この命果てるまで
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吹き抜けた風の冷たさに、思わず目を閉じる。ユウは町から少し離れた高台から見下ろした夜景をシルバーと眺めていた。
「先輩。どうですか? 私の国は」
「見たことのないものばかりだった。ただ」
言葉が止まったシルバーの顔をユウは覗き込む。彼の澄んだ瞳は、地上に降りてきた星のように輝く街の明かりを反射していた。
「ただ?」
「ユウの叔母殿が、お前を大切に思っているのが……いや、ご家族の写真を見ていても、お前が大事に育ててもらっていたことを知れて、俺は嬉しい」
彼女の顔を見て微笑んだシルバーに、ユウは鼻の奥がつんと痛んだ。叔母と別れを告げる直前まで流していたはずなのに、また目の奥から熱が溢れでてくる。ユウは我慢をしようと笑ってごまかした。
「そういうことを言ったら、また泣きますよ」
おどけた調子の彼女を、シルバーはその腰を引き寄せてそっと抱きしめた。温かなその腕の力強さに、ユウの胸が締め付けられる。彼女の耳元で熱のこもったかすれ声がした。
「本当のことだ。泣いてもいい」
彼女の手はシルバーの背中に縋りつく。シルバーは胸の中で少しずつ零れる嗚咽を何よりも愛おしく思った。
すり寄る足に踏まれた霜が、ぱきりと音を立てる。ユウはシルバーから離れ、目元をコートの袖で拭った。
「行きましょう」
少しだけ潰れた彼女の声に、シルバーは目を細めた。
「もう、いいのか?」
これで去ってしまえば、ユウは二度とこの世界に帰ってこられない。別れを告げる時間はまだあるとシルバーが言い募ると、彼女は首を横に振った。
雲間から月が顔を見せ、ユウたちの足元に影が伸びる。
「大丈夫です」
キラキラと輝いたその垂れ目の中は光で溢れていた。涙はまだ目の中で揺れているが、彼女の顔に迷いはない。ユウの抱きついている腕が、少しだけきつくなる。
「私の帰る場所は、先輩のいるところですから」
黒曜石の瞳は、シルバーだけを映している。緩く微笑んだユウは、そのままシルバーの胸に顔を埋めた。シルバーもそれを見て、そっと目を閉じるとマジカルペンを頭上高く掲げた。
「『闇の眷属よ。我が名と血に応えよ。この血で繋ぎし盟約を果たせ』」
空気が震えだし、木の葉がぶつかり合う。彼らの足元に出現した魔法陣が放熱し、霜が砕ける。突風が巻き起こり、ユウとシルバーの髪は舞い上がった。二人の頭上には暗雲が立ちこめ、再び辺りは暗闇に包まれる。
シルバーの香りに包まれながら、彼女は懐かしい街を瞳に焼き付けた。煌く街明かりの中、きっと大切な人たちは彼女を忘れて日常へ戻っていく。
その瞬間、ユウは口元だけを動かした。さようなら、と。
「『永久の闇から手を差し伸べ、我を攫え!』」
二人の頭上にできた暗雲から、緑の雷が落ちる。二人はその光に直撃し、飲まれた。
一瞬で消えたその光が去ると、雲は晴れ、再び月が顔を出す。穏やかな風が、何もない草原を通り抜けていった。
*
空気を切り裂くような稲妻の咆哮に、玉座にいるマレウスもその傍で宥めていたリリアも顔を上げる。急いでユウたちが召喚される台座まで転送魔法で飛ぶと、そこには互いを確かめ合うように抱き合う二人がいた。
目を開けたシルバーが眩しそうにすると、マレウスとリリアの姿を見て膝をつく。ユウは目をこすって、二人を見て笑った。
「よく戻った。二人とも」
ヒールが甲高い音を立てて石畳を鳴らす。近寄ったマレウスは、満足そうに微笑んでいた。
「はっ。シルバー、ただいま帰還いたしました」
「ただいま、ツノ太郎」
マレウスの隣からリリアが顔を出す。憑き物が落ちたようなユウの顔を見て、彼は満足そうに笑った。
「おかえり」
「ただいま、リリア先輩!」
腕を広げてハグを求めたリリアにユウは飛びつく。よしよしと背中を擦ったリリアは、嬉しそうな彼女の様子に安堵を覚えた。もう一度顔を良く見せてくれ、と言ったリリアに、ユウははい、と笑顔を見せる。彼女の頬はもう涙で濡れていない。
うむ、と頷いたリリアは、背後で愛おしそうにこちらへ視線を投げかけるシルバーを見やった。どうやら息子も良い旅ができたのだろう。
「その様子じゃと、しっかり挨拶は済ませられたようじゃな」
「はい」
とても、と微笑んだシルバーにリリアは、また話を聞かせてくれ、と頼んだ。
