寮長シルバーと監督生を見守る壁になりたい後輩の話
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「なあなあ! オンボロ寮って知ってる?」
ゲームをしていたはずのルームメイトにそう話しかけられた彼は目を丸くした。なぜなら、彼もつい先日聞きかじっただけだが、その寮に興味が湧いていたのだから。
オンボロ寮――鏡舎を通らずとも存在する七つ以外の寮であり、そこには獣と獣使い(ビーストマスター)である監督生が住んでいるらしい。獣使いでありながら、その監督生は魔法すら使えないのだとか。
「ブレザーには寮章もないんだろう? しかもゴーストと同居なんて、すごいよね」
そう彼が答えると、ルームメイトが良く知ってんだな、と感心した。いずれの情報も寮長自らが教えてくれたのだ。
というのも、時を遡ること二日前。新入生たちを案内して校舎や寮内での生活を慣らしていくのも、寮長と副寮長の務めだ。彼らの後について行きながら、校舎を眺め、自分のクラスを確認したり、必要な教材などのメモを取っているうちに彼はディアソムニア寮の新入生の群れから徐々に外れていった。植物園で眠りかける寮長を副寮長が叱りつける様は面白かったが、植物の名前を書きとっているうちに、いつの間にかディアソムニア寮の制服が見えなくなっていた。
迷子になった! と驚いた彼は植物園内を走り回るが、どこにも緑の寮章は見えない。そもそも植物園自体が迷路のように入り組んでいるので、出てくるのに30分くらい時間を要した。出てきた時には、ここはどこだと彼は途方に暮れた。それも周りには実験服を着た学生ばかりで誰も彼も忙しそうだ。話しかけようにも救いの手がないと、彼は校舎に戻ることを決意した。恥を忍んで先生に頼んで道案内をしてもらおう、と彼がとぼとぼ歩いていると、校舎の傍に建物があることに気づく。どう見ても古びているが、ひょっとしたら用務員の住んでいる場所かもしれない。彼が勇気を出して一歩その建物に近づこうとした時、肩を叩かれた。
「うわあ!」
驚いて尻もちをついた彼を見下ろすオーロラシルバーがきらりと輝く。寮長……と呟くと、シルバーが驚かせてすまない、と手を出してくれた。その手を取って起き上がると、植物園でお前がいないとルームメイトが教えてくれたと言われ、迷子などという子供みたいな醜態をさらしたことに羞恥して、彼の頬に熱が集まる。
「寮まで俺が案内する。ついてこい」
「はい!」
彼はしばらくシルバーと歩いていたが、話す気配もない。もしかして怒らせてしまったのだろうかと、足を止めて謝れば、シルバーはその必要はないと首を振った。新入生の監督ができていなかった俺も寮長としてお前に謝らなければならない、と優しい声音で言われると、胸に詰まっていた恥じらいが徐々に溶けてくのが分かる。あまり話さないことについて尋ねると、シルバーはあまり話す話題がないのだと困った調子で声のトーンを落とした。それなら自分が質問をして話を繋ごうと、彼はシルバーに様々なことを尋ねた。シルバーは基本的にどんな質問でも快く答えてくれるし、丁寧に教えてくれた。
「では、校舎のはずれにあるあの趣深い建物はなんでしょうか」
そう尋ねると、周りの空気が若干変わったことに彼は気づいた。シルバーは遠くを見つめながら、噛みしめるように答えた。
「あれはこの学園に正式存在する七つの寮とは異なる寮だ。ゴーストも居ついているせいでオンボロ寮などと呼ぶ者もいるが、そこに住んでいる監督生と獣がいる。彼らは二人で一人の学生として扱われている」
「なぜですか?」
「……監督生は魔法を使えないうえ、獣は闇の鏡に選ばれた者ではないからだ。学園長の裁量で彼らは入学を許可された。監督生はとても勤勉で相棒の獣とも仲がいい。ブレザーに寮章がついていないから、すぐに分かるだろう。お前たちの良いお手本になるから、一度話してみるといい」
そう答えるシルバーの雰囲気は、普段の凛と澄んだものから足元から花でも咲きそうな柔らかいものになっている。緩んだ頬がたたえる笑みに、彼は男相手なのに不覚にも心臓を高鳴らせてしまった。
「そのっ……寮長はその監督生さんをとても高く評価していらっしゃるんですね」
戸惑った心臓のまま話しかけたことに、彼は深い後悔を覚えた。こんなに動揺していることを悟られては、ディアソムニア寮の寮生らしからぬと叱られてしまうと思ったからだ。
しかし、シルバーはその言葉に耳を赤くして、口元に手を当てた。その目は隠しきれない慈愛に溢れている。
「ああ。……とても素晴らしい人物だ」
あんな緩んだ表情をさせるオンボロ寮の監督生にぜひとも会ってみたいと彼は思っていた。
しかし、オンボロ寮の監督生はどうやら自分よりも一学年上、会うにしても部活動か合同授業で重ならないと会えないのだ。困ったものだと彼が自室でため息を吐くと、ルームメイトが彼を呼んだ。
「あのさ、オンボロ寮の監督生が所属している部活動分かったんだ。今度二人で見に行かね?」
「行く! どこの部活?」
にやりとルームメイトの猫目が怪しく弧を描く。
