寮長シルバーと監督生を見守る壁になりたい後輩の話
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そのまま馬術部に入部を決めた二人だったが、彼のルームメイトは新しい話題に食いついていた。
「なあ、絶対寮長と監督生って付き合ってるよな」
呆れた彼は、もうその話題に触れるのに飽きていた。持ってきたゲーム機もバッグに入れたままベッドに転がっているルームメイトを、彼はため息を吐きながら窘める。
「またそれ?」
「ぜーったい付き合ってるって! 他の一年もなんで寮長が決まって火曜日と金曜日に外出届を出すのか怪しんでるしさ」
ばん! と彼が引き出しを閉めた音でルームメイトが口を閉じる。地を這うような低い声が、このルームメイトを委縮させた。
「そういうことに首突っ込んで、痛い目見たいの?」
むう、と頬を膨らませたルームメイトは、先ほどよりも覇気のない調子で枕に顔を突っ込んだ。
「……寮長に隠しごとされんの、俺は嫌だ。あの人は俺たちみたいな一年にも分け隔てなく扱ってくれるし、監督生だってきっといい人だ。だから」
彼はルームメイトがそこまでシルバーたちを思っていたことに感銘を受けた。ルームメイトがただ二人を冷やかしたいわけじゃないのだと知り、安堵した彼はそうだな、と答える。彼が同意してくれたことに喜んだルームメイトは、顔をがばりと上げ仰向けになった。
「俺は! あの二人を見守る壁になりたい!」
将来の夢を語る子どものように瞳をキラキラ輝かせて宣言するルームメイトを半目で眺めた彼は、部屋の扉を開けて廊下に顔を出した。
「誰かー、警備員呼んできてー」
「だってそうだろ! あの人たち絶対いいカップルだって」
「まだ確定もしていないのにそういうこと考えんのやめなよ」
彼は結局来ない警備員に仕方なく扉を閉めた。ベッドの上でじたばたともがいているルームメイトに睨まれる。
「なら、お前も一緒に確認しろよ。あの人たちが付き合っているかどうか」
「どうやってするんだよ」
「オンボロ寮に忍び込んで、俺が乱暴働く悪役になる。お前はいざという時の言い訳係な」
突然突き付けられた作戦に、彼は目を白黒させた。ルームメイトのにやりと笑う顔が、思わずかざした指の間から見える。
「ちょ、ちょっとまって。誰に乱暴を働くわけ?」
「そんなの監督生に決まってんじゃん。俺も本気で魔法は振るわないし、怪我はさせない。いいだろ?」
な? と念押しされた彼は、呆れを通り越して止める気も起きなかった。それに寮長に叱られる羽目になったとしても、監督生を知りたいという好奇心が勝っていた。
「……僕はあくまでも言い訳する係だからな」
「さっすが俺のルムメ!」
*
忍び込んだオンボロ寮のセキュリティは案外甘いらしい。薄暗い談話室に忍び込むと、ぎいぎい木材の軋む音がうるさく聞こえる。風がひゅうっと通り抜けるだけで、誰かが通ったかもしれないと二人は振り向いた。無論、そこにはただの闇があるだけだ。ルームメイトが肩をすくめて、細い息を吐く。
「やっぱり帰ろうかな……」
「今更何言ってんだよ。悪役はさっさと襲いに行け」
とはいえ、ユウが今どこにいるのか、彼らには皆目見当がつかない。そろそろと忍び足で立ち入った談話室は、簡素なストライプの長いソファとロッキングチェア、ローテーブルが置かれており、絵画たちが壁にかけられている。天井にまで伸びる窓から月明かりだけが零れており、談話室から続く扉からはランプの明りが漏れていた。扉の向こうで流れている水音はどう考えてもシャワーの音である。
「入浴中なんて最高のタイミング」
こめかみに冷汗をかいているルームメイトに、彼は一向に進まない背中を叩いた。
「ほら、マジカルペン構えて」
