ご祝儀の用意はお早めに
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クルーウェルに叱られた二人は、彼が資料室を出てすぐに互いの顔を見合わせた。
「先輩……本当にご迷惑をかけてすいません」
「いい。それはお互い様だ」
シルバーにそう言いきられて何も言えなくなったユウは沈黙した。互いの間にあるこの静寂をあまり気まずく思わなくなってきたのは、ここ最近のことである。ユウはそっとシルバーを見上げると、彼のオーロラシルバーの瞳が同じく彼女を見下ろしていた。先に言葉をかけたのは、シルバーだった。
「明日の昼まで護衛の任がない。だから、オンボロ寮に今日も行っていいだろうか?」
目を瞬かせたユウは、思わず笑ってしまった。くすくすと肩を震わせている彼女は、シルバーの手を取り立ち上がると、意地悪く言った。
「懲りないんですね」
「会うなと言われたわけじゃない」
シルバーはつられたように柔らかく微笑み、ユウの手に引かれて立ち上がった。
別室から出てから、ユウが楽しそうに誰にも会わなければこのまま手を繋いでいようと誘った。小さな遊びをここで見出す彼女の無邪気さに愛らしいと、シルバーは頷く。絶対に離さなくていいよう、彼は警棒をわずかに振って人払いの魔法をかけた。何しろここ最近、シルバーは護衛が忙しく、ユウも課題に追われていたので、こうして二人きりになるのは昨日からようやく可能になったのだ。邪魔など入らせまいとしているシルバーの心境も知らず、ユウは誰かに会うかもしれないとそわそわしている。そんな忙しない様子ですら愛おしさがこみ上げてくるので、シルバーは歩みを遅くした。
結果的にユウの杞憂で済み、二人はそのままオンボロ寮に向かう道のりを歩んでいた。夕焼けを追いかけるように藍の空が天を覆っていく。燃えるような色と凍るような色が存在する空を見上げて、ユウはシルバーと繋いだ手に力を込めた。
「綺麗ですね」
じっと空だけを見つめている彼女に倣ってシルバーも見上げれば、目の奥にまで染み込んでくるような深い色に胸が暖かくなる感覚がした。
「ああ、綺麗だ」
ですよね! と、ユウはシルバーも同じ感想を抱いてくれたことに喜びを隠せない。見下ろしてくる夜空を反射した目は、暖かい色を宿していた。
「お前と一緒だから、特別なものに思える」
何の衒いもなく恥ずかしいことを言うシルバーに、ユウはいつまで経っても慣れる気はしない。だから、恥ずかしげもなくこちらも言わせてもらうと決めていた。
「じゃあ、これから先輩と見るものは何でも特別ですね」
ユウが空いた方の手で空を指さす。
「この空もそうですし、今日叱られたことも、先輩の笑ってる顔とか、この道のりも、オンボロ寮の玄関も!」
ユウがシルバーの手を引きながら軽快なリズムでオンボロ寮の玄関にある階段を駆け上がる。吹いてきた春風が夜のしっとりとした香りを運んで、二人の間を通り抜ける。それと同時にシルバーは突然ユウを抱きかかえて、風に紛れて飛んでくるそれに向かって警棒を振り下ろした。
ばきん! という衝撃音と共に、からからと乾いた音を立てて真っ二つに折られている矢だったものが白木の床板に転がった。彼女を抱えているシルバーの雰囲気が剣呑なものになる。
「いったい誰がこんな真似を」
ユウの頭の上に紙がひらひらと落ちてくる。それを拾って読んだ彼女は、シルバーの裾を掴んで引っ張った。
「先輩。多分これ、ルーク先輩からの祝電です」
「祝電?」
ほら、と見せられたシルバーは、やれやれとため息を吐いた。『互いを思い合う君たちの未来に幸運あれ』と書かれた紙の端には、Rの文字が入っている。ルークが矢文を送ってくるのはVDCの結果発表でもあったとユウからと聞き、敵襲かと思ったとシルバーが肩の力を抜く。ユウはそんな彼に敵襲じゃなくてよかったですね、と苦笑いすることしかできなかった。
オンボロ寮から離れた森で、茨の谷の糸紡ぎストラップのついた双眼鏡が木々の影の中で煌いた。ルークは頬を紅潮させながら、握りこぶしを作ってガッツポーズをとる。その瞳にはうっすらと涙を浮かべていた。
「ああ、さすがシルバーくん! 僕の矢を二つに折ってしまうとは、素晴らしい反射神経だ! それに彼女を気遣って抱えるところなんて、物語の騎士そのものだ! ボーテ! 100点!」
