お前たちといると愛情で窒息死する!!!
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シルバーがナイトレイブンカレッジを卒業する。そのことにセベクが抱いたものは、また一年自分だけ置いて行かれるという感慨だった。だが一年待てば自分もいずれ茨の谷に戻れる。なんならもう一年でマレウスの傍に行けるんだと彼は少しばかり胸を躍らせていたぐらいだ。しかし、彼はその考えが間違いであると気づいたのは、ディアソムニア寮の扉の前で立ち止まっているユウの小さな背中を見つけた時だった。
「どうした。ユウ」
後ろから話しかければ、びくりと肩を震わせたユウがそっと振り返る。黒曜石の垂れ目に張った薄い膜に気づいたセベクは思わず身を固くした。目元の赤い彼女はきゅっと口元を噛んで、胸元に下がっている魔法石を掴んでいる。一歩踏み入れればそこは寮内なのに、それができないままでいるんだと鹿のような細い脚が震えていた。
「せっ先輩に、挨拶しに来た! でも……足が出ないだよね。お、おかしいなぁ」
ははっと笑う彼女の乾いた笑い声は、ディアソムニア寮の暗雲に飲まれた。セベクはそんな彼女が痛々しくて、思わず手を差し出した。
「……シルバーのところまで、案内してやる」
何度もシルバーに会いに来ている彼女からすれば彼の部屋に行くくらいどうということはない。セベクはそれを分かったうえでユウの小さな手を取り、引っ張る。女性など乳母と母親以外に触れたこともない彼からすれば、人間の彼女をどう扱っていいのか分からなかった。ユウは彼の手に大人しく従って、一歩踏み出した。
セベクは自分の背後からする鼻をすする音を聞いて、絶対に振り返らないと決めていた。彼女はシルバー以外に弱みを見せようとはしない。だから、感情のままに振舞ってもいいように、セベクはこっそり彼女を認識しにくくする魔法をかけた。おかげで通り過ぎる下級生たちはユウのことなど見えていないようだ。
「怖いよ。セベク」
ぽつりとユウがそう呟いたのは、誰もいないディアソムニア寮の廊下に踏み入った時だった。足を止めた彼女に倣って止まると、繋いでいる指先から震えが伝わってくる。セベクは大きくため息を吐いた。
「置いて行かれるのはお前だけじゃない」
本当はセベクだってシルバーと一緒に卒業でもして、マレウスたちが待つ茨の谷に帰りたい。いや、それならマレウスたちといっしょに卒業をしたかったくらいだ。しかし、生まれが一年遅かっただけで、年単位も拘束される辛さを彼も味わっていた。
「谷に帰ったら、どうせ毎日顔を合わせる。嫌というほどな」
茨の谷で待っていた一年間と違って、セベクは今一人ではない。彼はユウと共に茨の谷に戻り、マレウスたちの下へ帰還すると決めていた。
彼女の細い指を壊れないようにぎゅっと握り、セベクは声を振り絞る。
「だから、一緒に卒業して会いに行くぞ!」
なぜか弾けそうな程心臓が震えていることに気づいたセベクは、背後でくすくすという笑い声を耳にした。そっと振り返ると口元に手を当てて小さく笑うユウがいる。彼女は目元の涙を拭って、セベクに微笑んだ。
「そうだね。セベクの言う通りだ」
ユウの笑う姿に安堵したセベクは、その手を離した。手のかかる弟子だと彼は、彼女に体を向ける。
「もう、ひとりで行けるか?」
「うん。セベク、ありがとう」
にっこりと笑った彼女が普段の調子を取り戻したのを見届けた彼は、そうか、と認知疎外の魔法を解く。ユウはセベクに手を振って、一人でシルバーに会いに行った。その小さな背中に迷いがないことに、自然と彼の頬は緩んでいた。
「どうした。ユウ」
後ろから話しかければ、びくりと肩を震わせたユウがそっと振り返る。黒曜石の垂れ目に張った薄い膜に気づいたセベクは思わず身を固くした。目元の赤い彼女はきゅっと口元を噛んで、胸元に下がっている魔法石を掴んでいる。一歩踏み入れればそこは寮内なのに、それができないままでいるんだと鹿のような細い脚が震えていた。
「せっ先輩に、挨拶しに来た! でも……足が出ないだよね。お、おかしいなぁ」
ははっと笑う彼女の乾いた笑い声は、ディアソムニア寮の暗雲に飲まれた。セベクはそんな彼女が痛々しくて、思わず手を差し出した。
「……シルバーのところまで、案内してやる」
何度もシルバーに会いに来ている彼女からすれば彼の部屋に行くくらいどうということはない。セベクはそれを分かったうえでユウの小さな手を取り、引っ張る。女性など乳母と母親以外に触れたこともない彼からすれば、人間の彼女をどう扱っていいのか分からなかった。ユウは彼の手に大人しく従って、一歩踏み出した。
セベクは自分の背後からする鼻をすする音を聞いて、絶対に振り返らないと決めていた。彼女はシルバー以外に弱みを見せようとはしない。だから、感情のままに振舞ってもいいように、セベクはこっそり彼女を認識しにくくする魔法をかけた。おかげで通り過ぎる下級生たちはユウのことなど見えていないようだ。
「怖いよ。セベク」
ぽつりとユウがそう呟いたのは、誰もいないディアソムニア寮の廊下に踏み入った時だった。足を止めた彼女に倣って止まると、繋いでいる指先から震えが伝わってくる。セベクは大きくため息を吐いた。
「置いて行かれるのはお前だけじゃない」
本当はセベクだってシルバーと一緒に卒業でもして、マレウスたちが待つ茨の谷に帰りたい。いや、それならマレウスたちといっしょに卒業をしたかったくらいだ。しかし、生まれが一年遅かっただけで、年単位も拘束される辛さを彼も味わっていた。
「谷に帰ったら、どうせ毎日顔を合わせる。嫌というほどな」
茨の谷で待っていた一年間と違って、セベクは今一人ではない。彼はユウと共に茨の谷に戻り、マレウスたちの下へ帰還すると決めていた。
彼女の細い指を壊れないようにぎゅっと握り、セベクは声を振り絞る。
「だから、一緒に卒業して会いに行くぞ!」
なぜか弾けそうな程心臓が震えていることに気づいたセベクは、背後でくすくすという笑い声を耳にした。そっと振り返ると口元に手を当てて小さく笑うユウがいる。彼女は目元の涙を拭って、セベクに微笑んだ。
「そうだね。セベクの言う通りだ」
ユウの笑う姿に安堵したセベクは、その手を離した。手のかかる弟子だと彼は、彼女に体を向ける。
「もう、ひとりで行けるか?」
「うん。セベク、ありがとう」
にっこりと笑った彼女が普段の調子を取り戻したのを見届けた彼は、そうか、と認知疎外の魔法を解く。ユウはセベクに手を振って、一人でシルバーに会いに行った。その小さな背中に迷いがないことに、自然と彼の頬は緩んでいた。