「お前の方が乗り気じゃん。もうお前がしろよ……」
「いやだよ。寮長に嫌われたくない」
ルームメイトがマジカルペンを構えて、ドアノブに手をかける。思い切って開けたそこは脱衣場で、彼らはこの学園なら見るはずもないものを見てしまった。その戸惑いで飛び退いたルームメイトとぶつかった彼は、そのまま談話室に派手な音を立てて転がった。
「いてて……」
彼が顔を上げた時には、階段の上から凄まじい殺気が放たれていた。蛇に睨まれた蛙の如く動けなくなった二人に、足音はどんどん近くなっていく。ひい! と抱きついた二人の目の前に現れたのは、パジャマ姿で模造刀を片手に構えているユウだった。
「か、監督生さん……」
「おっ俺たちはその」
怒りに燃える彼女の背後には暗黒の炎が揺らめいている。彼女はそのまま模造刀を振り上げた。
「不法侵入は立派な犯罪です!」
「ぎゃあああごめんなさいぃぃぃい!」
ぶん! と振り下ろされた模造刀から、頭を抱えた二人を救ったのは頭上からした声だった。
「ユウ、この子たちはこの前の下着泥棒とは違う」
ぴたりと彼らの頭に触れる数センチ手前で止まった模造刀に、彼はそろそろと顔を上げる。頭上の声は、絵画からしていた。ユウは絵画を見上げると、怪訝な表情を浮かべている。
「え。でも、侵入者じゃないですか」
「確かに。バスルームを覗くような不届き者だ」
打ちのめしてもいいかもしれないと絵画が囁くと、彼はとっさにユウに訴えかけた。両手を組み、神にもすがるような気持ちで声を震わせる。
「ちがっ違うんです! 僕ら、ただ監督生さんと寮長が付き合っているんじゃないかって確認したかったんです」
「不法侵入してまで?」
不審な目で首を傾げられて心臓は張り裂けそうだが、ここをどうにか乗り切らないと明日はないと悟った彼は必死に首を縦に振った。ユウの黒曜石の瞳がきらりと光る。模造刀を彼女は下ろした。
「そうですよ。よく分かりましたね」
「あっさり認めるんですか!」
「認めるも何も、私と先輩は婚約者なので」
婚約者!? と声を裏返した二人に、ユウはそれほど驚くことだろうか、と返す。だが、二人は思い出した。あのバスルームで見るはずのなかったものを。
「あ……あの、その」
「監督生さんって、じょ、女性なんですか?」
「はい」
これもあっさり認めたユウは、部屋の明かりをつけて二人にソファに座るよう言う。言われた通り座った二人に、ユウはお茶を出した。
「あ、ありがとうございます」
「いいんですよ。これからセベクに連絡して、迎えに来てもらうので」
ひっと持っていたカップをひっくり返しそうになった彼に、ユウは当然でしょうとロッキングチェアに腰掛けた。よくよく見れば、ユウのパジャマから見える女性的なふくらみが制服に隠されていたことに気が付く。シャワーを浴びた後なのか、毛先が束になっている髪が艶っぽく見える。高鳴りだした胸を押さえようと彼は紅茶をすすった。
「ちなみに私が卒業したら結婚式を挙げる予定です」
ぶっ! と紅茶を吐き出した彼に、ルームメイトが馬鹿! と彼の頭を叩く。突然結婚式の話を聞かされて彼の脳裏に残ったのは、寮長の手の早さだった。本当に大事にしたいのだろう、というか将来をもうそこまで誓い合っているなら棺桶まで誓い合えばいいのに、と思ったのはここだけの話だ。
「お前らうるさいんだゾ! 少しは静かにしろ!」
二階から出てきたグリムにユウは洗浄魔法をお願いする。グリムが仕方なく肉球を振るえば、紅茶で汚れたソファーや彼の制服は元通りになった。すごい、と呟いた二人に自慢げにグリムは鼻で笑う。
「これが先輩の実力なんだゾ。せいぜい見習うんだな」
