お前たちといると愛情で窒息死する!!!
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がちゃん! とガラスがぶつかり合う派手な音が薬学実験室に響き渡る。大丈夫か、とクルーウェルが近づくと、そこには後輩を庇って魔法薬を被ったセベクがいた。オールバックの髪は魔法薬の液を被ったせいで、額に一房の髪が垂れる。
セベクはその目に映る光景に愕然として、目を見開くことしかできなかった。
*
セベクは弱いものを守るという義務を当然のごとく果たしたまでなのだが、そのせいでアンティークゴールドの瞳に映る景色は異様なものだった。周囲ではハートがあちこちで飛び交い、ふわふわと浮いている。廊下を歩いて見える日常風景があまりにも様変わりしすぎて、常の集中力が切れかけていた。
クルーウェル曰く、今のセベクは他者が向ける愛が形となって見える状態にあるらしい。一日すれば治ると言われたが、そのハートはセベクの視界で実体のように存在する。黒板の前をルチウスに向けて放たれたハートが行き交うせいで読めなかったり、通行する際に顔の前を鬱陶しく飛び回ったりと、日常生活は支障だらけだった。しかし、マレウスの護衛たるものこれしき乗り越えずしてどうする! と自らを奮い立たせ、彼は食堂に向かっていた。
「セベク!」
呼びかけてきた声に振り向けば、ユウが手を振ってセベクに近寄っていた。彼女の体から手のひらに乗る程度の小さなハートがふわりと浮かぶ。それはセベクの胸にポンと当たると弾けた。どうやら、ユウの愛は友愛対象にはシャボン玉のようにふわふわと対象に近寄るものらしい。しかし、セベクは目に見えてそういうものを感じることに言いようのない恥ずかしさを覚えて、掌をユウに突き出した。
「やめろ。近づくな」
「え? なんで?」
首を傾げたユウからハートを向けられてそれを胸に当てられたことは、彼の脳裏によぎる銀髪の同郷のよしみに悪いような気がしてならない。そのため距離を取ることで彼なりに折り合いをつけようとしていた。セベクは視界を掠めた銀色を指さし、叫んだ。
「おい、シルバーだぞ!」
どうやらユウを探しに食堂に向かっていたシルバーも偶然ここに居合わせたらしい。これは彼女の気を反らす好機だと思ったが、セベクはすぐにその考えを撤回した。
「え」
シルバーの方を振り返ったユウの体のいたるところから、先ほどと同じ大きさのハートが出てくる。あられのように溢れてくるそれに、セベクは後ずさりした。シルバーはユウたちに気が付き、爪先を彼女に向ける。常より柔らかい笑みをたたえた彼の視線は、彼女だけを捉えていた。
「ユウ」
「先輩、今からお昼ですか?」
「ああ」
「もしよかったら、一緒に食べたいな……なんて」
その時、セベクの耳がゴッという重い音を聞いた。恐る恐るシルバーの足元を見れば、シュウシュウと音を立てながら地面にめり込んだハートがある。セベクはそっとシルバーの顔を見るが、彼の顔色に何も変化はない。表情とは対照的な足元のその鋼鉄のハートが、明らかに彼の愛情を示していた。
「構わない」
「あ、ありがとうございます!」
ユウからはあられの如くハートが全身から吹き出し、シルバーの胸元からは鋼鉄のハートがまたゴトっと地面にひびを入れて落ちている。この奇妙な光景にセベクは顔を手で覆い、呻いた。
「さっさと食堂に行け……」
「セベクも一緒にどう? 最近は全然一緒に食べていないし」
「確かに。たまには三人もいいかもしれない」
ぽん、とシルバーの胸からハートが飛び出し、そのままセベクの肩にぶつかる。すぅっと溶けていったそのハートに、思わず彼は肩を擦った。
「遠慮する! お前たちといると、愛情で窒息死しそうだ!」
セベクはその目に映る光景に愕然として、目を見開くことしかできなかった。
*
セベクは弱いものを守るという義務を当然のごとく果たしたまでなのだが、そのせいでアンティークゴールドの瞳に映る景色は異様なものだった。周囲ではハートがあちこちで飛び交い、ふわふわと浮いている。廊下を歩いて見える日常風景があまりにも様変わりしすぎて、常の集中力が切れかけていた。
クルーウェル曰く、今のセベクは他者が向ける愛が形となって見える状態にあるらしい。一日すれば治ると言われたが、そのハートはセベクの視界で実体のように存在する。黒板の前をルチウスに向けて放たれたハートが行き交うせいで読めなかったり、通行する際に顔の前を鬱陶しく飛び回ったりと、日常生活は支障だらけだった。しかし、マレウスの護衛たるものこれしき乗り越えずしてどうする! と自らを奮い立たせ、彼は食堂に向かっていた。
「セベク!」
呼びかけてきた声に振り向けば、ユウが手を振ってセベクに近寄っていた。彼女の体から手のひらに乗る程度の小さなハートがふわりと浮かぶ。それはセベクの胸にポンと当たると弾けた。どうやら、ユウの愛は友愛対象にはシャボン玉のようにふわふわと対象に近寄るものらしい。しかし、セベクは目に見えてそういうものを感じることに言いようのない恥ずかしさを覚えて、掌をユウに突き出した。
「やめろ。近づくな」
「え? なんで?」
首を傾げたユウからハートを向けられてそれを胸に当てられたことは、彼の脳裏によぎる銀髪の同郷のよしみに悪いような気がしてならない。そのため距離を取ることで彼なりに折り合いをつけようとしていた。セベクは視界を掠めた銀色を指さし、叫んだ。
「おい、シルバーだぞ!」
どうやらユウを探しに食堂に向かっていたシルバーも偶然ここに居合わせたらしい。これは彼女の気を反らす好機だと思ったが、セベクはすぐにその考えを撤回した。
「え」
シルバーの方を振り返ったユウの体のいたるところから、先ほどと同じ大きさのハートが出てくる。あられのように溢れてくるそれに、セベクは後ずさりした。シルバーはユウたちに気が付き、爪先を彼女に向ける。常より柔らかい笑みをたたえた彼の視線は、彼女だけを捉えていた。
「ユウ」
「先輩、今からお昼ですか?」
「ああ」
「もしよかったら、一緒に食べたいな……なんて」
その時、セベクの耳がゴッという重い音を聞いた。恐る恐るシルバーの足元を見れば、シュウシュウと音を立てながら地面にめり込んだハートがある。セベクはそっとシルバーの顔を見るが、彼の顔色に何も変化はない。表情とは対照的な足元のその鋼鉄のハートが、明らかに彼の愛情を示していた。
「構わない」
「あ、ありがとうございます!」
ユウからはあられの如くハートが全身から吹き出し、シルバーの胸元からは鋼鉄のハートがまたゴトっと地面にひびを入れて落ちている。この奇妙な光景にセベクは顔を手で覆い、呻いた。
「さっさと食堂に行け……」
「セベクも一緒にどう? 最近は全然一緒に食べていないし」
「確かに。たまには三人もいいかもしれない」
ぽん、とシルバーの胸からハートが飛び出し、そのままセベクの肩にぶつかる。すぅっと溶けていったそのハートに、思わず彼は肩を擦った。
「遠慮する! お前たちといると、愛情で窒息死しそうだ!」