この命果てるまで
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「おい、ユウ! お前いつまで寝てんだよ!」
ユウが目を開けると、そこは別れを告げたはずの元の世界だった。そして、彼女が座っている席の目の前にはもう死んだはずの兄が眉をつり上げている。
「お、お兄ちゃん……」
彼女の隣から優しい声がして振り向けば、そこには愛情がたたえられた笑みを浮かべる母がいた。対角線上には、父親の涙ぐんだ瞳が眼鏡越しにきらりと光る。
「ユウ、顔を見せてくれて、本当にありがとう」
「元気そうでよかった」
彼女はここが夢の中だと気づき、恐ろしいほどの幸福感で涙を流した。大声を上げて母親に抱きついた彼女の背中を、白く暖かい腕がそっと撫でる。それを見た兄が、目の端を拭いながら唇を尖らせた。
「あのモデルみたいなやつと結婚するんだろ? 泣いたら湿っぽくなっちまう」
「だっだって」
「ユウ。見えなくても、ちゃあんとここにいるから」
母はユウの胸の真ん中を指す。ユウはその指先と母の顔を交互に見て、本当? と尋ねると、ええ、と母は頷いた。
「花嫁姿、楽しみにしているぞ」
父がぼろぼろと涙を流しながら笑って手を振り、兄はユウの髪を掻きまわすように撫でる。
「幸せになれよ!」
その手に頭を押された瞬間、ユウは家族と離れ、深い闇の底へと落ちていく。待って! と手を伸ばすが、光は遠のき、彼女の周囲は全くの暗闇に包まれた。
どこに向かうべきか分からず、彼女の足は竦んだ。これが夢であるならば、どう目覚めればいいのかすらも分からない。
孤独への恐怖と嫌悪で満ちた彼女の肩に、温もりが手をかける。そっと振り向けば、光がわずかに開いた扉の隙間から漏れている。その光に向かって歩いていくと、花の香りや小鳥のさえずり、リスの鳴き声が近づいた。
「ユウ」
扉の向こうで彼女の帰りを待つ声がする。ユウは手を伸ばし、そのドアノブに手をかけた。
*
シルバーは目の前の光景に首を傾げた。もう茨の谷に戻ったはずの彼が、二度と見ることのない景色が眼前に存在していたからだ。
「ここは……ユウの実家?」
リビングに立っているシルバーは無意識に彼女を探そうとした。
「シルバーくん」
声がして振り向くと、そこにはあの写真立てで挨拶した男性がいた。ユウの父親が腕を組んで立っており、シルバーはとっさに姿勢を正す。
「お、おとうさ」
「ユウを、頼みます」
シルバーの目の前で、ユウの父親は土下座をした。フローリングに額をこすりつけている彼に、シルバーは頭を上げるよう姿勢を低くする。
「か、顔をお上げください」
彼の必死の請願により顔を上げたユウの父は、眼鏡に零れ落ちた雫を拭うこともせずシルバーを見上げた。
「あの子に笑顔を取り戻してくれて……ありがとう」
震えている彼の言葉に、シルバーは首を横に振った。
「俺は……大したことをしていません」
「シルバーさん、ユウは泣き虫だから、支えてあげてね」
ユウの父の背後から現れた彼女の母と兄は、父親に倣って正座をする。シルバーもそれに従い、フローリングに正座をした。
「はい。心得ています」
「あの子が泣き顔を見せるなんて……ユウは貴方のことが本当に好きなのね」
安心したわ、と呟いた母の隣から、不審そうな目を向ける兄がシルバーに指を突きつけた。
「ユウはさ、まじで頑固で面倒くさいところもあるけど、あいつで大丈夫なわけ?」
大事な妹だからこそ心配する兄の情にシルバーは応えたいと、眼差しに熱がこもる。彼女へ捧げた心臓が、熱く高鳴った。
「俺は彼女以外の誰とも生涯を添い遂げるつもりはありません」
「ふーん。そこまで言うなら、見張っててやるよ」
挑戦的な兄の笑みに、望む所です、とシルバーが返す。
「どうか、ユウを……娘をよろしくお願いします」
