴らす。次の瞬間には、馬に乗っているシルバーの膝の上にいたので、彼女が絶叫を上げたのは言うまでもない。
山に響き渡ったその悲鳴を聞き、マレウスは腹を抱えながら笑った。