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植物園のガラスの天井の下、陽光が差し込んだそこで、ぶん、と腕が風を切る。草がその風圧で揺れ、足元の草原がさらりとなびいた。しかし突き進んだその腕を軽やかに掴んだリリアを視認した時、エペルは既に空に向かって両足を向けていた。
どん! と地面に背中を強かに打ち付けたエペルは、思わず潰れたような呻き声を上げる。彼を投げ飛ばしたリリアが大丈夫か? としゃがむと、エペルはすぐに自分の肘を杖に起き上がった。
「お主があまりにもいい拳を放つから、ついわしも本気で避けてしもうた。許せ」
「大丈夫です……」
エペルはもう一度やりましょう、と立ち上がる。リリアが見上げた頑丈さだと感心してにっこりと笑うと、突然臨戦態勢を解いた。エペルは周囲の気配を探るリリアに倣い、辺りを見回す。すると、遠くからケイトの明るい声がした。
「ねーねー! リリアちゃーん!」
「すまない。邪魔になったか」
熱帯植物の向こうから現れたオレンジの髪が陽光に輝く。その背後には、苦労性のクローバーのペイントをつけているクラスメイトもいた。構わん、と答えたリリアはこれから休憩のつもりだった、とエペルの肩を抱く。ケイトはスマホを取り出しながら、リリアに近寄った。
「ねね、ユウちゃんが茨の谷の帰省について行ったって、本当?」
「ああ。随分と楽しくやっておったぞ」
へえー、と納得したケイトはトレイと目を合わせる。どうやらグリムたちが話していたことは、あながちデマではなさそうだ。リリアの腕の中から、絞り出すような声がした。
「じゃあ、あの噂は本当なんですね」
「何の噂じゃ?」
エペルは一度躊躇うように視線を下げたあと、意を決してリリアの目を見て言った。
「……シルバーサンとユウサンが付き合っていることです」
重い沈黙がその場に流れた。シルバーとはまるで家族のように振舞うリリアは、これを根も葉もない噂だと否定するのか、それとも知らなかったと驚くのか、誰もわからず固唾を飲んだ。リリアが腕を組むと、周囲の空気が最も張りつめた。
「今更か? 気づくのが遅いぞ、お主ら。あやつらは帰省の前から付き合い始めた」
あっけらかんと二人の交際を認知していることをさらけ出したリリアに、三人は目を見張ることしかできなかった。最初に意識を取り戻したエペルは、驚きもそのままにリリアに尋ねた。
「え! み、認めちゃうんですか?」
「認めるも何も、シルバーとユウは将来を誓い合った仲。いずれは周囲に認められる関係になる」
その言葉の意味が含んでいるものに、三人の表情はますます硬くなった。ケイトが生唾を飲んで言葉を続ける。
「……ということは」
「いずれ結婚するんじゃ」
三人のぎょっとした顔に、リリアはくふふと笑った。驚かせられた喜びでご満悦な彼に、ふとよぎった疑問でエペルが首を傾げる。
「でも、そんな早くに決めて大丈夫ですか? もし、他の誰かに邪魔されたり、お二人が合わないって別れたりしたら」
その瞬間、口内が焼けたと錯覚するほどの熱風が巻き起こった。しかし、葉は一度も擦れず、風がこの植物園内で吹くはずもない。からからに乾いた口の中で、エペルはリリアを見ることしかできなかった。先日のケイラの件を思い出した怒りで、彼の笑みは一層凶悪さを増す。
「安心せい。シルバーもユウも、相応の覚悟を持って共になることを選んだ。あの二人の邪魔なんぞしてみよ。地獄を見た方がマシだと思えるまでわしが遊びに付き合うてやる」
リリアの剣幕に身が竦んだケイトは、リリアに掌を見せて引き攣った笑いを見せた。零れた言葉が焦りで滲み、わずかに震える。
「り、リリアちゃんに喧嘩を売ろうなんて誰も思わないから、大丈夫だよ」
ケイトの冷静なツッコミに、リリアの苛烈に燃えていたマゼンタの瞳が平静を取り戻す。きょとんとした彼の愛くるしく小首をかしげる様は、その場にいる三人の肩を跳ねさせた。