おやすみなさーい、とユウが手を振るとグリムは再び自室へと消えていった。あの獣がグリム先輩……とルームメイトが呟くと、ユウが彼とは仲良くしてねと優しく微笑む。こんなに優しい笑顔を見せるのに、先ほどの登場はお化けよりも怖いと二人はぶるぶる震えた。
「それと、今日話したことをばらしたら学園長に頼んで貴方達を追い出すので覚悟してくださいね」
そんなことはしないと首を必死に横に振る二人を見たユウは、ならいいけど、とロッキングチェアに凭れかかる。彼は思い切って、ユウに尋ねてみることにした。
「あの、監督生さん。下着泥棒って何のことですか?」
その質問にユウはロッキングチェアを揺らすのをやめると、椅子に座り直した。
「私の下着を盗む生徒がこの学園にいると分かったのはつい一週間前。君たちが入学して間もないから、ひょっとしたら新入生じゃないかと思っていたんですけど」
勘違いだったみたいですね、とため息を吐いたユウにルームメイトは尋ねた。
「寮長に相談はしないんですか?」
「……シルバー先輩は寮長だからこそ、貴方たち寮生やその規律を守る義務がある。私は守られてばかりじゃいけない」
「だからって、恋人に頼っちゃダメなんですか? あんなにお互いを信頼しあっているのに」
彼の脳裏には馬術部の見学で寄り添う二人があった。しかし、ユウの表情は苦いものだった。
「……迷惑になりたくないんです。自分で抱え込むなって君たちは言うけれど、先輩が背負っているものの大きさは、そう単純に割り切れない。君たちの寮長でありながら、茨の谷を統べているドラコニア家の近衛でもあるんですから」
ユウの言葉に彼とルームメイトは目を剥いた。先ほど聞いた言葉が嘘でなければ、シルバーは茨の谷の領主お抱えの騎士ということになる。
「ドラコニア家!?」
「近衛!?」
驚いている二人は身を乗り出しているが、ユウはまるで二人のことなど目にも入っていないかのように遠くを見つめている。桃色の唇から零れる言葉は、小さくかぼそかった。
「だから、今は邪魔したくない。私の我がままで会えるようになっただけで十分」
「なあ、絶対寮長と監督生って付き合ってるよな」
呆れた彼は、もうその話題に触れるのに飽きていた。持ってきたゲーム機もバッグに入れたままベッドに転がっているルームメイトを、彼はため息を吐きながら窘める。
「またそれ?」
「ぜーったい付き合ってるって! 他の一年もなんで寮長が決まって火曜日と金曜日に外出届を出すのか怪しんでるしさ」
ばん! と彼が引き出しを閉めた音でルームメイトが口を閉じる。地を這うような低い声が、このルームメイトを委縮させた。
「そういうことに首突っ込んで、痛い目見たいの?」
むう、と頬を膨らませたルームメイトは、先ほどよりも覇気のない調子で枕に顔を突っ込んだ。
「……寮長に隠しごとされんの、俺は嫌だ。あの人は俺たちみたいな一年にも分け隔てなく扱ってくれるし、監督生だってきっといい人だ。だから」
彼はルームメイトがそこまでシルバーたちを思っていたことに感銘を受けた。ルームメイトがただ二人を冷やかしたいわけじゃないのだと知り、安堵した彼はそうだな、と答える。彼が同意してくれたことに喜んだルームメイトは、顔をがばりと上げ仰向けになった。
「俺は! あの二人を見守る壁になりたい!」
将来の夢を語る子どものように瞳をキラキラ輝かせて宣言するルームメイトを半目で眺めた彼は、部屋の扉を開けて廊下に顔を出した。
「誰かー、警備員呼んできてー」
「だってそうだろ! あの人たち絶対いいカップルだって」
「まだ確定もしていないのにそういうこと考えんのやめなよ」
彼は結局来ない警備員に仕方なく扉を閉めた。ベッドの上でじたばたともがいているルームメイトに睨まれる。
「なら、お前も一緒に確認しろよ。あの人たちが付き合っているかどうか」
