君と光満ちる茨道を歩いて行こう
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ガラスがはめられた木の扉を開けると、ちりんと鈴が鳴る。ぎしぎしと鳴かない床板に感動を覚えながら、ユウは店員に案内された。案内されたそこは、庭に張り出したテラスだ。屋根の代わりに植物のツタを絡ませており、その下にあるテーブルとイスは白く輝いている。
先に着いていたセベクは珍しく髪を下ろしており、カッターシャツは第一ボタンまで留めている。普段の制服と変わりないようなフォーマルなスタイルに色がついただけ印象は大分知的に寄る。それでも彼女を見上げる眼光は変わらず鋭い。
「遅いぞ」
ごめんごめん、と言いながらユウは席に着いた。飲み物を二人で頼み、ユウは眼前に広がる庭を眺める。城で見た薔薇園はあまりに豪華で比較はできないが、こじんまりとしている分、花たちがそれぞれの花弁を色づかせ咲いている姿は目を喜ばせた。
「セベクがこんなおしゃれなカフェ知ってるなんて意外」
もっとファミレスみたいなところでも入るのかと思っていた、とユウが言うとセベクが呆れた調子でため息を吐く。
「そんなわけにいかない。弟子が結婚するんだ。祝う場所くらい選ぶ」
普段はマレウスたちのことを至高と言ったり、最高なんだと目を輝かせるセベクが当然のようにユウを気遣っている。そのことに彼女は言いようのない恥ずかしさと喜びで口が不思議な形にひしゃげて、目を丸くした。
「なんだその顔は」
くすくすと笑っているユウに、セベクが怪訝そうに尋ねる。しかし、彼女は普段の柔らかな表情に戻って、微笑み返した。
「ううん。セベク、センスいいね」
「当たり前だ」
飲み物が到着し、暫し二人は飲み物を楽しむ時間に浸った。何も話さずとも、セベクとは気まずくならない。ユウが三年かけて手に入れたその遠慮のなさは、彼への質問を容易にした。
「それで話って?」
身を乗り出して尋ねるユウに、セベクは首を横に振る。話があるのではなかったのか? とユウは首を傾げた。
「いや、思い出話しかすることはない。お前とじっくり話す機会はそうなかったしな」
確かに、とユウは頷き、もう一口紅茶を飲む。目の前のセベクは腕を組みながら、庭をぼうっと眺めていた。
思えば、セベクとシルバーはリリアという師から学び育てられた兄弟のような関係だ。それなのに、シルバーへの風当たりは以前変わらない。ウィンターホリデーでは何やら口論をしたらしいと騎士団の妖精たちが彼女に教えてくれた。
ユウは、かちゃり、と陶器のカップを置く。
「セベクはシルバー先輩のこと嫌い?」
彼女の静かな問いに、セベクは何の感情の乱れも見せず、ユウを見つめ返した。
「好き嫌いの問題ではない。あいつには負けたくない。それだけだ」
「そっか。良いライバルなんだね。私はてっきり嫌いなのかと思った。この間も喧嘩したんでしょ?」
「あれはシルバーがお前との婚約で浮足立っているから窘めただけだ。あのように浮ついて若様の護衛などさせられるか!」
彼の怒りに火を間違えてつけてしまったようだ。ユウはシルバーへの非難は聞き捨てならないが、ここは少し大人になって聞き流すことにした。それに、シルバーが任務の間でも浮足立っていると気づかれるほど喜んでいることが分かって、ユウの頬は飛んでいきそうなほど持ち上がる。
「それで、貴様はどうなんだ」
「どうって?」
「シルバーがどれくらい好きなんだ」
アンティークゴールドの瞳が真っ直ぐにユウを射抜く。犬猿の仲なのに雰囲気や立ち振る舞いまで似ているところは、兄弟のように育ってきたのだな、とユウは微笑んだ。
「なにそれ。いきなりコイバナとか、セベクも恋の時期?」
セベクはあまりシルバーとユウのことを踏み込んで話してこない。だからこそ、セベクの質問自体が彼の恋の訪れを告げているのではないかとユウは勘ぐった。
しかしユウの言葉に、セベクは目を丸くした。
「は!? ぼ、僕はそんなものしない!」
「はは! そんな焦るとかえってぼろが出るよー」