がさがさと揺れる木を見つけた生徒たちは、響き渡る彼の興奮した声といい、夕方という時間も相まって、闇に揺れる不気味なその木を「ボーテの木」と名付けたとか。
「先輩……本当にご迷惑をかけてすいません」
「いい。それはお互い様だ」
シルバーにそう言いきられて何も言えなくなったユウは沈黙した。互いの間にあるこの静寂をあまり気まずく思わなくなってきたのは、ここ最近のことである。ユウはそっとシルバーを見上げると、彼のオーロラシルバーの瞳が同じく彼女を見下ろしていた。先に言葉をかけたのは、シルバーだった。
「明日の昼まで護衛の任がない。だから、オンボロ寮に今日も行っていいだろうか?」
目を瞬かせたユウは、思わず笑ってしまった。くすくすと肩を震わせている彼女は、シルバーの手を取り立ち上がると、意地悪く言った。
「懲りないんですね」
「会うなと言われたわけじゃない」
シルバーはつられたように柔らかく微笑み、ユウの手に引かれて立ち上がった。
別室から出てから、ユウが楽しそうに誰にも会わなければこのまま手を繋いでいようと誘った。小さな遊びをここで見出す彼女の無邪気さに愛らしいと、シルバーは頷く。絶対に離さなくていいよう、彼は警棒をわずかに振って人払いの魔法をかけた。何しろここ最近、シルバーは護衛が忙しく、ユウも課題に追われていたので、こうして二人きりになるのは昨日からようやく可能になったのだ。邪魔など入らせまいとしているシルバーの心境も知らず、ユウは誰かに会うかもしれないとそわそわしている。そんな忙しない様子ですら愛おしさがこみ上げてくるので、シルバーは歩みを遅くした。
結果的にユウの杞憂で済み、二人はそのままオンボロ寮に向かう道のりを歩んでいた。夕焼けを追いかけるように藍の空が天を覆っていく。燃えるような色と凍るような色が存在する空を見上げて、ユウはシルバーと繋いだ手に力を込めた。
「綺麗ですね」
じっと空だけを見つめている彼女に倣ってシルバーも見上げれば、目の奥にまで染み込んでくるような深い色に胸が暖かくなる感覚がした。
「ああ、綺麗だ」
ですよね! と、ユウはシルバーも同じ感想を抱いてくれたことに喜びを隠せない。見下ろしてくる夜空を反射した目は、暖かい色を宿していた。
「お前と一緒だから、特別なものに思える」
何の衒いもなく恥ずかしいことを言うシルバーに、ユウはいつまで経っても慣れる気はしない。だから、恥ずかしげもなくこちらも言わせてもらうと決めていた。
「じゃあ、これから先輩と見るものは何でも特別ですね」
ユウが空いた方の手で空を指さす。
「この空もそうですし、今日叱られたことも、先輩の笑ってる顔とか、この道のりも、オンボロ寮の玄関も!」
ユウがシルバーの手を引きながら軽快なリズムでオンボロ寮の玄関にある階段を駆け上がる。吹いてきた春風が夜のしっとりとした香りを運んで、二人の間を通り抜ける。それと同時にシルバーは突然ユウを抱きかかえて、風に紛れて飛んでくるそれに向かって警棒を振り下ろした。
ばきん! という衝撃音と共に、からからと乾いた音を立てて真っ二つに折られている矢だったものが白木の床板に転がった。彼女を抱えているシルバーの雰囲気が剣呑なものになる。
「いったい誰がこんな真似を」
ユウの頭の上に紙がひらひらと落ちてくる。それを拾って読んだ彼女は、シルバーの裾を掴んで引っ張った。
「先輩。多分これ、ルーク先輩からの祝電です」
「祝電?」
ほら、と見せられたシルバーは、やれやれとため息を吐いた。『互いを思い合う君たちの未来に幸運あれ』と書かれた紙の端には、Rの文字が入っている。ルークが矢文を送ってくるのはVDCの結果発表でもあったとユウからと聞き、敵襲かと思ったとシルバーが肩の力を抜く。ユウはそんな彼に敵襲じゃなくてよかったですね、と苦笑いすることしかできなかった。
オンボロ寮から離れた森で、茨の谷の糸紡ぎストラップのついた双眼鏡が木々の影の中で煌いた。ルークは頬を紅潮させながら、握りこぶしを作ってガッツポーズをとる。その瞳にはうっすらと涙を浮かべていた。
「ああ、さすがシルバーくん! 僕の矢を二つに折ってしまうとは、素晴らしい反射神経だ! それに彼女を気遣って抱えるところなんて、物語の騎士そのものだ! ボーテ! 100点!」
がさがさと揺れる木を見つけた生徒たちは、響き渡る彼の興奮した声といい、夕方という時間も相まって、闇に揺れる不気味なその木を「ボーテの木」と名付けたとか。