「どうやってするんだよ」
「オンボロ寮に忍び込んで、俺が乱暴働く悪役になる。お前はいざという時の言い訳係な」
突然突き付けられた作戦に、彼は目を白黒させた。ルームメイトのにやりと笑う顔が、思わずかざした指の間から見える。
「ちょ、ちょっとまって。誰に乱暴を働くわけ?」
「そんなの監督生に決まってんじゃん。俺も本気で魔法は振るわないし、怪我はさせない。いいだろ?」
な? と念押しされた彼は、呆れを通り越して止める気も起きなかった。それに寮長に叱られる羽目になったとしても、監督生を知りたいという好奇心が勝っていた。
「……僕はあくまでも言い訳する係だからな」
「さっすが俺のルムメ!」
*
忍び込んだオンボロ寮のセキュリティは案外甘いらしい。薄暗い談話室に忍び込むと、ぎいぎい木材の軋む音がうるさく聞こえる。風がひゅうっと通り抜けるだけで、誰かが通ったかもしれないと二人は振り向いた。無論、そこにはただの闇があるだけだ。ルームメイトが肩をすくめて、細い息を吐く。
「やっぱり帰ろうかな……」
「今更何言ってんだよ。悪役はさっさと襲いに行け」
とはいえ、ユウが今どこにいるのか、彼らには皆目見当がつかない。そろそろと忍び足で立ち入った談話室は、簡素なストライプの長いソファとロッキングチェア、ローテーブルが置かれており、絵画たちが壁にかけられている。天井にまで伸びる窓から月明かりだけが零れており、談話室から続く扉からはランプの明りが漏れていた。扉の向こうで流れている水音はどう考えてもシャワーの音である。
「入浴中なんて最高のタイミング」
こめかみに冷汗をかいているルームメイトに、彼は一向に進まない背中を叩いた。
「ほら、マジカルペン構えて」
「お前の方が乗り気じゃん。もうお前がしろよ……」
「いやだよ。寮長に嫌われたくない」
ルームメイトがマジカルペンを構えて、ドアノブに手をかける。思い切って開けたそこは脱衣場で、彼らはこの学園なら見るはずもないものを見てしまった。その戸惑いで飛び退いたルームメイトとぶつかった彼は、そのまま談話室に派手な音を立てて転がった。
「いてて……」
彼が顔を上げた時には、階段の上から凄まじい殺気が放たれていた。蛇に睨まれた蛙の如く動けなくなった二人に、足音はどんどん近くなっていく。ひい! と抱きついた二人の目の前に現れたのは、パジャマ姿で模造刀を片手に構えているユウだった。
「か、監督生さん……」
「おっ俺たちはその」
怒りに燃える彼女の背後には暗黒の炎が揺らめいている。彼女はそのまま模造刀を振り上げた。
「不法侵入は立派な犯罪です!」
「ぎゃあああごめんなさいぃぃぃい!」
ぶん! と振り下ろされた模造刀から、頭を抱えた二人を救ったのは頭上からした声だった。
「ユウ、この子たちはこの前の下着泥棒とは違う」
ぴたりと彼らの頭に触れる数センチ手前で止まった模造刀に、彼はそろそろと顔を上げる。頭上の声は、絵画からしていた。ユウは絵画を見上げると、怪訝な表情を浮かべている。
「え。でも、侵入者じゃないですか」
「確かに。バスルームを覗くような不届き者だ」
打ちのめしてもいいかもしれないと絵画が囁くと、彼はとっさにユウに訴えかけた。両手を組み、神にもすがるような気持ちで声を震わせる。
「ちがっ違うんです! 僕ら、ただ監督生さんと寮長が付き合っているんじゃないかって確認したかったんです」
「不法侵入してまで?」
不審な目で首を傾げられて心臓は張り裂けそうだが、ここをどうにか乗り切らないと明日はないと悟った彼は必死に首を縦に振った。ユウの黒曜石の瞳がきらりと光る。模造刀を彼女は下ろした。
「そうですよ。よく分かりましたね」
「あっさり認めるんですか!」