けらけらと笑っているユウに、羞恥で頬を赤くしたセベクは、周囲の草木が彼を中心になぎ倒されるほど大きな声で叫んだ。
「……僕をからかわずに、質問に答えろ!」
両耳をとっさに塞いだが、ユウの耳の奥では耳鳴りがしていた。ごめん、とユウが謝ると、セベクも申し訳なさそうに頭に手を当てる。お互いやりすぎたね、とユウが笑うと、セベクはそうだなと鼻で笑った。
「好き」
思わずセベクがユウの顔をまじまじと見ると、彼女はうっとりと胸元の魔法石を見つめていた。黒曜石の瞳がセベクの方を向き、思わず彼の大柄な体が後ろに仰け反る。先ほどの言葉が彼の質問への答えだと気づくのに、何故かセベクは時間を食った。
「シルバー先輩のこと、大好きだよ。初めて会った時と同じ……ううん。今はもっとかな」
ふふふ、と嬉しそうにユウは微笑む。彼女の手の中の魔法石がきらりと緑色の光を反射した。
「あのね、シルバー先輩は強くて優しいけれど、寝坊助なところも可愛いんだ。あの人の寝顔を見るのが幸せ。もちろん、起きているときも最高に幸せなんだけど」
完全に色めき立っているユウの様子に、セベクは半目になって見返した。
「どちらが幸せなのか分からん」
「どっちも幸せってことだよ」
そう言ってユウはまた一口紅茶を飲む。セベクも一口飲んだが、全く味が分からなかった。
「セベクは、どんな子が好き? 私でよければ紹介するよ」
身を乗り出したユウからの誘いに、セベクは思わず吹き出しそうになるのを堪えた。鍛錬で培った精神力でなんとか乗り切ると、セベクは渋面を作りながらカップを皿の上に置いた。
「お前の紹介など要らん。だが……あえて言うとすれば『馬鹿みたいに真っ直ぐな奴』が好ましい」
ユウはその言葉に、疑問符を頭上に浮かべた。瞬きをした彼女は庭を眺めているセベクに首を傾げる。
「その特徴はセベクも大概だと思うんだけど。……誰?」
「はっ。お前に分かるはずもない」
鼻で笑ったセベクの髪が新緑の香りを乗せた風に揺れる。アンティークゴールドの瞳が壁に囲われた庭の遥か先を見つめていた。そこには、一年生の時に受けた魔法史の後の教室で、ユウに叱られている自分がいる。初めて彼女に叱られた時の雷のような衝撃に、今更名前をつけることはできない。セベクは目の前にいる初恋の相手との思い出に目を閉じて、言葉にならない別れを告げた。
先に着いていたセベクは珍しく髪を下ろしており、カッターシャツは第一ボタンまで留めている。普段の制服と変わりないようなフォーマルなスタイルに色がついただけ印象は大分知的に寄る。それでも彼女を見上げる眼光は変わらず鋭い。
「遅いぞ」
ごめんごめん、と言いながらユウは席に着いた。飲み物を二人で頼み、ユウは眼前に広がる庭を眺める。城で見た薔薇園はあまりに豪華で比較はできないが、こじんまりとしている分、花たちがそれぞれの花弁を色づかせ咲いている姿は目を喜ばせた。
「セベクがこんなおしゃれなカフェ知ってるなんて意外」
もっとファミレスみたいなところでも入るのかと思っていた、とユウが言うとセベクが呆れた調子でため息を吐く。
「そんなわけにいかない。弟子が結婚するんだ。祝う場所くらい選ぶ」
普段はマレウスたちのことを至高と言ったり、最高なんだと目を輝かせるセベクが当然のようにユウを気遣っている。そのことに彼女は言いようのない恥ずかしさと喜びで口が不思議な形にひしゃげて、目を丸くした。
「なんだその顔は」
くすくすと笑っているユウに、セベクが怪訝そうに尋ねる。しかし、彼女は普段の柔らかな表情に戻って、微笑み返した。
「ううん。セベク、センスいいね」
「当たり前だ」
飲み物が到着し、暫し二人は飲み物を楽しむ時間に浸った。何も話さずとも、セベクとは気まずくならない。ユウが三年かけて手に入れたその遠慮のなさは、彼への質問を容易にした。
「それで話って?」
身を乗り出して尋ねるユウに、セベクは首を横に振る。話があるのではなかったのか? とユウは首を傾げた。
「いや、思い出話しかすることはない。お前とじっくり話す機会はそうなかったしな」
確かに、とユウは頷き、もう一口紅茶を飲む。目の前のセベクは腕を組みながら、庭をぼうっと眺めていた。
