この命果てるまで
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ユウたちがリリアの別荘兼自宅に戻った頃には雪が降り始めており、寒いと言いながら二人は家の中に入る。コートについた雪を互いに払い合っていると、ユウがくしゃみをした。それを見てシルバーはすぐさま暖炉に魔法の火を灯す。部屋がすぐに暖かくはならないだろうと、シルバーは颯爽と上着をハンガーラックにかけると、彼女を抱えて暖炉の前に連れていく。
「せ、先輩、全然大丈夫ですから」
遠慮するユウに暖炉の前にいてくれ、とシルバーは告げて、二階へと上がっていく。何をしに行ったんだろうか、とユウは忙しない物音がする天井を見上げていた。階段から転げ落ちるのではないかという勢いで戻ってきたシルバーの腕の中には、こんもりと盛り上がった毛布がある。
彼はユウを抱きかかえるように、彼女を毛布で包んだ。毛布は二階で冷やされているはずなのに暖かい。シルバーが焦って抱えたおかげだろうか、とユウが考えていると、頭上から大丈夫かと心配の声が聞こえた。ユウが見上げると、心配そうにこちらを見つめているシルバーはまだ寒いか? と尋ねる。
「先輩のおかげで、あったかいです。ありがとうございます」
ユウがにっこりと微笑むと、シルバーは安堵して笑った。でも先輩、とユウが毛布の上から彼女を抱きしめているシルバーをじっと見つめる。何かしただろうか、とシルバーが腕を離して彼女の言葉を待つ。ユウは彼の方へ向き直り、両腕を広げて毛布と自分の腕で彼を包んだ。抱きついてきた彼女を受け止めると、シルバーの耳元で柔らかな声音がくすりと笑った。
「こっちのほうがもっとあったかいですよ」
彼女の温もりが伝わったせいか、シルバーは指先が凍るほど冷えていると分かり始めた。ユウの温もりで指のかじかみも解ける心地がして、シルバーは彼女の体に手を這わせる。ユウが背中も寒いだろうと彼の広い背中に毛布を掛け、シルバーの腕の中で冷えた指先を暖炉の火で温めた。彼の胸元に凭れたユウの小さな頭に、シルバーは頬を押し付ける。
「確かに、こちらの方が温まる。ユウは賢いな」
えへへ、と照れてはにかんだユウの笑う顔が眩しい。二人は寄り添いながら暖炉の火を眺めていた。
雪は音もなく積もり、炎がゆらゆらと踊るように動く。ユウは頭上からする寝息を聞き、淡く微笑んだ。彼も一日中茨の谷を共に挨拶のために回ったのだから、きっと緊張していたのかもしれない。そう思うと、今くらいは休ませてあげたいと、ユウは微動だにせず彼の膝の中に座っていた。
ユウを抱きしめている腕が、少しきつくなる。もう起きたのかとユウが顔を上げれば、微睡みで蕩けた目と視線が合う。シルバーは彼女の体を抱えなおすと、彼女の小さな頭に口づけた。
「ユウ、連れまわしてすまない。今日は疲れただろう」
まだ茨の谷に来てから二日目だというのに、とシルバーは彼女を労う。ユウはそんな気を遣ってくれる部分も愛おしくて、腹に回された彼の腕に自分の腕を重ねた。
「色んな人と挨拶をするのは緊張しますけど、皆さんが私たちのことを夫婦として見てくれるのってとても嬉しいです」
服屋の老夫婦のように、二人の結婚を祝ってくれる者ばかりでないとユウは思っていた。それはこの谷の閉鎖的な部分が、人間との諍いによって生まれたものだとナイトレイブンカレッジで学んだことが大きい。人間と妖精族の争いは歴史の中で長らく問題にされてきた事象でありながら、チェンジリングをはじめとする諸問題は解決しない。停戦協定やマレウスの祖母の存在で平和がもたらされているかのように見えているだけだ、とシルバーが苦々しい顔つきをしていたことを思い出す。それでも親父殿が願う平和を守りたいんだと、彼なりに人間と妖精が争わなくてもいい世界を目指していることをユウは知っていた。
腹の上にあるシルバーの手をそっと彼女は包んだ。
「私、先輩のことを支えられる奥さんになりたいです」
ユウの呟きに、シルバーは胸がつまるほどの愛おしさを感じて、彼女の肩口に唇を落とす。
「お前には既に支えられている。出会ってからこれまで、俺に寄り添ってくれただろう」
