寮長シルバーと監督生を見守る壁になりたい後輩の話
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寮長に馬術部の参観をしたいと申しこむと、快諾された。副寮長もその姿勢は褒めてやろう、と言うので案外馬術部って人手が足りないのかもしれないのだろうか、とルームメイトと彼はぼんやり思っていた。
連れてこられた運動場にはすでに馬にまたがっている部員たちがいる。その中にいるはずの監督生を目を凝らして探すが、彼らの前に出てきたのは赤髪の小柄な少年だった。
「君たちが入部希望者かい?」
彼を一目見て二人は察した。この彼こそ、二年生にして決闘で寮長に上り詰めたハーツラビュル寮寮長リドル・ローズハートだと。彼は規律に極端に厳しく、叱られた者は皆首を刎ねられると聞く。その恐ろしさで二人は声があまり出なくなっていた。
「あ、いえ。僕らは見学に来ました」
「ふうん。まあいい。僕から馬術について少しだけ教えておこう。馬術とは馬のコントロールだけでなく、自分の心や集中力を鍛えるものだ。ただ馬に乗れればいいってものじゃないからね」
はい……と弱々しく返事をすると、なんだいその返事は! と叱られる。二人が思いのほか放たれる気迫に互いを抱きしめて、涙目になった。そこに、歩み寄る足音があった。
「リドル、どうした」
寮長! と歓喜の声を上げた二人に、シルバーは首を傾げた。返事すらなっていないのかい君の新入生たちは! と、リドルが抗議をすると、シルバーがすまなかった、と謝った。あまりにあっさり謝るので、二人は自分たちのせいで頭を下げさせてしまったことに涙が出てきた。
「りょ、寮長は悪くありません! 俺たちがしっかり返事をしていれば」
「この通りです! ローズハート先輩! どうか寮長ではなく、僕らを叱ってください!」
ルームメイトがシルバーの前に立ちはだかり、彼はリドルに向かって頭をこれでもかというほど下げる。そんな彼らにリドルは怒る気すら失せて、もういいよ、と呆れたため息を吐いた。今度の寮長はカリスマではなく、その優しさで慕われるらしい、とリドルが小さく微笑む。
「じゃあ、僕はヴォーパル号を連れてくるから。君たちは自分の寮長の手綱さばきを見ているといい」
そう言って去っていったリドルの背中を見送ると、シルバーが二人に見学するときは柵の内側に入らないように、とだけ言って去ってしまった。自分のプライドに関係なく後輩のために頭を下げたシルバーに、二人は深い尊敬を覚えていると、柵の向こう側で駆けだした蹄の音に体を震わせた。
重い音が土を蹴り上げ、様々な障害物を乗り越えていく。白いたてがみが風になびき、二人はその馬と騎手に見惚れていた。コースを一周した彼はどうどうと馬の首を叩いて褒める。
「銀、よく頑張ったね。この前よりハードルも飛べるようになった」
男にしては少し高いその声に、二人は目を丸くした。茶色のくせっ毛が風に撥ね、その微笑みは春風を運ぶようだ。魔力のかけらも感じられない彼が間違いなく、監督生だと二人は気づいた。
そのまま彼を見つめていると、監督生の黒曜石の垂れ目が二人を捉える。彼は銀をフィールドから出して手綱を杭に括りつける。そして、そのまま二人に近づいてきた。
「きっ来た!」
「な、なんで!?」
「知らねーよ!」
どうしようどうしよう! と慌てていると、監督生は彼らの前で立ち止まった。息を飲んで見下ろすことしかできない彼らに、監督生は手を差し出した。
「初めまして。オンボロ寮の監督生のユウです。ディアソムニア寮の新入生さん」
にっこりと微笑まれて、自然と二人の頬が色づく。ぼうっとしていた二人が意識を取り戻して、握手をしようとすると二人の手がぶつかった。あ! と顔を見合わせる二人に、ユウがころころと鈴を転がすように笑う。
「馬術部に興味があるんですか?」
どちらかというと目の前の貴方なんですけどね、と彼が心の中で答えると、ルームメイトがそうなんです! と大きく頷く。リドルの時は積極的ではなかったのを鑑みると、相手によって萎縮してしまうらしい。
「そっか。なら、シルバー先輩……君たちの寮長の手綱はぜひ参考にしてください。お手本通りで綺麗だし、何より参考になる点も多いので」
「え、ローズハート先輩もお上手じゃないですか?」
「リドル先輩の手綱さばきは、異次元だから真似できませんよ。そこらのベテランも舌を巻くくらいなので」
そんな凄い人なんだ、と二人が顔を引きつらせると、黒い馬が彼らの前に躍り出た。驚いて二人が飛び退くと、ユウが大丈夫だよ、と腕を彼らの前に庇うように出す。突き出されているあまりに細い腕とは対照的に、勇敢に立つ背中が大きく見えた。黒い馬から降りたのは、銀髪のその人だった。
「先輩。後輩を怖がらせちゃだめですよ。入部してくれるかもしれないんですから」
ユウがシルバーを叱ると、目に見えて彼はしょんぼりと肩を落とした。困らせてしまっただろうか、と呟くシルバーに、ユウが先輩の手綱さばきを見ればすぐに入りたいってなりますよ! と笑顔で答える。
「ユウもそう思うか?」
「先輩を見て入るって決めたんですから。当たり前です」
