君と光満ちる茨道を歩いて行こう
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コウモリの群れが夜明けの来ない空を飛んでいく。リリアの別荘兼ユウの仮住まいに辿り着いたそれらは、人の形となった。マゼンタの瞳がきらりと光ると、慣れた様子でリリアは扉を開けた。
「ユウ! ウィンターホリデーじゃからとうかうか気は抜いておられん。今のうちに、式の準備をするぞ!」
両手を腰に当てたリリアに、ユウは目を丸くした。彼女は今、明日ナイトレイブンカレッジに帰るための荷物の整理をしている。
「え……明日帰るんですけど」
ユウは持っていた化粧品などをキャリーケースに詰め込んだ。その横からシルバーがユウの詰めた荷物を持って、二階へ続く階段へ行こうとする。
「先輩! 横から片づけた荷物を持っていくのはやめてください!」
珍しくシルバーを叱っているユウは、その背中を服の裾を掴んで引き止める。一向にユウの方を振り返ろうとしないシルバーに、リリアはこれは珍しいと観察を決め込んだ。
「荷物は全てここに置いて行けばいい」
「それじゃあ、学園生活が大変なのでこうして持ち帰っているんです。それに、ここへ運び込む荷物だってありましたよ。クローゼットも一緒に選んで、二人で服を詰めたじゃないですか」
一体どうしたんですか、とため息を吐いたユウは、シルバーの背中をじっと見上げる。
「昨日までは学園に戻ることなんて気にもしなかったのに」
ポツンと呟いた言葉がシルバーの背中を叩いた。ユウの手がそっと彼の広い背中に触れる。
「先輩、一体どうしちゃったんですか。言ってくれないと分かりません」
きっぱり言うようになったな、とリリアが目を閉じて頷く。しかし、それでもシルバーは彼女に振り向くことはない。
「お前とまた離れるのは……寂しい」
部屋に響いた言葉に、ユウは顔を真っ赤にした。見上げたシルバーの耳も真っ赤だ。小さく見える彼の背中に、ユウはたまらず抱きつく。
「卒業したらそのままこっちに帰ります!」
だから荷物は返してください、とユウが上目遣いでお願いをする。そっと振り返ったシルバーは、ユウの衣服をキャリーケースに渋々仕舞った。ありがとうございます、と微笑んでいるユウと、彼女を腕の中に入れて寂しそうに笑うシルバーを見て、リリアは人前でもはばからず熱を上げるのはどうにかしようと固く誓った。
「おーい、お主ら。卒業してすぐにでも式を挙げるなら、今すぐわしと準備せんか」
*
急遽入れられた用事は、ユウが考えているよりも簡易的なものだった。リビング兼ダイニングにある机を囲んだ三人は、リリアが並べたリストに沿って、式当日には何が行われ、新郎新婦である二人のスケジュールはどのようになるのか説明される。衣装や式の流れはユウの世界とは違って、リリアをはじめとする二人の関係者が決める。そのため、ユウは周囲が決めたことに沿うだけで、確認を取られるだけだった。
「ユウ、不満はないか?」
「ありません。卒業のためのレポート作成や単位取得に忙しいので、むしろ考えていただいて感謝しています」
にっこりと笑ったユウに、リリアはほっと溜息を見せた。実のところ、こういった風習を忌み嫌って出て行く谷の者もいるくらいなので、彼女の寛容さには脱帽するほかない。シルバーにも念のため尋ねたが、彼も頷いて返す。
「祝言もようやくか。……ここまで長かったのお」
噛みしめるようにリリアが言うと、ユウは申し訳ないと頭を下げた。
「随分とお待たせしました」
「なに。人の子の短い一生であればそう思うじゃろうが、わしらからすれば一瞬じゃ。……そして、お主らを人としての一生だけで終わらせるつもりはない」
リリアの言葉にユウは瞠目する。瞬きをした彼女は、おかしなことは言っていないと振舞うリリアに尋ねた。
「それは一体、どういうことなんでしょう……」
彼女の問いを待っていたと言わんばかりに、リリアはにやりと笑った。
「お主ら人間の寿命を、妖精族と同程度に引き延ばす術を編み出した。マレウスが尽力しておった研究じゃ」
「そうだったんですか!」
立ちあがったユウの隣で、シルバーも目を瞠った。驚きが隠せない子どもたちに、リリアは嬉しそうにくすくすと笑う。彼が言うには、式の時に交わす杯にそれを混ぜて、ついでに寿命も伸ばしてしまおうという魂胆だ。