「馬術部。俺たちの寮長と副寮長、あとハーツラビュル寮の寮長が所属してるっていう部活動だ」
ゲームをしていたはずのルームメイトにそう話しかけられた彼は目を丸くした。なぜなら、彼もつい先日聞きかじっただけだが、その寮に興味が湧いていたのだから。
オンボロ寮――鏡舎を通らずとも存在する七つ以外の寮であり、そこには獣と獣使い(ビーストマスター)である監督生が住んでいるらしい。獣使いでありながら、その監督生は魔法すら使えないのだとか。
「ブレザーには寮章もないんだろう? しかもゴーストと同居なんて、すごいよね」
そう彼が答えると、ルームメイトが良く知ってんだな、と感心した。いずれの情報も寮長自らが教えてくれたのだ。
というのも、時を遡ること二日前。新入生たちを案内して校舎や寮内での生活を慣らしていくのも、寮長と副寮長の務めだ。彼らの後について行きながら、校舎を眺め、自分のクラスを確認したり、必要な教材などのメモを取っているうちに彼はディアソムニア寮の新入生の群れから徐々に外れていった。植物園で眠りかける寮長を副寮長が叱りつける様は面白かったが、植物の名前を書きとっているうちに、いつの間にかディアソムニア寮の制服が見えなくなっていた。
迷子になった! と驚いた彼は植物園内を走り回るが、どこにも緑の寮章は見えない。そもそも植物園自体が迷路のように入り組んでいるので、出てくるのに30分くらい時間を要した。出てきた時には、ここはどこだと彼は途方に暮れた。それも周りには実験服を着た学生ばかりで誰も彼も忙しそうだ。話しかけようにも救いの手がないと、彼は校舎に戻ることを決意した。恥を忍んで先生に頼んで道案内をしてもらおう、と彼がとぼとぼ歩いていると、校舎の傍に建物があることに気づく。どう見ても古びているが、ひょっとしたら用務員の住んでいる場所かもしれない。彼が勇気を出して一歩その建物に近づこうとした時、肩を叩かれた。
「うわあ!」
驚いて尻もちをついた彼を見下ろすオーロラシルバーがきらりと輝く。寮長……と呟くと、シルバーが驚かせてすまない、と手を出してくれた。その手を取って起き上がると、植物園でお前がいないとルームメイトが教えてくれたと言われ、迷子などという子供みたいな醜態をさらしたことに羞恥して、彼の頬に熱が集まる。
「寮まで俺が案内する。ついてこい」
「はい!」
彼はしばらくシルバーと歩いていたが、話す気配もない。もしかして怒らせてしまったのだろうかと、足を止めて謝れば、シルバーはその必要はないと首を振った。新入生の監督ができていなかった俺も寮長としてお前に謝らなければならない、と優しい声音で言われると、胸に詰まっていた恥じらいが徐々に溶けてくのが分かる。あまり話さないことについて尋ねると、シルバーはあまり話す話題がないのだと困った調子で声のトーンを落とした。それなら自分が質問をして話を繋ごうと、彼はシルバーに様々なことを尋ねた。シルバーは基本的にどんな質問でも快く答えてくれるし、丁寧に教えてくれた。
「では、校舎のはずれにあるあの趣深い建物はなんでしょうか」
そう尋ねると、周りの空気が若干変わったことに彼は気づいた。シルバーは遠くを見つめながら、噛みしめるように答えた。
「あれはこの学園に正式存在する七つの寮とは異なる寮だ。ゴーストも居ついているせいでオンボロ寮などと呼ぶ者もいるが、そこに住んでいる監督生と獣がいる。彼らは二人で一人の学生として扱われている」
「なぜですか?」
「……監督生は魔法を使えないうえ、獣は闇の鏡に選ばれた者ではないからだ。学園長の裁量で彼らは入学を許可された。監督生はとても勤勉で相棒の獣とも仲がいい。ブレザーに寮章がついていないから、すぐに分かるだろう。お前たちの良いお手本になるから、一度話してみるといい」
そう答えるシルバーの雰囲気は、普段の凛と澄んだものから足元から花でも咲きそうな柔らかいものになっている。緩んだ頬がたたえる笑みに、彼は男相手なのに不覚にも心臓を高鳴らせてしまった。
「そのっ……寮長はその監督生さんをとても高く評価していらっしゃるんですね」
戸惑った心臓のまま話しかけたことに、彼は深い後悔を覚えた。こんなに動揺していることを悟られては、ディアソムニア寮の寮生らしからぬと叱られてしまうと思ったからだ。
しかし、シルバーはその言葉に耳を赤くして、口元に手を当てた。その目は隠しきれない慈愛に溢れている。
「ああ。……とても素晴らしい人物だ」
あんな緩んだ表情をさせるオンボロ寮の監督生にぜひとも会ってみたいと彼は思っていた。
しかし、オンボロ寮の監督生はどうやら自分よりも一学年上、会うにしても部活動か合同授業で重ならないと会えないのだ。困ったものだと彼が自室でため息を吐くと、ルームメイトが彼を呼んだ。
「あのさ、オンボロ寮の監督生が所属している部活動分かったんだ。今度二人で見に行かね?」
「行く! どこの部活?」
にやりとルームメイトの猫目が怪しく弧を描く。
「馬術部。俺たちの寮長と副寮長、あとハーツラビュル寮の寮長が所属してるっていう部活動だ」