「一日とは言え、旅で疲れただろう。今日は二人とも休め」
マレウスの言葉に、ユウとシルバーは顔を見合わせると、快く彼の気遣いを受け取った。
「先輩。どうですか? 私の国は」
「見たことのないものばかりだった。ただ」
言葉が止まったシルバーの顔をユウは覗き込む。彼の澄んだ瞳は、地上に降りてきた星のように輝く街の明かりを反射していた。
「ただ?」
「ユウの叔母殿が、お前を大切に思っているのが……いや、ご家族の写真を見ていても、お前が大事に育ててもらっていたことを知れて、俺は嬉しい」
彼女の顔を見て微笑んだシルバーに、ユウは鼻の奥がつんと痛んだ。叔母と別れを告げる直前まで流していたはずなのに、また目の奥から熱が溢れでてくる。ユウは我慢をしようと笑ってごまかした。
「そういうことを言ったら、また泣きますよ」
おどけた調子の彼女を、シルバーはその腰を引き寄せてそっと抱きしめた。温かなその腕の力強さに、ユウの胸が締め付けられる。彼女の耳元で熱のこもったかすれ声がした。
「本当のことだ。泣いてもいい」
彼女の手はシルバーの背中に縋りつく。シルバーは胸の中で少しずつ零れる嗚咽を何よりも愛おしく思った。
すり寄る足に踏まれた霜が、ぱきりと音を立てる。ユウはシルバーから離れ、目元をコートの袖で拭った。
「行きましょう」
少しだけ潰れた彼女の声に、シルバーは目を細めた。
「もう、いいのか?」
これで去ってしまえば、ユウは二度とこの世界に帰ってこられない。別れを告げる時間はまだあるとシルバーが言い募ると、彼女は首を横に振った。
雲間から月が顔を見せ、ユウたちの足元に影が伸びる。
「大丈夫です」
キラキラと輝いたその垂れ目の中は光で溢れていた。涙はまだ目の中で揺れているが、彼女の顔に迷いはない。ユウの抱きついている腕が、少しだけきつくなる。
「私の帰る場所は、先輩のいるところですから」
黒曜石の瞳は、シルバーだけを映している。緩く微笑んだユウは、そのままシルバーの胸に顔を埋めた。シルバーもそれを見て、そっと目を閉じるとマジカルペンを頭上高く掲げた。
「『闇の眷属よ。我が名と血に応えよ。この血で繋ぎし盟約を果たせ』」
空気が震えだし、木の葉がぶつかり合う。彼らの足元に出現した魔法陣が放熱し、霜が砕ける。突風が巻き起こり、ユウとシルバーの髪は舞い上がった。二人の頭上には暗雲が立ちこめ、再び辺りは暗闇に包まれる。
シルバーの香りに包まれながら、彼女は懐かしい街を瞳に焼き付けた。煌く街明かりの中、きっと大切な人たちは彼女を忘れて日常へ戻っていく。
その瞬間、ユウは口元だけを動かした。さようなら、と。
「『永久の闇から手を差し伸べ、我を攫え!』」
二人の頭上にできた暗雲から、緑の雷が落ちる。二人はその光に直撃し、飲まれた。
一瞬で消えたその光が去ると、雲は晴れ、再び月が顔を出す。穏やかな風が、何もない草原を通り抜けていった。
*
空気を切り裂くような稲妻の咆哮に、玉座にいるマレウスもその傍で宥めていたリリアも顔を上げる。急いでユウたちが召喚される台座まで転送魔法で飛ぶと、そこには互いを確かめ合うように抱き合う二人がいた。
目を開けたシルバーが眩しそうにすると、マレウスとリリアの姿を見て膝をつく。ユウは目をこすって、二人を見て笑った。
「よく戻った。二人とも」
ヒールが甲高い音を立てて石畳を鳴らす。近寄ったマレウスは、満足そうに微笑んでいた。
「はっ。シルバー、ただいま帰還いたしました」
「ただいま、ツノ太郎」
マレウスの隣からリリアが顔を出す。憑き物が落ちたようなユウの顔を見て、彼は満足そうに笑った。
「おかえり」
「ただいま、リリア先輩!」
腕を広げてハグを求めたリリアにユウは飛びつく。よしよしと背中を擦ったリリアは、嬉しそうな彼女の様子に安堵を覚えた。もう一度顔を良く見せてくれ、と言ったリリアに、ユウははい、と笑顔を見せる。彼女の頬はもう涙で濡れていない。
うむ、と頷いたリリアは、背後で愛おしそうにこちらへ視線を投げかけるシルバーを見やった。どうやら息子も良い旅ができたのだろう。
「その様子じゃと、しっかり挨拶は済ませられたようじゃな」
「はい」
とても、と微笑んだシルバーにリリアは、また話を聞かせてくれ、と頼んだ。
「一日とは言え、旅で疲れただろう。今日は二人とも休め」
マレウスの言葉に、ユウとシルバーは顔を見合わせると、快く彼の気遣いを受け取った。