そう言って再び頭を下げた一家に、シルバーは深々とお辞儀をした。
「あなた方の宝物を、守ります。この命、果てるまで」
ユウが目を開けると、そこは別れを告げたはずの元の世界だった。そして、彼女が座っている席の目の前にはもう死んだはずの兄が眉をつり上げている。
「お、お兄ちゃん……」
彼女の隣から優しい声がして振り向けば、そこには愛情がたたえられた笑みを浮かべる母がいた。対角線上には、父親の涙ぐんだ瞳が眼鏡越しにきらりと光る。
「ユウ、顔を見せてくれて、本当にありがとう」
「元気そうでよかった」
彼女はここが夢の中だと気づき、恐ろしいほどの幸福感で涙を流した。大声を上げて母親に抱きついた彼女の背中を、白く暖かい腕がそっと撫でる。それを見た兄が、目の端を拭いながら唇を尖らせた。
「あのモデルみたいなやつと結婚するんだろ? 泣いたら湿っぽくなっちまう」
「だっだって」
「ユウ。見えなくても、ちゃあんとここにいるから」
母はユウの胸の真ん中を指す。ユウはその指先と母の顔を交互に見て、本当? と尋ねると、ええ、と母は頷いた。
「花嫁姿、楽しみにしているぞ」
父がぼろぼろと涙を流しながら笑って手を振り、兄はユウの髪を掻きまわすように撫でる。
「幸せになれよ!」
その手に頭を押された瞬間、ユウは家族と離れ、深い闇の底へと落ちていく。待って! と手を伸ばすが、光は遠のき、彼女の周囲は全くの暗闇に包まれた。
どこに向かうべきか分からず、彼女の足は竦んだ。これが夢であるならば、どう目覚めればいいのかすらも分からない。
孤独への恐怖と嫌悪で満ちた彼女の肩に、温もりが手をかける。そっと振り向けば、光がわずかに開いた扉の隙間から漏れている。その光に向かって歩いていくと、花の香りや小鳥のさえずり、リスの鳴き声が近づいた。
「ユウ」
扉の向こうで彼女の帰りを待つ声がする。ユウは手を伸ばし、そのドアノブに手をかけた。
*
シルバーは目の前の光景に首を傾げた。もう茨の谷に戻ったはずの彼が、二度と見ることのない景色が眼前に存在していたからだ。
「ここは……ユウの実家?」
リビングに立っているシルバーは無意識に彼女を探そうとした。
「シルバーくん」
声がして振り向くと、そこにはあの写真立てで挨拶した男性がいた。ユウの父親が腕を組んで立っており、シルバーはとっさに姿勢を正す。
「お、おとうさ」
「ユウを、頼みます」
シルバーの目の前で、ユウの父親は土下座をした。フローリングに額をこすりつけている彼に、シルバーは頭を上げるよう姿勢を低くする。
「か、顔をお上げください」
彼の必死の請願により顔を上げたユウの父は、眼鏡に零れ落ちた雫を拭うこともせずシルバーを見上げた。
「あの子に笑顔を取り戻してくれて……ありがとう」
震えている彼の言葉に、シルバーは首を横に振った。
「俺は……大したことをしていません」
「シルバーさん、ユウは泣き虫だから、支えてあげてね」
ユウの父の背後から現れた彼女の母と兄は、父親に倣って正座をする。シルバーもそれに従い、フローリングに正座をした。
「はい。心得ています」
「あの子が泣き顔を見せるなんて……ユウは貴方のことが本当に好きなのね」
安心したわ、と呟いた母の隣から、不審そうな目を向ける兄がシルバーに指を突きつけた。
「ユウはさ、まじで頑固で面倒くさいところもあるけど、あいつで大丈夫なわけ?」
大事な妹だからこそ心配する兄の情にシルバーは応えたいと、眼差しに熱がこもる。彼女へ捧げた心臓が、熱く高鳴った。
「俺は彼女以外の誰とも生涯を添い遂げるつもりはありません」
「ふーん。そこまで言うなら、見張っててやるよ」
挑戦的な兄の笑みに、望む所です、とシルバーが返す。
「どうか、ユウを……娘をよろしくお願いします」
そう言って再び頭を下げた一家に、シルバーは深々とお辞儀をした。
「あなた方の宝物を、守ります。この命、果てるまで」