「認めるも何も、私と先輩は婚約者なので」
婚約者!? と声を裏返した二人に、ユウはそれほど驚くことだろうか、と返す。だが、二人は思い出した。あのバスルームで見るはずのなかったものを。
「あ……あの、その」
「監督生さんって、じょ、女性なんですか?」
「はい」
これもあっさり認めたユウは、部屋の明かりをつけて二人にソファに座るよう言う。言われた通り座った二人に、ユウはお茶を出した。
「あ、ありがとうございます」
「いいんですよ。これからセベクに連絡して、迎えに来てもらうので」
ひっと持っていたカップをひっくり返しそうになった彼に、ユウは当然でしょうとロッキングチェアに腰掛けた。よくよく見れば、ユウのパジャマから見える女性的なふくらみが制服に隠されていたことに気が付く。シャワーを浴びた後なのか、毛先が束になっている髪が艶っぽく見える。高鳴りだした胸を押さえようと彼は紅茶をすすった。
「ちなみに私が卒業したら結婚式を挙げる予定です」
ぶっ! と紅茶を吐き出した彼に、ルームメイトが馬鹿! と彼の頭を叩く。突然結婚式の話を聞かされて彼の脳裏に残ったのは、寮長の手の早さだった。本当に大事にしたいのだろう、というか将来をもうそこまで誓い合っているなら棺桶まで誓い合えばいいのに、と思ったのはここだけの話だ。
「お前らうるさいんだゾ! 少しは静かにしろ!」
二階から出てきたグリムにユウは洗浄魔法をお願いする。グリムが仕方なく肉球を振るえば、紅茶で汚れたソファーや彼の制服は元通りになった。すごい、と呟いた二人に自慢げにグリムは鼻で笑う。
「これが先輩の実力なんだゾ。せいぜい見習うんだな」
おやすみなさーい、とユウが手を振るとグリムは再び自室へと消えていった。あの獣がグリム先輩……とルームメイトが呟くと、ユウが彼とは仲良くしてねと優しく微笑む。こんなに優しい笑顔を見せるのに、先ほどの登場はお化けよりも怖いと二人はぶるぶる震えた。
「それと、今日話したことをばらしたら学園長に頼んで貴方達を追い出すので覚悟してくださいね」
そんなことはしないと首を必死に横に振る二人を見たユウは、ならいいけど、とロッキングチェアに凭れかかる。彼は思い切って、ユウに尋ねてみることにした。
「あの、監督生さん。下着泥棒って何のことですか?」
その質問にユウはロッキングチェアを揺らすのをやめると、椅子に座り直した。
「私の下着を盗む生徒がこの学園にいると分かったのはつい一週間前。君たちが入学して間もないから、ひょっとしたら新入生じゃないかと思っていたんですけど」
勘違いだったみたいですね、とため息を吐いたユウにルームメイトは尋ねた。
「寮長に相談はしないんですか?」
「……シルバー先輩は寮長だからこそ、貴方たち寮生やその規律を守る義務がある。私は守られてばかりじゃいけない」
「だからって、恋人に頼っちゃダメなんですか? あんなにお互いを信頼しあっているのに」
彼の脳裏には馬術部の見学で寄り添う二人があった。しかし、ユウの表情は苦いものだった。
「……迷惑になりたくないんです。自分で抱え込むなって君たちは言うけれど、先輩が背負っているものの大きさは、そう単純に割り切れない。君たちの寮長でありながら、茨の谷を統べているドラコニア家の近衛でもあるんですから」
ユウの言葉に彼とルームメイトは目を剥いた。先ほど聞いた言葉が嘘でなければ、シルバーは茨の谷の領主お抱えの騎士ということになる。
「ドラコニア家!?」
「近衛!?」
驚いている二人は身を乗り出しているが、ユウはまるで二人のことなど目にも入っていないかのように遠くを見つめている。桃色の唇から零れる言葉は、小さくかぼそかった。
「だから、今は邪魔したくない。私の我がままで会えるようになっただけで十分」