なんとも深い信頼関係を築いているのだな、と彼は二人を眺めていた。こんな風に思いあえる存在に出会ってみたいものだと彼が感慨に耽っていると、隣でルームメイトが呟いた。
「え? 付き合ってんの?」
連れてこられた運動場にはすでに馬にまたがっている部員たちがいる。その中にいるはずの監督生を目を凝らして探すが、彼らの前に出てきたのは赤髪の小柄な少年だった。
「君たちが入部希望者かい?」
彼を一目見て二人は察した。この彼こそ、二年生にして決闘で寮長に上り詰めたハーツラビュル寮寮長リドル・ローズハートだと。彼は規律に極端に厳しく、叱られた者は皆首を刎ねられると聞く。その恐ろしさで二人は声があまり出なくなっていた。
「あ、いえ。僕らは見学に来ました」
「ふうん。まあいい。僕から馬術について少しだけ教えておこう。馬術とは馬のコントロールだけでなく、自分の心や集中力を鍛えるものだ。ただ馬に乗れればいいってものじゃないからね」
はい……と弱々しく返事をすると、なんだいその返事は! と叱られる。二人が思いのほか放たれる気迫に互いを抱きしめて、涙目になった。そこに、歩み寄る足音があった。
「リドル、どうした」
寮長! と歓喜の声を上げた二人に、シルバーは首を傾げた。返事すらなっていないのかい君の新入生たちは! と、リドルが抗議をすると、シルバーがすまなかった、と謝った。あまりにあっさり謝るので、二人は自分たちのせいで頭を下げさせてしまったことに涙が出てきた。
「りょ、寮長は悪くありません! 俺たちがしっかり返事をしていれば」
「この通りです! ローズハート先輩! どうか寮長ではなく、僕らを叱ってください!」
ルームメイトがシルバーの前に立ちはだかり、彼はリドルに向かって頭をこれでもかというほど下げる。そんな彼らにリドルは怒る気すら失せて、もういいよ、と呆れたため息を吐いた。今度の寮長はカリスマではなく、その優しさで慕われるらしい、とリドルが小さく微笑む。
「じゃあ、僕はヴォーパル号を連れてくるから。君たちは自分の寮長の手綱さばきを見ているといい」
そう言って去っていったリドルの背中を見送ると、シルバーが二人に見学するときは柵の内側に入らないように、とだけ言って去ってしまった。自分のプライドに関係なく後輩のために頭を下げたシルバーに、二人は深い尊敬を覚えていると、柵の向こう側で駆けだした蹄の音に体を震わせた。
重い音が土を蹴り上げ、様々な障害物を乗り越えていく。白いたてがみが風になびき、二人はその馬と騎手に見惚れていた。コースを一周した彼はどうどうと馬の首を叩いて褒める。
「銀、よく頑張ったね。この前よりハードルも飛べるようになった」
男にしては少し高いその声に、二人は目を丸くした。茶色のくせっ毛が風に撥ね、その微笑みは春風を運ぶようだ。魔力のかけらも感じられない彼が間違いなく、監督生だと二人は気づいた。
そのまま彼を見つめていると、監督生の黒曜石の垂れ目が二人を捉える。彼は銀をフィールドから出して手綱を杭に括りつける。そして、そのまま二人に近づいてきた。
「きっ来た!」
「な、なんで!?」
「知らねーよ!」
どうしようどうしよう! と慌てていると、監督生は彼らの前で立ち止まった。息を飲んで見下ろすことしかできない彼らに、監督生は手を差し出した。
「初めまして。オンボロ寮の監督生のユウです。ディアソムニア寮の新入生さん」
にっこりと微笑まれて、自然と二人の頬が色づく。ぼうっとしていた二人が意識を取り戻して、握手をしようとすると二人の手がぶつかった。あ! と顔を見合わせる二人に、ユウがころころと鈴を転がすように笑う。
「馬術部に興味があるんですか?」
どちらかというと目の前の貴方なんですけどね、と彼が心の中で答えると、ルームメイトがそうなんです! と大きく頷く。リドルの時は積極的ではなかったのを鑑みると、相手によって萎縮してしまうらしい。
「そっか。なら、シルバー先輩……君たちの寮長の手綱はぜひ参考にしてください。お手本通りで綺麗だし、何より参考になる点も多いので」
「え、ローズハート先輩もお上手じゃないですか?」
「リドル先輩の手綱さばきは、異次元だから真似できませんよ。そこらのベテランも舌を巻くくらいなので」
そんな凄い人なんだ、と二人が顔を引きつらせると、黒い馬が彼らの前に躍り出た。驚いて二人が飛び退くと、ユウが大丈夫だよ、と腕を彼らの前に庇うように出す。突き出されているあまりに細い腕とは対照的に、勇敢に立つ背中が大きく見えた。黒い馬から降りたのは、銀髪のその人だった。
「先輩。後輩を怖がらせちゃだめですよ。入部してくれるかもしれないんですから」
ユウがシルバーを叱ると、目に見えて彼はしょんぼりと肩を落とした。困らせてしまっただろうか、と呟くシルバーに、ユウが先輩の手綱さばきを見ればすぐに入りたいってなりますよ! と笑顔で答える。
「ユウもそう思うか?」
「先輩を見て入るって決めたんですから。当たり前です」
なんとも深い信頼関係を築いているのだな、と彼は二人を眺めていた。こんな風に思いあえる存在に出会ってみたいものだと彼が感慨に耽っていると、隣でルームメイトが呟いた。
「え? 付き合ってんの?」