「まあ、お主らとは今後も長く付き合っていく。よろしくな」
「ありがとうございます」
シルバーはしっかりとリリアに頭を下げる。ユウもそれに倣って、頭をそっと下げた。
「ユウ! ウィンターホリデーじゃからとうかうか気は抜いておられん。今のうちに、式の準備をするぞ!」
両手を腰に当てたリリアに、ユウは目を丸くした。彼女は今、明日ナイトレイブンカレッジに帰るための荷物の整理をしている。
「え……明日帰るんですけど」
ユウは持っていた化粧品などをキャリーケースに詰め込んだ。その横からシルバーがユウの詰めた荷物を持って、二階へ続く階段へ行こうとする。
「先輩! 横から片づけた荷物を持っていくのはやめてください!」
珍しくシルバーを叱っているユウは、その背中を服の裾を掴んで引き止める。一向にユウの方を振り返ろうとしないシルバーに、リリアはこれは珍しいと観察を決め込んだ。
「荷物は全てここに置いて行けばいい」
「それじゃあ、学園生活が大変なのでこうして持ち帰っているんです。それに、ここへ運び込む荷物だってありましたよ。クローゼットも一緒に選んで、二人で服を詰めたじゃないですか」
一体どうしたんですか、とため息を吐いたユウは、シルバーの背中をじっと見上げる。
「昨日までは学園に戻ることなんて気にもしなかったのに」
ポツンと呟いた言葉がシルバーの背中を叩いた。ユウの手がそっと彼の広い背中に触れる。
「先輩、一体どうしちゃったんですか。言ってくれないと分かりません」
きっぱり言うようになったな、とリリアが目を閉じて頷く。しかし、それでもシルバーは彼女に振り向くことはない。
「お前とまた離れるのは……寂しい」
部屋に響いた言葉に、ユウは顔を真っ赤にした。見上げたシルバーの耳も真っ赤だ。小さく見える彼の背中に、ユウはたまらず抱きつく。
「卒業したらそのままこっちに帰ります!」
だから荷物は返してください、とユウが上目遣いでお願いをする。そっと振り返ったシルバーは、ユウの衣服をキャリーケースに渋々仕舞った。ありがとうございます、と微笑んでいるユウと、彼女を腕の中に入れて寂しそうに笑うシルバーを見て、リリアは人前でもはばからず熱を上げるのはどうにかしようと固く誓った。
「おーい、お主ら。卒業してすぐにでも式を挙げるなら、今すぐわしと準備せんか」
*
急遽入れられた用事は、ユウが考えているよりも簡易的なものだった。リビング兼ダイニングにある机を囲んだ三人は、リリアが並べたリストに沿って、式当日には何が行われ、新郎新婦である二人のスケジュールはどのようになるのか説明される。衣装や式の流れはユウの世界とは違って、リリアをはじめとする二人の関係者が決める。そのため、ユウは周囲が決めたことに沿うだけで、確認を取られるだけだった。
「ユウ、不満はないか?」
「ありません。卒業のためのレポート作成や単位取得に忙しいので、むしろ考えていただいて感謝しています」
にっこりと笑ったユウに、リリアはほっと溜息を見せた。実のところ、こういった風習を忌み嫌って出て行く谷の者もいるくらいなので、彼女の寛容さには脱帽するほかない。シルバーにも念のため尋ねたが、彼も頷いて返す。
「祝言もようやくか。……ここまで長かったのお」
噛みしめるようにリリアが言うと、ユウは申し訳ないと頭を下げた。
「随分とお待たせしました」
「なに。人の子の短い一生であればそう思うじゃろうが、わしらからすれば一瞬じゃ。……そして、お主らを人としての一生だけで終わらせるつもりはない」
リリアの言葉にユウは瞠目する。瞬きをした彼女は、おかしなことは言っていないと振舞うリリアに尋ねた。
「それは一体、どういうことなんでしょう……」
彼女の問いを待っていたと言わんばかりに、リリアはにやりと笑った。
「お主ら人間の寿命を、妖精族と同程度に引き延ばす術を編み出した。マレウスが尽力しておった研究じゃ」
「そうだったんですか!」
立ちあがったユウの隣で、シルバーも目を瞠った。驚きが隠せない子どもたちに、リリアは嬉しそうにくすくすと笑う。彼が言うには、式の時に交わす杯にそれを混ぜて、ついでに寿命も伸ばしてしまおうという魂胆だ。
「まあ、お主らとは今後も長く付き合っていく。よろしくな」
「ありがとうございます」
シルバーはしっかりとリリアに頭を下げる。ユウもそれに倣って、頭をそっと下げた。