「それなら、これからもそうさせてください。貴方の傍で」
シルバーの胸に凭れながら見上げてくるユウの喉をそっと撫でる。猫のように目を閉じて彼の手つきを甘受する彼女の蕩けた表情に、シルバーはそっとその唇に自分のものを重ねた。
「せ、先輩、全然大丈夫ですから」
遠慮するユウに暖炉の前にいてくれ、とシルバーは告げて、二階へと上がっていく。何をしに行ったんだろうか、とユウは忙しない物音がする天井を見上げていた。階段から転げ落ちるのではないかという勢いで戻ってきたシルバーの腕の中には、こんもりと盛り上がった毛布がある。
彼はユウを抱きかかえるように、彼女を毛布で包んだ。毛布は二階で冷やされているはずなのに暖かい。シルバーが焦って抱えたおかげだろうか、とユウが考えていると、頭上から大丈夫かと心配の声が聞こえた。ユウが見上げると、心配そうにこちらを見つめているシルバーはまだ寒いか? と尋ねる。
「先輩のおかげで、あったかいです。ありがとうございます」
ユウがにっこりと微笑むと、シルバーは安堵して笑った。でも先輩、とユウが毛布の上から彼女を抱きしめているシルバーをじっと見つめる。何かしただろうか、とシルバーが腕を離して彼女の言葉を待つ。ユウは彼の方へ向き直り、両腕を広げて毛布と自分の腕で彼を包んだ。抱きついてきた彼女を受け止めると、シルバーの耳元で柔らかな声音がくすりと笑った。
「こっちのほうがもっとあったかいですよ」
彼女の温もりが伝わったせいか、シルバーは指先が凍るほど冷えていると分かり始めた。ユウの温もりで指のかじかみも解ける心地がして、シルバーは彼女の体に手を這わせる。ユウが背中も寒いだろうと彼の広い背中に毛布を掛け、シルバーの腕の中で冷えた指先を暖炉の火で温めた。彼の胸元に凭れたユウの小さな頭に、シルバーは頬を押し付ける。
「確かに、こちらの方が温まる。ユウは賢いな」
えへへ、と照れてはにかんだユウの笑う顔が眩しい。二人は寄り添いながら暖炉の火を眺めていた。
雪は音もなく積もり、炎がゆらゆらと踊るように動く。ユウは頭上からする寝息を聞き、淡く微笑んだ。彼も一日中茨の谷を共に挨拶のために回ったのだから、きっと緊張していたのかもしれない。そう思うと、今くらいは休ませてあげたいと、ユウは微動だにせず彼の膝の中に座っていた。
ユウを抱きしめている腕が、少しきつくなる。もう起きたのかとユウが顔を上げれば、微睡みで蕩けた目と視線が合う。シルバーは彼女の体を抱えなおすと、彼女の小さな頭に口づけた。
「ユウ、連れまわしてすまない。今日は疲れただろう」
まだ茨の谷に来てから二日目だというのに、とシルバーは彼女を労う。ユウはそんな気を遣ってくれる部分も愛おしくて、腹に回された彼の腕に自分の腕を重ねた。
「色んな人と挨拶をするのは緊張しますけど、皆さんが私たちのことを夫婦として見てくれるのってとても嬉しいです」
服屋の老夫婦のように、二人の結婚を祝ってくれる者ばかりでないとユウは思っていた。それはこの谷の閉鎖的な部分が、人間との諍いによって生まれたものだとナイトレイブンカレッジで学んだことが大きい。人間と妖精族の争いは歴史の中で長らく問題にされてきた事象でありながら、チェンジリングをはじめとする諸問題は解決しない。停戦協定やマレウスの祖母の存在で平和がもたらされているかのように見えているだけだ、とシルバーが苦々しい顔つきをしていたことを思い出す。それでも親父殿が願う平和を守りたいんだと、彼なりに人間と妖精が争わなくてもいい世界を目指していることをユウは知っていた。
腹の上にあるシルバーの手をそっと彼女は包んだ。
「私、先輩のことを支えられる奥さんになりたいです」
ユウの呟きに、シルバーは胸がつまるほどの愛おしさを感じて、彼女の肩口に唇を落とす。
「お前には既に支えられている。出会ってからこれまで、俺に寄り添ってくれただろう」
「それなら、これからもそうさせてください。貴方の傍で」
シルバーの胸に凭れながら見上げてくるユウの喉をそっと撫でる。猫のように目を閉じて彼の手つきを甘受する彼女の蕩けた表情に、シルバーはそっとその唇に自分のものを重ねた。