思えば、セベクとシルバーはリリアという師から学び育てられた兄弟のような関係だ。それなのに、シルバーへの風当たりは以前変わらない。ウィンターホリデーでは何やら口論をしたらしいと騎士団の妖精たちが彼女に教えてくれた。
ユウは、かちゃり、と陶器のカップを置く。
「セベクはシルバー先輩のこと嫌い?」
彼女の静かな問いに、セベクは何の感情の乱れも見せず、ユウを見つめ返した。
「好き嫌いの問題ではない。あいつには負けたくない。それだけだ」
「そっか。良いライバルなんだね。私はてっきり嫌いなのかと思った。この間も喧嘩したんでしょ?」
「あれはシルバーがお前との婚約で浮足立っているから窘めただけだ。あのように浮ついて若様の護衛などさせられるか!」
彼の怒りに火を間違えてつけてしまったようだ。ユウはシルバーへの非難は聞き捨てならないが、ここは少し大人になって聞き流すことにした。それに、シルバーが任務の間でも浮足立っていると気づかれるほど喜んでいることが分かって、ユウの頬は飛んでいきそうなほど持ち上がる。
「それで、貴様はどうなんだ」
「どうって?」
「シルバーがどれくらい好きなんだ」
アンティークゴールドの瞳が真っ直ぐにユウを射抜く。犬猿の仲なのに雰囲気や立ち振る舞いまで似ているところは、兄弟のように育ってきたのだな、とユウは微笑んだ。
「なにそれ。いきなりコイバナとか、セベクも恋の時期?」
セベクはあまりシルバーとユウのことを踏み込んで話してこない。だからこそ、セベクの質問自体が彼の恋の訪れを告げているのではないかとユウは勘ぐった。
しかしユウの言葉に、セベクは目を丸くした。
「は!? ぼ、僕はそんなものしない!」
「はは! そんな焦るとかえってぼろが出るよー」
けらけらと笑っているユウに、羞恥で頬を赤くしたセベクは、周囲の草木が彼を中心になぎ倒されるほど大きな声で叫んだ。
「……僕をからかわずに、質問に答えろ!」
両耳をとっさに塞いだが、ユウの耳の奥では耳鳴りがしていた。ごめん、とユウが謝ると、セベクも申し訳なさそうに頭に手を当てる。お互いやりすぎたね、とユウが笑うと、セベクはそうだなと鼻で笑った。
「好き」
思わずセベクがユウの顔をまじまじと見ると、彼女はうっとりと胸元の魔法石を見つめていた。黒曜石の瞳がセベクの方を向き、思わず彼の大柄な体が後ろに仰け反る。先ほどの言葉が彼の質問への答えだと気づくのに、何故かセベクは時間を食った。
「シルバー先輩のこと、大好きだよ。初めて会った時と同じ……ううん。今はもっとかな」
ふふふ、と嬉しそうにユウは微笑む。彼女の手の中の魔法石がきらりと緑色の光を反射した。
「あのね、シルバー先輩は強くて優しいけれど、寝坊助なところも可愛いんだ。あの人の寝顔を見るのが幸せ。もちろん、起きているときも最高に幸せなんだけど」
完全に色めき立っているユウの様子に、セベクは半目になって見返した。
「どちらが幸せなのか分からん」
「どっちも幸せってことだよ」
そう言ってユウはまた一口紅茶を飲む。セベクも一口飲んだが、全く味が分からなかった。
「セベクは、どんな子が好き? 私でよければ紹介するよ」
身を乗り出したユウからの誘いに、セベクは思わず吹き出しそうになるのを堪えた。鍛錬で培った精神力でなんとか乗り切ると、セベクは渋面を作りながらカップを皿の上に置いた。
「お前の紹介など要らん。だが……あえて言うとすれば『馬鹿みたいに真っ直ぐな奴』が好ましい」
ユウはその言葉に、疑問符を頭上に浮かべた。瞬きをした彼女は庭を眺めているセベクに首を傾げる。
「その特徴はセベクも大概だと思うんだけど。……誰?」
「はっ。お前に分かるはずもない」
鼻で笑ったセベクの髪が新緑の香りを乗せた風に揺れる。アンティークゴールドの瞳が壁に囲われた庭の遥か先を見つめていた。そこには、一年生の時に受けた魔法史の後の教室で、ユウに叱られている自分がいる。初めて彼女に叱られた時の雷のような衝撃に、今更名前をつけることはできない。セベクは目の前にいる初恋の相手との思い出に目を閉じて、言葉にならない別れを告げた。