「それもそうじゃな!」
わはは! と笑いだしたリリアは、天を仰いで腹を抱える。そんな彼に安堵を覚えた三人は、もう二度とユウとシルバーのもしも話などしないと固く誓った。
どん! と地面に背中を強かに打ち付けたエペルは、思わず潰れたような呻き声を上げる。彼を投げ飛ばしたリリアが大丈夫か? としゃがむと、エペルはすぐに自分の肘を杖に起き上がった。
「お主があまりにもいい拳を放つから、ついわしも本気で避けてしもうた。許せ」
「大丈夫です……」
エペルはもう一度やりましょう、と立ち上がる。リリアが見上げた頑丈さだと感心してにっこりと笑うと、突然臨戦態勢を解いた。エペルは周囲の気配を探るリリアに倣い、辺りを見回す。すると、遠くからケイトの明るい声がした。
「ねーねー! リリアちゃーん!」
「すまない。邪魔になったか」
熱帯植物の向こうから現れたオレンジの髪が陽光に輝く。その背後には、苦労性のクローバーのペイントをつけているクラスメイトもいた。構わん、と答えたリリアはこれから休憩のつもりだった、とエペルの肩を抱く。ケイトはスマホを取り出しながら、リリアに近寄った。
「ねね、ユウちゃんが茨の谷の帰省について行ったって、本当?」
「ああ。随分と楽しくやっておったぞ」
へえー、と納得したケイトはトレイと目を合わせる。どうやらグリムたちが話していたことは、あながちデマではなさそうだ。リリアの腕の中から、絞り出すような声がした。
「じゃあ、あの噂は本当なんですね」
「何の噂じゃ?」
エペルは一度躊躇うように視線を下げたあと、意を決してリリアの目を見て言った。
「……シルバーサンとユウサンが付き合っていることです」
重い沈黙がその場に流れた。シルバーとはまるで家族のように振舞うリリアは、これを根も葉もない噂だと否定するのか、それとも知らなかったと驚くのか、誰もわからず固唾を飲んだ。リリアが腕を組むと、周囲の空気が最も張りつめた。
「今更か? 気づくのが遅いぞ、お主ら。あやつらは帰省の前から付き合い始めた」
あっけらかんと二人の交際を認知していることをさらけ出したリリアに、三人は目を見張ることしかできなかった。最初に意識を取り戻したエペルは、驚きもそのままにリリアに尋ねた。
「え! み、認めちゃうんですか?」
「認めるも何も、シルバーとユウは将来を誓い合った仲。いずれは周囲に認められる関係になる」
その言葉の意味が含んでいるものに、三人の表情はますます硬くなった。ケイトが生唾を飲んで言葉を続ける。
「……ということは」
「いずれ結婚するんじゃ」
三人のぎょっとした顔に、リリアはくふふと笑った。驚かせられた喜びでご満悦な彼に、ふとよぎった疑問でエペルが首を傾げる。
「でも、そんな早くに決めて大丈夫ですか? もし、他の誰かに邪魔されたり、お二人が合わないって別れたりしたら」
その瞬間、口内が焼けたと錯覚するほどの熱風が巻き起こった。しかし、葉は一度も擦れず、風がこの植物園内で吹くはずもない。からからに乾いた口の中で、エペルはリリアを見ることしかできなかった。先日のケイラの件を思い出した怒りで、彼の笑みは一層凶悪さを増す。
「安心せい。シルバーもユウも、相応の覚悟を持って共になることを選んだ。あの二人の邪魔なんぞしてみよ。地獄を見た方がマシだと思えるまでわしが遊びに付き合うてやる」
リリアの剣幕に身が竦んだケイトは、リリアに掌を見せて引き攣った笑いを見せた。零れた言葉が焦りで滲み、わずかに震える。
「り、リリアちゃんに喧嘩を売ろうなんて誰も思わないから、大丈夫だよ」
ケイトの冷静なツッコミに、リリアの苛烈に燃えていたマゼンタの瞳が平静を取り戻す。きょとんとした彼の愛くるしく小首をかしげる様は、その場にいる三人の肩を跳ねさせた。
「それもそうじゃな!」
わはは! と笑いだしたリリアは、天を仰いで腹を抱える。そんな彼に安堵を覚えた三人は、もう二度とユウとシルバーのもしも話などしないと固く誓った。